11ダンスの相手は
「レオ、様?」
「あ、ああ。ジネット嬢。どうしたんだ?」
「いえ……」
「ジネット嬢、私達≪も≫そろそろ戻ろうか」
「……はい」
ああ、そういうことなのね。
ストンと私の腑に落ちてきた。
それと同時に私の気持ちも切り替わる。
自分でも可笑しいくらいに。
今までの自分ってなんであんなにウジウジしていたのだろう。今までなかったことだったから浮かれていただけ。
ほんの少し前の自分を殴れるものなら殴りたいほどだわ。
溜息が出そうになるのを堪えていると、後ろから声が掛けられた。
「ジネット様、おひさしぶりですわね」
「マリーズ様! おひさしぶりですわ」
振り向くとそこにはマリーズ様と婚約者のエリク様が仲睦まじげに立っていた。マリーズ様は微笑んでいるが、明らかに目が笑っている。
彼女のことだ、彼の状態に気づいたのだろう。
「レオ・バルベ伯爵子息様、ジネット様をお借りしても?」
「ええ、構いませんよ」
「ジネット様をお借りしている間、お暇でしょう? あちらでレオ様を待っている令嬢がおられますわ。彼女を待たせるのは酷というもの。すぐに行ってあげて。そこの従者、分かっているでしょう? レオ・バルベ伯爵子息を連れて行ってちょうだい」
「畏まりました」
従者は指示を受けていたのか、レオ様を呼んでいるご令嬢のところへ案内するようだ。
……彼は何を考えているのかしら。
「わかりました。ジネット嬢、すぐ戻ってくるから」
「はい」
レオ様は私の手の甲にそっとキスを落とし、従者の案内で令嬢の元へと歩いていった。
「うふふ。彼はどうするのかしら? ジネット様と初めて会った時と同じように彼は熱い視線を送っていたけれど、ねえ?」
レオ様は笑顔でミラ様をエスコートし、ダンスを始めた。
「そうですね。彼はミラ様と新たに婚約されるかもしれませんね」
「あら、折角できた婚約者なのに手放してもよろしいの?」
私たちはその様子を眺めながら会話を続けている。
「彼を一ヶ月の間、見ていましたが、我が領で生き抜くことは難しいですね。彼のことを考えるなら、私から解放してあげたほうがいいと思っています」
「あらあら。相変わらずジネット様は優しいこと」
マリーズ様は面白そうに扇を仰ぎながら話をしているとエリク様も話しかけてきた。
「ジネット嬢、私から見ても彼は不誠実だと思う。早めに切り替えて新たな婚約者を探したほうがいい。ジネット嬢のお眼鏡に叶う男か……。第一騎士団のオルガ・ミラフィス副官はどうだろうか。彼はまだ独身だし、剣の腕も素晴らしい」
「あら。でも彼はセレスティナ王女のお気に入りよ? 王女が手放すとは思えないわ」
「王女は彼と結婚を望んでいるが、彼の出自の問題や、跡取りではない彼を王女の嫁ぎ先としては相応しくないと陛下から別の婚約者を宛がうような動きが出ているらしいんだ。
それに見目麗しい王女は令息からも人気があるからオルガ副官は狙い目だと思う」
「セレスティナ王女にはフィリクス・タウゼント侯爵子息という婚約者がおられたはずですが……」
「ええ。セレスティナ王女は彼のことなんてこれっぽっちも考えていないでしょうね。婚約破棄するのも時間の問題だといわれているわ。王女にとってはオルガがいればそれでいいのよ」
マリーズ様はセレスティナ王女に厳しいようだ。将来、王族籍を抜けるは決まっているのだし、侯爵夫人は悪くない。
政治的な繋がりを考えてもタウゼント侯爵子息を大事にした方がいい。
確かオルガ・ミラフィス副官は公爵家の出だけれど、公爵の愛妾の子だったはずだ。既に公爵家には男児が三人いてオルガ様が公爵家を継ぐわけではない。それに彼は公爵夫人からも三人の息子たちからも嫌われているという噂だ。
公爵が彼に持っている爵位の内の一つを渡したところで公爵家の後ろ盾はもらえない。それどころか跡取りから攻撃される恐れもある。
それを考えれば王宮の副官としてこのままでいる方が彼にとってはいい状態だ。
王女にとっては残念な話だが。
内情を調べなければもっとも詳しいことはいえないわね。
「まぁ、オルガ副官は実直な方だと聞いているけれど、セレスティナ王女のお気に入りなら早々手を出すわけにはいかないわ。陛下も王女には甘いし、様子見ね」
私はマリーズ様の言葉を聞いてついフッと笑みを溢した。
「ジネット様、何か変なことでも言ったかしら?」
「いえ、ここへ来るまでの間、ずっと考えていたんです。私なりにレオ様のことを好きになっていたのだと。
だから王都に戻ってからの彼の行動もきっと嘘だと信じたい。足りないところは私が支えなくてはいけないと不安を抱えながらどうすればいいのか悩んでいました。
けれど、舞踏会での彼の行動を見て、ミラ様を見る彼を目の当たりにして、何か自分の中でスッと割り切れたというかなんというか。
マリーズ様達と一緒に次の婚約者について考えている自分がいて、こうも自分の中であっさり割り切れたと思うと自分に笑えてしまったんです」
私の言葉を聞いたマリーズ様は満面の笑みを浮かべる。
「あら、よかったじゃない。いつものジネット様に戻っただけですわ。ジネット様でも恋する気持ちがあって良かったとは思いますが、ゴミを掴むくらいならいくらでも目を覚まさせてあげるわ」
「ふふっ、ありがとうございます。恋って難しいですね。気付かないうちに周りが見えなくなっていました。いい経験をさせてもらいました。オルガ副官のことは父に話をしておきます」
「ええ、そうした方がいいわ。今度こそ上手くいくといいわね」
「マリーズ、そろそろ私達も踊りに行こうか」
「エリク様、行きましょうか。踊った後に挨拶周りが待っていると思うと面倒だわ。でも楽しみ。ではジネット様、ごきげんよう」
マリーズ様はいたずらっ子のような笑みを浮かべた後、二人はお互い見つめ合い、笑顔で去っていく。
マリーズ様も公爵家の跡取りとして色々苦労している方なので良き伴侶に巡り会えてよかった。
私も自分のことのように嬉しい。
それと同時に二人の仲睦まじい姿を見て、私も夫となる人とああなりたいな、と羨ましく思う。




