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私は本当に望まれているのですか  作者: まるねこ


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10 婚約者としての挨拶は

「ジネット嬢、彼が新しい婚約者ですかな?」


 そう話しかけて来たのは南の辺境伯領に娘を妻に出したガルジッド侯爵だ。


「はい。彼はレオ・バルベ伯爵子息です」

「レオ・バルベです」

「バルベ伯爵のところは長男しかいないですよね。ジネット嬢と婚約するということは、伯爵家は孫に継がせるのですかな?」

「いえ、私が継ぎます。彼女には弟がおりますから」


 彼はレオ様の言葉に返す言葉を詰まらせた。やはりガルジッド侯爵も違和感を覚えたようだ。


「ジネット嬢が後継者だと聞いておりますが」

「ええ。今のところは、です。幸いにも彼女には弟がおりますので彼が成長すれば後を継ぎ、ジネット嬢が王都で暮らすことになります」

「……。いやはや。そうでしたか。ジネット嬢、娘共々一日でも長く生き残ることをお祈りしておきます」


 レオ様の言葉にガルジッド侯爵の口角がピクリと反応し、相手にしてやろうかという判断が芽生えたようだが、すぐに思い直し引いてくれた。


「ガルジッド侯爵。ありがとうございます」


 このままでは不味いわ。今の彼では敵を作りかねないもの。私は内心苦い思いが広がっていく。


 辺境の地で生き抜くことの大変さを知らず、あの発言はどう考えてもよくない。彼が伯爵を継ぐとしてもだ。


「レオ様、ちょうどダンスが始まったようです。一曲踊りにいきませんか?」

「ああ、本当だ。行こうか」

「お父様、少し踊ってきますね」

「ああ。楽しんでこい」

「レオ様、いきましょう?」

「ああ、いこうか」


 私は少し強引だとは思ったけれど、この場からレオ様を連れ出すことに成功した。


 周りに何人かいたけれど、ガルジッド侯爵と同じような考えを持った人も仕草を見る限りはいたようだ。


 ダンスホールの端からそっと二人で入り踊り始める。


 どうやらレオ様は私と違い、先ほどのことに気づいていなかった様子。笑顔で踊りをはじめた。


「ジネット嬢、君とこうして踊ることができて嬉しい。幸せだ」

「ふふっ。ありがとうございます。私もこうしてレオ様と踊ることができてうれしいです。レオ様は王都に戻られてからはどう過ごしていたのですか?」


 私は何も知らないふりをしてレオ様に聞いてみた。するとレオ様は屈託のない笑顔で微笑みながら答えた。


「ああ、父の手伝いが忙しくてね。色々書類を片づけたり、王宮まででかけたりとゆっくりしている暇がなかった」

「そうでしたか」


 私は微笑み、それ以上聞くことはできなかった。


 だって……。


 彼が一瞬見せた目の動きは明らかに動揺していたもの。


 私は真実から目を閉じていたかった。

 騙されていたいと思った。


 このままこうして何も知らずに過ごしていけたらどんなに幸せなことなのだろう。


 悲しいかな。

 私は少しのことでも気付いてしまう。


 言葉にすればきっとこの幸せは砂城のようにすぐに崩れていく。


 小さな幸せにしがみついていたいと思う情けない自分もいるの。


 そうしている間に一曲目が終わった。


 二曲目も踊ろうと、二人で立って待っていたが、曲は止んだままだった。


「どうしたんだろう?」

「何かあったのでしょうか」


 心配していると、ダンスホールで踊っていた人達は一組を残し、波が引くようにホールの端へと移動していく。


 私達も彼らに気づき端へと移動する。


 そして国王陛下が中央へ歩いてきた。


 一瞬にして会場は静寂に包まれ、全ての貴族が礼を執る。


「楽にしてくれ。今宵の舞踏会で一人の女性を皆に紹介しておきたくてな。ミラ、ここへ」

「はい」


 レイニード王太子殿下のエスコートで陛下の横へ来た女性。黒髪に淡い紫色した目の色。


 もしかして彼女がマリーズ様の言っていた男爵令嬢かしら。


 私達辺境伯が久々に舞踏会に参加したことも注目の的だったけれど、彼女はそれ以上だ。


 やはり王女なのだろうか。


「彼女の名はミラ・シュリア・ウィーグ。儂の弟で先日亡くなったジョールの忘れ形見だ。みての通り彼女は王家の色を持っている。この度、ジョールの代わりに彼女が成人するまでの間、私が後ろ盾となる。みんなもそのつもりで彼女に接してほしい」


 陛下の言葉に会場はざわついた。


 ジョール公爵は元々第二王子で一代限りの公爵になった方だ。結婚はしていなかった。


 クレマンティーヌ男爵が王家に話を持っていったということは男爵が孤児院でみつけたのかもしれない。


 男爵夫人が、と言いたいところだけれど、夫人の髪は薄い茶色だったように思う。


 ミラ嬢は黒の髪だ。


 王家の方々は明るい金色の髪に薄い紫色の目をしているのが特徴なのだ。


 母親は黒髪なのだろう。


 この国に黒髪はとても珍しい。もしかしたら隣国の女性なのかもしれない。父のところには情報がきていそうだ。


 後で確認してみよう。


 陛下はミラ嬢の紹介を終えると観覧席へと戻っていった。


 そしてダンスホールに王太子殿下と白を基調としたドレスを着ているミラ嬢は今日がデビュタントの日なのだろうと思われる。


 音楽が流れ始めると、互いに会釈し、ダンスを始めた。彼女はダンスを最近始めたばかりなのだと思う。


 とてもぎこちない様子で王太子殿下に優しくリードされ、ダンスを踊っていた。ダンスを終えると二人とも一礼し、観覧席へと戻っていった。


「レオ様、驚きましたね。ジョール様の忘れ形見だったなんて。……? レオ様?」


 私は彼女に視線を向けながら隣にいたレオ様に話しかけたつもりでいたが、返事は全く返ってこない。


 ふと横に視線を向けると、彼はミラ嬢を見ていた。


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