第22話:友達とのチャットの嵐(一ノ瀬保奈美)
――どうしよう。
たぶん、私はいま、人生でいちばんマズいことをしてしまったかもしれない。
4丁目のカフェでみんなとお茶を飲んでいる時に、親友の真央、美里、佳代とのグループチャットからの通知が来た。
《犬山城の写真まだ!?》
《ねぇねぇ、早く送ってってば!》
《ツーショット期待してるよ!》
(……あ、そうだった。忘れてた……!)
私は慌ててスマホを開いて、犬山城で撮った写真を選んだ。
直也さんを後ろから軽く抱きしめていて、二人とも笑っている――あの奇跡の一枚。
(うん、これなら……きっと喜んでくれるよね)
アップロード。送信。
その3秒後、通知音が爆発した。
《はあああああ!?!?!?!?!?!?!?!?》
《これ、バックハグしてるの!?!?!?》
《……お義兄さん……だよね????》
《やばい、尊死した……義兄妹の限界突破……》
《バックハグとか、そういう次元じゃないでしょ!?》
《これ、禁断の義兄妹モノ少女マンガの公式表紙絵だよね!?!?!》
《全国の女子、今、心臓撃ち抜かれたからね!?!?》
「ひゃっ……!」
私は慌ててスマホを胸に押さえた。
カフェの隣の席で、亜紀さんと玲奈さんが顔を見合わせる。
「……また、やらかした?」
「うん。通知の鳴り方が“緊急地震速報”レベル」
「ちょ、ちょっと見ないでください!」
私は真っ赤になってスマホを隠すけれど、遅かった。
画面に次々と流れ込むコメント。
《ねぇ、次は明治村の写真も!》
《できれば手つなぎとか!》
《いや、もういっそプロポーズシーンで!》
(ま、まずい。これ以上は送れない……!)
と思ったのに、つい手が滑って――
“フォルダ選択” のつもりが、“写真送信” ボタンを押してしまった。
……送られたのは、例の“ウェディングフォト”奇跡の一枚。
(うそでしょ!?!?!?!?!?)
スマホの画面が点滅する。既読10、20、30――止まらない。
《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?!?!?》
《ちょっと待ってこれ!?!?!?》
《ウェディングじゃん!!!》
《お姫様抱っこじゃん!!!》
《キスしてるじゃん!!!!》
《うわああああああああああああ!!!!》
《これは義妹の奇跡じゃない、神話!!!》
《尊すぎる!尊すぎて死ぬ!!!!》
《エモすぎる、エモすぎて死ぬ!!!!》
「ひゃああああああ……!」
私は顔を真っ赤にして、テーブルに突っ伏した。
「なに?どうしたの?」
玲奈さんがニヤリと覗き込む。
「……えっと、うっかり、写真を……」
「写真?どんな?」
「……これ、です……」
画面を見せた瞬間――。
「ぷっ……くっくっくっくっ……!」
玲奈さん、爆笑。
「ちょっと、これ……最高すぎるんだけど……!!!」
隣で亜紀さんまで吹き出す。
「これ共有しちゃったら、そりゃ、もうダメでしょ……!」
「ぐぬぬぬ……」
二人とも笑いが止まらない。
もう完全にネタにされている?
《この二人、もう結婚してるでしょ!?!?!?》
《もはや “義理” も何もあったもんじゃないよね!?!?!?》
《#合法的に罪》
《#保奈美神降臨》
《#全国お義兄さんファン絶望》
《お願い、ブーケトスの写真も送って!》
《ハネムーンはどこ行くの!?》
《“義妹コスプレ犯罪” で記事書くから取材させて!》
玲奈さんがスマホをのぞきながら肩を震わせる。
「……SNSにUPされたらトレンド入りしそうね」
「……やめてください……」
隣に直也さんが来て、私は小さく息をのんだ。
「……また送っちゃったのか?」
「……ごめんなさい」
少しだけ、直也さんが笑った。
「まぁ、いいんじゃないか。
嬉しかったんだろ?」
「……はい」
その優しい声に、また胸が熱くなる。
(……うん。やっぱり、ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいからいいや)
私はスマホを胸に抱きしめて、小さく微笑んだ。




