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少しは加減をしていただきたい今日この頃

「いきなり絶叫は酷いと思うんだが⋯⋯」

「あ⋯⋯ごめんなさい⋯⋯」


魔王が目尻を下げて、少し傷ついた顔を浮かべたので、思わず頭を下げて謝ってしまう。確かに、私に危害を与える訳じゃないし、会った瞬間にいきなり叫ぶのは失礼だったかも⋯⋯


いや待て待て⋯⋯


そもそもなんでいるのっ!?いないと思ったのにどうなってるの!?!?というかどっから現れた!?!?!?


と、私は心の中で再び叫んだ。今度は声を抑えただけ偉いと思う。


「ここって学校か?」

「えっ!う、うん、そうだけど⋯⋯」

「ふーん、結構いい場所だな」


魔王は立ち上がり、興味深そうに辺りを見回した。そしてクラスメイトのノートを覗き込んだ時には、私の心臓が止まりそうになった。


展開が急すぎて意味わかんないけど、これ、私がやらかすと、ここにいる全員、いや王都の人全員が死んじゃうんじゃ⋯⋯?


いやさすがに大丈夫だよね?魔王だって、そんな事はしないよね?いやするから魔王なのかも⋯⋯


「⋯⋯って、え、え?」


いつの間にか魔王の姿が無い。一瞬目を離した隙に、まるで最初からいなかったように消えてしまった。ということは、帰った⋯⋯?


「ここだよ」

「⋯っっっ!?!?!?」


後ろから肩に手を置かれて、私は声にならない叫びと共に飛び上がった。振り向くとと、いたずらが成功してにやっとした魔王がいた。


「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯あー悪かった⋯⋯。だから泣きながら睨むのをやめてくれ。俺はシルティアに何もしないから、な?」


ちょっとやりすぎたと思ったのか、魔王に頭をぽんぽんと慰められる。全部魔王が悪いはずなのに、そう言われて少し安心してしまう自分に少しむかつく⋯⋯あと私は泣いてないし。少し涙目になっちゃっただけだし!そしていつまでぽんぽんやってんのっ!!


さっと動いて魔王の手を避けて、私は魔王と相対した。とりあえず出会ってしまったものは仕方ない。できるだけ穏やかに帰ってもらおう、うん⋯⋯できる気がしない⋯⋯


「⋯⋯あの、あなたはなんでここにいるんですか?」


とりあえず原因が分からなければ対処法も分からないので聞いてみる。こんなこと聞いて大丈夫かな⋯⋯と不安になっていると、魔王はあっけらかんと答えた。


「なんでって、時が止まったからだが?」

「え?」


⋯⋯⋯⋯どういう事?それって理由になって⋯⋯て、あ、違う。魔王はこの止まってる世界にいるんじゃない⋯⋯来ているってこと⋯⋯?で、その理由が⋯⋯


「シルティアが世界の時を止めると、俺の周りも動かなくなってやる事が無くなるだろ?だからシルティアに⋯⋯」

「これ世界全体が止まってるんですかっ!?」

「え、そうだけど⋯⋯おまえ、今まで何も理解せずに時を止めてたのか⋯⋯」


魔王は私に呆れたのか半眼になる。だってしょうがないじゃん!そんな世界の事なんて分かるわけないじゃん!ていうかっ!


「じゃあなんであなたは動けるのっ!?」

「俺が同じように時を止められるからじゃないか?よく分からんが」

「えぇ⋯⋯」


さらっと無茶苦茶なことを言わないで欲しい。魔王だから?あ、はいそうですか⋯⋯いやまあそれ言い出すとなんで時間が止まるのかとか、私自身もよく分かんないけど⋯⋯


「で、けど俺以外は全員時が止まるから、唯一他に動ける人であるシルティアの所に来たわけ」

「なる、ほど⋯⋯?」


まあ一旦何で私や魔王が動けるのかは置いといて⋯⋯つまり、私が自分の周りだけじゃなくて魔王の周りの時間も止めちゃってて、それが原因で暇になった魔王が私の所に来たってことですね!全部私が悪いじゃんっ!!


「分不相応な力に頼りすぎた報いなんだ、これは⋯⋯」

「⋯⋯反応豊かなシルティアは可愛いけど、なんか俺の扱いが不当な気がする」

「えっ!?!?!?か、かわっ!?!?」

「あ、赤くなった。⋯⋯なるほど、シルティアを落とすにはなるべく直接的な方が良いのか⋯⋯」


え、いや、今この魔王可愛いって言った!?なんでっ!?!?いや相手は魔王だけどさ、分かってるけどさ、クラスメイトの男の子からは蔑みか哀れみの目しか向けられなかった私にとっては凄く嬉しいんだよっ!!!しかも美形だし!!!


と、私が自覚できるくらいトリップしていると、頭の中にイマジナリーアイリスが唐突に出てきて、これまたどこから取り出したのか分からないハリセンで頭をスパーンと叩かれた!


⋯⋯って、そうだよ、何やってんだろう私は。今は魔王と対峙してるのに、こんなんで照れていちゃ駄目でしょ。え?また浮気したら叩いてあげる?あの、浮気では無いんですけど⋯⋯まあお願いします。


私は息を大きく吸って、それからゆっくり吐く。魔王からは興味深そうに見られてるけど、あのね、私はあなたと話すだけで精一杯なのっ!


「⋯⋯私が悪いのは分かったんですけど⋯⋯これから私はどうすれば良いですか?」

「ん?何か理由があって止めたんじゃないのか?それをすればいいだろ?」

「え、でもそれだとあなたが⋯⋯」

「別にシルティアに会いに来たからな。俺はシルティアを見ているだけだから、何してもいいぞ。なんなら手伝う」


そう言って魔王は教壇の上に足を組んで座り、ご自由にとでも言うように手を広げた。あの、そこ先生の目の前なんだけど⋯⋯


えぇ、とこちらが困った顔を見せても、魔王は興味深そうにみているだけ。


しょうがないから、私は問題を考えようとする。けど当たり前だけど、先程よりも更にやりにくい。なんて言ったって爛々と光る眼で見てくる魔王が後ろにいるんだから⋯⋯私の事見てもそんなに面白くないのに⋯⋯


「そこの魔法陣にある空白に入る式か?」

「あ、はい⋯⋯」

「炎属性遠距離攻撃で、弾の性質を規定するんだな?」

「えっと⋯⋯そうです、多分」

「ほら」


すると私の前にそこの部分の式が出た⋯⋯いや、描かれた。考えられない程の高速で魔王が作り出したのだ。しかも凄く文字が綺麗⋯⋯私だったら描くだけでも30秒くらい掛かりそう。


「魔王凄い⋯⋯」

「この位なら、シルティアが花嫁になってくれれば幾らでも教えるぞ。つか教える予定だし」


やっぱ本気なのっ!?!?と完全な不意打ちによって心が跳ねた。HPがどんどん削られていく⋯⋯


でもその跳ねた心は仁王立ちのイマジナリーアイリス(ハリセン持ち。そして笑顔)によって鎮められる。ふう⋯⋯平常心平常心⋯⋯


「それ⋯⋯花嫁って、本気なんですか⋯⋯?」

「?そうだが?」

「私の能力ですか?」

「んーまあそれもあるけど⋯⋯」


それから魔王は机から立ち上がり、私の前へ立つ。近くで改めて見ると、彼は背が高くて、肩幅も広くて、なんだかすごく大きく感じた。


「⋯⋯普通にシルティアに一目惚れした」

「⋯⋯⋯⋯はっ⋯⋯⋯⋯?」


えっ、⋯⋯?一目惚れ⋯⋯??魔王が?私に???⋯⋯⋯⋯うん、無いな。能力目当てならまだしも、こんな私に一目惚れ?無い無い無い無い。ほら、アイリスも頷いてるし。


「ま、今は信じられないだろうし、気にしなくていいよ、うん。ちゃんとした理由はまた今度話すわ」

「⋯⋯あ、はい⋯⋯」


ほら、やっぱ冗談だったね!アイリスやクレアとは違って、私が男の子から好きになってもらうなんて有り得ないんだよ!⋯⋯うん、これはこれで、自分で言っててちょっと悲しくなってきた⋯⋯


「で、どうだ?覚えられそうか?」

「えっ、あ、はい。頑張ってます」


魔王に急かされたので真剣に覚える。ちゃんと式を見ると、私が知らなかった部分が何個もあった。これ、私だけだったら答えられなかったじゃん⋯⋯


目を瞑って、頭の中で何度も復唱することで完璧に覚えられたことを確かめた。


「出来ました!」

「よし、これで目的は達成か?」

「はいっ」


ふぅーー。最初はどうなるかと思ったけど、どうにかなった!あとは魔王に大人しく帰ってもらうだけだ!


「で、対価なんだけど」

「え、対価⋯⋯?」

「ああ、式の分」


頬が思いっきり引きつってしまった。じりじりと下がって逃げようとすると、肩をがっしりと掴まれた。


あの、聞いてないんですけど⋯⋯?というか、自分から手伝うって言ったじゃん!それで対価って酷くない!?


けどそんな抗議を行う勇気がある筈もなく、私に残された選択肢は、大人しく魔王様の沙汰を待つだけだった。


「私は何を差し出せば⋯⋯?」

「⋯⋯名前」

「⋯⋯?」


魔王は唐突に、思い出したように小さく呟いた。名前⋯⋯?


「シルティアさ、前、俺の名前聞いてくれたよね?」

「⋯⋯はい」

「じゃあなんで呼んでくれないの?呼んでよ」


私は返事に詰まる。あれはあの時の私がどうにかしてた⋯⋯なんて言えるはずもない。けど、言うのは難易度が凄く高いのだ。魔王だし、男の子だし⋯⋯


シン、だよね⋯⋯魔王なのに、私なんかが呼んで良いのかな⋯⋯これ罪に問われるとかない?でも私の名前は呼んでくれるのに、私が呼ばないのも酷い気がしてきた⋯⋯


私は葛藤の末、その名前を口に出した。


「⋯⋯シン⋯⋯」

「⋯⋯ようやく、呼んでくれたな」

「だって呼んだら、不敬罪で殺されそうだったし⋯⋯」

「なんもしないから、絶対」


私が言い訳をしてそっぽを向くと、魔王⋯⋯シンは私にさっと近づくいて、私のおでこにキスを、キス⋯⋯キス!?


「えっ?えっ、⋯⋯シン⋯⋯?」

「それじゃあな、俺の花嫁」


そしてシンはまた一瞬でいなくなった。その場にはわけの分からない私だけが残された。⋯⋯⋯⋯いやいやいやいやいや、意味わかんないんですけどっ!?!?!?




───動いて




時間を動かした後、どうにか魔王⋯⋯シンに教えてもらった式を答えた私は、勢いよく座り込み、机に突っ伏した。


とりあえず答えられて良かった⋯⋯


「⋯⋯ミラルト様?これは何ですか?」


でも、さぁ⋯⋯やっぱり幻とか勘違いじゃなかったな、魔王。ちゃんといたよね⋯⋯しかも花嫁の件も本当っぽいし⋯⋯


ほんと、よく分かんない。私なんかをどうするつもりなんだろ⋯⋯私って何も出来ないよ?運動できないし、勉強もできないし、お金もないし。時間は止められるけど、それもシンも出来るって言ってたよね⋯⋯


けど⋯⋯


「⋯⋯え?成立している?しかも発動する⋯⋯?」


今日のシン、なんか優しかったな。そりゃ最初は怖かったけどさ。いきなり現れるし、意味わかんないし⋯⋯でも、シンは私に暴力を振るうようなことは無くて、なんだか、魔王じゃないみたい。


私に魔法の式を教えてくれたし、私のこと、可愛いって言ってくれたし⋯⋯それに、わ、私にキス、したし⋯⋯おでこだけど⋯⋯


シン、何のつもりでしたんだろ⋯⋯


「⋯⋯ミラルト様⋯⋯ミラルト様!」

「はっ、はい!」


先生の声で、脳内世界から戻ってきた私は跳ね起きた。⋯⋯ていうか、なんで私はずっと魔王のことを考えちゃってたの!?あーもうっ!シンは魔王なんだから、私なんかに分かるわけないのに!


「ミラルト様、この式は何ですか?」

「えっ、⋯⋯もしかして、間違ってましたか⋯⋯?」


ほら、やっぱり魔王じゃん!間違ったこと教えてるじゃん!間違えてる私を想像して、意地悪く笑ってるんだ⋯⋯


完全に魔王を信じた私が馬鹿だった⋯⋯と早くも後悔していると───


「いえ、そうではなくてですね⋯⋯」

「⋯⋯?」

「この式、おそらく既存には無い新発見の式です」


⋯⋯⋯⋯はい?



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