第34話 三度、王都の街にて
「ん? あれは……」
新年を迎えてしばらく。
俺は再び王都の街を訪れている。シャムはついてきておらず、今日は一人で買い出しだ。
新年早々上位精霊に襲われるという大変な思いをしたが、我らが偉大なる緑竜のおかげで事なきを得た。
それにしてもやっぱりヴェルデは強いしかっこいいよな!
あのイフリートに対して圧巻の強さだった。
アルクとシエル、それからシャムも今ではすっかり回復して元気いっぱいだ。
派手にやり合っていたからか、ここ最近考え込んでいる様子だったヴェルデも幾分かスッキリとした顔持ちをしている。
俺はいつもの店で調味料や香辛料を仕入れ、腹ごしらえのため露店が立ち並ぶ一角に足を踏み入れた時、懐かしい背中を見かけた。
「もー、イカロスったら。買い込みすぎじゃない?」
「いや、これぐらいの食糧は必要だろう! 今回は長くダンジョンに潜りたいからな」
「気持ちは分かるが、荷物が多すぎると移動に制限がかかる。ある程度現地調達も視野に入れるべきだろう」
イカロス、エリナ、ブルドー。
見間違えるはずがない。俺が自分の命より大事にしてきた仲間たちだ。
咄嗟に物陰に隠れて様子を見守る。街ゆく人がチラチラと訝しげにこちらを見ては通り過ぎていく。フードを目深に被り、物陰に潜む男……うん、見るからに不審者だよなあ。
自らの姿を顧みて苦笑いが漏れる。
少しでも気配を消すため、隠遁魔法を自らに施しておこう。
「あーあ、リアンがいたらなあ。【アイテムボックス】で新鮮な食材や調理した料理なんかをたっぷり収納してくれるし、ダンジョンで倒した魔物からでもめちゃくちゃうまい飯を作ってくれるのにな」
イカロスが嘆息と共に吐き出した言葉に、思わず息が止まる。
不意に自分の名前が飛び出し、動転してしまう。
そんな俺の戸惑いを知ってか知らずか(隠れているのだから知られていないはず)、三人の間にしんみりとした空気が流れる。
「……リアンの作ったご飯が食べたいなあ」
「肉を焼くだけでも、俺たちがやるのとリアンがやるのとじゃあ美味さが全然違うんだよなあ」
どこか遠くを見つめるように空を仰ぐ三人。俺も釣られて空を見上げると、そこには雲ひとつない晴天が広がっていた。
思わず漏れた白い吐息が青空に吸い込まれていく。
「なんて、ワガママ言ってリアンを追い出しておいて、そんなこと言う資格はないよな」
イカロスの言葉に、再び視線を彼らに注ぐ。
「……そうね」
「あいつ、元気にしてるかな」
「大丈夫さ。あれだけ強くて何でもできるんだ。冒険者パーティに引っ張りだこだろう」
「でも、どこかのパーティに所属したって噂を聞かないのよね」
「確かに……もしかして遠くに旅に出たとか? 生まれた村はかなり遠方だって言っていたし、里帰りでもしているのかもな」
「どうだろう。とにかく元気に過ごしてくれたらいいな」
「ええ、そうね」
「いつか、本当の意味で強くなった俺たちを見てもらわないとだしな」
「ふふっ、イカロスったら、リアンが憧れの人なのに全然素直じゃないんだものね」
「はっ⁉︎ ちょ、何言ってんだよ!」
「はいはい、バレバレですから」
「ああ。パーティを一時解散した時に一番凹んでたのイカロスだろう」
「あーもう! その話はやめろって! ほら、早くダンジョンに向かうぞ!」
「前みたいに無茶に突っ込まないでよね。リアンじゃないんだからすぐにフォローできないんだから」
「へいへい。気をつけますよ」
イカロスたちは、時折笑い声を上げながら通りの向こうへと歩いて行った。
「……頑張っているんだな」
彼らに遭遇したら、きっと正気じゃいられないと思っていたが、思ったよりも冷静な自分に驚いた。あれから数ヶ月。俺なりにゆっくりとだが、消化していけているのかもしれない。
それに、先ほどの会話を鵜呑みにするならば、嫌われているわけでもなさそうだ。
まだ彼らの前に出ていく勇気も度胸もない。
だが、いつかきっと、また一緒に酒を飲み交わすことぐらいはできるだろう。
俺はどこかスッキリとした気持ちで、フードを少し浅くして踵を返した。
とにかく腹拵えだ。
この辺りに来た目的を果たすために露店を物色し、魔物肉の腸詰を茹でたものと、野菜たっぷりのスープを購入した。
人通りの少ない辺りまで移動してしっかりと腹を満たす。
あと、買うものは何だったか。
買い物リストを取り出そうとズボンのポケットに手を突っ込んだ。
その時だった。
「あーーーーっ! リアンさん! やっと会えた!」
突然名前を叫ばれて、思わずびっくうと肩を揺らして少し飛び上がってしまった。
聞き覚えのある声に恐る恐る顔を上げると、顔馴染みのギルドの受付嬢がいた。
大きな紙袋を抱えているところを見ると、ギルドの買い出し帰りだろうか。
そんなことを考えていると、彼女はぷくっと頬を膨らませてズイッと顔を寄せてきた。
「んもう、どこに行っていたんです? 半年以上も来ないんだから……」
「あー……ええっと、里帰り、的な?」
激しく目を泳がせながら、先ほどイカロスたちが話していた内容を咄嗟に口に出してしまう。
だが、挙動不審な俺の返答を受けた受付嬢の女性は、パッと表情を明るくした。
「そうだったんですね。イカロスさんたちのパーティは解散するし、再登録時にリアンさんはいないしで心配したんですから! それで、冒険者業は続けられるんですよね?」
「そ、そうだな。資格があると何かと便利だしな」
Aランク冒険者の証は、新たな街に行く時や、立ち入りが禁じられた場所に赴く時に重宝する。国営の施設は無償で使えるところもあるし、Aランクに固執しているわけではないが、身分証としても持っておきたい。
「じゃあ、近いうちにクエスト受けてくださいね」
「え?」
ニコリと爽やかな笑顔と共に紡がれた言葉に間抜けな返事をしてしまった。
「え? じゃないですよ! 忘れたんですか? Aランクの冒険者であれ、一年クエスト受注をしなければ冒険者資格が失効しますよ」
「……あーーーーーっ! 忘れてた!」
「マジっすか……」
彼女は心底呆れた顔をしている。うん、俺も自分で呆れているけど、俺にも色々あったんだよ。
パーティを抜けたのが夏前だったから、まだ数ヶ月は猶予がある。が、すっかり冒険者資格失効の期間のことを失念していた。
「はは……近いうちに行きます」
「絶対ですよー! ちょうど、リアンさんにお願いしたい高難度のクエストもありますし! ギルドマスターにも話を通しておきますからね! では、仕事の途中なのでこれで」
馴染みの受付嬢は、軽く会釈をして去っていった。
それにしても、うっかりしていた。
「クエストか……」
流石に難易度の高いものとなれば一人で行くべきだろうが、低ランククエストであれば、子供達を連れていってもいいかもしれないな。
ダンジョンの外を知るいい機会かもしれない。
「家に戻ったら、相談してみるか」
彼らの保護者であるヴェルデの意見も仰がなければならない。
俺は、ヨイショ、と腰を上げると、今度こそ買い物リストを取り出して、残りの買い物を済ませるべく足を踏み出した。
<第一部・完>
ここまでお付き合いくださりありがとうございます!
第一部はこれにて閉幕です。
この先は双子たちの活動範囲をヴェルデのダンジョンの外まで広げていけたらなあと考えております^^
第二部は構想がまとまり次第のんびり書きたいなと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします!
明日番外編を一本投稿しますのでよろしくお願いします〜!




