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過保護すぎてパーティを追われた無自覚万能冒険者は、ダンジョンで双子亜人の子育て中  作者: 水都ミナト@5/14【魔物解体嬢】コミックス②巻発売


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第31話 温泉と温泉卵


「すごかったね!」


「きれいだった!」


「オイラもあんなに綺麗な日の出は初めて見たのにゃ!」



 すっかり日が上り切り、世界は朝を迎えた。


 アルクとシエル、それからシャムは先ほど見た日の出の感動を身振り手振りで伝え合っている。


 明るくなって周囲の様子がはっきりと分かるようになったのだが、どうやらこの辺りは山岳地帯となっているようで、標高の高い山々が連なっている。


 その中でもとりわけ標高の高い山が今いる山だ。俺たちは山頂に程近い平らに削れた場所にいるらしい。


 これだけ高い山だと空気が薄いと思うのだが、不思議と息苦しくはない。ヴェルデの魔力をほんのりと感じるため、風魔法の類だろうか。実に興味深い。



 俺はみんなの様子を微笑ましく見守りながら、朝食の準備をしている。


【アイテムボックス】に常備しているフライパンを取り出し、土魔法で簡易的なかまどを作って火を起こす。自家製の魔物肉ベーコンとコカトリスの卵を熱したフライパンに落とし、塩胡椒をサッと振るう。

 十分に火が通ってから、これまた【アイテムボックス】に保管していたバゲットを取り出してその上に載せる。



「おーい、朝飯だぞ!」



 片手を口に添えてみんなを呼ぶと、「はーい!」と元気の良い返事が返ってくる。



「いただきます!」


「いただきます!」


「いただきますなのにゃ!」


「おう、しっかり噛んで食べるんだぞ」



 ふぅ、ふぅ、と卵とベーコンに息を吹きかけてから、はむっと大きな口を開けて頬張る様子を見守る。



「んー! おいひいね」


「おいしいっ!」


「ふぅ、ふぅ、ふぅ」



 アルクとシエルは、ハフハフしながら幸せそうに卵とベーコンを載せたバゲットを堪能してくれている。シャムは猫舌だからな。しっかり息を吹きかけて冷ましている。


 飲み物は持参していた木のコップに、シエルが水魔法で飲料水を生み出してくれた。


 俺もバゲットに齧り付きながら、ぐるりと辺りを見回した。



「温泉でも湧いてれば、温泉卵ができたのになあ……」



 ポロリと思わず溢れた言葉は、ヴェルデに届いたようでピクリと耳が上下した。



「む、温泉か。この山は活火山だからな。確か中腹のあたりに湯が沸いておるはずだぞ」


「何っ⁉︎ 温泉が沸いているのか⁉︎ そんなの……行くしかないだろう!」



 温泉があるなら先に教えてくれよ!


 思わず立ち止まって拳を握りしめた俺を不思議そうな目で見る双子たち。



「おんせん?」



 キョトンと首を傾げるアルク。



「ああ、でっかい風呂だな」


「おっきなお風呂!」



 目をキラキラ輝かせるのはシエルだ。



「おう、湯加減は確かめてみないとだけど、せっかくこんなに遠くまで来たんだ、温泉に入ってから帰ろう!」



 盛り上がる俺たちをよそに、シャムだけは耳と尻尾をぺたんと下げて目を逸らしている。



「……オイラは遠慮するのにゃあ〜」


「何言っているんだ。せっかくの温泉だぞ! 風呂が嫌いなのは知っているが、せっかくの機会なんだ。みんなで温泉に浸かろうぜ」


「僕、シャムとおんせんに入りたいなあ」


「わたしも、シャムと入りたいなあ」



 俺を援護するように、アルクとシエルがウルウルと期待に満ちた瞳をシャムに向ける。

 きっとシャムには効果てき面だろうなと内心笑みを漏らしていると、案の定シャムは叫ぶようにして二人の要望を受け入れた。



「ぐぬぬぬぬ! ああ、もう! 仕方がないのにゃあ!」



 プン、とそっぽを向きつつも、尻尾はパタパタと上下に揺れていて、照れくさいのだろうと容易に想像できる。


 俺はアルクとシエルと顔を見合わせて、歯を見せて笑い合った。




 ◇



「おおお……! こりゃ広い」



 朝食後、早速ヴェルデの背に乗って、山の中腹あたりに降り立った俺たちの前には、真っ白な湯気を立ち昇らせる温泉が広がっていた。湖と言っても遜色ないほど広い。


 早速湯に手を入れて温度を確かめるが、少し熱いかなと感じる程度の適温だ。



「ようし! 入るぞ! 湯が沸いている箇所はきっと温度が高いだろうから近づかないように」


「わーい!」


「おー!」


「……うにゃー」



 バサリと広げた布の上で、アルクとシエルが素早く服を脱ぎ捨てる。そのまま温泉に向かわずにしっかりと自分が脱いだ服を畳んでいていじらしい。なんていい子達なんだ。


 それからいそいそと温泉の縁に向かい、二人で抱き合いながら恐る恐る足の指先を温泉に浸している。



「あ、あったかい……!」


「ぬくぬく……!」



 二人して、おおお、と感嘆の声を上げていて、思わず笑みを漏らしてしまった。


 俺も素早く服を脱いで畳み、二人の元へと向かう。



「急に入ったら身体がびっくりするからな。しっかり掛け湯をしてから少しずつ湯に浸かるんだ」



 言いながら、両手で湯を掬い上げて順番に肩からかけてやる。



「よし、入ろう」



 しっかり掛け湯をしてから、三人揃って足先から温泉に浸かる。中心に向かって水深は深くなっているようだが、端の方は俺の腰あたりまでなので、双子にとっても程よい深さだ。



「はぁ〜……」


「きもち〜……」


「沁みる〜……」



 三人して顎先まで湯に浸かって深く息を吐いた。こりゃ、たまらん。蕩けてしまう。


 なんだろうな。自分で沸かした湯に浸かるのとはまた違うんだよなあ。

 湯に何か特別な成分でも溶け出しているのだろうか。

 いつでもこの温泉に浸かれたら最高なんだがなあ……。


 召喚魔法の魔法陣に、開閉の術式を組み込めば……いかんいかん。なんでも魔法で解決しようと考えるのは俺の悪癖だ。非日常だからこそ特別感があっていいじゃないか。


 俺はうっとりと閉じていた目を開いて、布を敷いたあたりを向く。



「おい、シャムも来いよ。気持ちいいぞ」


「ううう……」



 服は脱いだものの温泉に指をつけては引っ込めてを繰り返しているシャムを呼ぶ。

 だが、シャムは耳と尻尾の毛を逆立てたままなかなか入ってこようとしない。



「ええい、焦ったい」


「うにゃ⁉︎ ぎにゃー!」



 焦ったいなあ、と思っていたのは俺だけじゃなかったらしく、ヴェルデがガッシとシャムを掴み、そのまま一緒に温泉に飛び込んできた。って、うわーっ⁉︎



「ちょ、うっぷ、飛び込み厳禁だぞ!」



 ヴェルデが入っても余りあるほど広い温泉ではあるが、それとこれとは話が違う。


 いかんせん、ヴェルデほどの巨体が勢いよく飛び込んできたため、軽い津波のように水面が波打ったのだ。



「わーっ!」


「きゃーっ!」


「アルク! シエル! 大丈夫か⁉︎」



 二人の悲鳴というより歓声を受けて様子を窺うと、上手に波に漂って楽しそうに浮かんでいた。溺れなくて良かったとホッとする。



「ヴェルデ! お前なあ、自分が飛び込んだらどうなるかぐらい想像つくだろう!」


「む……すまなかった。年甲斐もなくはしゃいでしまった」


「きゅうう……」



 身体を伏せるようにして小さくなるヴェルデと、その傍で頭からずぶ濡れになって目を回して湯に浮かんでいるシャム。ま、一番の被害者はシャムだな。風呂嫌いが加速したらどうするんだよ。



「まったく。おい、シャム大丈夫か?」


「大丈夫じゃないのにゃ……温泉、コワイ」



 ほら、言わんこっちゃない。


 折角みんなで大自然の中温泉に浸かっているというのに、その思い出が散々なものになっては悲しい。ということで、俺は秘密兵器を取り出すことにした。



「まあ、そう言うなって。これは温泉ならではの楽しみなんだぞ」


「にゃ?」



 俺は勿体ぶってとあるものを取りに行く。


 植物の蔦を編んで作った網に、コカトリスの卵を入れて温泉に沈めておいたのだ。



「ジャーン! 温泉卵だ!」


「わあっ!」


「たまごっ!」



 みんな身体はすっかり温まっているので、岩場に腰掛けて一つずつ卵を手にする。


 殻を剥くと、ぷるんと弾力のある純白が姿を現した。

 持参していた岩塩を砕いて卵にまぶし、一斉に齧り付く。



「ん〜! おいひい〜」


「プルプル〜」


「うまいのにゃ〜」



 みんなハフハフと熱がりながらも夢中で温泉卵を食べている。熱った身体からは白い湯気が立ち上っている。


 言葉に形容し難いほど美しい日の出をみんなで見て、朝から広大な温泉を満喫する。新年早々最高だな。


 その後も俺たちは、水を飲んでしっかり水分補給をしてから再び温泉を楽しんだ。

 最初は入浴を毛嫌いしていたシャムも、「たまには悪くないのにゃ」と恍惚な顔をして温泉に浸かっていた。


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୨୧┈┈┈┈┈┈ 3/10 発売┈┈┈┈┈┈୨୧

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