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過保護すぎてパーティを追われた無自覚万能冒険者は、ダンジョンで双子亜人の子育て中  作者: 水都ミナト@5/14【魔物解体嬢】コミックス②巻発売


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第30話 初日の出を見にいこう


「おい」


「んー……あと五分〜」


「おい、起きるのだ」


「ええ〜……? もう五分経ったか? 延長でー……」


「すべこべ言わずに立て! 着替えろ! 出かけるぞ」


「うわあっ! でかい声を出すなよヴェルデ! って、出かけるって言ったか?」



 聖夜祭翌日。つまるところ新年一発目の朝。

 窓をドンドン叩く音とヴェルデの急かすような声に起こされた。


 羽毛布団にくるまったままのそのそと起き上がり窓を開けると、ヒヤリとした空気が室内に入り込んでくる。



「ううっ、寒。って、まだ日も登っていないじゃないか」



 窓から空を見上げれば、美しい星空が広がっている。まだ夜じゃないか。



「だからこそだ。早く起きろ。何度も言わせるでない。日の出を見にいくぞ」



 ブツクサ文句を言っていると、窓にグッと顔を寄せたヴェルデに凄まれた。



「ん? 日の出? なんでだよ」



 外はとっぷり暗く、朝の気配はまだまだ遠そうだ。日が昇る直前にでも起こしてくれればいいのに。


 ヴェルデの意図が読めずに浮かぶ疑問と、気持ちよく寝ていたところを叩き起こされたことへの不満から、どうも乗り気になれない。愛しのベッドが二度寝しようと甘美な誘惑をしてくる。その誘惑に乗ってベッドにダイブしたい。



「一年の始まりに最高の日の出を見る。一種の験担ぎだ」



 ヴェルデの言葉に、俺は思わず顔を上げた。



「へえ、ヴェルデもそう言う考えを持っているんだな」



 基本的には来るもの拒まず、成り行きに身を任せることが多いように見えるヴェルデだが、そんなヴェルデが自らこうして誘いに来るのは珍しい。



「それで? こんな夜更けに起こしたってことは、どこかへ行くつもりなんだろう?」


「ふ、そうだ。日の出がよく見える山がある。そこまで飛ぶぞ」



 飛ぶ? 飛ぶって……まさか。



「ヴェルデの背中に乗せてくれるのか?」


「無論。徒歩では数日かかってしまう。ともかく、お主は早く着替えて子供達を起こして外に出てくるのだぞ」


「おう、分かった」



 ヴェルデの背に乗るのは初めてだ。ましてや、ヴェルデの方から提案してくれるなんてな。


 なんだか嬉しくなって、俺は急いで着替えを済ませると、双子とシャムが眠る寝室へと向かった。




 ◇



 アルクとシエル、それからシャムは「ヴェルデの背に乗って日の出を見に行くぞ」と起こしに行ったら跳ね上がるようにして飛び起きた。そしてあっという間に準備を済ませた三人は、興奮を隠しきれない様子でヴェルデに飛び乗った。



「しっかり捕まっておるのだぞ」


「うわあっ! 高い高い!」


「ひっ……!」


「高いのにゃ〜!」


「うおっ、これは……さすがにすごいな」



 グングン上昇し高度を上げていく。まるで夜の闇に吸い込まれるような感覚だ。


 高所が苦手なアルクを心配したが、シエルとシャムに挟まれているのでどうにか大丈夫そうだった。


 ちなみに行き先は火山地帯らしいので、ドラとゴラは留守番だ。


 ダンジョンで狩った魔物の毛皮で作った上着をしっかり着込み、俺が昨日プレゼントしたマフラーと手袋も早速つけてくれている。


 とはいえ冬の夜、さらに上空の気温はものすごく低い。本来であれば肌を刺すような寒さであるはずだが、目も開けていられるし、呼吸も息苦しくはない。風が肌を避けて滑るように流れていく。

 これはヴェルデが風の抵抗を抑えるために何か魔法を使っていそうだな。さすが偉大なる緑竜だ。



 目まぐるしく景色が流れ、雲を突き抜けヴェルデは飛ぶ。



 アルクとシエル、それからシャムは大人しくヴェルデにしがみついてはいるが、全身からワクワクが止まらないといった雰囲気を感じる。


 分かる。俺だってそうだからな。

 ヴェルデの背に乗って、夜を裂くように滑空する日が来るなんて思いもよらなかった。



 ヴェルデはしばらく滑空してから、緩やかに速度を落とし始めた。



「どうかしたか?」


「いや、初めての飛行で疲れたであろう。少し休憩しても構わぬが」



 どうやら、子供たちの様子を気にしているらしい。



「? ぜんぜん疲れてないよ」


「大丈夫だよ」


「へっちゃらなのにゃ!」



 ヴェルデの温かな気配りを受けた子供たちは、キョトンとしている。



「む……我が風の抵抗を無効化しているとはいえ、慣れない体勢で長時間飛行しているのだ。疲れていないはずが……まさか」



 バサリバサリと大きな翼を羽ばたかせながら滞空するヴェルデが、首を後ろに回した。


 疑念を孕んだ鋭い視線が俺を貫く。



「えーっと……ほら、ヴェルデが対処してくれているとはいえ風圧はすごいし、振り落とされないようにしがみつく力も必要だ。いつもと違う不安定な姿勢になるから意外と筋肉を酷使する。無意識のうちに身体が緊張状態に陥って、余計な体力も消費する。だから、そのー……かけました! 身体強化魔法と治癒魔法!」



 俺は半ばヤケクソで懺悔した。


 これは! 必要だと判断した上での魔法ですから!

 だって、急な誘いだったから! 準備も何もしてやれなかったし!


 もはや開き直っている俺に、ヴェルデはゆるゆると頭を振り片手で顔を覆った。


 補助魔法をかけられていたと気づいていなかった三人は、感心したように自らの手をまじまじと見つめている。



「だから、成長機会を奪うなといつも言うておろう。安定する姿勢を探るのも、力の配分を考えるのも、しがみつくための持久力も、お主のせいで身に付かんのだぞ」


「ぐう」



 ヴェルデの指摘を受けた俺は項垂れるしかない。子供たちが同情するような目を向けてくる。うう、ごめんな。不甲斐ない育ての親で。



「せ、せめて保温魔法だけでも……!」


「くどい。十分着込んでおろうが。多少は我が調整しておるわ。お主は何もするな。ただしっかりと我に捕まり、子供らが振り落とされぬよう目を光らせておれば良い」


「……わかりました」



 結局休憩不要と判断し、ヴェルデは再び速度を上げた。


 俺も渋々身体強化魔法と治癒魔法を解除したので、三人が微妙に身体にかかる負荷が増えたことに気づいたようで、各々しがみつきやすい体勢を探ったり、どこに力を入れれば安定するのか考えたりしている様子だ。


 ……うん、ヴェルデが言いたかったのはこういうことなんだろう。

 今回はいいかなと思ったが、日常のあちこちに子供たちが成長し、学ぶ機会が存在するんだな。


 あれだな、とにかく俺は一旦生きてから魔法を使ったほうがいいのかもしれない。


 この気づきを得るまでに時間がかかりすぎたような気もするが、きっとこういう気づきを積み重ねていけば、仲間や家族と同じ目線で触れ合えることができるんじゃないかな。


 なんてことを考えながら、次第に近づきつつある大きな山のシルエットに意識を集中させた。






 休憩を挟まず、ざっと二時間ほどだろうか。

 目的の山に降り立った頃には、地平線がうっすらと白み始めていた。



「わわ、フラフラする」


「ふわふわするね」


「平衡感覚がおかしくなっているにゃあ」


「はは、そりゃああんなスピードでずっと飛んでいたんだ。すぐに感覚が戻るさ」



 先に俺が地面に降り立ち、順々に飛び降りてくる子供達を受け止めて事件に下ろしていく。三人ともわずかにたたらを踏んでよろけていたが、すぐに元の感覚を取り戻したのか周囲をキョロキョロと見回している。



「なんか、変わった匂いがするね」


「ちょっとツンとするよね」


「火山の匂いなのにゃ」



 ヴェルデが火山地帯に行くと言っていただけあり、卵が腐ったような独特な匂いがする。


 まだ夜明け前のため、辺りの様子は窺えない。まあ、暗視魔法と探知魔法を駆使すればおよその地形は把握できるんだけどな。ヴェルデもいるし、周囲への警戒は最小限でいいだろう。



「あちらが東だ。まもなくだぞ」



 ヴェルデが深く腰を落とし、東の地平線に視線を投げる。

 釣られるようにして俺たちも同じ方向を向く。


 東の空が徐々に明るくなっていき、真っ暗だった空に紫色が混じり始める。

 眼前いっぱいに広がる空が様々な色が溶け合うようにグラデーションを濃くしていく。


 その様子はまさに圧巻で、俺も、アルクとシエルも、シャムも、言葉を発することを忘れたかのように目の前で刻一刻と色を変えていく空に魅せられていた。


 やがて、地平線に一筋の光が伸び、鮮やかに世界を照らす太陽が顔を覗かせた。



 ──冒険者としてあちこち旅していた俺でさえ、こんなに美しい日の出は初めて見た。



「我はここから見る日の出が好きでな。ちょうど新年の始まりだという今日この日に、せっかくだからお前たちに見せたいと思った」



 ヴェルデの低く重厚な声が落ちてくる。


 美しい景色から目が離せずに、ヴェルデの表情を窺うことはできない。

 だが、その声には優しさと慈しみが満ちていて、じんわりと胸に沁み入ってきた。



「昨日の聖夜祭とやらで、お主らは銘々にプレゼントを用意してくれたであろう? これは我からのささやかなお返しとでも思ってくれれば良い。数奇な縁で、こうして集ったが、おかげで毎日退屈せずに済んでいる。皆には感謝している」



 ヴェルデなりの恩返しというわけか。粋なことをする。


 俺たちは自然とヴェルデの足元に身を寄せ、偉大なる緑竜に身を委ねながら世界が変容していく様子をたっぷりと味わった。


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