第26話 双子の魔法と聖夜祭の準備
さて、二人とも威力はともあれ基礎魔法はそれなりに行使できるようになった。出力する魔力量の調整も上手くなってきた。
そこで、俺は前々から試してみたいと思っていたことを提案した。
「アルク、シエル、お前たちはお互いの得意属性の相性がいい」
「あいしょう?」
二人は顔を見合わせてから、キョトンとした顔をこちらに向ける。
俺は木の棒を拾って地面にザリザリと絵を描いていく。
「ああ、火は風を得て強くなる。土に水をやれば木だって生える。ま、実際に見た方が理解しやすいだろう」
説明のために描いた絵を、アルクとシエルは興味深そうに覗き込み、好奇心に満ちた目を輝かせている。
俺は木の棒を足下に置くと、右手の人差し指の先に小さな火を灯した。
そして、左手の人差し指の先に小さな竜巻を作る。
「よく見ているんだ」
俺は両手の人差し指をそれぞれの方へと倒して火と竜巻を交わらせた。
すると、火が竜巻に巻き上げられるように火力を増し、あっという間に炎の渦へと変容した。
「わあ……!」
「すごい……!」
アルクとシエルは真剣な眼差しで炎の渦に見入っている。
「洗濯をするときに水泡の中で風を起こしているだろう? あれも水魔法と風魔法を応用した技術だ。複数の属性を組み合わせることで、魔法の幅も威力もグッと上がる。まあ、複数の属性を同時に発動するのはコツがいるから、一人で使用するには難易度が高い。だが、お前たち二人で協力すればどうだ?」
ニッと挑発するような笑みを見せてやると、二人はパッとお互いに顔を見合わせて目を輝かせた。
早く試したいのか、両手を胸元で握りしめてウズウズしている様子だ。
「まずは試しにアルクの火魔法をシエルの風魔法で強化してみよう」
視線で促せば、アルクが早速両手を訓練用の的に向かって掲げた。
「【火球】!」
続けて、シエルがアルクの隣に立ち、火球を包み込むように風魔法を発動する。
「【疾風】!」
アルクの放った小さな火球に、シエルが風を吹き込んだ。
すると――
ゴウッ!
これまで松明の火ほどだった火球の炎が一気に火力を増した。
「おおっ! いいな、成功だ」
「わあっ! すごいよシエル」
「すごい! すごいねアルク」
二人もワッと両手を合わせて喜んでいる。
「火の大きさに対して風が強すぎると、火をかき消してしまう。逆に、火力に対して風が弱すぎると大した影響を与えない。互いの魔力の出力をこれまで以上に意識してみるといい」
アルクとシエルは顔を見合わせ、同時に俺の方を向いて力強く頷いた。
俺はつい、フッと笑みを漏らして二人の頭を撫でてしまう。
初めて出会った頃は、こうして触れようとすればビクリと肩を縮ませていたのが、ワシワシと撫でてやると嬉しそうに頬を桃色に染めてくれるようになった。その変化が嬉しくて、むず痒い。
「お前たちはお互いを守りたいと思い合っている。ただ守られるだけでなく、互いに高め合うことができたら、きっと一人では倒せない強敵だって倒すことができるはずだ。これからは基礎に加えて合わせ技もどんどん試してみよう」
「うんっ!」
アルクとシエルは桃色に染まった頬を緩ませながら笑みを深めた。
聖夜祭まではおよそ一ヶ月。
準備と並行して、魔法や剣舞の訓練に力を入れていこうと思う。
二人がやる気に満ちている今が、きっとグッと成長するチャンスだ。
ちなみに、一年を締める日にみんなでパーティをしようという提案はもちろん大歓迎された。
アルクとシエルだけでなく、意外なことにヴェルデも随分と乗り気だ。
これまでダンジョンで一人、孤高の存在としてあり続けたヴェルデは、こうして誰かと何かを祝うこともなかったのだろう。
せっかくだし、ご馳走を作って、プレゼントも用意して、一生思い出に残る日にしたい。
そう思いながら少しずつ、みんなで準備を進めた。
料理はどうしようかと考え、試作し、みんなに味見をしてもらった。
当日の装飾に使う素材の採取にも出かけた。
聖夜祭当日はもちろん、こうして当日に思いを馳せながら準備をする時間も楽しいものだ。一人であれやこれやと全て準備するのではなく、みんなで手を取り合い、話し合い、協力し合うのはこれほど楽しいものなのかと驚くほどに。
全て与えるのではなく、共に作り上げる。
共有した時間はきっと、何物にも変え難い喜びをもたらしてくれる。
シャムと街に出た時に仕入れた新しい野菜と果物の種はしっかりとドラとゴラに預けてすくすくと育っている。なんか成長速度が異常に早いように見えるのだが、多分気のせいではない。
ま、聖夜祭までに収穫できたら、採れたての野菜を使った料理を追加してもいいかもな。
聖夜祭の準備に加え、しっかりと冬支度も進めた。
買ってきた冬服は二人とも喜んでくれたし、仕入れた毛糸で手袋とマフラーを作った。これは聖夜祭でみんなにプレゼントしようと思っているので、自室の棚の中にそっとしまい込んである。
それから、小屋の中は屋外よりは暖かいとはいえ、冬を越すには心許ない。
ということで、みんなに手伝ってもらって暖炉を作った。
薪割りは当番制にしたが、アルクとシエルは嬉々として薪を割ってくれている。どちらが早く多く薪を割れるか勝負している姿を見かけたこともある。
シャムは力仕事は嫌いなようで、ちゃっかり自分の持分が少なくなるようにしていたが、俺の目は誤魔化せないぞ。しっかりと決まった分はこなしてもらわないとな。
そんな日々を過ごしていれば、一ヶ月なんてあっという間に過ぎていく。
聖夜祭は目前だ。
当日は、アルクとシエル、シャムにドラとゴラ、それからヴェルデと俺。みんなでご馳走やケーキを囲んで賑やかに過ごそう。
聖夜祭のことに思いを馳せると、俺は胸の奥がポカポカと温かくなるような心地がした。




