ラライナ・カメル ③
山の中腹。
草原が広がる勾配がなだらかな場所。
太陽の光を受け、銀色の鎧に反射している。
そこはあまり人の寄りつかない自然の王国である。
「…ここ…は…?」
太陽はほぼ真上に来ており、時間はおよそ正午過ぎだろうか。
見慣れた日の光に目を細め、ククロエ・ミツキはようやくその体を起こす。
「…草木が…あたしがいたのはもっと岩だらけの…」
言いかけてククロエは自身の状況を思い直す。
空から訪れた「悪意の波動」に絶望を覚え、そこからの進行は予想以上に早かった。
その「悪意」は地球を蹂躙し、ククロエの耳には地球と人々の叫びが、確かに聞こえたはずだった。
「…なのになぜ…」
--- 生きている?
記憶の断片が頭の中で整理しきれないまま、ただフラッシュバックし続けている。
地球に何が起こったのか、ククロエはまず冷静に対処する必要があった。
「…冷静に…落ち着いて状況を確認…」
まずは地球の意思と繋がる必要がある。
一連の出来事が回避されたのならそれに越したことはないし、あの悪意が「ただの夢」だったという可能性も考慮する。
「…ここは…私たちのいた地球とは…別の…?」
全ての真相を理解したククロエ・ミツキは絶句する。
自分たち、アークエスタに住む人々に起こった、その意外な顛末に。
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---そして 一週間後。
「なるほど。すぐには信じられませんが、あなたのおっしゃることなら事実なのでしょうな」
東京都千代田区永田町、現在首相官邸において、時の総理大臣は少し呆れたような面持ちながらも、その言葉を全面的に信用せざるを得なかった。
「…彼らはこの国に危害を及ぼす存在とは言えない」
「し、しかしですな、我々は全て鵜呑みにするわけには…未知の病原体や思想的な危険性も…」
「…それは任せる、むしろ徹底的な調査をしてもらわなければ困る」
「わ、わかりました」
総理大臣執務室では内密の会話が行われていた。
黒づくめの袖が破れた制服を着た少女が、総理大臣を諭すような口ぶりで話しているのは、かなり奇妙な光景ではある。
およそ十七歳程度の少女に、齢七十を越えた政治家が礼を尽くしているのである。
その少女 --- 新月美裂は、自身の姿など一切気に留める様子もない。
むしろ、重要事といえば、突然この地に降り立った百万の人々の行く末であり、また「その人々がなぜこの地球に来たのか」という説明を、この国の最高責任者が理解できるかだった。
「はい、彼ら全員の身柄はすでに確保済みです。現在は彼らの調査と、同時に、我国で生きていくための教育プログラムを実施しております」
「…抜かりはなさそうだな」
「はい、それはもう」
表情には出さないまでも、美裂は少しだけ安心したようである。
人同士とはいえ、やはり文化背景などが異なる者同士の軋轢は、高い壁として存在する。
そしてそれが大規模な「移住」であれば尚更だ。
「…心配しないでいい。彼らもまた、数万年ぶりに『地球の加護を受け』この地に訪れた人たちなのだから」
「…また? またとは? 彼らの他にも、その『地球の加護を受けた』という連中は他にもいるわけですか?」
政府の見解としても、「凶悪宇宙人」に続き、「異世界人」までもが跋扈する世界は恐ろしさが先に立つ。
これ以上の厄介事は政府にとっても迷惑であった。
「…最初に『加護を受けた人々』…ふふっ、君たちのことだよ」
あっけにとられた首相をよそに、美裂はそのまま退出し、別の部屋に向かうため廊下へと出た。
人間の知り得ない地球の歴史を美裂は多くを語ることはないが、政治家という職業の人間に釘を刺す必要はあると考えている。
社会を築くにおいては、やはりただ正直なだけでは生きてはいけないという知識もある。
それが良い方向に向かうならば、それもいた仕方なしと理解はしていた。
「…あっ!」
対面で同じ廊下を歩く、高齢の政治家が美裂の姿を見つけるや、端に寄るなりその頭を下げる。
美裂が要求したわけではなかったが、政治家生活が長い議員にとって、美裂の存在はいわば公然の秘密だ。
神代の昔からの生き証人・地球の代弁者と、受け取り方は様々だが、女系国家であるこの国の文化では女神を敬う下地があり、それも合わせて神格化されている様子もある。
自分は神じゃない、とは美裂は思ってはいたが、そう思わせておく方が色々と都合も良いのだ。
そういう打算的な部分も含め、美裂は政治家とのつき合い方も学習していた。
「やぁやぁ、新月様、ようこそお越しくださいました!」
諸手を上げて、全身で歓迎の挨拶を見せる初老の男。
バイタリティーの塊のような元気と大声は、美裂には少しだけ耳障りだった。
「あなたはいつも元気だな、日ノ本一外務大臣」
「ガハハハッ、お陰様で元気に過ごしております。ささ、どうぞこちらへ。今回の顛末を詳しくお聞きしたいと存じます」
そして美裂は部屋の奥へと案内され、高そうなソファに腰掛ける。
窓の向こうには青空が見える。
なかなかの良い天気で、季節的には少し汗ばむ陽気だ。
だが、この瞬間にも「外敵」である凶悪な宇宙人連中は暗躍しているのだろう。
それを考えると心は落ち着かなくなるが、本来「誰かを守るため」が本分の美裂にとっては、この会談も重要な意味を持つ。
やがて外務大臣はトレイに乗せたお茶を運んで来ると、美裂との会談が始まった。
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「なんかさぁ、大騒ぎだよね最近」
「…リアル異世界転生、すごいものを見た」
「そうだよねー、あの二人が異世界の人だったなんて、まだ信じられないぐらいだよ」
魅麗たちは最近の世間を騒がす「異世界騒動」に口々に感想を話している。
昼休みもそろそろ終わろうかという時間になり、一部の生徒は机に教科書を置き、準備を始めていた。
「ん-、あの二人、今頃どうしてるのかなぁ~、ひどい目に会ってないといいけど」
黒鋼マリーはぼんやりとそんなことを呟き、他の四人も同意する。
貸したままの制服も正直気にはなっていたが、それがひとつの縁になることを願って止まない。
「たぶん大丈夫だよ、あのラライナって子は国の偉い人って言ってたし、外交的な問題もあるから、そこまで酷い扱いは受けないと思うよ」
姫女は心配するマリーを安心させようと、そんな言葉をかける。
頭のいい姫女が言うならそうなんだろうと、マリーは少しだけ安心する。
ともあれ、相変わらず霧島瞬の前では、どうにもうまく話せないという毎日だったものの、ニニルリたちに気持ちを取られている状況は、マリーにはほんの少しだけの安堵する日々ではあった。
「みんなが、全ての人が幸せになれないのかなぁ…」
そんな言葉をマリーはポツリと呟くや、
「…いや、姫女は…」
「あー、あはははははは」
「むぐー! もががー!」
余計なツッコミを入れそうなアリスの口を、姫女が無理矢理手で塞いだ。
「姫女はおめーのせいで不幸になってんだろ!」と、あえて空気を読まずに破壊するアリスが黙らされたことに、マリー以外はホッとしていた。
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「生憎と秘書も出払っておりましてな。無作法で申し訳ない」
日ノ本議員は豪快に笑うと、美裂の前に湯呑に入ったお茶を置いた。
それが会談の始まりを意味する。
「…まず最初に言っておきたいのは、彼らは危険な存在ではないということだ」
「存じております。新月様の進言通り、こちらも相応の対処をして参りました。そして、彼らを丁重に保護し、おそらくは誰一人欠けることないとの確認はしております」
「…さすがに仕事が早いな」
「ありがとうございます! その、なんといいましたか、アーク、エ…エステですかな? そちらの国が実在したとの証拠ですが、百万人の人々全員から証言を取りました。国のトップの名や政治体系、周囲の風景や街の様子といった、事細かな日常的な行いなど、その全ての詳細が百万人の証言でも一致いたしました」
それはたとえ「洗脳された集団」であろうと、百万人の言い分が一致するなど難しいことだろう。
人数の多さから、植え付けられた偽物の記憶では、確率的に必ずどこかに破綻が起きると考えられる。
普段の何気ない日常だからこそ覚えていること。
まして、まるでファンタジー世界といった、全く異端の世界の記憶など、わざわざそんな辻褄合わせに苦労しそうな世界から来たというには無理がある。
「…なるほどな。物的証拠はないが、百万もの人の言動が一致するとなると…」
「正直、我々もまだ半信半疑ですが、えーと…『モンスターなんて見たことない』『魔法はインフラ整備のため』という証言について、ゲームなどに詳しい若手議員からは『そんなゲームは聞いたことがない』という発言も受けまして…」
手元にある資料を見ながら、日ノ本議員は美裂に結果を告げる。
「つまりですな、これはもう政府としても、信用するしかないというのが公式見解です。となれば、アークエステがたとえ亡国であろうと、我々としては国外退去させるわけにもいかない、正式にこれらの人々を『難民認定』せざるを得ないとする方向で考えております」
「…思い切ったな、またあなたが無茶したんだろう」
「ははは、お見通しですな」
美裂は予想した以上に早い政府の対応に安堵する。
しかしこの地で暮らすということは、すなわち「凶悪宇宙人」の犠牲になる可能性と隣り合わせだということだ。
「…この後には彼らのトップとの会談も控えております。つきましては、新月様には是非、何が起きてこうなったのかを、わかる範囲でお聞かせ願いたい」
両手をテーブルに置くと、議員は美裂に深々とお辞儀をする。
この件に関することは、どんな些細な事実でも見逃すまいという本気の姿勢に、美裂は好感を持っている。
「…あなたはデキる政治家だな。他の者はここまで私にずけずけと物を言う議員などいない」
「ガハハハッ! そこは謝ります、この状況で困っている人を見すごせるわけないでしょうが。世界の違いなど関係ありません!」
「…ふふっ…だが、嫌いじゃない」
美裂は口元に笑みを浮かべ、自分が知っている限りの事実を日ノ本議員に伝えようと考えた。
「…あなたも知っている通り、今回の事件はやはり『凶悪宇宙人』によるものだ。連中は『隕石』に偽装した爆弾をアークエスタの地球にぶつけ、破壊した。ではなぜ犠牲となった人々が、こちらの次元の地球に来れたのか? それが私にもわからなかった」
「そうですな、地球がなくなったのに人間が生きているはずがない。死んだはずの人々が我国にいるのは不自然です」
謎解きの正解を探るように矛盾点を指摘し、議員は首を捻る。
「…地球にも宇宙にも意思があり、次元が違えど地球同士の意思疎通は可能だ…人間にここまで伝えて良いものかどうか迷うが…」
「そういう禁則事項があるのですか」
「…そうだな、事実を告げても人は確認する術がないが…今回の事件、その『隕石』の爆発規模が大きすぎたのが功を奏した」
「ほう? どういうことですか?」
「…内部に仕掛けられた爆薬は『超新星』規模の消滅を呼び、その宙域の次元や時間にまで影響を及ぼした。次元の壁を一瞬突き破り、一部時間は遡行を始める。つまり…『地球が爆発前に戻る』瞬間があったわけだ」
「…まるでSF小説のような話ですな」
「…これは宇宙の奇跡『ASTRO DREAM』と呼ばれる現象の一種だ」
「『宇宙の夢』ですか…我々にはわかりませんが、宇宙では色んなことが起きるようですな」
「…時間が戻り、百万の人々は一瞬、元の肉体がある状態に戻った。幸いにも次元の壁は開いている。こちらの地球は、その意思により人々の肉体と魂を、人々が消滅した場所と全く同じ場所に引き寄せた。その際に彼らの肉体の一部に、こちらの地球の大気に適応するための細胞を、内臓や前頭野に付与した」
「地球が、自分の意思でそんなことを?」
「…そうだ。彼らは『地球の加護を受けた』と言っただろう? こちらの地球に降りたとしても、酸素濃度が違うとなると長くは生きられない。言語自体も全く違う、意思疎通ができなければどうにもならない。今の彼らには我々の言葉も理解できるし、話すことに不自由もない」
珍しく美裂は一気に捲し立てると、ひと息をついた。
この事実は全て、地球からの情報であり、それはアークエスタの地球の遺言でもある。
おそらくは地球同士のやり取りで、「悪意のない者たちの救済」があったのだと思われる。
それをこちらの地球が承諾し、今の事態になったのだろうとは美裂の推測の域を出なかったが、事実が示していることは明白だろう。
「そういう経緯があったのですか…いや、私の理解の範疇を越えている。この後の会談でその事実はお伝えしますが、果たして先方にも理解されるかどうか…」
「…無理に理解する必要はない。そういう『奇跡』が起こったとだけ伝えてくれれば十分だ」
「わかりました、伝えておきます」
日ノ本議員は理解できないまでも、美裂の言った話をメモに取った。
「…それと同時に…政府見解として、『宇宙人』の存在を公式に認めるという件に関してだが」
「むぅ~…そちらはまだまだ対応は難しい状況ですな。現状では国民に知らせるリスクが大きすぎるのと、その安全を担保するための案がない状態では…」
「…確かにそうだ…人間が宇宙人に対処するのは不可能と言っていい」
凶悪宇宙人に対処できるのは、今のところ美裂のみという現状から、それも仕方ないとは理解できた。
「ただですな、『帰化』の一文に、『国外・海外・その他からの市民権を有する』という変更はなんとか達成いたしました」
「…なるほど、『その他』の部分か」
国外・海外・「その他」は厳密には「地球外」も広義では含まれるということだ。
つまり、「日本政府が認めた善良な宇宙人なら帰化は可能」という意味となる。
「まぁ、草案はその矛盾した部分を色々とツッコまれましたがね」
「…君らしいな。狡猾さも政治家の資質か」
「ははは、まぁ、実は先日、私の娘が遊びに行った際、宇宙人に拉致されたようなのです」
「…拉致だと?」
美裂の顔が途端に曇る。
「幸い怪我もなく無事だったのですが、私個人としては早急に危険喚起ができればと思いますな…」
日ノ本議員は少しうなだれたような表情を見せる。
だが現状を顧みると、一概にそれも良いとは言えない状況であるというのは、美裂にも理解はできる。
「ですが、そんな状況でもありますが、善良な宇宙人の方々からは何組か申請は受けております。許可が下りた後も、しばらくは監視下に置かれますが、それも理解してくださる方も多いのが朗報でしょうか」
議員は申請書類を引き出しから出すや、嬉しそうな顔を美裂に向けた。
申請書類にはいくつもの名前が並んでいる。
命マギワ・イノリ夫妻と長女・命ヒカリ。
空野という日本名が記載された帰化申請。
それらは労働人口減少という社会問題と密接に関係している。
「…私としては仕事もいいが、子供との時間も大切にして欲しいところだがな」
「ははっ、肝に銘じます!」
そうして美裂と日ノ本議員の会談は一旦の終了を見せ、美裂はソファから立ち上がる。
「あ、それとですな」
思い出したように議員が美裂に再び声をかける
「先月の連休中、また巨大化されたそうですな?」
「…あぁ、あれか。テーマパークの一件。けどあの場合は仕方なかった」
「理解はしておりますが…あまり大勢の人前で、大っぴらに動かれるのはいかがなものかと…幸いメディアの方は規制できましたが、現場に居合わせた人々の口に戸は立てられませぬ。くれぐれも迂闊な行動は…」
神妙な面持ちで議員は美裂に釘を刺した。
現状、政府は「宇宙人の存在は否定」する立場にある。
しかし現実に宇宙人を見た、という人々の声が多くなれば、政府も沈黙を決め込むわけにもいかない。
「…君の管轄ではないだろうに…細かいな」
美裂はそう言いながらも少しだけ笑みを浮かべる。
文句を言われる筋合いはないにせよ、日ノ本議員の勤勉さには好感を持っていた。
「あの…それに関わることですが…」
「…なんだ?」
「その日はちょうどうちのひとり娘がそのテーマパークにいたようで…新月様が助けてくださらなければ、うちの子は最悪の事態を迎えていたかもしれません…ありがとうございます」
再び美裂に深々と頭を下げる日ノ本議員。
「…君のひとり娘…もしかしたらあの子か…あの小学生の」
「左様でございます」
「…いや、あの子を本当に助けたのは私ではなく、別の少女だ」
「…別の?」
同行した護衛からもその少女の報告が上がっていたのは知っていたが、さりとて具体的な名前もわからずじまいだったので、日ノ本議員にはどうすることもなかったのだ。
「…はっきりと名前を教えるのは問題があるかもしれないが…君の娘を助けたのは『黒鋼マリー』という少女だ」
「そ、その少女が?」
「…そうだな、だがくれぐれも出向いてお礼などはやめてくれ。君が直接行くと大騒ぎになるからな」
美裂は少しだけ笑顔で答えると、そのまま廊下に退出した。
美裂に言われるまでもなく、日ノ本議員にとっては、仕事よりもひとり娘の方が遥かに重要なのは言うまでもない。
「大和…」
スマホの画像を見ながら、議員はひとり笑顔を向ける。
何よりも娘が無事でいてくれたことに、改めて感謝するのだった。
そして「クロガネマリイ」という名前をメモると、議員は、「クロガネマリイ」を重要人物として部下に個人的な指示を与えるのだった。
「うわぁ…すごいわね~。何? このキレイな廊下」
「う、うん、確かにすごいが…ラライナ、どうして私まで来る必要があるんだ?」
感嘆の声を上げながら、廊下の奥からラライナ・カメルとニニルリ・メルリが歩いて来る。
それぞれがフォーマルな装いで、ラライナは少し堅苦しそうな真っ赤なワンピースドレス。
ニニルリにいたっては、OL用のビジネススーツに身を包んでいる。
そしてその声のする方向を見る美裂の感覚には、違和感のある波動が感じられた。
(…なるほど、彼女たちが…)
この地球の人間とは少し違う、しかし悪意は微塵も感じられない二人の少女。
一瞬でその正体を看過するや、美裂はほんの少しだけ口角が上がる。
「だってさぁ~、一人で来いとは言われなかったし、一番信頼する護衛を連れて来るのは常識でしょ?」
「い、いや、だからなぜ私なんだ? あれから王宮兵のみんなとも再会はできたし、私より上の立場の人はいくらでも…」
「あはははは、アークエスタはもうなくなったんだから、今更『位』の高さなんてナンセンスよ」
ラライナはいつものように、デリカシーなどお構いなしな様子を見せて笑う。
「私が一番信頼してるのがあなただからよ、ニニルリ」
「…あ、そ、そうか、ありがとう…」
赤い髪と青い髪の二人の存在は、首相官邸の廊下では嫌でも目立っている。
それでも外見上は、二人の容姿はこの地球の人との違いは見受けられない。
むしろ、通行人が気にしているのは、二人のモデル並の美しさだった。
「…?」
ふと、ラライナの方も、廊下ですれ違う美裂に違和感を覚えた。
自分と同じ年頃の少女が、この国の中枢機関で堂々と歩いているのが珍しかったせいだ。
とはいえ、ラライナ自身も十五歳にして、自国の責任者の立場にいたのだから他人のことは言えない。
「国は違ってもまぁ同じようなところはあるかもね」と思い直す。
「えーと、この先の右ね、『外務大臣』って人の部屋は」
「私は横にいるだけだぞ、政治のことなんかわからないからな」
「うんうん、ニニルリはいざとなったら私を守るだけでいいから」
「…気楽に言うな」
この国とアークエスタの首脳会談が極秘裏に始まる。
美裂はこの先のアークエスタの未来に希望が出て来たことに、内心少し喜んでいるのだった。
「ようこそお越しくださいました、ラライナ・カメル閣下」
美裂と入れ替わりに、先程滞在していた部屋へとラライナとニニルリは入室した。
待ち受けていた日ノ本議員は二人へ向け、深々と頭を垂れる。
「お忙しい中、ご対応いただき誠にありがとうございます、日ノ本外務大臣」
ラライナは同じように頭を下げ、挨拶もそこそこにソファへと案内されるや、それぞれの国を代表する外交使節としての会談が始まった。
「そうですな、我々としてはこの数日間の調査の結果、実に驚くべきことですが、あなた方の証言を信じざるを得ないというのが正直なところです」
「私たちにも一体何が起こったのか、全くわからないのです。国民全員が気がついたらここにいた --- 私とこちらのニニルリ・メルリだけは、この世界の学校で目が覚めました」
「…学校ですか」
「はい、私たちの国の学校とは全く違いましたので…けれど親切な人たちに救われまして」
ニニルリはそのラライナの言葉で、数日前の状況を思い出す。
フォーマルに着こなした女物の背広とパンツスタイル、そのポケットからピンク色のスマホを取り出し、握り締めた。
「それについてはさる情報筋から真相を得ています。あなた方に何が起きたのか、いえ、私共は専門分野ではありませんので、ただ読み上げることしかできないのですが」
ラライナは少し驚いた表情を見せる。
自分たちに何が起きたのか当事者である自分たちには皆目見当がつかないのに、この世界の文明ではその謎さえも解き明かすことが可能なのか?
「…それはその…あなたたちの『魔法』技術は私たちより進んでいるということでしょうか?」
「魔法…ですか? あぁ、いえ、我々には魔法など使えません。我々にとって魔法とは、フィクションの中にしか存在しない力であり、現実に使える者など、この世界にはひとりもおりません」
ニニルリにしろ、ラライナにしろ、その議員の言葉は衝撃的なことだった。
--- この世界には魔法が存在しない?
意外過ぎる事実を聞かされた二人は、信じられないという表情を見せる。
「で、では! この世界の生活用品や素材などは、どうやって生成するのですか!?」
ラライナが質問するより先に、ニニルリが叫んだ。
「魔法使い」を目標としていたニニルリにとって、それはある意味生きる目標が無くなったのと同義である。
「この世界では鉄、あるいは合金といった素材は、工場などの鋳造技術によって作られます。そこから形を変えて生活用品の素材を作ったり、また別の工場では、鉄やアルミニウム以外にもビニールといった柔らかい素材も、全て機械や人の手によって作られております」
「…工場…機械…魔法では…なく…」
それはニニルリたちにはあまり馴染みのない言葉だった。
魔法以外の工程で素材を作るという常識は、元アークエスタの住民たちにはまさに非常識なことである。
進んだ科学は、その技術を知らない者からは魔法にしか見えない --- まさにラライナたちから見れば、魔法以外で素材を作る技術がまさに「魔法」にしか思えないのだった。
--- 遡ること一週間前
自ら警察の前で「総理大臣に会わせろ」と発言したラライナ。
警察官たちは女子高生のたちの悪い妄言だと最初は思ったのだが、その発言をしたラライナが、実は警察への通報があった現況だと知るや、とりあえずの身柄確保といった手続きを行った。
さすがに制服を着た女子高生二人に手粗な真似をするわけにもいかず、一旦は学校から警察署へと搬送した。
車中での二人の様子は、まるで初めて車に乗った子供のようであり、まさか二人が本当に車という乗物を知らないとは思わなかったのだ。
多くの住民からも通報が相次いでいた。
「人が突然空中から現れた」だの、「変な服を着た集団がたむろしている」といった電話が、今日に限ってやたらと多いのが、警察官たち全員が不思議に思っていた。
その後すぐに警察上層部からの通達があり、その集団の出現は「事件」とされたが、さらに不思議だったのは、不審者と同じ扱いをしてはいけないという条件付きだったことだ。
とはいえ、その「謎の集団たち」の総数もわからない。
一体どれだけの人数になるのか、現場の警官たちには見当もつかない。
急遽、他府県からも応援が呼ばれ、さらに数時間後には、中央の警視庁からのお偉いさんたちまで現場に現れていた。
ここに来て、ようやく警官たちは「ただ事ではない事件」と気づく。
だが、凶悪な事件性はないともなれば、ますますその集団を捕らえる意味をまだ掴めずにいたのだ。
「犯人扱いはせず身柄を丁重に確保」という指示が現場の混乱を招いていたのだった。
ようやく「謎の集団」の、全員の身柄が確保されたのは意外に早かった。
その数はおよそ百万人にも及んだ。
しかし予想外だったのは、その人々が集団のままその場を動かなかったのだ。
わけのわからない場所に突然連れて来られたという感覚の人々は、この世界のわけのわからなさに困惑して、ほとんどが別の場所へと動こうとしなかった。
その、人々の恐れが幸いし、ものの三日足らずでアークエスタの人々全員は、警察と国の庇護下に置かれた。
その裏では新月美裂の助力があったのは事実だ。
百万人の人々が出現したその日にすぐさま首相の元に訪れ、状況を説明した。
「地球の加護を受けた人々」を放っておくわけにもいかない。
危険分子ではないこと、怪しい集団ではないこと、そして彼らも被害者だということ。
首相は渋い顔でいたが、この国の歴史上、「新月美裂」の存在は秘匿され、その立場は超法規的な例外事項として黙認されている。
天照大神にも関連する存在と信じる人もいる。
美裂自身はそんな権威などに一切の興味はなかったが、自分の行動を制限されないためにはそれもいた仕方ないとしていた。
そして、アークエスタの人々は、それぞれの地域ごとに集められ、そこからはこの世界の概要を知るための教育が始まった。
例えば鉛筆ひとつ、貨幣一枚や箸・フォークなども知らないようでは生き様がないためだ。
最低限のルール・衣食住や仕事に関わる、「生きるため」に覚えておくのが必須なことは、その三日間で知識として人々は大方学んだようである。
「住」においても、過去この国の震災時に使われたプレハブ等が急遽建てられた。
ともあれ、百万人といえど、一ヶ所ではなく分散して住むとなれば多少の融通は効いた。
A市に一万人、B市に三万人といった具合に、人々はそれぞれの地域に住居が割り当てられる。
その中には当然ラライナとニニルリも含まれている。
だが、ラライナのように、国の運営に関わるほどのVIPはまた別の待遇だ。
ラライナは個室を与えられ、ニニルリもほぼ同じ待遇を受けながら、数日間をこの国の教育を受けることで過ごした。
そして約一週間が経ち、まだ完全とはいえないまでも、ラライナたちはようやくこの国の生活の一端を理解するに至った
「私たちの国・アークエスタとこの国は、社会基盤が全くと言っていいほど違うのですね…」
自分たちが住んでいた世界がいかに原始的だったのかと、ラライナは嫌がうえにも思い知らされ、少し落胆の表情を見せる。
それはニニルリにとっても同じ気持ちで、今その手に握るスマホひとつとっても、この世界の発達度合は自分たちの想像を遥かに上回るものだった。
「いえいえ、あなた方にとってこの国はまだ息苦しいままでしょう。良い悪いではなく、ラライナ様にとっては自国こそが最高の場所だったはずです、違いますか? 文明の発展は人々の幸福が伴ってこそなのですから」
日ノ本議員の言葉を受け、ラライナは共感を覚え、少しの笑みを返す。
そのやり取りだけでラライナは、今目の前にいる議員は信用に足る人物であると思えた。
「そうですわね、私としたことが…あまりの文明格差に少し弱気になっていましたわ。失礼いたしました」
「それは何よりです。では話を本題に戻しましょうか。まずはあなた方に起こった今回の詳細についてですが…」
日ノ本議員は先程美裂から聞いた事柄をラライナたちに説明する。
--- 隕石兵器がラライナたちの地球に衝突したこと
--- 周辺宙域の空間・次元・時間軸が超新星爆発により、捻じ曲がったこと
--- アークエスタの人々は次元間の亀裂により、その魂はこちらの地球に回収され、同じ座標軸で再生されたこと
--- その際、地球がラライナたちの肉体に一部、この星で生きるための細胞が付与されたこと
日ノ本議員は資料を読み上げるのみだったが、ラライナたちにとってはそれは驚愕する真実であった。
「…まさか…それはまるで『奇跡』ではありませんか…」
「そうですな…まさしくこれは『奇跡』と呼べましょう」
いくらラライナたちの文明が遅れているとはいえ、死んだ者が生き返るなど眉唾ものである。
しかもそれが「地球の意思」によるものだということに至っては、到底信じられるものではなかった。
「けど…私たちが現にこうやって生きていることが、紛れもない『証拠』なのですね…」
「そういうことです。あなた方の骨格や細胞、内臓のレントゲンまで映して調べましたが、我々と同じ体組織であるとの報告は上がっております」
「私たちがあなた方の言葉を、今も違和感なく話せ、理解できるのも地球からの加護であると?」
「そうですな、全く私共の理解の範囲外ですが、そういうことです」
ラライナにも詳しい内容は理解できなかったが、唯一理解したことはあった。
--- 私たちはここで、生きることを許された
今はそれが最大の重要事であり、またそれは、まだ自分たちはこの新しい世界で生きていけるという意味でもあった。
「…私たちには…まだ未来があるんだ…」
ニニルリが自分の隣で泣いていることにラライナは気づき、その手をそっと握る。
「ありがとうございます大臣。今日のお話は私たちに希望を与えてくれました、感謝いたします」
ラライナは立ち上がり、深々と礼を告げた。
ニニルリもそれに続いた。
「国交はなく、亡国とはいえ、あなた方は我国に避難されて来たゆえ、それを無碍にはできません」
「ありがとうございます、御恩は忘れません。我々はこの国で学び、必ずやこの国の発展に寄与いたしましょう」
時間にしてほんの一時間ほど、内容といえばまだ今後の話し合いなどはなかったものの、それは先の課題として残されてはいる。
ただ、ラライナにとっては、自分たちの身の上が保証されたことは大きな収穫だった。
「まぁ、公式な会談はここまでですな。ここからはもう少しくだけた話でもいたしますか?」
「あらぁ~そうですねぇ~、ふふっ、私は今日はかなり無理しておりましたのでかなりツラかったですぅ~」
「ぶっ!」
議員の言葉を皮切りにラライナがいつもの様子に戻ったことにニニルリは吹き出した。
「ラ、ラライナ! ちょっと待て! それはくだけ過ぎだ!」
慌ててニニルリが諫めるも、ラライナは笑いながら答える。
「いいっていいって、大丈夫。私一応国のトップだからわかってるって。こういうのは今後のためにお互いを、人として信用できないと意味ないのよ。作った笑顔より本音が大事、ね? そうでしょ大臣」
「ははは、そうですな、その人の考えや本当の人間性を理解できないと、信用できる相手かどうかはわからない、これは重要ですぞ」
「…むぅ~…せ、政治とは難しいものだな…」
口をへの字に曲げたまま、ニニルリはそれでも納得しかねる、という表情を見せる。
戦士職だけを続けて来たニニルリにとっては、政治は全くの門外漢なので、そういわれると返す言葉もない。
「ですが、私は今何をやればいいのか正直困っていますのよ。この国のことや生活、そして教育など。そういった知識を学べる、すんご~く有効な手はないでしょうか? そりゃもう壮絶に」
まだまだ学ぶことは多いとラライナは痛感している。
とはいえ、それは口実でもあり、知識欲旺盛なラライナにとっては、この国の知識は非常に魅力的でもあった。
「そうですなぁ…あれ? そういえば確か、失礼ですがお二人はまだ未成年でしたでしょうか?」
「はい、私たちは二人とも十五歳ですのよ」
何事もなくラライナはしれっと年齢を白状する。
「あぁ。それならば『高校』に通うのがよろしいのでは?」
「…高校?」
「あなた方と同じ年頃の少年少女が学ぶ場所です。高校生活を体験することは一生の思い出になりますので、是非いかがでしょうか?」
「…高校かぁ…ふむふむ」
「ラライナ!」
高校への進学に少し興味を見せるラライナを見たニニルリが声を上げる。
借りたままの制服のことを思い出したのはあるが、何よりもその手に持ったピンク色のスマホがニニルリの後押しの要因である。
「だったら…私はあの子、これをくれたあのピンクの髪の子の元へ帰りたい!」
「あの子? あぁ、確か『黒鋼…マリー』とか呼ばれてた子のこと?」
「そうだ、あの子にお礼をしなければ私は治まらない。それに…もしかしたらククロエもそこにいるのかも…」
「あっ…」
多忙な状況ですっかり忘れていたが、ラライナにもククロエの行方を捜す理由があるのを思い出す。
それが決め手となったのか、ラライナはどうやらニニルリの言葉通り、この世界で最初に出会った人物・黒鋼マリーがいる高校への進学を決めたようである。
同時に日ノ本議員は内心驚いていた。
--- 黒鋼マリー?
全く別のところから同じ名前を聞くことになろうとは ---
偶然の一致なのか、単なる同姓同名なのかはわかりかねるも、宇宙人や異世界人といった非日常が現実に起こっている昨今、偶然とはいえ出来すぎていることに驚いていたのだ。
「な、なるほど、制服をお借りになったのですか。そうですな、あー、ではその制服がどの学校のものか、秘書に調べさせますので」
「よろしくお願いいたします」
ニニルリは笑顔でそう答えると、まもなくニニルリと二人、その部屋から退出する。
スマホの写真機能もニニルリはまだうまく使えないため、制服の写真は後日ということになった。
「さて、今後のことも決まったし、色々やることも多いしね。ニニルリ、あなたの手も借りるからね」
「わかった、私にできることなら」
二人は首相官邸をあとにし、現在の住まいへと歩を進める。
この地に降り立った場所とは今は遠く離れた住まいだが、やがてここからも離れることになるだろう。
「済めば都」という格言を、いつだったか二人はこの世界で聞いた覚えはあった。
ニニルリにとっては最初に出会い、色々と世話を焼いてくれた黒鋼マリーにこだわりがあった。
自分たちの境遇に泣いてくれたという、その印象が強く残っている。
ラライナにはそんなセンチメンタルなど無縁ではあるが、更衣室での真名津姫女とのやり取りは興味深い印象だった。
「…あのマリーや姫女って子たちといたら退屈しないかもね」
「そう…かもしれないな」
ラライナの真意はわかりかねるも、アークエスタでの生活に疲れ切っていたニニルリにとっては間違いなくこの世界は、希望のある新天地と言える。
そしてその日より一週間。
ラライナとニニルリ、二人はこの世界のことをもっと知る必要があったため、政府主導の教育プログラムを最後まで完遂した。
かなりの詰め込み教育ではあったが、一応は日常生活に不自由のない程度の知識は自信になる。
住まいを引き払い、新幹線に乗って、二人は新しい生活拠点へと急いだ。
少し曇った天気の六月中旬。
「はい、えー今日から皆さんと共に学ぶ、新しい友達を紹介します」
「…えっ?」
マリーは教室に入って来た担任教師の後ろに続く二人を見て目を疑う。
「…えぇ~? 嘘」
「…はぁ、やれやれ(困笑)」
マリーだけではなく、雛と姫女も驚きを隠せない。
姫女にとっては、マリーとの平穏な日常が脅かされるかもしれないという懸念があった。
少し困った表情を見せるも、もはや笑うしかない状況である。
「みんな! その節はお世話になったわね! ラライナ・カメルよ! 転校生として帰って来たのでよろしくね!」
「…二、ニニルリ・メルリという…あの…よろしくお願いする」
「戻って来た…二人が…」
不覚にもマリーは少し涙目になる。
あの一件以降、テレビのニュースやネットのニュースサイトから全容を知り、大きな事件だとマリーは理解した。
ラライナに至っては、本当に異世界の高い地位にいると知って、マリーは再会できるなど到底無理だと思っていた矢先のことである。
一年A組は一部の事情を知る生徒が騒ぎ始めるも、「異世界からの転校生」という珍しい体験に沸き立っていた。
「うわっ! 出た! あ、あんたたち、あの時の異世界人よね! なんでまたこのクラスにいるのよ!?」
「…み、魅麗ちゃん、ちょっと落ち着いて(困笑)」
上から目線で騒ぎ立てる魅麗をなだめる雛。
周囲の生徒たちにとっては、それはもはや見慣れた光景だった。
正直言うなら、クラス全員が異世界人に興味があり、今ラライナを取り囲んでいる状況では魅麗には強く言えない。
「…異世界人ってトイレには行くの?」
「アリス、変なこと聞かない」
もう一方ではアリスの暴走を諫める姫女の姿があった。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ、あんたたち。そうね、私たちの姿がみんなと全く同じだということに疑問があるみたいだけど、その質問には全部答えるわ! まず、ニニルリがさっき緊張しておトイレに行ってたわね(笑)」
「なっ! ラライナ!」
突然自分に話を振られたニニルリは真っ赤になってラライナを怒鳴りつけた。
「あっはっはっは、まぁそういうことよ。政府が直々に調べた結果、私たちの体はあなたたちと全く同じ、異世界人っぽさは全くありませんでした!」
ラライナはオーバーアクションで周囲の疑問に答えている。
緊張気味のニニルリに質問が及ばないよう、わざと人目を引く仕草だと姫女にはわかっていたのだが。
「なるほど、さすがは卒がないね」
ぽつりとつぶやく姫女に気づいたのか、ラライナは満面の笑顔を向けた。
あとはラライナの独壇場だった。
授業の間の短い休み時間でも、ラライナはクラスメイトたちが満足する答えを返していく。
「…ありがとう、これ…ずっと大事にしてるから」
「ありがとう、良かったよぉ~、ちゃんと普通の生活ができてるんだね~」
「うん、今はこの高校の寄宿舎に住んでいる」
ニニルリがマリーにピンク色のスマホを見せる。
フリーのWi-Fiしか繋がらない、契約などしていないスマホだったが、ニニルリにとっては忘れられない物だった。
たとえお互い世界は違えど、それでも心は繋がる。
それがマリーとニニルリには嬉しかった。
「…まさかそんな…そんな『奇跡』みたいなことが…」
全ての真相を理解したククロエは呆然としている。
自分たちのいた世界と違い、ここは生命に溢れ、見たこともない動物たちがククロエを遠巻きに眺めている。
その小さな動物たちには全く「悪意」など感じない。
少し離れた場所には熊などの危険な生物もいるが、ククロエにとっては熊の運動能力は取るに足らない程度である。
「…みんな…アークエスタのみんなが生きている…生きてこの世界にいるんだ…」
ククロエにはその事実だけがあれば満足だった。
しかし、地球に救われたことに感謝するも、また別の事実がククロエに突きつけられる。
「けど…あたしは…あたしの力では誰一人救えなかった! 」
アークエスタの人々が生き返ったということは、「一度死んだ」という真実と直結している。
「あたしは…あたしは隊長たちを…一度死なせてしまった…」
迫りくる「悪意」に圧し潰される恐怖から、結局ククロエは何もできずに皆を救えなかった。
自分は消滅したままの方が良かった --- ククロエの心は罪悪感だけに支配されてゆく。
「…もう会えない…隊長にも…みんなにも…」
夕焼けが迫る山中、ククロエは一人、街の方向とは逆にさらに深い山の中へと進んでいく。
贖罪のためか、ただ現実から逃げたいだけなのか。
ククロエは暗い森の中、あてどなく彷徨い続ける。
「…えっ!?」
人の姿などあるはずもない鬱蒼とした森の洞窟。
ククロエはそこで、意外なものと遭遇する。
「グァガァァ!」
獰猛な四つ足の獣の姿。
この地球にもそのような危険生物がいたのか --- ククロエがそう思った矢先。
以前に見たという記憶がはっきりと呼び起こされる。
「こ、これは…どういうこと?」
王宮に近づく、別の地域から迷い込んだ獣を、ククロエは何度か追い払ったことがある。
今目の前にいるコイツは --- その時見た姿とほぼ同じに見えた。
「あの時のヤツか…? け、けどこんなヤツがここにいるなんて…この地球は『悪意のない』者しか救っては…」
そこまで言いかけてククロエはようやく気づく。
地球に救われたのは「悪意のない生き物」のみだという言葉の裏に。
「…コイツらは『悪意』なんて持っていない…ただ他者を捕食するだけの『生存本能』だけ…じゃあ、まさか!」
およそ十メートル近い巨大な体躯が飛び跳ね、その四つ足の獣はククロエに向け、口を開く。
「この地球に来訪したのは、あたしたちだけじゃなかった!」
地球外から来る「凶悪宇宙人」だけでなく、アークエスタからは「人を捕食する獣」までも地球の住民となった。
それはまさに、「異世界獣」とのちに名づけられる、恐怖の一端だったのである。
あー、今回はかなり時間がかかってしまいました。
皆様非常に申し訳ありません(;^ω^)
梅雨時期なんであんまり体調も今ひとつで、頭が働きませんでしたよ。
まぁ、やりたい内容は決まってるんでキーボードを打つ気力だけの問題ですが。
言い訳はこのぐらいにしておいてですね、一応これで初期メンツは全員同じ場所にまとまりました。
これでしばらくはおバカな話中心になるとは思うんですが、なかなか美裂さんがそうはさせてくれません。
色んな人と絡んでたりするうえ、危うい世界を裏から支えてる人なんで、なかなかおとなしくしてくれません。
まぁ日本に文化ができる前から生きてる人だから、たぶん色々思うところはあるんでしょうね。
あれ?…そういえば重要な人の話をまだやってない気がするなぁ( ゜Д゜)?
わりと時系列も考えながら書いてますので、キャラが多くなるほど地獄になっていくというね(;^ω^)
ここからしばらくはメインの八人を中心に進みます。
一応、高校卒業してからが本番なんですけどね。
ではまた、今後もよろしくお願いします(*'▽')ノ
今回はあんまりキャラが活躍するシーンがなくてすんませんでした!
んで、また今回の内容に関係する動画のURLを上げときます。
自分のYouTubeチャンネルですので、ミョーなところに繋がらないのは確認済みです。
よろしければどうぞよろしくお願いします(*'▽')ノ
魔法でチョップキック! → https://www.youtube.com/shorts/RMDA9slQX1E
希望の青空が広がるよ → https://www.youtube.com/shorts/V1HdzaRo3rg
UNENDING PRAYER - 終わらない祈り - → https://www.youtube.com/shorts/eex5a1bqcmQ




