ラライナ・カメル ②
「…え?」
まさに「泥のように眠る」とはこのようなことなのだろうか。
ラライナ・カメルは全く底の見えない、深い、とてつもなく深い眠りに陥っていたかのようだ。
見て、そして感じた出来事が、一から十まで全て錯覚だったのかという、まるでまだ酩酊のさ中にいるような思いに頭はうまく働かない。
「あれ? 私…え? ここって…王宮…にしては…」
頭の中がはっきりしない。
うつ伏せのまま寝ていたせいだろうか?
「起きた? おはよう」
教室内で寝ていたラライナ・カメルと、ニニルリ・メルリの第一発見者である黒鋼マリーが声をかける。
このままずっと寝たままかと思われたが、マリーが教室に入ってきてからまだ数分しか経っていない。
「あぁ、お、おはよう…私…えっ! こ、この言葉は…なに!?」
マリーに返答してからようやく自分のおかしさにラライナは気づく。
「…んん…ラライナ…? どうしたの…ほえぇっ!?」
ラライナの声に気づいたニニルリ・メルリもようやく寝ていた床の上から体を起こした。
しかしラライナと同様、ニニルリも自分の変化を理解したようである。
「わ、私、何を喋ってるの!? これ、アークエスタの言語じゃないじゃない!」
「ラ、ラライナ、私もだ! もしかして私は変になったのか!? 自分が何語を話してるのかさっぱりわからないが、意味はちゃんとわかるぞ!」
マリーたちそっちのけでラライナとニニルリは勝手に騒いでいる。
「…あー…(困惑)」
二人が話している意味がわからないのはマリーたちも同じであった。
ただし、ラライナたちの「変」とは意味合いは違うのだが。
「…うん、変なのはあなたたち…『デルモレッド』&『デルモブルー』と私は呼びたい」
「だいたいあんたたちはいったい何よ!? 勝手に教室に忍び込んで、図々しいったらないわ!」
矢継ぎ早に六界アリスと最河魅麗は初対面の二人にずけずけと言う。
「…デ、デルモ? って、何よそれ?」
デルモ=モデルという意味はわからないラライナだが、アリスの問いかけに意識が向いたようだ。
見たこともない服装の少女たち五人を、少し不思議そうな表情でジロジロと観察し始める。
「ねぇ、聞きたいんだけど。ここは王宮内なの? 私が知らないうちに様変わりしてるんだけど…」
教室内をキョロキョロと改めて見渡すラライナ。
家具…というにはほど遠い、安そうな椅子と机が何十脚と並んでいる様子はラライナの認識外である。
「学校…に近い雰囲気だが…」
「ピンポーン! 正解!」
頭上で〇を両手で作った雛が、ニニルリに向かい笑顔で答える。
「なるほど学校かー。いやー、私学校は行ったことないからわかんないんだよね」
「えっ! マジで!?」
ラライナの言葉にマリーは驚く。
まさか教室がわからないということは、小学校にさえ通ってなかったのか? と想像したためである。
「まぁまぁ、みんな、ちょっと落ち着こうよ(困笑)」
各々が話す内容に、あまりにも無駄が多すぎると感じた真名津姫女が仕切り始めた。
マリーたちから見れば、ラライナとニニルリの容姿は外国人のように見えている。
とはいえ、せっかく意思の疎通ができるのだから、関連づけて会話する方が建設的だと思った次第である。
「あ、あぁそうね。知らない場所だったから少し混乱したみたい」
姫女の言葉にようやくラライナも冷静さを取り戻したようだ。
正直、姫女にしてみれば、マリーが第一発見者であったために、厄介ごとにマリーを巻き込みたくないという気持ちが先に立ったためだ。
何気なく自分がマリーをフォローすれば、自分の必要性を感じてくれるという下心で動いている。
しかし結果的に考えれば、それはマリーのためにもなるという計算づくの行為である。
「あ、言っとくけど、私は学校に行ったことがないだけで、ちゃんと勉強は家庭教師に習ってたんだからね? そこのピンク頭は覚えといて!」
「ぅええ~」
ほぼ名指しでラライナに文句を言われてマリーは返答に困る。
変なポーズで固まったままの姿は、姫女の笑いを誘っていた。
「そうだね、まず最初に聞きたいのは、あなたたちがなぜ教室で寝ていたかということだけど」
「知らない、だって私とニニルリは街中で会おうとしてたんだから」
「え? 街中で? じゃあ、会ったあとはどうしたの?」
「会ったあと…? えーと…会ったけど会え…なかった…だってその時は空から…『石ころ』が落ちて来て…それで…」
そこまで言いかけてラライナは気づいた。
--- 自分の意識がそこで途切れていることに
「ラ…ラライナ…私…ラライナが…私の目の前で…石の…下敷きに…」
「…え? 私が…?」
どうやらニニルリは全てを思い出したようだ。
眼前で広がった赤い海が頭をよぎり、その顔色が真っ青になっていく。
「あ…あ…」
「ニニルリ!」
慌ててラライナが倒れそうになったニニルリの体を支える。
「…ラライナ…あなたは…私も…死…」
「…そうね…うん、私も思い出した…私たち…一度死んでたんだ…」
二人は涙を浮かべながら、それでもラライナは無理に笑おうとする。
現実の残酷さに負け、折れそうな心をそれでも繋いだのは、それ以上の奇跡だった。
一度死んだはずの二人が、なぜか知らない場所で生き返ったという事実である。
そして、アークエスタが滅んでいたという事実も。
「あのー、お取込み中すみませんがー(困笑)」
マリーは二人の一部始終を見ていたが、その事情についてはさっぱりわからない。
しかしただの不法侵入者というわけではなさそうな空気は感じている。
「あぁ、ごめん、悪かったわ。私たち別に何か盗もうとしてここにいたわけじゃないの。どうやら…違うところに来ちゃったみたいで…」
「違うところ?」
姫女が聞き返すも、ラライナ自身にも明確な理由を説明できるわけもない。
「えっと…なんていうか…ここはアークエスタじゃないのよね?」
「アークエスタ? そんな国あったっけ?」
マリーは腕組みをしながら頭をひねる。
ちなみにマリーの地理の平均点は三十点台である。
「…これはズバリ…異世界転生と見た」
先程から黙って様子を伺っていたアリスが唐突に口を開く。
「いせかいてんせい? 何それ」
聞き馴染みのない言葉にマリーは興味を示したが、他の四人はなんとなく納得しているようだ。
「え? なんなの? もしかして、知らないの私だけ?」
「…そう、黒鋼マリーも実は愚かなのは周知の事実。しかしそんなキミのために教えてしんぜよう、わっはっはー」
全く抑揚のない棒読みでアリスが精神的優位に立った。
「うぅ…とうとう私までアリスの餌食に…(泣)」
「はは、まぁまぁ」
泣きまねをするマリーとそれをあやす姫女の図。
そんな女の子同士が戯れる姿を見ながら、アリスは「んほー!」と心の中で喜び叫んでいるのは、その顔色から伺うのは不可能だった。
一年D組、六界アリスは全方位ヲタである。
彼女を改造したコンテンツは、世界征服を企む、日本のアニメ・特撮・ゲーム・BL・百合・エ○ゲである。
六界アリスは、自分の自由と尊厳のため、ヲタコンテンツを消費するのだ!
「…説明しよう、異世界転生とは一度死んでから他の次元で生まれ変わることである。つまりこの二人は異世界人、我々の世界とは別の世界から来訪した人たち」
得意げにアリスが一気に捲し立てる。
「ん-、そういうアニメとかは結構たくさんあるけど…」
少し考えながら雛がアリスの補足を始めた。
そういったヲタ的なものとは無縁そうな魅麗も一応は理解しているようで、マリーは少しだけ孤独を感じていた。
「あれ? もうこんな時間?」
唐突に姫女は声を上げた。
教室の中央の壁に飾ってある時計に気がついたらしく、少し慌てている様子だ。
「みんなごめん! 私、登校したらまず先生のところに行かないって言われてるからさ」
「あ、そういえば姫女ってさ…」
「あはは、そうだね。姫女ちゃんはまだ、正式にみんなに紹介されていなかったよね」
GW初日のテーマパークに参加して以降、姫女はマリーたちと一緒に行動していた。
魅麗にしろアリスにしろ、まだ「知らない人がいる」という感覚ではあったが、その違和感は日が経つに連れ徐々になくなっていく。
今では逆に姫女がまだ、正式に同級生ではない事実こそが違和感になりつつあった。
それも姫女の社交性ゆえの技なのだが、姫女を含めて「五人」というのがなんとなく納まりがいい感じというのも原因のひとつだったのだろう。
姫女は一旦職員室へ向かうと告げ、教室から出ていった。
--- それと同時に
「ん?」
その場にいた全員のスマホが緊急速報の音を響かせた。
ラライナとニニルリはその音に少し驚いた様子ではあったが、マリーたちの表情から危険な知らせではないことに安心している。
「えぇっ? こ、これって…」
「まさかホントに? え、マジで?」
マリーと魅麗は声を上げる。
「えー、ただいま現場に来ております。えーこちら、各地で一斉に出現した謎の人々の様子ですが…」
「い、一斉に出現したとか言ってるけど?」
スマホのニュース速報の映像を見てマリーは驚きの言葉しか言えずにいる。
「…謎の人々? ニニルリ、もしかしたらこれ」
「そ、そうだな。すまないみんな、私たちにもわかるように説明してくれないだろうか?」
ニニルリがマリーに呼びかける。
ここが自分たちがいたのとは違う世界だというのは、科学的知識のないニニルリもほんの少しだけ理解したようだ。
最初は自分たち二人だけがこの地球に迷い込んだのだと思っていたが、実はアークエスタの人々全員ごとだったとしたら?
それは悲しい現実から一転、二人には希望が見えることだ。
「あ、あぁそうね、とりあえずこれ、実際に中継を見て」
マリーは説明するよりも生中継のニュース映像を見るほうが早いと思い、自分が持っていたスマホをニニルリに手渡す。
おそるおそる「初めて触る機械」を受け取ると、そこに映し出されている様子に目を見張る。
「ちょっと! いったいここはどこですの!? どなたか、私テテイア・ハルマーレにご説明くださいませ!」
「ダメです! マイクを返してください!」
「誰かー! ご説明ー!」
「はは…ははは…」
「あら、よく見るとこの子、ハルマーレさんちのテテイア嬢じゃない。まぁ、相変わらず気取ってるわねー」
自分たちの状況をよそに、ニニルリとラライナはスマホの画面を覗き込んで笑顔を見せる。
レポーターからマイクを奪ったテテイア・ハルマーレが、見よう見まねでマイクを握って叫んでいた。
そのテテイアの周囲には王宮の兵士たちという、ラライナにはなじみの顔ぶれも時折映し出されていた。
自分たちが知っている人たちまでもが、この世界に迷い込んだのをようやく理解した二人。
それは奇跡であり、そしてまぎれもない「希望」だ。
二人は泣き笑いの表情を見せながら、しばらくスマホの画面を眺めていた。
「そっか、あなたたちは全員死んだはずだったんだね。私にはまだ信じられないけど」
マリーはようやく二人が泣きながら眠っていた理由を理解したようだ。
目の前に迫る「死」の恐怖と、そして絶望的に逃げ場を塞ぐ死神の影。
空から来る「石ころ」はおそらく隕石なのだろうと姫女は推測した。
「…私たちの帰る場所はもう…なくなってしまった…」
「そうね、えーと、ニュース? の続きはわからないけど、アークエスタの全員が無事でいてくれるなら…」
うなだれる二人を見てマリーはなぜか泣き始めてしまう。
「ちょ、ちょっと! あんたなんで泣くのよ!」
魅麗は大げさに騒ぎ立てるも、魅麗にもその理由はわかっていた。
黒鋼マリーはこういうヤツなんだと。
だからこそ他のクラスだというのに、わざわざ毎日マリーたちと行動を共にしているのである。
それは面と向かってマリーを「友達」と呼ぶのは気恥ずかしい、魅麗なりのプライドだった。
「…あ、ありがとう、これ…」
握ったままのピンクのスマホを、ニニルリはマリーに手渡そうとした。
「…いいの、あげる」
「えっ?」
「みんなが、知ってる人みんなが生きてるといいね」
「…ありがとう」
Wi-Fi専用機として持っていたピンク色のスマホ。
せいぜいが予備機としてマリーは持っていたのだが、あまり使い道がないので売り払おうかと考えていた矢先のことだった。
不要と感じている自分よりも、今それを必要としているのは目の前の二人なのだと思った。
契約している一台だけでいい --- 打算的ではあるが、ニニルリの感謝の言葉を聞いたマリーは笑顔を返した。
「おはよー!」
「おはよう」
「おはよー! おい! みんなニュース見たか!? すごいことになってるぞ!」
「…あっ」
次々に同級生が挨拶と共に教室に入って来る様子にマリーたちは驚く。
知らないうちに登校時間になっていたのだ。
「…えっ? だ、誰だその子! プ、プレートアーマー?」
「そ、その子、なんで半裸なの!?」
一部の男子はニニルリの来ている本物の甲冑に興奮を覚え、またラライナの露出されている生足と太ももに深い興味を抱いている。
普通の教室には不釣り合いな姿の二人。
ニニルリは入室して来る全員が、マリーと同じような服装なことに驚いている。
「なるほど、この世界は学校ではみんな同じ服を着るわけね」
半裸のラライナは男子から見られていることなどお構いなしの様子で、逆に観察し返している。
「ラ、ラライナ、さすがに私たちはちょっと…目立ちすぎている…」
状況のマズさを察知したニニルリが声をかけるも、ラライナは本来の研究者としての顔になっている。
「み、みんな! これはその、この二人は怪しい人じゃなくて、つまり、ね?」
マリーは慌ててごまかそうとするが、そのマリーの声に余計に皆が興味を引かれている。
「あ、あなたたち、ちょっとこっち来て!」
マリーはニニルリの手を引き、ニニルリはラライナの手を引いてそのまま廊下に飛び出した。
「マリーちゃん!?」
「ちょっと! どこ行くのよ!」
「…異世界よいとこ一度はおいで~♪」
一部、ミョーなフレーズを発しながらも雛・魅麗・アリスの三人はマリーを追いかける。
あまり人気のない場所まで二人を連れ出すと、改めてマリーは考える。
「あ、あなたたち、ちょ、ちょっとその恰好は目立ち過ぎ」
「うん、私もそう思っている。けどどうすれば…」
「なによぉ~、いいじゃないそんなことは。私はこの世界にちょっと興味が出てきたわ」
不安そうな顔を見せるニニルリと、すでにアクティブな思考を見せるラライナに、マリーはやはり異世界人でも色んな人がいるものだと思った。
世界が違うとはいっても、そこはやはり人間である以上違って当然なのだが、その「当然」がまだ理解できていなかった。
「異世界転生」がそもそも「当然」ではないのだから仕方がないが(笑)。
「どうすれば…んんー」
「…『木を隠すには森の中』、私の好きな言葉です」
マリーに追いついた雛たちだったが、アリスはまた適当な言葉をのたまう。
「え? どういう意味?」
「アリス、またあんたはわけのわかんないことを、森なんてどこにあんのよ!」
魅麗は適当な言葉でお茶を濁そうとするアリスに怒鳴りつける。
「あっ! そうか、そうだよ! アリスちゃんが言った通り、この二人が制服を着れば目立たないんじゃないかな」
雛はアリスの言葉の真意に気づいたようだ。
それが本当にアリスの真意だったのかはまた別の問題ではある。
「えっと…アリスは森がどうとかわけわかんないこと言ってたけど、その発想はナイス!」
察しの悪さもマリーの得意技のひとつだ。
「私ちょうど着替え用に一着、制服一式ロッカーに置いてるから!」
「えっ!? 着替えさせるの? この二人を?」
「そうすれば目立たないよねっ!」
マリーは魅麗の疑問に即答する。
ただ、制服は一着のみであることから、どこかでもう一着を調達する必要はあるのだが。
「あら、いいわね。その制服には興味あるわ。それを着たニニルリを見てみたい私!」
ラライナが嬉しそうな声を上げ、ニニルリは困惑する。
半裸のラライナが言えた義理ではないのだが、重そうな甲冑姿よりはまだ幾分かはTPOに沿っていると言えなくもない。
「わ、私が? そ、その短いスカートを私に履けと? そ、そんなはしたない姿を…」
ニニルリはラライナからの指名を受けるも、あまりのスカートの短さに困惑している。
「…私たちの姿がはしたないと言われてますけど!?」
「あ、す、すまない、悪気は…」
「ニニルリのはしたない姿見てみたーい」
「えぇー…?」
予想以上にはしゃぐラライナにマリーは少し引き気味である。
「ちょっと! 半裸のあんた! な、何喜んでるのよ! えーと…」
「あははは、お堅いのねあなたも。ラライナよ、私はラライナ・カメル。で、この子はニニルリ・メルリ。アークエスタって国の出身よ」
「ラ、ラライナと、ニニルリね、なんだか言いにくい名前だけどオッケー。いや、それはいいとして、友達が恥ずかしがるのをそんなに見たいの!?」
「見たい!」
「うわぁ~…」
ようやくお互いの緊張は解けて来たようである。
しかしそれはそれとして、自分は半裸の分際で友人の「恥ずかしがる様子」を見て喜ぶラライナの了見は、マリーにとっては理解し難いものだった。
「…あれ? マリーちゃん、何やってるの? こんなところで」
「…え? あっ姫女、用事はもう終わったんだ?」
職員室から出て、姫女はすぐ近くでマリーの声を敏感に聞き分け、三人がいるこの場所を見つけた。
その手には紙袋を下げており、どうやら予備の制服を持っているらしい。
「うん、そうだね。それはそれでいい考えだとは思うよ。けど…」
マリーたちから事情を聞いた姫女が、アリスの案に同意する。
頭のいい姫女に賛成してもらえたアリスはドヤ顔であった。
「…ふふん、やはり私は頭脳明晰。頭の回転の早さは回転寿司をも上回る」
「ぶ、物理的に三百六十度回るんだ(困笑)…アリスちゃんの頭はすごいね~」
困った笑顔でアリスに雛が気を遣っているのを尻目に、マリーは姫女が抱えている紙袋に目を移すが、さすがにそれを無理強いするわけにもいかなかった。
「あぁ、あははは、マリーちゃん、うん、別にいいよ。私の制服で良かったら使ってよ」
そう言って素直に紙袋を差し出す姫女。
マリーは申し訳なさそうにそれを受け取る。
(けど…この二人に制服を貸したとして、大きなニュースにもなってるし、もしかしたら不審者として二人とも警察に連れていかれる可能性は高いよね…)
姫女はそう考えたが、独断とはいえ、マリーが親切心からこの二人の異世界人を助けようとしていることを無碍にはしたくなかった。
雛の様子を伺うと、どうやら同じことを感じているらしい。
まだ異世界人というワードはニュースからは流れていなかったが、今のところ犯罪に関わる案件ではないところから、マリーが警察に捕まることはないと思える。
「えっと…じゃあ私の制服は…えー、ニニルリさん?」
「あ、は、はい!」
「ごめんねー、短いスカートだけど、あなたが来ている甲冑よりは学校で目立たないと思うの。とりあえず今はこれを着てもらえるかな?」
「いや、そんな。あ…ありがとう」
ニニルリは身長こそマリーたちより高いが、全体的に細身で、胸もマリーとほぼ変わらない様子だ。
対して姫女とラライナは背格好もほぼ同じに見えることから、制服を貸す相手は迷うことなく決まったようだ。
「あと十五分ぐらいでHR始まっちゃうよ。マリーちゃんも姫女ちゃんも急いで」
心配した雛の声を聞くなり、急いで四人は更衣室に急いだ。
「あ、ぴったりだ」
「うわぁ…」
さすがに着替える最中をじろじろと見るのは悪いと、ニニルリが着替える間、マリーは並んだロッカーの隣の仕切りで待っていた。
ボタンやファスナーという小物はニニルリたちの世界にはなかったらしいが、それでも見ただけで服の作りは理解できたらしい。
ひと通り着替え終えたニニルリの姿を見たマリーは言葉を失う。
上背がある分、マリーが着るよりもニニルリのスカートは短くなっていたが、水色の長い髪とモデルのような頭身に、マリーは見惚れてしまう。
「か、かなりスカートがその…短くて」
「いや、いいよ! ニニルリさんすごく綺麗で羨ましいよ!」
「…そ、そんな、私は無骨なので…」
「しかも足長いし! いいなぁーホント」
マリーは心底そう思っていたが、ニニルリには単なるお世辞としか思えない。
少し歩くだけで「見えそう」なスカート丈に苦労している自分が恰好悪かったからだ。
--- これでニニルリが廊下を歩いても目立つことはなくなった
ただ、その後のヴィジョンについてはマリーには何もない。
単に困っている人に手を差し伸べただけだ。
先生が来るまであと数分、二人はロッカールームから廊下に出た。
「悪いわね、せっかくの制服なのに」
「いいよ、気にしないで」
同じ時間にもう一方の姫女とラライナも、また別のロッカールームにいた。
「なるほど、こういう作りになってるのかぁ…」
「できれば早く着替えてくれないかな? 私、一旦職員室に戻らないといけないから」
「あー、ごめんごめん、急いでるんだっけね」
ラライナは姫女に感謝しながらもいつもの様子を見せている。
それが少し姫女にとっては、不真面目に見えることも事実だ。
「ねえ、あなた、ねぇ?」
「ん? なに?」
「もしかしてあなた、あのピンク頭の子に特別な好意を抱いてない?」
ほぼ初対面のラライナに見透かされた姫女は少し驚く。
無意識のうちに態度が見え隠れしていたのかもしれない。
大昔に比べ、「同性」同士の恋愛に関して現代は幾分かは偏見がなくなったとはいえ、それでも奇異の目に晒されるのは間違いない。
いや、姫女にとっては、自分よりもマリーに迷惑がかかるのが耐えられない。
もし同級生たちがマリーから距離を置く事態にでもなれば、それは迷惑をかけないという約束を破ることになるからだ。
「はーん、やっぱりそういう気持ちはあるんだ。なんとなくわかるよ」
「…わかるって…まさかあなたもあのニニルリって子を?」
「あはははは、違う違う。愛なんて非効率な行為、私には興味ないし。私がニニルリを好きなのは確かだけど、そういう恋愛感情じゃないから」
姫女からは表情が見えない角度でラライナが笑う。
少し嘘をついた。
「最期はニニルリと一緒にいたい」と発した、あの言葉はなんだったのか?
ラライナは愛など非効率としながらも、自分の心はわからなかった。
ニニルリに対して欲情を抱くことなど全くない。
ただ一緒にいたい、ラライナの想いはそれだけのシンプルなものである。
アークエスタのナンバー2として、ラライナは様々な人と接してきた。
それが他人に対する審美眼を育て、人を見る目を養ってきたのだ。
だからこそ、姫女がマリーに接する様子を見れば、ラライナには一目瞭然である。
「…ふぅん…非効率ねぇ…あなたはあのニニルリって子とは全く違うタイプみたいだね。少なくとも私には、あなたは論理で考えるように見える」
「ふふん、そうね、私は研究者だからさ。こう見えて私はアークエスタでは国をまとめる、天才魔法使いって呼ばれてたからね」
「魔法使い」という言葉が、普通の会話に混ざるのが姫女にとっては違和感がある。
しかしそれも相手が未知の異世界出身だとすれば仕方ないところだ。
単なる「妄想癖」だと言い切るのは簡単だが、ニュースの映像を見る限り、あながち嘘だと断言するわけにもいかなかった。
「それで、あなたは異世界人の私の体に興味があるのかしら?」
「え?」
ラライナと話し込んでいた姫女は、マリーのようにあえて着替える姿を見ないという考えには及ばなかった。
向かい合わせのロッカーの列、姫女はラライナがいる反対側のロッカーに背を預けている。
「私は別に恥ずかしくなんてないけどね。侍従たちに着替えさせてもらう時もあったし、自分の裸とどう違うのか、興味あるなら見せてあげるわよ? それこそ『奥の奥』まで」
ニヤニヤと笑いながら、ラライナは飾り気も何もない白い下着に手をかける。
「いや、そんなのはいいから、早く着替えてよ」
「ふふん、メンタリティーはこの世界の人も同じようなものね」
あくまでも研究者の癖が抜けないラライナを見て、姫女は少し用心深くなる。
ラライナの言葉が本当なら、国という存在に関わる、政を行ってきた切れ者である。
少し頭が良いだけの、ただの女子高生の自分とは圧倒的に格が違う。
ラライナとニニルリ、そしてニュースに映った多くの異世界の住民がこの後どうなるのか。
映像に映っていただけでもかなりの多人数だったことから、まず大きな「事件」として扱われるのは間違いなさそうだ。
「で、私たちはこれからどうなるのかしら?」
着替え終えたラライナは率直に姫女に尋ねる。
自分たちにとっては大勢の同族が生きてこの地に来たのは「希望」だとしても、この世界の人々にとっては「迷惑」以外の何物でもないだろう。
様子を見る限り、まさに身ひとつでこの世界に来たラライナたちには、その身分を証明することなど不可能に思える。
「この場合、私もそこまで詳しくはないんだけど…たぶんあなたたちはまず警察か、それに近い人たちに連れていかれると思う」
「警察?」
「一応犯罪者を取り締まる組織だけど、治安を守るためだから、必ずしも犯罪者がお世話になるわけじゃないよ」
「ふーん…王宮近衛兵みたいなものかな」
そんな話をしながら姫女とラライナはマリーたちと再び合流する。
「あっ、もうこんな時間。ごめん、私また職員室に行かなきゃ」
スマホの画面で時間を確認した姫女は、マリーの様子をチラリと伺う。
ニニルリと笑顔で話すマリーの姿に、少しモヤモヤする思いはあったが、今はそれどころではないと吹っ切った。
--- それと同時に
外からサイレンの音が聞こえている。
段々近づくそれは、やがて突然消え失せ、そして数人の警官たちが姫女より先に職員室に入る姿が見られる。
「こちらに怪しい人物がいるとの通報がありましたので」
職員室内は騒然となるが、警官たちはお構いなしにそれだけを告げると、目当ての「不審者」の姿を探し始める。
「やれやれ、予想通り…かな?」
ラライナはマリーたちにそう言い放つや、ニニルリの手を引いて、その警官たちに向けて歩を進める。
「えっ、ちょっと二人とも!」
慌てたマリーが止めようとするも、ラライナはマリーに笑顔を見せながらやんわりと制止する。
数名の警官は、自分たちの前に現れた二人の女子高生の姿に戸惑いを見せている。
想像する「不審者」とはあまりにもかけ離れていたからだろう。
「私はアークエスタ国の統括責任者、国王代理のラライナ・カメルです。我国の全ての住民の代表として、この国の代表との会談を望みます!」
堂々と言い放つラライナの表情、先程とは全く違う、それは国の責任者としての覚悟であった。
あー完成したっスー(;^ω^)皆様こんにちは、神原無人ですよ。
今回は引き続き、異世界関係の続きです。
とはいえ、ペースは予定よりかなり少ない分量になりました。
本当はこの先の展開までやりたかったんですが、そうなるとページが多すぎるという問題がありまして。
同時に時間がかかりすぎかなという、諸事情により今回はここまでにしました。
まぁ、内容的なことを言うと、マリーさんが独断先行するのは単に性格であり、こういうお節介を焼くと、あとあと面倒になりそうだという頭がないからです。
あんまり深くは考えてません、この子。
ただ目の前に泣いてる人がいたから、ちょっと手を貸してあげようという軽い気持ちだけですね。
それに対してお利口さんの姫女とラライナは、まぁ色々考えてますね。
この二人、実はあんまり相性がよろしくないというのが元々の見解なんですよ(;^ω^)
動画ではそんな素振りはほぼないんですが、小説ではちょっとそういう描写も入れたくなりまして。
ただ、間に雛を挟むことで、あんまりギスギスしない関係になります。
雛は潤滑剤の役割ですね。
この子がいなければマリーを含むメンツはすぐに喧嘩別れみたいになる感じです。
あまり生々しすぎるのもどうかとは思いますが、ある程度の「それっぽさ」は必要だと思うんで。
というわけで、とりあえず今回もURLを載せときます。
こちらは当YouTubeチャンネルのURLで、怪しいサイトではありません。
小説の元ネタになったAI音楽チャンネルでして意外に数上げてます。
よろしければご覧ください。
危険性はチェック済でこちらは特に利益は発生しません。
次回は一応は異世界転生の話は完結予定です。
そこから先はマリーさんたちと高校生として、色々苦労しながらもこの世界で暮らすことになります。
ではまた次回、呼んでいただきましてありがとうございました(*'▽')ノ
虹の橋を追いかけて → https://www.youtube.com/shorts/tS1dBUfNHew
Everyday Miracles → https://www.youtube.com/shorts/TZOsRBENBLg




