ラライナ・カメル ①
「昨日のあれ…やっぱりニュースになってなかったよね…」
「それよ! おかしいでしょ、どう考えても!」
二人の少女はファストフード店で首をかしげていた。
GWも二日目。
月は変わり、本日は五月初日である。
昨日、その身に降りかかった大きな出来事に、黒鋼マリーは未だ困惑を隠せずにいる。
「…都市伝説は本当だった…私は正直…怖い…」
両手を二の腕に回し、六界アリスは震えるジェスチャーをした。
危うく化物に食われ、命を落とすころだったので、さすがに怖がるのは無理はないと、その場にいる皆は理解しているつもりだ。
とはいえ、怯えているという言葉とは裏腹に、わざわざマリーたちと合流するところは意外にタフではあると思えるのだ。
あまり感情を表に出さないアリスではあるが、あまりにも想像を越えた事件にはさすがに素直に反応しているようだった。
「うーん…私はさ、なんとなく予想はついてたというか…」
「え? なに? 編入生は何か知ってるの?」
長いツインテールを揺らしながら、最河魅麗が、その言葉に即座に食ってかかる。
自分も、他の皆もほぼ同意見だというのに、真名津姫女だけは「予想通り」だったとすることに、魅麗は少し反発し不機嫌になる。
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
少し困ったような表情を姫女は見せる。
具体的な根拠や証拠はなかったし、漠然とそう思っただけなので、姫女の意見としては、「そういう場合もあり得る」と考えただけだった。
「あ、私も姫女ちゃんと同じだよ」
雛が小さく片手を挙げる。
「だってさ、昨日のあれって、明らかに未曾有の大事件だよ? 『宇宙人は実在した!』なんて、そんな突拍子もない事実はメディアにとっても信用問題だと思うし」
「ある種の報道規制がかかったのかもしれないね。まぁ、ただの陰謀論かもしれないけどさ」
二人がそんな仮定の話をするも、マリーたちにとっては理解の範囲外である。
「ん-…姫女が何を言ってるのか、私にはよくわからないんだけど…」
先程と同じく、マリーと魅麗は引き続き、やはり首をかしげるしかない。
昨日の事件、それは同級生たちと遊びに行ったテーマパークで、巨大な宇宙人が出現し、一部の観客はパニックとなった。
幸い大きな被害は出なかったものの、人々の目に映ったのは巨大な口を持つ異形の化物と、悪魔のような黒い体を持つ巨人の姿である。
マリーたち五人にしてみれば、その巨人は新月美裂という少女が変身したものだとわかってはいたが、そもそもその美裂自体が何者なのかはさっぱり不明だった。
「あの美裂って子さ、何者なのかな?」
マリーは皆が思っているであろう疑問をストレートに口にする。
おそらく誰も知るはずがないのはマリーもさすがに理解している。
ただ、それも話のネタになる、という程度の思いからではあるが、みんなでその話題で盛り上がることで、アリスを始め全員が、宇宙人の恐怖から気を紛らわせる意味もあった。
一方、それとは別に、いつの間にか姫女が、当然のように自分たちの輪の中に入っているというのがマリーにとっては不思議である。
昨日のあれやこれやで、姫女の本心が垣間見えたことに、マリーの中のわだかまりは少しだけ消え、わずかに距離は近づいたように思える。
しかし同時に、冗談ではなく本気だという、自分への姫女の愛情の重さに困ってもいる。
「女同士」というのは、やはりマリーにとっては無視できない重要ごとなのだ。
マリーは自分が霧島瞬を、自らも気づかないうちに好きになっていたのを自覚してしまったのがさらに二重苦である。
おかげで昨夜は寝つきが悪かった。
朝方にいきなり魅麗からの、「全員集合コール」がなければ午前中は起きられなかったはずだ。
大あくびをしながら、マリーは午後一番、いつものメンツが集まるファストフード店に訪れたのは一時を少し回ったところだった。
そしてなんでもない会話が始まるのかと思いきや、昨日の出来事の蒸し返しである。
すでに三度も化物に襲われているマリーには、事の重大さがわかってはいない。
「襲われるのに慣れた」というには過ぎた言い方だが、美裂にせよ瞬にせよ、命を救ってもらえたことに対し、感謝の想いだけに気持ちが傾いているせいだろう。
何も事情を知らない普通の人が、今この時にも、人知れず凶悪宇宙人の犠牲になっている事実に、まだマリーははっきりとは気づいていなかった。
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「…ん…んん…」
マリーたちの世界とは次元を異にする異世界・アークエスタ。
仕事が非番だった昨日、魔法職の昇給試験を無事受けたニニルリ・メルリだったが、早い時間に就寝したまま、結局は朝まで寝てしまった。
それでもいつもと同じ時間に起きたのは、やはり真面目が板についたニニルリならではの行いとは言える。
「…ふぁぁ…んん?」
連続した魔法生成と、人生を左右する受験という緊張による極度の消耗により、ニニルリの精神的な疲労はまだ抜け切ってはいない様子だった。
疲労が残る重い体を無理に震い立たせながらもベッドから這い上がる。
「なんだろう…? 少しだけ今朝は…違う…」
「時計」という概念はこの世界にも存在はするが、それでもそこまで精密機械というほどではない。
銅と鉄を組み合わせ、動力には充電された魔法力を使用している簡素な造り。
五分や十分程度の遅延は当然といった、あまりあてにはできない時計だが、さすがに「ほぼ七時」という程度の誤差から外れるのは故障や充電切れ以外には有り得ない。
「空が…暗いせい? 雨でも降りそうなのだろうか…?」
窓から空を伺うニニルリは、朝七時にしては外の暗さが普段と違うことに懸念を示す。
単に雨が降りそうなのだろうとニニルリはその時は思っていた。
雨音が聞こえないところから、まだ降り始めていないと確信したニニルリは、少し早めに出勤しようと考える。
普段着のまま寝てしまったために、少し汗臭いのかもしれないのがニニルリは気になった。
重い甲冑に着替えながら、台所に置いてある硬いパンと水を口にする。
いつもより三十分は早いが、雨に濡れるよりはマシだと考え、着替え終えたニニルリは外に出た。
「…?」
出勤途中という道すがら、ふと空に浮かぶ違和感の正体に気がつく。
何か --- アークエスタの言葉では言い表せない何か。
語彙にならないものが浮かんでいる空に寒気を感じる。
「あれは…あれはなんだ…?」
眉をひそめ、ニニルリはその表情に影を落とす。
その物体までの距離は不明ながら、それでもいつもの日常とは違う空気感がそこにはあった。
「なんだろう…これ…これが『魔法粒子が騒いでいる』感覚なのか?」
先日のラライナ・カメルの言葉をニニルリは実感した。
空にある物体からの強烈な「悪意の波動」により、空気が緊張感を帯びている。
「おい、見ろよあれ、いったいなんだってんだ?」
道行く人たちから、開店準備で外に出た老人たちからも声が上がる。
皆一様に不安そうな発言以外聞こえない様子から、ニニルリは何が起きているのか知る必要があった。
急いで仕事場の詰所に向け駆け出した。
「そんな…あれが…最近感じていたものの正体…?」
同時刻、王宮ではラライナが空の異変に気づいていた。
空から近づく波動を感じた魔法粒子の騒がしさに叩き起こされた形だ。
カーテンを握り締めた手が震える。
あまりにも巨大な悪意にラライナは恐怖を覚えた。
同時に、いつもより王宮内の喧騒が聞こえるのが早い時間なのに気づく。
ドア越しに王宮兵士たちのやり取りが遠くで響いている。
さすがに普段は楽観的なラライナとはいえ、国中が不安であろう様子に目を背けるわけにはいかなかった。
「ラライナ様、よろしいでしょうか?」
豪奢なドアを軽く叩き、ひとりの兵士がラライナに声をかける。
「当然よ、のんきに寝てるわけにはいかないもの」
「さすがでございます、では失礼いたし…うわっ!」
入室するなり、兵士は驚いた声で叫ぶ。
「なによぉ~」
両手を腰に当て、窓際に立つラライナの姿にどうやら兵士は困惑したようだった。
起きたばかりでまだ寝巻姿のままだからだ。
肩紐だけで支えている上半身に加え、下半身はいわゆる「ショートパンツ」のような出で立ち。
鎖骨辺りと太ももは完全に露出していて、普段は肌など一切見せない、重装備な魔法服とのギャップに驚いたらしい。
「別にいいでしょ? 言っとくけど下着じゃないからねこれ」
「は、はい、それはわかっておりますが…そのー…」
さすがに中年ほどの年齢の兵士といえど、相手が王族では直視するのも憚られる思いである。
「そんなことはいいから! 街の様子はどうなってるのか聞かせてちょうだい」
「は、はぁ、ん-ゴホッ、先程任に就いた兵によりますと --- 」
咳払いをひとつすると、兵士は改めてラライナに現状を報告する。
街中では幾人かの人々がやはり深刻な不安を感じており、またその様子を見た兵士自身も異変に気付いたという内容がラライナに報告される。
「…これは…やっぱりただ事じゃないわね」
「はい、しかもわからないのは、三十分前よりも空にある『それ』が大きくなっていることですが…」
「えっ!? なんですって!?」
ラライナにすればその報告は初耳である。
計算式などには疎い兵士たちにすれば、「近づくほどに大きく見える」のではなく、「大きくなっている」と感じる方が自然なのだろう。
アークエスタの住民たちは、人間以上の大きさの動く物体には馴染みがない。
建物や王宮は動かないし、獣のような人を越える生き物も見たことがないのだから。
「まさか…近づいてきてる? あの巨大な物体が…?」
「巨大…ですか?」
兵士には今ひとつわかっていないようである。
「遠くにいる人が近づいてきたらどう見える? 大きくなったと言える?」
「…あっ!」
想像を超える大きさに対して理解が追いつかないのは事実だった。
それはラライナにしても、まさに未曾有の危機だという認識を新たにした。
それは巨大な隕石 ---
宇宙に関する知識において、アークエスタの科学力はあまりに乏しい。
空に見える星までの距離はおろか、宇宙がどうなっているかという知識でさえ人々は認識できていない。
それはラライナ自身にも言えることだが、まず隕石という概念がないため、何が起きるのか全く予見不可能という状態である。
「まずは街中の人たちを全員避難させて! 王宮内のどこでもいいわ! 国王様の病室以外は全て解放するから!」
「わ、わかりました! 手分けして任にあたります!」
正直、ラライナにしても手の打ちようなど全くない。
避難と称して、最も安全だと思える王宮内に人々を招き入れる程度が関の山である。
「…どうすればいいの…」
理知的過ぎるあまり、ラライナは今起きていることが、まさに絶望的な状況なのだとわずかばかりに理解していた。
「お父様、これはいったい何事なのでしょう?」
急ぎ「避難」と称し、本日は王族関係者のパーティーが催されようとした矢先の事態だった。
どうやらその催しに参加するはずだったらしく、ひとりの少女はやや不機嫌な顔を隠そうともせず父親に現状の慌ただしさについて尋ねている。
少女の名はテテイア・ハルマーレ。
現在はまだ十二歳ながらも、王族に連なる名門・ハルマーレ家のひとり娘である彼女は、その若さを差し引いても余りある才を持ち合わせていると、一部の上流関係者からは噂されている。
アークエスタでの教育というものは、通常十歳から十三歳までの三年間を学校という場所で過ごすのだが、内容については推して知るべしである。
そもそも文化自体がまだ発展途上であるため、教える内容が乏しいのだ。
せいぜいが簡単な読み書きや足し算引き算というレベルだが、そんな中でもテテイアは名門という誇りを忘れたことはない。
『自分は生まれついての高貴な存在なのだ』
王に最も近い家系ではあったが、ラライナ・カメルの存在がハルマーレ家にとっての不幸であった。
遠からず、病弱な国王はその後継者としてラライナ・カメルを推すのは間違いない。
すでにそういった噂が関係各所に回っている。
一部の王族関係者からやっかみの声を聞くたびに、テテイアは辟易していた。
ラライナとは面識があるゆえに、テテイアはその奔放でありながらも聡いラライナに憧れている。
周囲が思うほどテテイアは国王になることへの執着は持っていない。
ただ、「誇り高く上を目指す」のが矜持である。
今のテテイアにとっては国王になるよりも、ハルマーレ家の繁栄が最優先事項だった。
「ふむ、何かよくないことでも起きたのかねー?」
テテイアに返答を求められた父親は、なんとも凡庸な口調でゆったりと返す。
人間的にはあまり野心はなく、それでいて人たらしの才覚に秀でている父親だった。
まだ子供であるラライナには、そんな父親の態度が少し歯痒く感じられる。
ギラギラとした野心が人を惹きつける源なのだという想いはあった。
とはいえ、ラライナに関しては別格という意識を持ってはいるも、その矛盾に気づかないのが幼さ故である。
「私、少し兵の方にお聞きしてまいります」
そう言ってテテイアは父親をその場に置いて広いホールから出ていった。
これから何が起きるのか、今のテテイアには知る由もなかったのである ---
「…あ…あれは…隕石…いや、駆動音がある…まさか隕石兵器!?」
街中から数キロ離れた岩だらけの地平。
ククロエ・ミツキはようやく完全に理解したのである。
「空から来る悪意の波動」の正体を。
この次元にはまだ凶悪宇宙人の襲来は確認されていない。
おそらくは、偶然この地球の存在を知った一部の連中が、戯れに隕石兵器をぶつけようと考えたのだと推測される。
ククロエにはマリーたちがいる地球の詳細などはわからなかったが、同じ新月美裂という存在の声は聞いたことがある。
断片的にマリーたちの地球には宇宙人が潜伏しているというのを知り、その事実に驚くしかなかったのだ。
「…けど…あんなの…どうすればいいの…」
それは自分の無力さを思い知らされることでもある。
ククロエの力ではどうすることもできない。
ニニルリのそばを離れての三日間。
地球自身と意識を繋げ、幾度となくシミュレーションを行っていたが、地球からの答えは「不可能」の一点張りであった。
「バージョンアップしても…どうにもできないなんて…」
アークエスタが存在する地球の「新月美裂」であるククロエ・ミツキ。
これまで幾度となく、王宮や街の近くまで来た獣を阻止して、元の地域に帰すという行為を人知れず行ってきた。
しかし、それは相手がせいぜい十五メートルの大きさだからなんとかなったわけであり、相手が隕石、ましてや数百キロ規模ではどうすることもできない。
「あたしは…無力なんだ…」
今のククロエにとっては、神に祈るぐらいしかできない。
その無力さゆえに、ニニルリやラライナに顔向けできないと自分を恥じる。
命を賭ける覚悟など、当の昔にできてはいるが、ククロエの命程度ではどうにもできない状況なのだ。
「次に生まれる時は…人間に生まれたいな…」
現状を全て理解したククロエは、ラライナとは別の理由で絶望に暮れるしかなかった。
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「…やはり…ダメなのか…」
マリーたちが住む地球の都会の一角。
高層ビルの屋上に一人、全身黒づくめの新月美裂も絶望の表情を見せる。
他次元の出来事とはいえ、多くの人の命が今にも消え入りそうな事態を、他人事と無視できるはずもない。
敵の策により、感情を失った美裂だが、心の奥から響く悲しみには抗いようもない。
断片的に聞こえるククロエの声を、わずかに感じる程度しかできないことを歯痒く感じている。
「私も祈るしかできないのか…神に…いや、この地球に…」
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その美裂の涙を感じ取ったククロエの心は、ほんの少しだけ救いを感じていた。
--- ありがとう…さようなら…
そしてそれはククロエからの最後の言葉となった。
「ダメです! もはや恐ろしさに包まれた王宮内の人々はパニックに陥っております!」
ラライナが自室で兵と会話してから僅か数時間後。
隕石兵器はその全貌を人々の前に堂々と現し、徐々に近づく「巨大な石ころ」に平穏でいられる者などほとんどいなかった。
温厚な人々ゆえに、盗難や犯罪などは起きなかったものの、生きる希望を失くした人々で溢れ、避難した人々はまともに考えることさえできなかった。
その中には王宮兵士たちも含まれている。
アークエスタの文明は、今まさに終焉の様相を呈していたのである。
王自身もこの状況を憂うも、すでに高齢であることから先頭に立って皆を鼓舞できることもできない。
今のアークエスタの実質の頂点はラライナである。
だが、そのラライナ自身も、「謎の石ころ」に対してどうすることもできずにいる。
万にひとつの望みは、隕石が地球の軌道を外れることだったが、まだ職務に忠実な一部の兵士からは、街中に隕石の破片が落ち、街中では火災が起きているという報告が上がってきていた。
「…終わりなの…かな…」
「ラライナ様…」
さすがのラライナもここに来て強気な発言などできようはずもなかった。
突然訪れた死の影は、そのラライナの心まで鷲掴みにしようと待ち構えているようだ。
「…アークエスタはもう…終わりです…」
「ラ…ラライナ様…うぅ…」
王宮の最も高貴な場所、わずかに残った忠実な兵士たちは王の椅子の前で悲痛の涙を流す。
「…聞いてみんな! 私からの最後の命令を下します!」
「は、はい!」
王の椅子の横に立つラライナの姿。
普段はトンチキな発言と、適当な言動から余計な世話を焼かされた兵士たちだったが、ここに来てやはりラライナは王の器であると確信していた。
「…最後の瞬間まで…皆は家族や愛する人のそばにいてちょうだい…最期の時に…一緒にいたい人のそばに…」
「ラライナ様…」
そして、兵士たちへ命令後、数刻を経てラライナはベッドに横たわる病弱な王の手を握り、丁重に別れを告げた後に部屋から退室する。
「…私は…!」
魔法使いの正装のまま王宮から飛び出すラライナ。
すでに巨大な隕石は破片を巻き散らしながら、この星のすぐ面前まで近づいている。
「ニニルリーーーー!」
最期の瞬間、ラライナがそばにいたいと思える相手は、ニニルリ・メルリしか浮かばなかった。
「愛」じゃない、ラライナはそう今も思っているが、それはもう定かではない。
愛でも友情でもなんでもいい、ラライナはそんな理屈をつけるよりも、自分の心に忠実に動く。
「…私は…なんのために…」
今はもう誰もいない街中。
ニニルリはひとり、昨日まで人が賑わっていた街の中心にうずくまっている。
母と決別し、ひとりで生きてきた都会での生活。
たった三年前のことなのに、あの日の母の姿に自責の念が膨らむ。
ラライナと出会い、そしてククロエという部下もできた。
順風満帆とはいかないまでも、あの頃の自分よりは少しだけ自信もついていた。
そして魔法職への転職という転機を迎えようとした矢先 ---
「お母さん…ごめんなさい…私…私は…」
両手で顔を覆い、誰もいない場所でニニルリは号泣する。
周囲からは、年齢のわりにはしっかりしていると思われているニニルリだが、それも口下手で寡黙にならざるを得ないことから来る評価である。
まだ十五歳らしい弱く、幼い部分もやはりあるのだ。
何もできない、誰も助けてくれない。
そんな現実はニニルリから希望を奪うには十分だった。
このまま最期の時を迎えるしかない ---
すでにニニルリの心は諦めに支配されてしまっていた。
「邪魔!」
重装備で走りづらい魔法服を脱ぎ捨て、その下に着ていた寝巻姿のまま再び走り出す。
懸命に走る、走る、走る、一心不乱に、ニニルリ・メルリを求めて。
遮る川を越え、数メートルの大きさの石が街の建物を破壊している様子を目の当りにする。
だが呆然と立ち止まる暇などなく、ラライナはさらに走る。
やがて街の中央に辿り着こうとした時、ラライナはようやく暗い空を見上げる人影を見つける。
「ニニルリーーーー!」
喉も枯れる勢いで叫ぶラライナ。
「ラ…ラライナ…?」
その声が届き、ニニルリはラライナの声に向き直る。
「ニニルリ! 私は! 最期の瞬間にはあなたと --- 」
その瞬間、
空から降って来た隕石の欠片が、猛スピードでラライナの頭上に降り注ぐ。
鈍い、何かが潰れる音を周囲に響かせ、ラライナ・カメルはニニルリ・メルリの目の前で岩の下敷きになった。
「ラ…ラライ…ナ?」
岩から逃れた片方の手だけがラライナの存在を誇示している。
地面には血の海が広がり、その赤の色に、ニニルリの精神は溶けていく。
「…」
呆然と立ち尽くし、まるで夢の中の出来事のような、信じられない現実にニニルリは反応できない。
唯一口から出た言葉、今のニニルリにできるのは口ずさむことだけだったのかもしれない。
「…あ…りがとう…さようなら…」
涙を流すことも忘れ、精神が完全に麻痺したのか、認識力さえ失ったニニルリ。
何かを必死に訴えかけようとも言葉にならない。
そして ---
最後の光が地面を貫き、アークエスタの街は崩壊してゆく。
「…世界は決して…優しくなかったけど…お礼を言うよ…泣きながら…」
終焉の歌、その歌と共にニニルリもまばゆい光に混ざっていく。
「涙の海を越えて…新しい朝を迎えよう…君がいる限り…怖くない」
直径数百キロに及ぶ、巨大な隕石兵器は、躊躇なく地球に直撃する。
地球の表面を破壊し、その中心まで蹂躙しながら、やがて内部に仕込まれた時限装置により、大爆発を起こした。
超新星爆発規模の消滅を誘発し、先程まで地球があった時空を捻じ曲げる。
その虚空の空間・時間は、現在を認識できないほどの歪みから正しい時間は消し飛んでしまう。
「そんな…わがハルマーレ家がここで…」
テテイア・ハルマーレの、それが最後の言葉だった。
アークエスタの文明は滅び、ニニルリも、ラライナも、テテイアも、そしてアークエスタに住む全ての人々を巻き込み、この次元の地球は消滅した。
「へへっ! やったぜ! でっけえ花火が上がったぜぇー!」
地球から数光年離れた宇宙の虚空空間。
そこにいたのは隕石兵器の持ち主である凶悪な宇宙人の姿だ。
また、大規模な遊びと称し、ひとつの星を破壊できるほどの兵器を所有する金持ちでもある。
自らの権威付けを兼ねての惑星破壊は、その破壊の欲求を満たすには十分な出来事だ。
そしてその化物は再び他の獲物を探し、その時空から去っていった。
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「ぐへぁっ!」
問答無用で殴り飛ばされた宇宙人。
薄暗い場所、部屋というには狭い、今は廃棄された地下下水路の一角、その少し広い場所で諍いが起きている。
先進的機械都市・ヘビーブロッサム。
凶悪な宇宙人が潜むには都合のいいところだ。
「おっとぉ~、動くなよ? 動くとてめぇらのお仲間の命は保証しねぇからな?」
ニヤニヤと笑いながら、凶悪宇宙人を後ろから首絞めにしている少女。
全身を白い制服で纏い、鮮やかなピンクの髪色と、頭頂で結えた短いポニーテールが特徴的だ。
「ひ、ひでぇ! てめえは人間じゃねえ! 猿だ!」
「そうだそうだ! 悪者相手に人質作戦とかふざけんな!」
数人の宇宙人が口々に非難するも、その少女は気にも留めはしない。
「笑わせんな、てめぇら相手に卑怯もクソもあるかよ。勝つのが全て、殲滅があたいの目的だぁ〜♪」
「こ、こいつ…頭おかしいぞ!」
「ま、まさかとは思うが…てめえがあの新月美裂か?」
「正解~っ、じゃあ覚えとけ。てめぇら相手にあたいは一切容赦なんかしねえ。手段なんか気にしねぇ! 罪なき人を守るのがあたいの『誇り』だ!」
言葉を終えると同時に人質になった宇宙人の体がふたつに割れる。
そして粘着質な液体と化した宇宙人を踏みにじり、新月美裂は残ったヤツらに歩み寄る。
その刹那 ---
「うっ!?」
突然その体を揺るがす波動、爆発した地球の時空震は空間を越え、美裂の心に直接その事実を訴えかける。
「なるほどな…」
怒りと同時に、その目からは消えた命への悲しみが頬を伝う。
「てめぇらを一匹残らず殲滅する理由がさらに増えたってわけだ…」
「ひぃっ!」
「殲滅だぁっ!」
凶悪宇宙人の叫び声は人も気づかない地下で木霊し続けた ---
「ふぁっ…んふ」
高価なバロック調の家具が置かれた豪華な部屋。
さらに豪華を輪にかけたベッドからは全裸の少女が這い起きる。
「ふふっ、ゆうべはすごかったわ。ねぇ? 侯爵様?」
少女はその横でまだ寝息を立てる男に話しかけ、その頬に軽く口づける。
寝顔を見る少女の顔は幸福に満ちており、またオレンジ色の長い髪は朝日を浴びて美しく光る。
「けど…お別れの時はいつか…」
幸せでありながらも、その心には一抹の不安がよぎる。
裸の体にシーツを巻き付け、少女がカーテンを開けようとした時 ---
「…はっ!?」
高圧縮された情報の波動が時空を越え、少女の体にぶつかる。
「これは…まさか…消滅…した…?」
アークエスタからの時空震を感じ、少女は一瞬で理解する。
「エルペンブロイ」の名を持つ地球。
牧歌的な田舎が全土を覆うこの地球には、未だ宇宙人の気配はない。
「もしかしたら…お別れの時は意外に早いのかもしれません…」
次元の異なる地球に起きた悲劇、その事実は少女の心にも影を落とす。
「けれど、侯爵様は私、キャラメリゼの命に代えて…だから…ご安心くださいませ」
少女は新月美裂と呼ばれる永遠の存在。
だが普段は愛する侯爵から頂いた名前である、「キャラメリゼ・オ・カフェラーテ」を名乗っている。
この国の言語では「新月美裂」という名は発音が難しいという理由からである。
やがて来たる侯爵との成婚を控えた身である反面、悠久の時を渡る者と、ただの人間の間に横たわる、相容れない溝に心痛める日々。
それでも「深い愛」をその胸に抱えたまま、キャラメリゼは仮初めの毎日に没頭し、別れの時を無理に忘れようと生き続ける。
しかし今、この時だけは、消え去った命への鎮魂のため、涙で頬を濡らし、ただ祈るのみだった。
「やはり…ダメだったか…」
予想した通りと言うべきか。
新月美裂は構想ビルの屋上でその拳を握り締める。
人々の嘆きの波動が微かに響き、その体に入り込んで来る。
何もできなかった無力さから、その瞳に涙が浮かぶ。
「…!?」
しかし美裂は気づく。
消滅した星の時間に異変が起きているのを。
「…いや! 違う… 来るっ!」
ほんの少し、微かにその顔に笑顔が浮かぶ。
いったい何が起きたのか。
だが悲劇がまさに一転する瞬間を美裂は確かに感じていた。
「…これは…」
朝日を受けて輝く、人々には見えない祝福の羽。
その一枚一枚が舞い散る光景が美裂の瞳に映る。
「そう…か…数万年ぶり…地球の加護を受けた人たちが…また…」
GWが明けた朝、街には通勤途中の人々の姿が見える。
美裂は多くは語らず、それでもその全ての人々の行く末に、幸多かれと祈るのみであった。
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「何なにナニ!? 誰この人たち! コスプレイヤーが教室に!?」
その日、珍しく一番に登校したのは黒鋼マリーだった。
誰もいないはずの教室に、甲冑姿の少女と半裸の少女の二人が入り込んで寝ていたのを見て驚きの声を上げる。
「あっ、マリーちゃんおはよー」
マリーに続いて、能天気な挨拶を交わしながら雛が入室して来る。
「おはようじゃなくて! ほら見て!」
マリーが指差す先に、青い髪と赤い髪の少女がいた。
「んー、他のクラスの人じゃなさそうだね」
雛も一瞬だけ驚きながらも、その二人が単に寝ているだけじゃない様子に気がついた。
当初は明らかに不審者だと思ったマリーだが、言われてみると、確かに悲しそうにも見える。
「…泣いてる?」
「うん、そうだね、何か悲しいことでもあったのかな?」
二人の顔をよく観察してみると、今の涙よりも以前についたと思われる跡があった。
「…」
「マリーちゃん?」
「うん」
「おはよー」
GW後の登校だが、今年は楽しい思い出で埋め尽くされたせいか、みんなの表情は意外に憂鬱さは見られない。
雛に続き、いつものメンツがマリーを見つけて声を掛けてくる。
「…あ」
そして、ニニルリとラライナはようやく目を覚ます。
ここから二人はまさに「奇跡」に触れるのだった。
--- 新しい世界で、新しい友人たちと一緒に
はいはいはい( ´ ▽ ` )ありがとうございます。
神原無人でございます、まいどー。
いや、今回はですね、ようやく異世界の話に区切りがつけられまして。
ずっとこれはどういう風に膨らませようか? と考えてたんですよ。
元々はTikTokからの派生なんですけど、AI音楽でストーリーを描くという試みですね。
音楽だと数分で終わるから、小説にするなら心情を書くしかないんですね。
ただ個人的にはそういう心理描写こそやりたい事なんで、いざ小説にした後だと、今度は音楽の方が描けてない感じがするので、その辺のすり合わせが意外と苦労しました。
問題を挙げるとするなら、まぁニニルリさんが寡黙なんで喋らない事ですかね。
ラライナさんは全く苦労しないんですが。
けどなんていうか、コイツらとの付き合いはもう二年以上ですから、勝手に動いてくれるのはかなり楽させてもらってます。
ストーリー展開に関しては苦労した事はないです、いやマジで。
ニニルリさんに関してはまあ、本人が思い詰める性格なもんで、どうしてもウェットな方向に話が向かいますね。
ただそれも異世界から離れて以降は結構吹っ切れるんで、この先はかなり明るい感じにはなっていきますね。
この異世界話に関して、やりたかったのは「戦士に向いてない人が生活のためにやってるとしたら?」というお笑いネタなんですよ。
けど、いざやってみると全然お笑いにならないのが苦労したところです。
それどころか、どんどん悲壮感漂う感じになっていって、これはもう救済の話にするしかないと、方向展開した結果がこれですよ。
いやーけどこれはこれでアリかなと。
おかげでラライナさんとの対比がうまくいって、結果オーライってところです。
この二人、設定的には八頭身でモデル体型という、明らかに日本人とは違う容姿なんでプリティー度合いはかなり低いんですが、他の連中との絡みで多少の可愛げは出てくるんで、その辺はまぁ許したって下さい。
一応はこれで初期メンツが全員揃ったことになります。
黒鋼マリー、高美原雛、六界アリス、最河魅麗、真名津姫女、ニニルリ・メルリ、ラライナ・カメルの計7人ですね。
それに加え、新月美裂が日常とは少し離れた位置にいる、というのが基本フォーマットですね(*'▽')
しばらくはこの連中でワイワイやっていく感じですが、年月が経つごとにまた色々とメンバーが増えていくわけですね。
すでに今後出て来るヤツも、前倒しで登場させてはいますが。
てなわけで、これからも日常と非日常の組み合わせで進めていきますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします(*'▽')ノ
今回のエピソードにまつわる楽曲をまた紹介します。
以前にも書きました通り、こちらは非営利・ただのYouTubeチャンネルですので危険性はありません。
よければ本編と合わせてみてもらえるとちょっと面白いかなと思います('◇')ゞ
ありがとう さようなら → https://www.youtube.com/shorts/5IjsJZXKVSQ
言えなかった言葉 → https://www.youtube.com/shorts/unHlKjUfehk
SHINING SOUL → https://www.youtube.com/watch?v=_RDLtlXiyTM
背徳のキャラメリゼ → https://www.youtube.com/shorts/UucIgSN4mZI




