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星々が歌う物語  作者: 神原無人(ライラック)


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10/17

ニニルリ・メルリ ①

 多次元宇宙のひとつ、そこに存在する地球。


 そしてそこには「アークエスタ文明」と呼ばれる、魔法を生活の中心とした世界があった。


 その国に住む人々の全人口は約百万人という、星の面積に反してはかなり少ない。


 王族を頂点として貴族という身分も成立しているが、貧富の差は激しく、生まれついた身分で生涯がほぼ決まるという、一般の人々にとっては普通に生きることさえ難しい、まだまだ未成熟な社会を有する国である。


 この地球には魔法粒子が空気中に存在するため、日用品や銅や鉄などの金属部品といったインフラ全般に関わる製品は、全て魔法生成によるものだ。

 その素材を加工するのは専門の職人で、また売買のための通貨も魔法による生成が元となっている。


 なんの取り柄もない一般人、いわゆる「学のない人」は「戦士職」か、もしくは「商人」といった仕事に従事するしかない。


 対して「魔法職」はエリート中のエリートであり、王族直属でその一生は保証されている。

 しかしその魔法職自体も常に錬磨が必要かつ、年に一度は新しい技術を習得する必要があった。


 過去存在しなかった新たな素材や社会に役立つ提案 ---


 魔法職はまさに頭脳のエキスパートであることを求められる。

 その一生を「勉強」や「研究」に費やされるのだ。

 その代わりに、民からの信頼は絶大であり、また生活に困窮することはまずない。


 要は、戦士職として体を使うか?

 または魔法職として頭脳を使うかの、ほぼ二択という選択肢しかこの世界には存在しないのだ。


 商業や農業、または魔法生成された素材を扱う、「職人」という仕事もあるにはあるが、それもまた別の知識が必要だ。


 それぞれの仕事には代々続く手法が確立されているため、主に第一次産業などは普通の人には、とても携わることはできない職業だ。


 そしてニニルリ・メルリは、そんなあまりにも不自由な社会に心底絶望している。


 彼女は男女を問わず、その生真面目さと、他人からは目を引く容姿から、何かと同僚からの人気が高いという事実はある。


 しかし、15歳といえば、この世界ではすでに社会に出ている年齢だ。

 一介の部隊長として従事し、年相応の幼い部分など誰にも見せることはない。

 職務に忠実であろうとするその姿勢からは、表立って社会に対する不平不満は一切出ようはずもなかった。


 挿絵(By みてみん)


「今日もまた仕事か…はぁ…」


 今朝も出勤前、いつもの通り鏡の前でニニルリはひとり、大きなため息を漏らす。


 確かに少し大柄な体躯であり、同年代の少女より力はある方だ。

 それが余計に有能という評価に拍車がかかる。

 

 王宮直属の第三分隊、そこに所属する一部隊の隊長をニニルリは務めている。


 通常であれば一部隊は十名近い人数で構成される。

 対して、まだ隊長になったばかりのニニルリの部隊員はククロエ・ミツキ一人だ。

 

 だからこそ初めての部下ということもあり、ニニルリはククロエに懇切丁寧な指導をしてきたつもりだ。

 ククロエの出身・来歴などは不明だったが、その真面目ながら少し無邪気な様子は、同い年ながらまるで妹かのような感覚を起こさせる。


 母一人子一人という家庭でニニルリは育った。

 兄弟もおらず、父親は早くに失くしている。

 

 平穏な家庭に漠然とした憧れもある。


 それでも、生きるために必死にならざるを得ないのは、アークエスタの経済がまだまだ未成熟なところに原因の一端があるのは確かだ。


「結局ククロエは戻ってこなかったか…」


 昨日の出来事を思い出しながらつぶやく。



「誰⁈ …この声…この祈りは…時空間を越えて聞こえている…?」


「あの子も…何かを察知してる…どういう子なの?」



 様子がおかしかったククロエ、そしてそんなククロエを不審に思っている様子のラライナ。


「…時空間…? よくわからないが、ククロエはそんなことを言っていたな」

 宇宙のことはおろか、機械文明も存在しないアークエスタに於いては、ニニルリに限らず次元や空間の概念など理解できようはずもない。


 現在のニニルリにとっての最重要の懸案は、次の非番の日に実施される「魔法職昇級試験」の合格のみのはずだった。

 

 --- 魔法職になれば、今よりも楽な暮らしができるはず…お母さんのためにも…私は…


 母の制止も聞かず、ほぼ家出同然で田舎から飛び出したニニルリ。

 それは母子家庭という経済的なハンデを抱えながら、それでも必死に働く母に、それ以上の苦労はさせたくないという孝行の意味合いが大きかったのだが、今となっては言葉足らずだったのを後悔している。


 元々寡黙で口下手なニニルリには、母が納得できる説明をするなど無理だったのだ。


「お母さん…ごめんなさい…けどきっと…」


 ラライナに借りた魔法職の本を熟読し、今日までニニルリは、自分なりに懸命に努力してきたつもりだった。    

 ようやく魔法生成で物質を実体化できる手前の段階まで来ている。


 自信はある。


 何もわからない状態からわずか数ヶ月で、まがりなりにも生成一歩手前までできるようになったのだ。

 ラライナも「長足の進歩だ」と太鼓判を押してくれた。

 そして我がことのように喜んでくれるのはやはり嬉しい。


 国のナンバー2と、かたやただの平民という、明らかに釣り合わない身分なのに、どうしてラライナが自分を気にかけてくれているのか。


 ニニルリにとっては、それを少し迷惑に感じるのは偽りないところだ。

 一部の同僚からはやはりやっかみや妬みを感じる時もあった。

 だがそれは仕方ないことだとは思える。


 自分でもおそらくはそんな人を前にすればそう考えるだろう。

 

 たぶん、エリートであるラライナにしてみれば、堅物と呼ばれている自分とは正反対の性格だから、単に面白がっているに違いない。


 ニニルリはそう思っている。

 年も同じ十五とあっては、多少共感する部分もあるのだと思う。



 国王の護衛という任務に就いたのは去年の今頃。

 ラライナは数多くの王宮所属の戦士から、直々に数十名を厳選し、その中にニニルリも選ばれた。

 結局は五十名近い護衛が選ばれ、またその人となりが書かれた資料にもラライナは全て目を通したらしい。 


 ラライナがニニルリにつきまといだしたのはそれがあって以降だった。


 休日には無理矢理ラライナの誘いにより、ふたりでの買い物や、少し離れた花畑へと出かけたりした。

 ニニルリにとっては、それは光栄と思いつつも、やはり緊張からの気疲れが続くのに代わりはない。


 ラライナはニニルリを「友達扱い」し、敬語は必要ないとしながらも、ニニルリにしてみればとてつもなく無茶な要求には違いない。

 だから職務中はかしづきながらも、プライべートではラライナとようやく普通に話せるようになったばかりだ。


 そしてラライナはニニルリの現状を聞き、魔法職への転職を勧めたのだった。


 --- 決定的な身分は違えど、ニニルリが魔法職というエリートになれば身分の違いは多少軽減されるんじゃない?


 それは不器用なラライナなりの気遣いでもあったし、ニニルリにしても現状を変えられるなら望むところである。


 だが一方、正直なことを言うなら、今は将来のことよりも、気になるのはククロエの件であった。

 

 初めての部下というのもあるが、何よりも今まで見たことのないククロエの様子が昨日から心に引っかかっていたのだ。



 ---------



「おはようございます」


 戦士職の詰所に顔を見せるニニルリ。

 同僚たちと挨拶を交わしながら席につこうとしたが、


「メルリ、来客がお待ちだ。会議室な」

「私に? こんな早朝からですか?」

 同じ部隊内の別グループの隊長が、早朝一番伝言をしに来る。


 おそらくは王宮からの使者だろうと思いながらもニニルリは足早に部屋へと向かった。


「おはよん♪」

「ら! らららら…!」

 

 部屋に入るなり、ニニルリは来訪者の顔を見て青ざめる。


「ラライナ様! しっ、失礼いたしました!」

「いやいや、いいからいいから♪」


 遥か雲上人であるラライナを待たせてしまったことに、慌てて頭を下げるニニルリ。

 もう少し早く出勤するべきだった --- 心の中で自分を責めながらも、ラライナの様子は待たされたことなど全く意に介していないようである。


 朝早くからニニルリに会えたことが嬉しいのだが、無骨なニニルリがそんなことなど気がつくはずもなかった。


「うん、今日はさ、ちょっとマジな話なんだよね」

「はい、なんでしょうか?」


 数分後、ラライナはようやく本題に入るや、真剣な表情をニニルリに向ける。


「あのククロエって子、あれから私なりに調べてみたんだけどさ」

「はい、ククロエが何か? どういうことでしょうか?」

「王宮の書庫にはさ、出生書の控えがあるのよね…」

「はい、存じております」


 アークエスタの中心都市としてラライナの住む王宮はそびえていた。

 そこから森や湖を経由しながら、約数百キロ四方に数多くの村が点在している。


 各村々では「〇〇の年、△月✕日、〇〇〇の長男として✕✕✕が出生」という、簡素ではあるが、個人の誕生を記した書類が保管されている。

 それを書き写した控えが、王宮には市民を管理する唯一のシステムとして存在している。


 戦士職という「誰でもなれる雑用係」には必要のない証明だが、商人や一部の重要な取引などにはなくてはならない信用書だ。


「昨日あれから、ここ五十年間の出生書を全部調べたわけよ」

「なるほど、ククロエ個人について調査されたわけですか?」


 ラライナの言っていることは理解できる。

 しかし、それがなんのための調査なのかニニルリにはさっぱりわからなかった。

 ここ半年程度の仕事上のつきあいとはいえ、ククロエに怪しいところなど全くないと感じていたからだ。


「それがさ…なかったのよ」

「はい? やはり怪しいところがですか?」

 ニニルリは少し胸を撫でおろす。

 昨日の様子は少しおかしかったものの、唯一の自分の部下ということもあり、多少贔屓目というのもあったが、ククロエのことをニニルリは信用していたからだ。


 だが、ラライナの言葉はニニルリの予想と全く違うものだった。


「ククロエの出生記録は、どこにも見当たらなかった」

「…え? ど、どういうことで…す?」


 各村の規模は小さい。

 近所で子供が生まれたら村中でお祝いするほどの距離感である。

 だから出生の書類漏れなどはほぼ考えられない。

 当のニニルリ自身がそういった小さい村出身ということもあり、物心ついてからは、どこの家に誰が生まれた、という情報は必ず耳に入ったからだ。


 そのラライナの言葉の意味するところは ---


 「ククロエはどこの村出身でもない」という証明だった。


「…け、けど! そんなまさか! あの子はどう見ても十代で、五十年間の記録にいないなんてことは…」

「私もそう思ったのよね。あの姿で五十代ってのもなんだけど、念のために五十年間の記録を調べたし、急ぎ各村に使者を送って調べることもやったわ」

「…ほ、本当は五十歳以上か…それとも記入漏れが…!」

「ククロエがそこまでの年齢に見える?」

「…」


 ニニルリには返す言葉がなかった。

 

 現実問題としては、ククロエの素性がいくら謎だとしても、戦士職には経歴など必要ない。

 ククロエの素性を調べたのは単なるラライナの疑問であり、それがククロエの業務には一切関係がないのもニニルリにはわかっていた。


 しかし、しかしだ。


 --- ではククロエ・ミツキとは何者なのか?

  

 何者であろうとも、ククロエへの印象は変わりないはずだ。

 真面目で、少し幼い容貌と言動。

 悩みがあると必要以上に笑う癖があることも、ニニルリはわかっている。


 だが、その笑顔の裏に、自分の知らない秘密があるということにニニルリはショックを隠せない。    


「け、けど! 職務には関係ありません! あの子は…真面目で…」

「…この事実が何を意味するのか私にもわからないわ」

 ほんの少し、ラライナはククロエに嫉妬を感じるも、事の重大さは意外に大きいのではないかと気づいていた。


「単に記入ミスだといいんだけど…あの子は私と同じ、遠くにある嫌な空気を感じていた…」 

「…」

「そうね、私はこの先アークエスタの未来が閉ざされないのを願うだけよ」


 しばらくふたりの沈黙が続く。


 やがてラライナは無理にいつもの調子を取り戻すなり、ニニルリにも笑顔を見せながら王宮へと戻っていった。



 ----------



「…関係ない…そんなの関係ないことじゃないか」

 午前中、ニニルリはククロエの懐疑心に心を囚われたまま過ごす。


 確かに個人の素性は戦士には関係がない。

 それでも、プライべートがどうあろうと、今まで自分を慕ってくれ、しかもすぐ近くにいた相手が、実は得体の知れない人物だとすれば?


 無理にでも別のことを考えようとして、ニニルリは些細なことだと自分に言い聞かせようとする。


 結局ククロエはその日はそのまま戻って来ることはなかった。


 それが余計にニニルリの疑惑に拍車をかけていったのである。


 

 そして --- 「魔法職昇給試験」はニニルリの気持ちなどお構いなしに始まった。

はい、ようやく10話が完成いたしました。

すみませんね遅筆で(;^ω^)


今回はまた異世界の話です。

主人公である黒鋼(くろがね)マリーさんには申し訳ないのですが、この作品、意外にキャラクターが多くて、各エピソードを書くだけでもちょっと大変なんですよ。

今回、ニニルリ・メルリさんの視点で話は進みまして、まぁこの人はちょっと個人的には色々かわいそうな人ですね。

元々この人のネタは、TikTokでAI音楽を作ってる時に、「異世界の戦士だけど向いてない性格の人だったら?」というお笑いネタから始まっておりまして。

ほら、わりとどんな異世界作品だろうとギルドとか、お金を稼ぐ描写はありますよね?

ということはやはり異世界だろうとお金は必要だなと。

じゃあ家賃とか光熱費の支払いも必須じゃないの? と、もしかしたらリアルとその辺は同じじゃないの? という疑問が湧いたんですね。

そこから生きるために戦士に向いてない人が戦士職をやってるというネタができたはいいものの、内容がかなり世知辛いことになって、とてもお笑いにできない、ちょっと悲惨な感じになってしまったんですよ。

予想以上にニニルリさんが心を病んでしまった感じで、そこからなんとか救おうと色々考えたという経緯があります。

まぁちょっとね、次回はかなり大変なことになりますが、テーマは「輝く未来への希望」ですから、どんなことが起ころうとも悲しいだけの内容ではありませんのでご安心ください(*'▽')ノ


今日から各話に少しずつですが挿絵を入れるようにしました。

といっても、せいぜい各キャラのビジュアル程度の絵ばかりですが、「あ、こういう顔の子か」という参考になればと思います。

あとは、まぁ今も続けてるYouTubeやTikTokでのAI音楽チャンネルのurlとか書いてもいいのかな?

自分のチャンネルだし、営利目的でもないからいいはずですよね?

その辺は色々考えながらやっていきます。


正直、派手なバトルもほぼないし、基本的には日常と人の生き様とかがメインなんで、全然人気ない作品なんですけどね。

万一こんな作品でも「ちょっと面白い」と思っていただけたなら、とてつもなく嬉しいですが。


では、ここまで読んでいただきましてありがとうございました。

ホントにネタだけはあるので展開に迷うことはありませんが、遅筆ゆえにその辺はご容赦を。


ではまた!


追記:あ、一応追記文です。

なんとなく「せっかくだから小説の元になった動画を見てもらえばもっとわかってもらえるんじゃね?」というのを思いつきまして、ちょこちょこと各エピソードの後書きに元ネタのURLを貼っていくつもりです。

今回はニニルリさんの話なんで、こちらが元ネタですね。

リンク先はYouTubeのうちのチャンネルになっております。

危険性はないのは確認済みで、一応非営利ですのでもしよかったらどうぞ(*'▽')ノ


全てがファンタジーならいいのに → https://www.youtube.com/shorts/aL16djOXxBU

遠い未来の物語 → https://www.youtube.com/shorts/haHf9kqsMkM

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