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霧島 瞬 ②

 その日の放課後、黒鋼(くろがね)マリーは、同級生から思ってもない誘いを受けたのだった。


「ねぇねぇ黒鋼(くろがね)さん、GW(ゴールデンウィーク)の予定は決まった?」

「え? なに鈴木(すずき)君。いえ、別にまだ決まってないけど」


 中間テストも赤点ギリギリであったが、なんとか乗り切ったマリー。

これでしばらくは平穏無事な毎日が続くはずだと安心していた。


 GW(ゴールデンウィーク)を半月後に控え、マリーは(ひな)魅麗(みれい)・アリスたちとどこかに出かけようと考えてはいたが、それも予算やら諸々の事情により、まだ未定という状況だ。


 普段行けない場所に行きたいという希望はあったが、それぞれのやりたいことがバラバラだったため、まだ行先さえ決まってはいない。

 

「…ん? あいつ、もう黒鋼(くろがね)マリーに声かけてんのか」


 朝一番に(しゅん)はその同級生から、男女数人でどこかへ遊びに行こうという提案を聞いていたものの、まさかこんな早くに話が進んでいるのを意外に思っている。

 マリーと話し込んでる様子を聞くに、行先はどうやら有名なテーマパークに決まった様子。

 その混雑具合を想像したためか、(しゅん)は明らかに嫌そうな表情を同級生に向けた。


 だが「任せとけ」と言わんばかりに、目が合った(しゅん)に親指を立てて来ている。 


(人混みは嫌だって言っただろ!)

 パクパクと口だけを動かし、(しゅん)は同級生に文句を言うが、残念ながら通じない。


「…?」

 同級生・鈴木(すずき)の不自然な動きに気づいたマリー。

そのポーズは自分の後ろにいる誰かに向けたものだと気づく。


霧島(きりしま)君?」


 マリーが振り返り、(しゅん)を確認したが、(しゅん)はマリーと視線も合わさずその場から離れる。


霧島(きりしま)君も行くのかな?」

 マリーからの(しゅん)に対する印象はほぼないと言っていい。

 口数も少なく、女子相手に話している姿を全くと言っていいほど見たことがなかったからだ。


 マリー自身もそもそもが社交的とは言い難い性格だ。

 話しかけられれば応えるが、余程興味がない限り、マリーからわざわざ話しかけることもなければ、話題を振るわけでもない。


 (しゅん)と話したこともないマリーは、遊びに行くメンバーの一人だと思っただけだ。


 もう帰宅するところだったので、「考えとく」とマリーは一言だけ同級生・鈴木(すずき)に告げ、(ひな)たち三人が待つ廊下へと出ていった。


「へー、それいいじゃん! 私も参加する!」

「…反対の賛成。その日はゲーム関連のアトラクションがあるはず」

「混雑しそうだから候補から外したけど、大人数で行くなら逆に待ち時間も楽しいかもね」


 確かに「遠出」とは言えないほどの距離なので、旅費もそんなにはかからない。

 マリーも皆の意見にもっともだと賛成する。 


「じゃあ明日、鈴木(すずき)君に言っとくよ。予定も決まったし、楽しみ過ぎて授業中しか眠れない」

「はいはい(苦笑)、マリーちゃん、授業中は起きとこうね」

「授業中は寝るのが基本でしょ! (ひな)こそ何言ってんの?」

「…マリー、ネタとしてはスベってる…」

「たはー」


 容赦のないアリスのツッコミに、マリーの心はちょっと挫けそうだった。


 そんないつもの会話を続けながら、四人はそれぞれ無事に帰宅する。



 --- 次の日。

 

「オッケー! これでだいたいメンバーは決まったし、予約は俺がしておくよ」

「うん、わかった。お願いね」

 同級生・鈴木(すずき)はマリーからの報告を受け、さっそくテーマパークの予約を入れているようだ。


 自分の席でスマホを開いている同級生・鈴木(すずき)と、その横で呆然としている(しゅん)の姿をマリーは確認すると、隣の席の(ひな)といつも通り話し出す。


「あっ、そういえばさ、GW(ゴールデンウィーク)明けに女の子が一人、うちのクラスに編入されるらしいよ」

「編入生? 転校生じゃなく? え? こんな時期に?」

 入学式から半月経った今は、マリーには中途半端な時期に思えた。

 二学期からなら話はわかるが、わざわざ半月遅れの入学というのはマリーには理由がわからなかったのだ。

 

「もしかしたら入院でもしてたのかも」

「あー…そういうことか、そういう理由もあるんだね」

「…理解した。ただ、他の理由の可能性も考える。例えば…失恋とか…」

「アリスはおバカだねぇ~(笑)、どこの世界に失恋で入学しないヤツがいんのよ(爆笑)」

「…むぅ~…おバカにおバカと言われるの、意外にダメージキツい」


 いつもは魅麗(みれい)をバカにするアリスが、逆に魅麗(みれい)にバカにされる珍しい構図。

 マリーも少し調子に乗りながら魅麗(みれい)と笑いだす。

 (ひな)は困った笑顔で二人を諫めるのだった。 



 ----------



「…お?」

 マリーたちが笑っている同時刻。

 目深に帽子をかぶった目つきの悪い大柄の男が、マリーたちの学校の前でふらふらと不振な動きを見せていた。


「こりゃあ…あいつの知り合いがここにいる匂いがするな」

 鼻をひくつかせながら、その男は自分の「敵」と接触した痕跡がある人間の気配を感じ取っている。

 その「敵」の波動が、学校内にいる数人から匂うのだ。


 面白いことになりそうだと下品な笑顔を浮かべながら、その「男」は頭の中で本日の予定を組みだした。



 ----------



「…結局人数合わせで俺も参加かよ」


 放課後になり、再び生徒が慌ただしく動き出す時間が訪れる。


 (しゅん)GW(ゴールデンウィーク)に予定されたテーマパークへ行く予定に巻き込まれた。

 有無を言わさず、最初から参加予定にされていたのを知り、断る口実を探すも、(しゅん)よりも弁が立つ同級生・鈴木(すずき)に簡単に言い負かされたのだ。


「ただの無駄遣いになりそうだなこれは…」

 少し気が滅入る気分を感じながら、(しゅん)は一人さっさと校門から出ていった。


「…違う、コイツじゃないな」

 校門から少し離れた見通しの良い場所。

 下品な大柄の「男」はずっと何食わぬ顔でその場にいた。


「?」

 同じ制服を着た同年代の生徒たちがいる中に、全く違う装いの中年の「男」を(しゅん)は目ざとく見つける。

 それ自体はどうということもないが、生徒が近くを通るたびに顔を上げ、確認しているようだ。


「…なんだ?」

 不審者という単語が頭をよぎるも、確証がないため警察に通報するまではない、と(しゅん)は至極真っ当な考えを持っていた。

 気にはなるものの、誰かの保護者の可能性もあったため、間違いだったら迷惑をかけてしまう。

 

 (しゅん)はしばらくの間、その場に滞在することにした。

 時折スマホを取り出し、時間を見るふりをしながら、いかにも友人を待っているという風を装う。


 その「男」は立ち止まった(しゅん)の方を向いたが、すぐに視線は別の方向を観察している。


「…わけがわかんねぇ」

 正直、無駄なことをしているという自覚はあった。

 けれども、最近は不審な事件が起こっているというニュースを(しゅん)は聞いていたし、それが万一にでも、自分の同級生が被害に会うのはさすがに嫌だった。


「一番でゴールするのは絶対私だからね!」

「…これだから己を知らないツインテは…」

 

 教室でよく聞いた声に(しゅん)は顔を上げる。


 マリーたち四人が校門から出て来る場面に遭遇したようだ。

 特に用もないうえ、挨拶するのも億劫だと感じた(しゅん)は、マリーたちに気づかれないよう顔を背ける。


「?」

 その(しゅん)の横を通り過ぎるマリーは、(しゅん)の姿に気づいたが、特にかける話もなかったために何も言わずにいた。


「…コイツらか…」

「⁉」


 遠目にも不審な「男」が笑う様子に気がつく。

 案の定というべきなのか、(しゅん)の悪い予感は当たったようで、マリーたち四人が下校するのを、まるで尾行するかのように動き出す「男」の姿に気がつく。


「どういうことだ?」

 そして、その「男」の後ろ姿を少し距離を取って歩き出す(しゅん)

 「尾行する男を尾行する」という、なんともよくわからない図だったが、いざとなればすぐに警察を呼ぶ準備として、(しゅん)はスマホの残量を再度確認した。



「じゃあね、また明日ー」

「バイバーイ」


 偶然にも(しゅん)の帰る方向と、マリーたちの家は同じ方向だったらしい。

 「男」は当然のようにマリーたちと同じ電車に乗り、ちらちらと様子を伺っている。


(こりゃあ確定だな)

 その「男」は間違いなく不審者だと確信した(しゅん)はポケットのスマホを握り締める。

 しかし「偶然帰る方向が同じだった」と言い訳されると言い返せない。


 仕方なく(しゅん)は、またしばらく様子を見ることにした。

 同級生が危険な目に合うのは避けたかったが、何か決定的な証拠が必要だと思ったので、(しゅん)はこのまま怪しい「男」を追うことにした。



 少し日が傾き、夕日の色が目立つ時間になった頃。


 人通りが途切れた公園の近くをマリーは家路を目指していたが、「男」は早足でマリーを追い抜くなり振り返った。


「…えっ?」

 マリーの顔が怯えた表情に変わる。

 以前に感じた、あの嫌な空気感の記憶がまた浮かんでいた。


「あ…ま、まさか…」

「おまえだろ? 間違いねえよな?」

 以前には危ういところで助かったのに、ひと月も経たないうちに二度目の命の危機。

 

「あいつの波動がまだおまえの周囲にあるよな。知り合いなんだろ? あの新月(ダークムーン)と」

「そ、そんな! 知らない! 私は何も…」

 

 普段の教室で見せる顔とは全く違うマリーの姿に、(しゅん)は本気で怯えているのだと悟った。

 苦手だとか言ってる場合じゃない --- (しゅん)はマリーの前に立ち塞がると同時に、警察に電話をかける。


「…なんだ?おまえは」

「もしもし! 今不審者に襲われています! 場所は…」

 電話が繋がるや、(しゅん)は用件を伝える。


「…き、霧島(きりしま)君⁉」

 ようやく目の前に立ち塞がった人物が(しゅん)だと気づいたマリーに視線を向ける。


 少なくとも通報することで、これ以上は黒鋼(くろがね)を怖がらせることはないはずだ ---


 だが、(しゅん)の予想を超える事態は起こった。


「だ、駄目よ! 逃げて! 霧島(きりしま)君まで危ない!」

「な、何言ってんだ? 今通報したからこれで…」

「違うの! こいつら…人間じゃないの!」

「…え?」


 目の前にいた「男」が少しずつ変容していく。


「…な、なんだよおまえは」

 突拍子もないマリーの言葉に理解が追いつかなかった(しゅん)だが、今その目の前では、より理解が追いつかない出来事が起こっていた。


「…いい加減にしろよ? な?」

「ど、どんな手品だよ…これ…」


 およそ人の姿ではない「化物」に完全変態を遂げた怪しい「男 」。

 異様に太い腕と指のない手。

 体と脚には不気味な鱗が光っている。


 (しゅん)の頭の中には「ただの着ぐるみじゃないのか?」という疑問が湧いたが、着替える様子もなく、目の前で変貌する瞬間をリアルタイムで見てしまったために、信じざるを得なかった。


「ば、化け物じゃないかこいつ…」

「そう! こいつらは凶悪な宇宙人なの!」

「ま、待てよ、そんなのただの都市伝説じゃないのか?」

「実在したのよ! だから、逃げて!」


 さすがに(しゅん)もマリーの話を疑う余地はもうない。

 宇宙人の狙いがマリーだとわかっている以上、まずはマリーの安全を確保するのが先決だと(しゅん)は考えた。


「に! に、逃げろ! くろぎゃ…」

「き、霧島(きりしま)君も! 早く!」

 (しゅん)自身も正直目の前の事態に怯えている。

 半分パニック状態ではあるが、幸い何をすべきかは理解しているつもりだった。


 しかし、体は恐怖を正直に感じている。

 咄嗟にマリーに逃走を促すも、焦りが先に立ち呂律(ろれつ)は回っていない。


「くそっ!」

 (しゅん)は震える自分の体に苛立ちながらも、化け物からマリーの姿が見えないよう両手を広げる。


「…へっ」

 笑っているのか、その化物の能面のような無表情からはわからない。


「どけよ…」

「⁉」


 化け物の異様に太い片腕が、(しゅん)のボディの右側を襲う。

 だがそのダメージはその腕の太さから想像するよりは強くなかった。

 即死や致命傷は免れたが、それでもその場から約二メートルは吹っ飛ばされた(しゅん)

 地面に叩きつけられた衝撃に、体は思うように動かない。


「さて…と」

「ひっ!」

 恐怖心に支配されているのはマリーも同じだった。

 転びそうになりながら必死に走るも、両脚は萎えて、他人の脚のような感覚があり言うことを聞かない。 


「くそっ…このままじゃ…そ、そうだっ…!」

 立つのが精一杯の(しゅん)だが、今この場には古い公園があることにようやく気づいた。

 何も遮るものがない道路よりも、遊具が設置されている公園内の方が身を隠せると思いついたのだ。


「くっ…くりょが! いや、く、くろが!」

 

黒鋼(くろがね)! 公園に逃げろ!』 ---


 そう叫びたい(しゅん)だったが、焦りと恐怖、そして殴られたダメージにより、伝えることができない。


 --- このままじゃ…



「ピンク髪が黒鋼(くろがね)でいいんだよな…?」


 少し自信がなかった(しゅん)は近くにいた男子生徒に確認する。


 同級生は「え? 今更?」などと驚いていたが、(しゅん)のものぐさな性格を把握しているのか、わざわざ詳しく教えてくれた。


黒鋼(くろがね)マリー…か」



 昨日の同級生とのやり取りを(しゅん)は思い出した。


「…ま…!」

 

 今にも追いつかれそうなマリーに必死で呼びかける。


「マリーーーー! 公園に! 逃げろーーー!」


 声を振り絞って(しゅん)はマリーに告げる。 

 その声にハッと気づいたマリーは、指示した通り公園に入り込んだ。


「てめえ…つまんねー指示してんじゃねぇ!」

 怒った宇宙人は怒声を上げるや、(しゅん)に向き直り近づいて来る。

 

 懸命に立ち上がろうとするも、膝をついた姿勢が精一杯だ。

 立ち上がることもできない(しゅん)を見た宇宙人は、何かロクでもないことを思いついたのだろうか。

 荒れ果てた公園内に落ちている石をいくつか拾う。


「てめえにはな、殴られる以上の恐怖をくれてやるよ」


 よく見ると、太い右腕には十センチ程度の穴が開いているのが見える。

 宇宙人はその穴に数個の石を入れるや、その指のない手を(しゅん)に向ける。


「…はぁ…はぁ…な、なんだ…?」

「うらぁっ!」

 

 手のひらから放たれた石は炎に包まれていた。

 殺傷能力の高さに加え、石に纏わりついた炎は、その傷口まで焼き尽くす ---


 それがこの宇宙人の能力だった。


 太い腕にも関わらず、殴られた時に意外とダメージが少なかったのは、腕の中は石を収納するために中身が空っぽだったためと判明した。


「うわぁっ!」

 動かない体を奮い立たせ、(しゅん)はその石を避けようと試みる。

 だが吹っ飛ばされた時に打撲でもしたのか、痛む脚は全く動かすことができなかった。


霧島(きりしま)君!」

 公園内からマリーの声が響く。

 こちらからは見えないが、どうやらうまく隠れているようだった。


 --- と、(しゅん)がそう考えた矢先


 飛んできた石はまるで弾かれたかのような音を上げ、粉々に砕け散る。


「なっ⁉」

 何が起きたのか、宇宙人は間抜けな声を上げながら驚いている様子だ。


 どうやら避けられたようだと一瞬安堵する(しゅん)だが、同時にマリーの安否が頭をよぎる。

 (しゅん)はマリーがいる方向に手を伸ばそうとするも、それは叶わず、そのまま仰向けに倒れ込む


 --- はずだったが、(しゅん)の体は背後から支えられた。


「…勇気じゃない…それは無謀と呼ぶんだ」

「…あ…」


 背後から聞こえる女性の声。

 通りすがりの人か、または警察官だろうか?


 それでも(しゅん)にはその声だけが今の救いに思えた。


「だが…」

「…」

「私は嫌いじゃない」


 少しだけ振り向く(しゅん)の視界には、少し微笑む少女の顔が映る。


「チッ…てめえかよ新月(ダークムーン)


 (しゅん)の体をゆっくりとその場に座らせると、その全身黒づくめの少女は化物に向き直る。


「あ…あの子は…」

 物陰に隠れていたマリーが小さく声を上げる。

 自分を助けてくれた少女。

 あの時見た横顔はまだ覚えている。

 恐怖に怯えて高鳴る心音が少しだけ静かに鳴るのを感じた。


「まぁ…俺らとしちゃあ、てめえから逃げるなんて考えはねえからな」

「…」

「これも『狩り』のうちだ、俺らを楽しませてくれる『人間様』と、てめえに感謝の気持ちを捧げるぜぇ!」

「…貴様らの理屈に興味はない」


 矢継ぎ早にその手から宇宙人は石を打ち出す。

 同時にその少女 --- 新月美裂(しんげつみさき)の手から一瞬光が見えたと思えば、石は全て砕かれる。


「…てっ! てめえっ!」

「…貴様の手品はもう見飽きたぞ」

 

「そうか、あの光って、そういうことだったのね」

 マリーはいちいち以前の少女の戦う姿を思い出し、納得しているようだ。

 横顔しか見えなかった入学日の時とは違い、今日は遊具の隙間から見える狭い視界ながらも、美裂(みさき)の顔がはっきりと確認できる。


 しかし、美裂(みさき)に注目しながらも、マリーにとって本当に心配なのは、自分と同じただの人間である(しゅん)の様子である。

 祈るような気持ちで無事を願いながら、マリーの無事を優先させた(しゅん)に感謝の想いしかなかった。


霧島(きりしま)君…私を助けてくれて…『逃げろマリー』って…」

 

 先程の(しゅん)の声を思い出すも、気のせいかマリーの動悸がまた少し早くなる。

  

「…え?」

 

 現状が大変なのはわかっていてもマリーにはその動悸を収めることができない。

 原因不明の事態にマリーは命の危機とは別の焦りを感じていた。


「『マリー』って呼び捨てで…そんなに親しくない人なのに、私」


「へへっ…じゃあよ、これならどうする?」

 宇宙人はふいにマリーが潜む公園に狙いを定める。


「…!」

「…おっと…これは予想以上に効果があったみたいだなぁ…」

 マリーからは残念ながら宇宙人の姿は見えていない。

 ただ動けずに隠れているだけなのを宇宙人はわかっていたし、また美裂(みさき)が近づいたり、マリーに声をかけた場合、宇宙人は躊躇せずにマリーに向けて燃えた石を撃つだろう。


 敵が撃ち出す前に、美裂(みさき)が宇宙人を始末するのは可能だとしても、マリーの命を危険に晒すことはできなかった。


「…よぉし…絶対に動くなよ?」

「…」


 その言葉と同時に敵は空に向けて数発の石を撃ち出した。


「…! そういうことか、貴様!」

「俺の勝ちだ! さぁどうだ新月(ダークムーン)! 街はもう火の海になるぜぇ⁉」

 勝利宣言の笑いを上げる声、それは美裂(みさき)とマリーの神経を逆撫でする。


「いいのか? 早く行かねえと大勢の犠牲者が出るぜ? けど、ここから離れるわけにはいかねぇよなぁ⁉」

「ちょっとあんた! 卑怯な手を使わないと勝てないわけ⁉ 恥を知りなさい恥を!」


 その物言いは、見事にマリーの怒りに火をつけたのだった。


「え? な、なんだおまえ、急に⁉」

「おバカ! あんたなんか大嫌いよ! ムカつくったらもう!」

「いやいやいや、あのな!」


 その瞬間を見逃す美裂(みさき)じゃなかったのは言うまでもない。


「…あ?」

「…終わりだ」

「な! ななななな!」

 瞬きする間に美裂(みさき)の指から黄色い光が輝いたと思えば ---


「うわぁ…すごく間抜けなやられ方(笑)ぷーっ(爆笑)」

「くっそおおぉぉーーー!」

「バイバーイ(笑)」

 下品な笑い声は、粘液質な液体が流れる音へと変わっていく。


 そして、マリーはともかくとして、意外とあっさり片がついたことに、美裂(みさき)もほっとしている様子だった。


 (しゅん)の無事を確認し、マリーは心の底から安堵していた。

 命の恩人なのは間違いない。

 

 しかし、マリーは自分でも不思議なほど安心している自分に、少し驚きを隠せなかった。


「ねぇ、あなた」

「…私か?」

「うん、ありがとう、また助けてくれたのね」

「…気にすることはない」

「それでさ、あのー…また助けてくれたのはとってもありがたいんだけど…私あまりお金ないんだよね…」


 予想外のマリーの言葉に少しだけ美裂(みさき)は目を丸くする。


「…料金など必要ない」

「えっ! ホント⁉ けど悪いよそんな」

「…構わない」


 それだけ言うと美裂(みさき)は指で空間をなぞる。

 約五十センチほどの空間が自動ドアのように開いた。


「えぇっ! 変な穴が開いた!」

「…用ができた。急がなければいけない」

「…あっ! そうか! 街!」

「…そういうことだ」


 もしかすると街は大変なことになっているかもしれない。

 美裂(みさき)には今それだけが気がかりだった。

 とはいえ、マリーと(しゅん)の二人を置いておくわけにはいかなかったのも事実だ。


 街の方なら人も多い。

 何事もなければそれに越したことはないが、消防隊や警察がなんとかしてくれるかもしれないという、一縷の望みに美裂(みさき)は賭けたかった。


「じゃあまたね、気をつけて」

「…黒鋼(くろがね)マリー、君もくれぐれも無茶しないようにしてくれ」

「はいっ! わかりました! ありがとうございました!」


 そうして二人は別れた。


 美裂(みさき)は人一人が通れる程度の開かれた空間、「ゲート」を通り街へと急ぐ。


「…くっ」

 街に向かって放たれた石の弾丸は街のそこかしこを破壊し、一部の民家には死傷者が出たとの報告もあった。


 怪我をした人たちが座り込んでいる光景を見て、美裂(みさき)の心に後悔の色が滲む。


「二丁目の(かなめ)さんのところ、ご両親が亡くなったそうじゃ」

「あそこ小さい娘さんがいたじゃろ、確かまだ五・六歳の女の子が」

「マナちゃんな。あの子だけ助かったみたいじゃけんど、親御さんを亡くしてかわいそうにのぅー…」


 美裂(みさき)の耳には高齢の人々の、そんな話が飛び込んで来る。

 現場は消防隊員が慌ただしく動いていたが、現場はひとまず落ち着いている様子を見せていた。


「…すまない…私のせいかもしれない…」


 すでに消火を終えた現場で美裂(みさき)は一人、立ち尽くしている。


「…けど…私は…」


 誰かを救う間に他の誰かが犠牲になる ---


 常に命の選択を迫られる美裂(みさき)にとって、それは日常茶飯事である。

 だが「仕方がない」と割り切ることはできない。

 

 「喜怒哀楽」を持たない美裂(みさき)であったが、その事実は「感情」よりも、もっと深い部分の「心」が反応し涙は流れる。


 美裂(みさき)には、ただそれだけがやるせなく感じていた。

 


 --- 翌日。


 昨日の火災事件にマリーのクラスはその話題で埋め尽くされていた。

 幸いクラス内で被害に合った生徒はいなかったものの、その友人が被害に合ったりと、しばらくはその話が収まる気配はなかった。


「…」

「じー」


 昨日の今日だったが、幸い霧島瞬(きりしましゅん)は骨折といった重症もなく、少し痛む体を無理矢理引きずって登校していた。


「ちょっとマリー、さっきから何見てんのよ?」

 いつもとは違うマリーの様子に魅麗(みれい)は不思議な顔で尋ねる。


「えっ? あぁ、いや別に」

「マリーちゃんは被害に合ってないよね? 火事は全然逆方向だったし」

「うん、大丈夫、かなり無事だった」

「…かなり様子が変」


「じー」

 魅麗(みれい)と会話を終えたマリーは再び一点を見つめている。


「なんだろう? この反応」

 魅麗(みれい)にはおよそ検討がついていなかった。

 それは(ひな)とアリスにしても同様である。


「お、おはよう霧島(きりしま)君」

「あ、黒鋼(くろがね)、おはよう」

「…あれっ?」

「ん? なんだ?」

「ううん、それより昨日はごめんね? 体の方は大丈夫? どこか痛くない?」

「あぁ、大丈夫だ骨は折れてないし、黒鋼(くろがね)も無事で良かった」

「んん-っ?」

「なんだ?」


 なんとなく我慢できず、自分から(しゅん)の席に赴くマリー。

 お互いが無事なのを喜び合うも、マリーは少しの引っかかりを感じている。


「えっと…それもあるんだけど…あのー…昨日の、ほら、ね?」

「昨日の? あの黒い服の子?」

「あぁ~…そ、そっち?」

「他に何かあったか?」

「…」


 思わず叫び出しそうな衝動をなんとかマリーは押さえ切った。


 宇宙人が消滅した後に警察が来たものの、結局「変質者」の証明はできずに、被害届を出すこともなく、そのままお帰りいただいたわけだ。


「ほら、あれよ、あのー…」

「?」

「…もういい!」


 (しゅん)は皆目わけがわからずに首をひねるばかりだった。

 不可抗力とはいえ、同級生の男子から名前を呼び捨てにされたという初めての経験に、マリーはなぜか抑えきれない「ときめき」を感じている。


 (しゅん)にしてみれば、それは単なる苦肉の策だったのだが、マリーは(しゅん)の事情には気がつかないままだ。

 

(せっかく少し仲良くなれたと思ったのに…)


 心の内でマリーは落胆している。

 なぜそれが落胆する原因なのか、よく意味もわからないまま。

    

 四月も中旬、まもなくGW(ゴールデンウィーク)が始まろうとしていた。

はい、なんとか9話まで来ました。

この作品は元々TikTokやYouTubeで続けていた、AI音楽によるストーリー漫画という体裁で始めたものなんですね。

それがいつの間にか生成した曲も400曲ぐらいになり、設定自体がどんどん広がって、音楽だけでは内容をフォローしきれなくなりました。

だからこそ、あえて小説という媒体でその全容を書いてみたいという欲求が生まれたんですね。

カテゴリーとしては日常系なんですが、色んな要素をぶち込んだ結果、わりとお笑いもアリな、よくわからない世界観になりました。

すでに出来上がっている世界の細部を再構築して、AI音楽として成立していたエピソードを文字に翻訳するという作業ですね。

正直言うと、書きたいことは多いのに全然作業が追いついていないという悩みがあります。

恋愛要素も結構ありますので、その辺が読者の皆様に受け入れられるかが一番の問題というところでしょうか。

「可愛い女の子」というよりも、描きたいのは「一人の人間の人生」ということなので、主人公がかなりの恋愛脳なところはご勘弁ください。

まだメインキャラが出揃ってないので、しばらくはキャラ紹介が中心の話になります。

日常系・現代ファンタジー・SF要素・異世界・転生・宇宙人・ウル〇ラとそしてアイドルというかなり無茶な盛り合わせな内容です。

けどやらないこととしては、「残酷なだけのゴア描写」「意味のないエロス」「絶望だけの内容」はNGと考えています。

テーマは「輝く未来」「未来への夢のために」という、とりあえずは前向きなストーリーです。

絶望の果てにも必ず「本人なりの幸せ」を用意しています。

できるだけ内容を詰め込みながらも、早いペースでの投稿を目指していますので、どうぞ今後もよろしくお願いしますm(__)m

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