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やらかしていた男子ぼちぼち頑張る。  作者: ぐっちょん


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第184話

ブックマーク、評価ありがとうございます。

 ふぅ……どうにか歌いきったぞ……


 パチパチパチパチッ!

 パチパチパチパチッ!


 ——ん?


 パチパチパチパチッ!

 パチパチパチパチッ!


 拍手……すごくない? みんな立ったままずっと拍手してくれてるよ。あっちの人は……涙を流している? もしかして感動してくれたのかな? なんかうれしいな。


 ——……ん? おかしいな、拍手が止まないぞ?


 あ〜分かったかも。これは番組のエンディングを飾る曲だったから、演出の一環なんだな。


 よく見ればシャイニングボーイズのみなさんは片手を挙げてそんな拍手に応えているけど……ちょっと演技っぽい気がするし。ほら、今もそわそわしたりしてちょっとぎこちないし。


 まあいいや。これが演出の一環だったとしても拍手されている側にいる俺にとってはありがたいこと。


 俺も周りのスタッフさんや観覧者席に向かって軽く手を振ってから頭を下げた。すると、


パチパチパチパチパチパチッ!

パチパチパチパチパチパチッ!


 一段と拍手が大きくなった、気がする。


 ——なぜ?


「アニキ!」

「アニさん!」

「アンちゃん、すごいすごい」

「タケ兄!」


 それからすぐに、一緒に歌っていたシャイニングボーイズのみなさんに囲まれるという、ちょっと意味が分からない状況になり、それどころじゃなくなってしまった。


「あはは」

「ははは」

「すげぇ」

「ふふ」


 しかも、彼らはなぜか異常なほど興奮していて、どう反応していいのやら。


「えっと、お疲れ様です。俺、あれで大丈夫でした?」


「当たり前ですよ」

「バッチリでした」

「さすがアニさんっす!」

「完璧」


 彼らの勢いは凄いし、距離も近いしで、怖いくらいだが、正直そんな彼らの言葉にホッとした。


 俺はスケートボードに乗ってはいたけど滑ってはいなかったからね。


 でも、そうと分かれば、ゲストの立場としては、さっさとステージから降りた方が印象もいいよね。


「それならよかった。俺、みなさんについて行くのに必死にだったから……」


 そんなことを言葉にしつつステージから降りようと歩みを進める。けど、


「みなさんなんて他人行儀です。俺たちのことは呼び捨てで呼んで下さいよアニキ。な、みんな」


「もち」

「そうっす」

「ああ」


 頷き合った彼らがなぜか着いてくる。


 ——一緒に降りる予定だったっけ? 


 まあいいや。しかし、呼び捨てか。呼び捨てはちょっと考えるな。

 アイキさんたちは年上だしファンの方たちもいるからさ……


 観覧者席に視線だけをやりながら、自分のやらかした過去を思い出す。


 ——やっぱり呼び捨ては無理かな。彼らのファンの反応が怖い。


「あはは」


 とりあえず笑って誤魔化しステージからさっさと降りたが、彼らがまだ着いてくる。


 仕方がないので降りてからすぐに足を止めた。


「でも、やっぱりアニキはすごいですね! 俺たちも、あっ! 俺、アニキのようになりたくて僕って言うのをやめたんですよ。あはは……」


「たまに僕って言ってるけどな」


「まだクセが抜けないんだよ」


「それ言うなって」


「「あはは」」


 アイキさんがそんなことを言うと、カイキさんが揶揄い他のメンバーと笑いあっている。


 いつも思うけど、シャイニングボーイズのメンバーはとても仲が良さそうなんだよね。ちょっと羨ましい。


「俺たちもいい感じにやれてるって思っていたんですけどね。アニキと比べたら全然ダメだって気づかされましたよ。

 あ、あの、俺たちもっと頑張りますんで、また一緒に歌ってください」


 アイキさんの言葉にうんうん、と頷く他のメンバーたち。


 そんなことないと思いつつ、彼らの話を聞いて分かった。


 どうやらシャイニングボーイズのみなさんは俺のスケートボードがダメになっていることを途中から気づいていたらしい。


 しかし、俺はそんな状態でも歌い続けているし、披露するパフォーマンスも完璧どころか自分たち以上の動きを見せる。


 それでも、念力を連続で使い続けるには限界があるから最後まではもたないだろうと正直思っていたらしい。


 だが、そんな彼らの思いに反して俺は最後まで歌い切ってしまった。


 それで彼らはあのテンションになっていたのだ。


 流石にちょっと褒めすぎだが、足を引っ張らなくてよかったよ。


 なんてことを思っていると、アイキさんたちが突然表情を引き締めてピシッと姿勢を正す。


 ——ん?


 不思議に思った次の瞬間には、


「タケトくん」


 少し顔が赤いような気がするマリさん(南野マネージャー)がすぐ後ろにいたよ。


 そんなマリさんの隣には綺麗な女性と数名のスタッフさんが。


「マリさん。今日はありがとうございます」


 反射的にマリさんに挨拶してしまったが、はて? 隣の女性は誰だろう。なんて思ったのも束の間、


「それでタケトくんに紹介したい人がいてな……」


 マリさんがその女性のことをかるく紹介してくれた。


 名前は南条静香さん。歳は20代半ばに見えるけど分からない。マリさんの上司になる方らしい。


 それ以上の事は語らなかったが、南条ってつくくらいだし、たぶん南条グループの役員さんクラスの人だろう。名前を聞いて正直びっくりしたよ。


「武装女子のタケトと言います。いつもお世話になっております」


 会社員でもないのに、焦ってそんな言葉が出てしまうくらいに。


「ん」


 頷いて肯定してくれた南条さん。口数は少ないけど、その醸し出す雰囲気がもうお偉いさんというか、貫禄があるんだよね。


 右手の甲を差し出されて意味がわからなかったので、とりあえず両手で包み込むように丁寧に握手をしてにっこりと笑顔を向けておく。


「よろしくお願いします」


「な」


 すると南条さんの切長の目が大きく開かれ、身体を小刻みに震わせた。


 なぜ? と一瞬思うが、すぐ後ろに直立していたシャイニングボーイズのみなさんが大粒の汗を額に浮かべて青ざめている姿を見れば流石に俺も察する。


 ——これはまずったかも。


 ここはたぶん握手をするところじゃなかったのだと。


 でも、もう後の祭り。ここは気づかなかったフリをするしか……


 ——ん?


 マリさんが私に握手をしろと言わんばかりに、少し右手を出している。というか、そう見せてくれているのかな。

 俺は助かったとばかりにマリさんにも両手で握手をしてにっこり。


「よろしくお願いします」


 マリさんに後はお願いしますという意味を込めて。


「あ♪ はい///」


 幸い、南条さんから何かを言われる事はなかったが、マリさんと握手している間、南条さんの視線は後ろに控えていたスタッフさんたちに向いていた。


 ——なんとかなったのか?


 どうやらマリさんのおかげで助かったっぽい。ありがとうございますマリさん。


 俺が心の中でマリさんに感謝していると、後ろに控えていたスタッフさんたちが俺の目の前まで出てきて、スケートボードの不良について謝罪された。


「え、いえ、俺は気にしていませんし大丈夫です」


 うまくやれたと思っていたけど、マリさんやスタッフさんたちにもバレていたらしい。


 けど、カメラは最後まで回っていたから大丈夫なんだよね? 


「ん」


 頷く南条さん。謝罪されて少し不安になっていたけど、南条さんは謝罪のためにわざわざ来てくれたようでやり直しは無しのようだ。よかった。

 ということは、これで用事は終わりだよね。よし、ここは粗相をする前にさっさとお暇しよう。


 俺がそんなことを考えている間に、南条さんが話を続けた。


「感謝する。だが今回は私の目の前で起こったこと。故に言葉だけの謝罪で終わらせるつもりはない。

 そうだな。特別に今放送中のドラマ『ドクターコトリ』と『桐の花学園II』に特別ゲストとして出演させてやろう。できるよなマリ」


「はい。お任せください」


「へ?」


「ん、今日は良いものが見れた。また会おう」


 逃げるように去っていく南条さんたち。マリさんもシャイニングボーイズのみなさんも一緒に去っていく。


 今なんて言われた? 口数少ないって思っていたけどスラスラ話しているし、ってそうじゃない。

 ドラマに特別ゲストとして出演しろって言わなかった? いやいや、ない。それはないよ。俺に演技は無理。断らないと。でも俺がそう思った時には目の前には誰もいない。


 スケートボードの不良について説明をしてくれたスタッフさんたちもいない。


「はあ……」


 俺は気持ちが沈んだままみんなのところに戻ることにしたが、アヤさんなら断ってくれるかも……とちょっとだけ自分に都合良く考えてみたら少しだけ気持ちが軽くなった、ような気がした。


 ————

 ——


 タケトくんのパフォーマンス、すごかったな。


 お腹の中の赤ちゃんも私の気持ちに反応して元気よく動いている。愛しい我が子。


 よしよし、パパカッコよかったね〜。私はお腹を優しく撫でた。


 問題は……


「二人ともちょっといいかしら」


「先輩」

「香織さん……」


 自信なさそうに俯いていた後輩のミカとアヤさんが顔を上げる。無理もないか。

 タケトくん、興味なさそうにしていた女性(観覧者席に居た女性)から熱い視線を向けられていたものね。


 今はシャイニングボーイズのマネージャーさんたちに囲まれているけど、スキがあれば声をかけようとみんながその機会を窺っている。


 ゲスト出演していた紫さんと崎宮さんも興味なさそうにしているけど、チラチラ見ているのよね。あれは意識している顔よね。


 女性に優しくて素敵な私の旦那様。結婚しても変わらず愛してくれる旦那様。そんなタケトくんが私は大好き。


 私もタケトくんと結婚していなければ不安になっていたかしら。なっていたでしょうね。


 タケトくんの魅力に気づくと、みんながすぐに手のひら返す。


 それくらいタケトくんは男性として素敵なのよね。

 素敵すぎてふとした拍子に、自分とは釣り合わないかも、と不安になっちゃうのよね。私の言葉に頷く二人。分かるわよその気持ち。

 今日の収録現場でもカッコよかったものね。


 でもね、よく考えてみて。今はタケトくんの担任やマネージャーという立場にあるから当たり前のように側にいれる。


 でもこれって当たり前だけど当たり前じゃないの。


 何かの拍子にこの当たり前が当たり前じゃなくなってしまうのよ。


 タケトくんが学校を卒業したり、他所の事務所に所属するようになったり、彼の場合、いつ何があってもおかしくないと思わない?

 

 私が何を言いたいのかというと、彼はモテるけど、それは分かっていたことよね。

 ここで怖気付いたり、クヨクヨしたりしても何も始まらないの。女は行動力よ。当たり前の環境を自分で作るの。


 私の言葉に頷いてくれるサキちゃんたち。ありがとうね。


 私は二人が後悔しないようにという思いを込めて、彼女たちの肩に優しく触れた。


「先輩……私、ミカ先生って名前で呼んでくれるようになったから、それで十分かもって納得しようとしていました。ちょっと弱気になっていたようですね。

 そうですよね、ここで満足したらダメですよね。先輩ありがとうございます」


「私もアヤと呼ばれて、それで満足しようとしていました」

 

「そうその顔よ。ほら、ちょうどタケトくんが戻ってきたから少し話しでもしてきなさ……」


 あら、タケトくんの元気がない? 何かあったのかしら。そんなことを考えたら居ても立っても居られず彼の側に歩み寄ると、反対側にはすでにミルさんの姿が。


「タケトくん、どうかしたの大丈夫?」


 ————

 ——


「せ、先輩、話が途中……」

「香織さん……行っちゃった」


「あ〜香織さんらしいと言えばらしいので、あまり気にしない方がいいですよ」


「そうですよ、先生もアヤさんも元気だしてください」

「先生、アヤさん」

「私も心配。先生、アヤさん、早くいこ」


「そうね。はあ、先輩、悪気はないんですけど、たまにこんなところありますよね」


「はい。特にタケトくんの事になると……ですね」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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