第186話 (星河輝隊 南条浮遊視点)
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「フユウ、どうなってる?」
メンバーのジロが落ち着きのない様子で口を開くが、その隣に座るタイシュウは苛立っているのか、その問いに答えることなく、身体を細かく揺らしながらヤツの方に目を向けている。
俺は星河輝隊のフユウ、本名は南条浮遊。歳は22。
年下のくせにちょっと人気が出たからといって、MCを任されるようになったアイキたちは正直見ていて面白くない。イライラする。
ま、それも俺たちがデビューするまでの短い間、デビューさえしてしまえば立場はすぐに逆転する。
なにせ俺たちは元四之組でアイキたちは元九之組。元々出来が違うのさ。
ちなみにチームメンバーのジロの本名が南条次郎で、タイシュウが南条太秋。苗字と年齢は同じだが兄弟ではない。
俺たちの名前は生まれてすぐに南条家のお偉いさん(名付け人)から名を付けてもらい、成人すると同時に課せられた試練に耐え抜き男性として認められると南条の姓を名乗ることができる。
それが成人した証であり大変名誉なことであり、それからが、本格的に男性としての務めを果たしていくことになる。
その務めとは、南条家では女性の言葉は絶対で、そんな女性に尽くすこと。
・男性は相手(女性)の年齢を尋ねてはならない。
・通ってくる女性は必ず満足させなければならない。
・男性から拒否することは認められない。
これはほんの一部でしかなく、細かな決まり事が無数にあるが、実はその相手(女性)にもランクがあることを俺たちは気づいている。
というのも、南条家では、男性は壱之組から九之組まであり総合的判断(そう教えられているが男性の間では能力が高い順だという認識)で組分けられているが、そこに通ってくる女性にも違いがあるのだ。
立場は女性の方が上のため、女性の前ではとても口にすることはできないが、壱之組に通ってくる女性の地位は誰もが高く、九之組に通ってくる女性の地位はたぶん低い(サラリーマンに例えると平社員レベル)。
それもこれも、壱之組に属する先輩たちが通ってくる女性の地位の高さでマウントをとってくるからバカでもその事実に気づく。
ただ新たに新設された『かじゅう組』の基準はよく分かっていない。
というのも。『かじゅう組』の人員は、壱之組から九之組、全ての組から選ばれ、その中でも、九之組から選ばれた落ちこぼれがアイキたち(シャイニングボーイズ)だったからだ。
そんなアイキたちがデビューしたての頃は今までの常識と違うことをさせられているから捨て駒にされているのだろうという認識で、みんなバカにして笑っていた。
それがなんだ、時間が経つと共にアイキたちは人気を集め、南野様にも認められているではないか。
いても立っておられずに、焦るように俺たちも名乗り出たまでは良かったのだが、まだその時ではないと言われて、なかなかデビューをさせてもらえない。
デビューさえさせてもらえれば俺たちの方が人気を集め南条家のためになるというのに。なぜ分かってくれない。
今日はどこかのタイミングで番組に出演させてもらおうと密かな計画は胸の奥に隠したまま、南条静香様と南野万理様に今後のために現場で見学をと懇願し、どうにか観覧者席までは入れてもらえた。
だが、そこで俺たちはムカつく野郎を見つけてしまった。
武装女子のタケト、お前という存在をな。
武装女子とは男装している女性だけで結成されたバンドだと思っていたが……
——アイツ気に入らねぇ……
男性は自分のことは自分でやるのが当たり前。それなのに、アイツは女性から世話をやかれていたのだ。
襟が曲がっている? 汗が出ている? 髪が乱れている? なんだよそれ、断って自分でしろよ。
しかも、そんな女性が一人ではなく複数人もいるのだ。
シャイニングボーイズがキャーキャー言われているのは演技だと知っているから許してやるが、アイツは違う。
アイツの連れてきた女性はアイツの事しか見ておらず、アイツが歌えば頬を染めてうっとりとしている。
アイツの歌声はまあ上手い方だろう、そこは認めよう。顔だってそこそこ、俺らよりほんの少し良いくらいで大差はない、はず。それなのに……あんな男に微笑みかける女性はマンガの中だけの話だろ……
ギラギラした目を光らせ満足するまで襲いかかってくるのが女性で、男性に見惚れて頬を染める女性などいるわけない、そう思っていた。
それなのに、南野様までも同じような表情をしているではないか。
よそ者のアイツを見て、歌を聴き、リズムに乗って身体をゆらゆら揺らしている。
しかも、南野様の両手には武装女子のグッズ(アイツの写真入りうちわ)が握られている。
器用に念能力を使いグッズ(うちわ)を出したり消したりしてバレないようにしていたが斜め後ろに座って見学している俺たちからはバッチリと見えていたのだ。
ついには南野様の隣に座っている南条様にも、渋々? そのうちわを渡していた。
ショックだった。南野家は南条家に古くから仕える名家の一つだと、教育を受けている。
そんな南野様はマネージャー業を兼ねているため、南条グループの中でも唯一俺たちの近くにいる存在でキツイ性格で恐れられているが、ワンチャン狙えるお方でもあるため密かに人気が高かった。
しかも、どこかに(男性のところ)通っているという情報もない。
そのような理由もあり、南野様に男性陣は男として認められ、通ってもらうことを目標の一つにしていた。
もちろん他にも、マウント(女性の地位なら高さで)をとってきた先輩たちに俺たちの実力を見せつけてやり、優越感に浸りたいという考えもあったのの事だったが。
それが……あんなヤツに。よそ者のアイツに、あんな顔を……
——そういえば。
いつからか南野様が男性に対して気持ち優しくなったというウワサが流れた。
実際に南条家の男性に対して叱責はするが、手を上げることがなくなっていたのもある。
だから、俺たちの中の誰かが気に入られているのだろうと色めき立ち、今でも監視の目がない時は俺だ俺だのバカ騒ぎ状態が続いていた。
——俺は認めねぇぞ。
だから俺たちはアイツに恥をかかせて、南野様の目を覚ましてやろうと思い、当初、考えていた計画(カメラの前でダンスを披露する)を変更してまで決行したのだ。
予備のスケートボードを全て隠し、アイツが使うことになっているスケートボードのある部分に亀裂をいれる。
この計画は俺の特殊能力ブレイクがあったから思いついたこと。
ブレイクは無機物を破壊するとても珍しい念能力。現に、今のところブレイクが使えるのは俺だけだ。
ただし欠点もある。それは念能力レベルが低く少しひびを入れる程度しかできない。
念力消費も激しく2回も使えば念力枯渇寸前で俺はヘロヘロになってしまう。
正直、今は動きたくないほど身体がだるいが、アイツが恥をかく姿を拝めると思えば、この程度のだるさなど、どうってことない。
——くくく。早く失敗しろ、恥をかけ。
「おい、あいつのスケートボード……浮いてないか?」
「ああん? んなわけ……はあぁぁぁあ!?」
それは信じられない光景だった。ジロが言った通り、アイツはスケートボードを浮かせた状態で歌を歌っていたのだ。
しかも、ただ浮かせているだけではない、激しく動くアイキの後を一定の距離を保ちながら着いていっているのだ。
アイキと同じパフォーマンス、いや、それ以上の鋭いターンや緩急からのコンビネーション。自由自在に宙を舞い、一度も足を着けることなく、迫力あるパフォーマンスを披露し続けている。
——ぁ、アイツはバケモノか……
なぜ笑顔で歌える? なぜ飛び続けていられる? いや、俺はなぜこうもアイツの姿を目で追ってしまっているのか。
そうか、アイツの存在が気に入らなかった俺でさえアイツのパフォーマンスに目を奪われてしまったのか……
——はっ! もしや……
俺は恐る恐る南野様の方へと視線を向けた。
「……さま……」
胸に手を当て、何やら呟いている南野様は、俺たちには一度も見せたことのないような幸せそうな顔を……そう、アイツが連れてきていた女たちと同じような顔を、アイツが歌い終わるまでずっと浮かべていた。
アイツらの歌が終わると観覧者だけでなくスタッフたちも一斉に立ち上がり拍手の嵐。
万雷の拍手にスタジオ内は包まれていたのだ。
ジロもタイシュウも何も言わない。それどころか俯いている。
——くっ。
悔しい、なんて思うものか。今回だけだ。今回だけは見逃してやる、だが次はない。
別にアイツのことを認めたわけじゃないが、今回だけはそんなことを思う自分がいた、のだが……
「ぐぇっ!?」
しかし俺は次の瞬間には意識を失っていた。
————
——
「こ、ここは……ひっひぃぃ!?」
そして目覚めた先は折檻室であった。バレていたのだ。俺たちの行動が。俺たちの行動を見張る監視役がいるとは聞いたことがあったが、なんて事だ。噂は真実だったらしい。
「久しぶりじゃが楽しませてもらおうかのぉ」
「そうじゃのぅ」
「ぅいひひひ……」
目の前の壁に俺たちが犯した罪が貼られているようだが、それを確認するほどの余裕は俺たちにはなかった。
なにせその折檻者が、死んだ方がマシだと思うほどの行為を行うシルバー組の猛者たちだったからだ。
「うわ、やめ、やめて……すみません。もうしません。許してください」
「ひゃっひやっひゃっ」
「うまそうじゃのぉ」
「あたしゃ、久しぶりじゃから張り切ってやっちゃるわい」
「いややぁぁぁ……」
再教育が必要だと判断された彼ら。もちろんデビューも白紙となり膝から崩れるのだった。
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