第185話
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「俺さ、いつも思うけど1時間なんてあっという間だね」
「だな」
「ホントそうだ」
「俺たち、輝きたい君(女性)たちをちゃんと応援できたかな……」
不安そうな顔をカメラに向けるシャイニングボーイズのみなさん。もちろんこれは演技だ。
すぐに、応援できてたよ〜と観覧者たちから声が上がり、彼らは笑顔でありがとうと返す。
これが、エンディング曲へと続くいつもの下りなのだ。
観覧者たちもそれが分かっているからか、少し寂しそうだが、そんなことを知らない香織さんたちは静かに見守っている。
でも、収録時間は4時間を超えているから、ゲストを含めた俺たちはようやくって感じでもあるんだけどね。
口に出しては言えないけど。ヒーリングとリラクセーションをこまめにかけていたのに、精神的な疲れがさ……
一時的に良くなっても、収録中だと、すぐに疲れが出てくるんだ。
歌を歌うことは楽しくていいけど、意見を求められた時のコメントとか、言葉を選びながら話さないといけないからホント大変だったよ。
たぶん同姓同名だろうけど、俺が知っている人たちの名前が出てきた時には懐かしくて、今どうしてるかな……とか考えたけど、その後のコメントに困るようなメッセージが沢山あり、それどころじゃなくなったんだよね。
そんな鬱憤というか、ちょっとしたモヤモヤした気持ちをエンディングで発散したい。
——そろそろだと思うんだけど、まだかな。
そんなことを思いつつもエンディング曲『元気120%』を思い浮かべていれば、ミカ先生が俺のことを見ていたので、小さく手を振っておく。
——!? ……ぉぉ。
おかしいな。ミカ先生に手を振ったら観覧者席にいるほとんどの人たちから手を振り返されてしまった。
今日の観覧者の人たちは、収録とは関係のない空き時間には必ずシャイニングボーイズのみなさんを囲んで楽しそうにしていて、俺たちゲストの方にはまったく興味が無さそうだったんだけどね。
——あ〜でも、あの人はやっぱり無表情のままだったか。
それはマリさんの隣に座っている上品な感じの女性だ。
シャイニングボーイズの関係者だと思うけど、番組収録が始まってからずっと無表情のままなのだ。
楽しくないのかな。いや、ただ単に表情に出ないだけなのかも。勝手に決めつけてはダメだな。
なんてことを考えていたらシャイニングボーイズのトークが終わりそうだ。
「……それじゃあ、エンディングはいつもの『元気120%』でお別れするけど、今回は武装女子のタケトさんとのコラボバージョンだよ」
「俺たち一所懸命歌うからね」
アイキさんの合図でカメラがこちらを向く。
そう最後はゲストである俺たち武装女子と紫さんと崎宮さんを中心に映像を流してくれるのだ。
『シャイニングボーイズwithタケトで『元気120%』です。どうぞ!』
そんなシャイニングボーイズの声に合わせて、各々が彼らの声に合わせて手を広げたり、親指を立てたり、片手をくるりと回転させて可愛く突き出したり思い思いのポーズとる。
ちなみに俺は小さく手を振った。
オッケーというスタッフさんの声が上がり、みんなの安堵した声に反してスタジオ内は騒がしくなる。
俺も最後の歌『元気120%』が残っているので隣のスタジオに移動しないといけない。
「タケトくん、こちらに」
「はい」
声をかけてくれた少し年配のスタッフさんに案内されたのはスタジオの裏。
『元気120%』は曲がかかると同時にスケートボードに乗ってスタジオの裏側から登場することになっているからだ。
「もうしばらく時間がありますのでこちらにかけてお待ちください」
念動を使いパイプ椅子(スタッフ用)を引き寄せたスタッフさんがそう言う。
「ありがとうございます」
お言葉に甘えてその椅子に腰掛けると、スタッフさんはにこりと笑顔を作り持ち場に戻っていった。
それからは、待ち時間を利用して、いつのもように頭の中で、次に歌う曲を思い浮かべてはイメージを固めていると、
「おい、お前」
突然、誰かに呼ばれたので、そちらを振り向く。
——ん?
そこにはサングラスにマスク姿の怪しい男性3人組が立っており俺のことをじっと見ていた。
——彼らは……アイキさんたちの後輩で、たしか星河輝隊だったか?
3人とも腕を組んでいたので、一瞬、睨んでいるようにも見えたけど、彼らはサングラスをかけているのでよく見えない。たぶん気のせいだろう。
「俺、ですか?」
「そうだ、お前だよ、剛田武人。俺たちは星河輝隊。俺はフユウでこいつらがジロとタイシュウだ」
「えっと、どうも。俺は武装女子のタケトです。シャイニングボーイズさんの後輩の方ですよね? そうお聞きしてましたが、俺に何かようですか?」
初対面なので、俺は椅子から立ち上がり軽く頭を下げてから握手、右手を差し出してみたが、ジロリと俺の右手を見つめるだけ。
その雰囲気を察して、どうやら彼らは挨拶に来たわけではなさそうなのですぐに右手を引っ込める。
「ふん。後輩も何も俺たちの方が歳上だっつうの。ちっ、まあいい。よそ者のお前が南野様にどう取り入ったのかはしらないが、あまり調子に乗るなよ」
「ほらよ」
3人の中ではリーダーっぽく見えるフユウさんからそんなことを言われたかと思えば、隣に立っていたジロという人からぐいっと押し付けられるようにスケートボードを渡された。
「お前に持って行けって渡されたんだよ。ムカつくスタッフ(女)どもめ」
「ありがとうございます……?」
「ふん。行くぞ」
その3人はスケートボードを俺に渡すとそそくさと離れていった。
スタッフさんに頼まれた事がよほど嫌だったのだろう? スケートボードを持ってきてくれたことには感謝するが、ああも態度が悪いと、素直に感謝できないな。
なんてことを考えたが、この世界の男性はこんな感じの人が多いんだった。忘れよう。
それからすぐに、
「アニキ待たせてすみません」
「アニさん。すみません」
「アンちゃん。ごめんね」
「タケ兄。すまない」
すぐにスケートボートを脇に抱えたシャイニングボーイズのみなさんが集まり、エンディング曲の収録が始まる。その曲はもちろん『元気120%』。
今回もアイキさんから一定の距離を保ちつつ着いて行けばいいだけなので、それほど緊張はしていない。
少し心配があるとすれば、アイキさんの見せ場かな。
1人で中央に飛び出し、スケートボード上で腰を低くした状態から小回転させながら立ち上がり上空に舞い上がる。その際、竜巻のように回転は大きく広げていくのだ。
そんな場面が何度かあるけど、今回は1度だけ、俺が代わりに舞うことになっている。
ミルさんにも見てもらい何度も練習したからたぶん大丈夫。収録だけど生放送の時と同じく緊張感を持ってやるつもりだ。
アイキさんが行くよ、との意味を込めて頷いたので、シャイニングボーイズのみなさんと俺が頷けば、すぐに曲がかかり、アイキさんがスタジオに向かってスケートボードを走らせる。
『♪〜』
伴奏中にみんながスタジオ内に入らなけらばならないので、俺もすぐにスケートボードを走らせるが、走らせてすぐに違和感に気づく。
——っ!?
気づいた時には、前のウィール(タイヤ)がグラついたかと思えばパン(音がしたように感じた)と外れてしまった。
——くっ!
ウィール(タイヤ)の外れたトラック部分が床にあたり前のめりになるが、瞬時に念動を使いスケートボードを浮かせることで体勢を整える。
ウィール(タイヤ)が外れてしまったので、このままではスケートボードを走らせることはできないが、念動を使いスケートボート自体を少し浮かせていれば、なんとか誤魔化せる? そんなことを一瞬で考え、考えた瞬間には、時間的な余裕はないのですぐに浮かせていた。
——よし。
ミルさんと毎日の鍛錬の賜物だね。この曲が終わるまで、スケートボードを浮かせて飛び上がるくらいなんて事はない。
俺は少し離れてしまったアイキさんとの距離をスピードを上げて追いつき、なんでもないように振る舞い『元気120%』を歌いきった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




