表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『現世(うつしよ)の君の物語』~百年の眠りの果てに、君の物語がもう一度はじまる~  作者: 百字八重のブログ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/50

No.044 / 静養舎


時はだいぶさかのぼる。

幽世学園からの転校を余儀なくされたダイダイ・譜詩とシュゴ・エンゴは、空飛ぶゴンドラで一路北へと向かっていた。

広大な幽世ランドの領域内にあって、北の果ての一角だけは、特別なシールドが張られ、許可を得た者しか行き来できない。

ダイダイとエンゴは、もちろんそれを知る由もない。


もうこれ以上、北へは行きようがないだろうというほど長い時間ゴンドラに揺られていたダイダイとエンゴは、雪の吹雪く曇天の中、ぽっかりと空いた黒い空間の中に、巨大な氷の柱が浮かんでいるのを見た。

「エンゴ君、あれ、何かしら」

ダイダイが指さした先には、巨大な氷の柱へと続く一本道の真ん中にそびえたつ真っ黒な建物がある。

「さあ、検問所か何かですかね。ていうか、僕たち、本当に転校してるんですかね。どこか変な場所に連れてこられている気がします」

エンゴの言葉に、ダイダイが深くうなずく。

「私もそう思う。ここって普通じゃないよ。あの巨大な氷の柱が新しい校舎なわけ、ないもの。一体、ここはどこなの」

誰かに尋ねたくとも、乗り継いできた空飛ぶゴンドラを操るのは、人ではないポップなAiキャラクターである。


ダイダイとエンゴを乗せるゴンドラは、真っ黒な建物の中に吸い込まれていく。

「エンゴ君、どうしよう」

「僕に言われても」

真っ黒な建物の内部は、色が消えたように真っ白な空間だった。

「何ここ。壁も床も真っ白じゃない」

「空間把握する感覚が狂っちゃいそうですね」

混乱する二人をよそに、ゴンドラは建物の中をどんどん進んでゆく。

するとしばらくして、ゴンドラはぴたりと止まった。

「ダイダイ・譜詩さん、シュゴ・エンゴさん、ようこそ、静養舎へ」

二人は声のする方を見た。

ゴンドラの正面、真っ白な床の上に、とても背の高い、細くて足の長い燕尾服を来た男性が立っている。

どうやら床に足が着くらしいことが分かり、ダイダイとエンゴはゴンドラを降りて、おそるおそる男性の方へと近づいて行った。

二人が十分に近づくのを待って、男性は指でぱちりと合図をした。

すると二人を乗せてきたゴンドラがその場でくるりとまわり、来た道を引き返していくではないか。

白い空間の中、みる間に小さくなって消えてしまったゴンドラを見て、ダイダイとエンゴは顔を見合わせる。

「あの、ここはどこなんですか」

ダイダイが意を決して問うた。

「ここは静養舎。北の果て」

男性は静かな調子で短く答えた。

「それは聞きました。あの、僕たち、転校するって聞いてるんですけど」

エンゴの言葉に、男性はふわりとほほ笑む。

「それは残念でございました。ここは一度入れば二度と出られぬやすらぎの園。忘れられた者たちが住まう最果ての地」

男性はあくまで涼やかに答える。

「あの、教えてください。一体、私たち、どうなるんですか」

ダイダイの問いを、男性は微笑で受け流す。

次の瞬間、男性が指をぱちり、と鳴らした。

すると二人が来ていたコートや帽子、手袋や冬用の靴が、一瞬でオレンジ色のつなぎに切り替わった。

「えっ」

「わっ」

ダイダイとエンゴは、お互いの全身を見合わせる。

「どうぞ、こちらへ。今後はあちらの建物で暮らしていただきます」

男性はそう言うと、再び指をぱちりと鳴らした。

すると男性の後ろの白いだけの空間に、ぽっかりと穴が開いた。

そこから見えるのは、さきほどゴンドラで通ってきた吹雪の空、そしてそのただ中に浮かび上がる巨大な氷の柱であった。

男性にうながされ、ダイダイとエンゴはおそるおそる外へと踏み出す。

出口から氷の柱までは1kmくらいだろうか、吹雪の中に、まっすぐな白い道が伸びている。

「さむっ」

ダイダイがそう、口にした時だった。

二人が歩みを進めた瞬間に、景色が高速で移動した。

いや、移動したのは二人であった。

気づけば、あの巨大な氷の柱が、その壁が、目の前に迫っていた。

男性が氷の壁に片手をかざす。

すると豪奢な扉が現れ、中央から内側へゆっくりと開いた。

男性に続いて、ダイダイとエンゴは壁の内側へと歩みを進める。

二人が完全に壁の内側に入ったところで、いまくぐってきた豪奢な扉は音もなく消えた。

それを振り返って見て青ざめたダイダイが、「エンゴ君」と言ってエンゴの袖口をつかむ。

二人をつつむ大空間の正面には、左右へと延びる長い階段がのびている。

先を歩いていた男性が、エントランスホールの真ん中で振り返った。

「ここは24時間監視体制の寮になっています。ご用はその辺を歩いているスタッフにお申し付けください。それではどうぞ、ご自由にお過ごしください」

そう言って男性は深々と一礼をして、その場でふっと煙になって消えた。

残されたダイダイとエンゴは、顔を見合わせた。

「どうする、エンゴ君」

「なんだか僕たち、閉じ込められちゃったみたいですね」

「とりあえず私、トイレに行きたいんだけど」

「僕もです」

そうして二人の静養舎での日々がはじまった。


2383年2月11日0時00分、二人に過去のすべての記憶が戻るまで、実に約二年間、ダイダイとエンゴはこの静養舎で過ごすことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ