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マッチ売りと坊やの唄  作者: 岡田 暁生
6/7

ループ

 かりそめの楽園が闇に落ちるのは、一日の内、五、六時間ほどで、迷い人を楽園に導いたり、鳥や虫などの住人を世話したりする女の子に与えられた唯一の安息でした。久々に迷い込んだ坊やの道案内に追われ、いつにも増して疲弊した身体を癒すため、女の子は泉へ向かいました。平坦な草原を抜けてしばらくすると現れる、長く険しい山道も、翼をはためかせれば、容易く進むことが出来ました。

 細道の脇を伝う小川が次第に大きな唸り声をあげ、源流にたどり着くと、流れに沿ってそのまま上っていきました。翼を傷つけた鳥や、足をやられた昆虫が体を癒すため、必死に泉を目指す中、一足先に到着した女の子は、勢いよく飛び込んで、身体と翼を水に浸しました。暗黒の背景を一瞬にして白に変えるほど眩い光が全身を包み込むと、女の子は、瞑想する僧侶のように、じっと動きませんでした。

 

 全身をめぐる空気と血液が勢いよく拍動している。人間を止めた時から始まった命。神様がプログラムした命は自分から壊れることはない。神様はいつも微笑んでくれる。どこまでも黒い私の心を癒してくれる。


 女の子は、眠りから覚めた子供のように大きく伸びをして、目をしっかりと開きました。やつれた身体をいたわる時は決まって、自身を一番に可愛がり、広大なかりそめの楽園をあまねく照らす太陽と自分を重ねました。


 地上に降り立った人間は何らかの試練を乗り越えなければならない。生きる意味は何か。そんなことを疑問に思った瞬間、脆い命は途端に崩壊する。


 女の子は、天に向かってお祈りを始めました。


 生きる意味は誰かに愛されること。私は誰にも愛されなかった。心の豊かさ、かりそめの友達?

 私は神様を愛しています。神様は私を愛して下さいますか。

 神様のお膝元に近づきたい。坊やのように本当の楽園を愉しみたい。

 

 あたりの草むらがガサガサと音を立てました。風の仕業ではない、と感じた女の子は用心深く見回しました。立ち上がって辺りを歩き回ると、若干年上の女性が全身を震わせて横たわっていました。

 「こんな時間に迷い人は現れないはずだけど……」

 女の子は、仕方なく女性の元へ近づきました。不思議なことに、胸の鼓動が自然と速くなり、遠い過去の記憶が悲鳴を上げ始めました。女の子は、強力な磁場に圧倒される金属のように、頭を抱え込んでその場に倒れこみました。脳を駆け巡る記憶の嵐が、身体を完全にダウンさせました。

 「あなたは、一体……」

 女の子は必死に口を動かしましたが、強烈に薄れゆく意識にあがなうことは出来ませんでした。

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