表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチ売りと坊やの唄  作者: 岡田 暁生
7/7

始まりの朝の唄

 かりそめの楽園に朝が訪れました。全ての生き物は、朝日に向かってお祈りをします。一日の始まりを神様に感謝し、平穏な生活を送れるように願います。お祈りがすむと、後は大概、地上と同じように時間が流れていきます。

 これほど綺麗な桃源郷にどうして争いごとが起きるかって?

 

 ここは、かりそめの楽園なんです。競争に負ければ死ぬことを避けられません。

 

 かりそめの楽園を管理する女の子は誰かって?

 

 楽園に旅立った坊やとは明らかに違う人間でした。坊やの温もりが、母親のゆりかごに由来するのだとすれば、女の子を美しき氷の華に閉じ込めたのは、人間社会そのもの、と言えるでしょう。船出を始めた女の子にとってあまりにも高い波でした。女の子に与えられた宿命は、神様の慈悲と考えるよりないでしょう。


 さて、女の子は朝日を受けて、ようやく目を覚まそうとしています。例の女性は、女の子の傍らに居座っています。

 「もう、朝か……」

 眠りから覚めた女の子は、これほどまで眩しいと感じたことがない朝日に一礼し、お祈りを始めました。不調の引き金となった女性が傍にいても、何らいつもと変わらない時間が過ぎようとしていました。

 「あなたは、迷い込んだの」

 女の子は、女性が事情を全て理解していると思い、ことを速く済ませようとしました。

 「私は、楽園に行く資格はない……」

 女の子は、困り果てた顔で、

 「何でもいいわ。ほら、ついてきて」

 と言い、楽園の入り口へ女性を連れて行きました。陽光の一筋を掴んで、女性に触るよう命じました。女性は、中々一歩を踏み出さないので、

 「全てを忘れて、楽園に行った方が素晴らしいわ」

 と、諭しました。

 女性は、光を掴みました。きつく目を閉じて一心に祈るような姿は、何よりも妖艶に見えるのと同時に、彼方の記憶がうめき声を上げ始めました。

 「昨日と、同じ……」

 女の子は、その場に座り込みました。何とかして女性を送り届けないと。女の子は、自らの使命を全うするため、何も省みませんでした。陽光の中心に近づくほど、女性の魂は速く焼かれていきましたが、あと一歩のところで、邪魔が入りました。女の子は、その純白の翼を完全に焼き尽くし、その焔は、肢体にまで広がっていきました。女性の高い悲鳴が聞こえてきましたが、耳に入れようとはしませんでした。

 「あなたの、望みは、なんだ!」

 女の子は、最後の力を振り絞って問いました。

 「私の望みは……」

 ふと見上げた空に、人生の美しき記憶を描きました。楽園に旅立った最愛の人を探す旅。女性は、全てを受け入れました。

 「これでまた終わった」

 女の子は、女性の消えゆく身体から、自分と同じ匂いがすることを感じ取りました。

 「似た者同士ってわけか。本当は楽園に連れて行ってはならなかったんだ……」

 女の子は、消え失せた肢体を必死に探しましたが、手遅れでした。

 「どうりで、いつもより暑かったわけだ……。ああ、また神様を裏切ってしまったな」

 女の子は、苦笑いを浮かべました。腹や胸から光が溢れ始め、天に昇っていきました。

 

 神様に与えられたこの命を

 私は捨てた

 かりそめの楽園にいたこの魂は

 どこへ旅立つのだろう

 一筋の光と一滴の涙

 忘れていた尊さを

 思い出したときはもう終わり

 消えゆく魂よ

 その光に新たなる救いを

 求めてはいけないか

 お許しになるのであれば

 私自身が救ってあげたい


 どれほどの陽光と比べても、最期の魂は明るさに満ち溢れていました。

 全てを失い、神様にも見放されたのでしょうか?

 

 女の子が旅だって暫くすると、かりそめの楽園が少しずつ乱れ始めました。主人を失った人間世界と同じく、争いごとが絶えませんでした。

 そんな草原にある日、雪が降りました。生き物の大半は雪を見たことがなかったので、その美しさに心を動かされ、争いの気持ちは次第に和らいでいきました。草原には一つの小屋がありました。小屋に住んでいたのは、幼い一人の少女でした。

 「鳥さん、虫さんたち。寒くはないですか」

 少女は、辺りを歩いて、灯を分けてあげました。みんなの幸せが私の幸せ。少女は笑顔を絶やしませんでした。

 「マッチはいりませんか?」

 明るく朗らかな少女の声が、今日もまた、銀世界に響き渡りました。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ