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マッチ売りと坊やの唄  作者: 岡田 暁生
2/7

Silent Christmas

 少女の会話は夜遅くまで続きました。気が付くと、自分の声と灯が木の棒を焼き尽くす音以外、何も聞こえませんでした。

 「メリークリスマス。朝が早いから、もう寝るね。お休みなさい」

 少女は、残りのマッチと友達を床に置いて、ひと時の眠気に身をゆだねることにしました。

 

 「ほら、起きて。雪が降っているよ」

 突如、灯の中から少女の目の前に現れたのは、天使のように可愛らしい男の子でした。枝のように細い腕を伸ばして、少女の手を優しく取りました。

 「さあ、行こう」

 「行くってどこへ?」

 少女は思わず聞き返しました。大方の予想はついていましたが、神様の元へ旅立つときがやって来たのだと思うと、心から涙が止まりませんでした。

 「僕が君のハンカチになってあげる。もう、何も怖くないよ」

 男の子は、自分の胸の内を全て知っている。少女はそう感じました。

 「神様の揺りかごは、みんな仲良しなんだ。欲も争いごともない平和な生活。中途半端な理性を捨てて、同じように生きる。素敵な世界だと思わないかい」

 男の子は、まるで、雄大な自然を目の前にしているかのように目を光らせました。

「僕は、神様の使いさ。湧き水のように透き通った君の全てが黒く塗られていくことに我慢ならなかったのだろう」

 少女は、男の子の腕をそっと引いて、泣き顔を男の子の胸に隠しました。胸や腹、それに腕を伝った涙は、どこまでも透明でした。男の子は、うん、と一回頷いて、手を空にかざしました。すると、雲の合間から一筋の光が差し込み、男の子と少女の顔を照らしました。

「きれい」

 少女の目には、かつての友達と比べものにならないほど眩しくて、この世のものとは思えない、絢爛な金の施しを受けた階段が映っていました。

「これくらいで驚くなんて。君はやっぱり人間なんだね」

 男の子は、少女の顔を少し見つめました。

 「昇っていくほど、その景色はより美しくなる。人間世界から遠ざかるほどね……」

 少女は、首を大きく縦に振りました。人間世界の埃を堪能しきったところで、神様がいらっしゃる世界の美しさを理解できるはずはないのに、ひときわ高鳴る鼓動を落ち着かせようと必死に息を吸いました。

 

 生きるってどんなこと そんなこと考えても意味はない

 誰かが笑って答えた

 ある人は汚い ある人は貧乏 ある人は可愛い ある人は綺麗

 でも愛していると誰も言わなかった

 生まれた場所はどこ 生まれた日はいつ

 お父さんは誰 お母さんは誰

 知らないほうが幸せと 近くのおじさんが言った

 

 手には金 快楽を求める下衆

 綺麗な草原で 白馬の王子と言わないまでも

 本当に大切な人と 人生の旅を語る 

 女の子の夢は 重力に逆らえない

 恋はバーゲン 

 落ち葉のようなバージン

 

 新たな私と 新たな旅

 ポイントは既に 切り替わった 

 重力にあがなって 天を目指す

 そんな私の 瞳だけは

 汚さずに  翼だけは

 撃ち落さないで

 烏の鬢は 雪で白かった

 そんな烏さえ 今は愛おしい


 「噂に聞いてはいたけれど、綺麗な声だ」

 男の子の瞳には、うっすらと滴が浮かんでいました。


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