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神の居ない世界にて  作者: アウラ
3.There is nothing in his pocket
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94.

 陽里達が来たのはいつぞや陽里が彼の元ルームメイトの五十嵐新と元教官にして上官であったエリザベス・エドベルと共に行ったショッピングモールであった。


(あの時はエドベル中尉が新に大量の荷物を持たせていたな)


 “レディーの買い物”について陽里が詳しく知る事もなければ果たしてあれが本当に“レディーの買い物”であったかどうかすらも怪しく、それを確かめる事は難しい。


 と言うのも陽里の目の前で人が多くてうんざりしている少女が果たして“レディーの買い物”をするかどうかを確率として表現をすれば数%程度だろう。


 尤も陽里が根拠にするものは当然ないため、これは彼の直感に過ぎない。


「……行くわよ」


 ルナリアはその容姿が日本人離れしており、かと言ってアメリカ人のような容貌でもなく、噂でしか聞く事のない神和国人のような容姿なのだ。


 特に彼女の紫水晶を彷彿とさせる瞳は滅多に見ない色であるが故にそれを助長させてしまっている。


 彼女の過去が人を嫌いにさせたのだろう。ルナリアはなるべく人と関わらないように最低限の人間関係のみを築いており、逆に人の集団に入って奇怪な目を向けられるのがこの上なく苦痛なのだ。


 しかし服を買いに来たルナリアにとってここぐらい大きな場所でない限り選んで買う事が出来ず、近場に同程度のショッピングモールはない。


「まずどっちからの買い物にする?」


 陽里が行くと言ったにも関わらず一向に動き出さないルナリアに敢えてその事には触れずに別の事を尋ねる。


 今回の目的は大きく3つ。

 陽里とルナリアそれぞれの服と陽里の生活用品の購入である。


「バラバラでいいんじゃない?」


 目的を整理したところでルナリアは2人いる必要はないと気付く。


「荷物くらい持つよ」


 漢女(エリザベス)とは異なりルナリアは身長は並ないしそれ以下ではある上に小柄であるため、あの(・・)量を持てる想像が出来ない陽里は持てるくらいには持つと言う意味合いで名乗り出る。


 もう1つ実利的な意味があるが、陽里がそれをルナリアに言ってしまえば彼女が語る事を拒む自身の過去に触れる事にもなりかねないため、言葉にもそのような空気を出す事もしない。


「へぇ。じゃあよろしく!」


 ルナリアの笑みに寒気に襲われた陽里はやっと歩き出したルナリアの後を付いて行く。


 前回の時はエリザベスに振り回されては魔獣(ホレット)の襲撃と落ち着いて施設内を見る事はなかった陽里だが今回は前回と比べれば余裕を持って見て回れた。


 1階の吹き抜けの広場ではキャラメルポップコーンを焼いているのか甘い匂いが上階にまで立ち昇ってくる。


 2階3階は衣服やアクセサリーを扱う店が大半で多くは女性向けの店だった。


 時々下着専門的が見受けられるが陽里がそこまで紳士的なもとい初心うぶな行動を取る事はなく、寧ろその構造に興味を持って店を摂り過ぎる間、遠目ながら凝視していた様をルナリアが肘打ちで止めさせるような事もあった。


「ヨーリって変人って言われない?」


 そう訊かれて記憶から引っ張りだせば該当するものがあった。


「言われた」


 喜助に初対面の時に言われた事を思い出した陽里ではあるが、おそらく陽里に関わってきた者全員がそう感じた事で面と向かって彼に言わなかっただけに過ぎない。


「そりゃそうよね」


 陽里が軍を裏切ると決めたあの時、ルナリアは陽里の戦闘狂気質な部分を知ったが今の彼を見ると知識に貪欲な人物だとも思えた。


 まずはルナリアの買い物からと言う事で2人は衣服店に来ていた。


 そこはよくあるカジュアルな服を扱っているがやや低年齢向けの、言うなれば10代前半向けの服が多かった。


「ルナっていくつ?」


 レディーに歳を訊くのは失礼とはよく言うがルナリアの年代でそう思う事はなければ陽里がそのような気遣いをする事もない。


「16よ」


 15歳で学校を卒業し、徴兵あるいは都市追放される第参都市(この街)では16と言う年齢はそれ以上の学校が存在しない事もあって大人として扱われる。


 だが卒業してまだ1年目であるからほぼ(・・)大人と表現するのが正しいところだろうか。


 いずれにせよルナリアの年齢は彼女がグレて学校をサボっている訳ではなく何かしらの手続きによって第参都市への居住を認められかつ徴兵を免れた事を示す。


 どうやらルナリアの服装が思いの外彼女の見た目年齢を下げており、陽里は自分の感覚がその視覚刺激によって狂わされている事を理解した。


「うーん……」


 無い知識を知恵でもって解決させるには非常に困難である。


 陽里は珍しく唸り声を上げて思考する。


「な、何よ」


 じっとルナリアを見つめる陽里に対して彼女は不審を露わにする。


「膝丈スカートか?」


「え?」


 陽里の突然の呟きに訊き返すルナリア。


「秋服でルナに似合いそうなのってそれかなって」


「ちょ、な、ななな何言ってるの!?」


 まだ陽里の人となりを知らないルナリアではあるが陽里がおよそらしくない事を言っているのだけはわかった。


「似合いそうだと思うけど」


 陽里は素直に口にする。


「そ、そう? と言うか膝丈スカートって範囲広くない?」


 ピンポイントで言われるのもアレだが範囲が広過ぎるのもどうかとルナリアは思った。


 陽里は僅かに首を傾けるだけで何も言わないで考えていた。


「その……見てみたいの……?」


 陽里から感じた僅かな期待になんとなく気まずい雰囲気になってしまったルナリアは折れる。


 実際は上目遣いでルナリアが恥ずかしそうに陽里を見ており、その様子を店員が声を掛けづらそうに遠くから見ていた。


「うん」


 知識に貪欲なためであろうか。陽里ははっきりと頷いた。


「そ、そこまで言うなら仕方ないわね。特別試着して見せてあげる」


 適当に2つ膝丈スカートを手に取ったルナリアは試着室に半ば逃げ込むようにして入った。

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