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神の居ない世界にて  作者: アウラ
3.There is nothing in his pocket
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93.

 程なくして陽里は準備を終えてルナリアに出発を告げる。


「コーヒー美味しかったです」


「それは大変嬉しいお言葉でございます」


 店主は深々と頭を下げる。


「ルナリア様、陽里様、またのご来店をお待ちしております」


 2人を見送った店主は2人の使った食器を片付ける。


「さてどうなる事でしょうか」


 自分が予想する未来になる事はきっとないだろうと店主は思う。


 だが己が関わらなければ自分の欲するものは何も得られないのだとも理解しているからこそ店主は近い未来に期待と面倒さに頭を悩ませるのだった。


 次の客が来る気配はまだない。






「ヨーリ」


 地下鉄にて移動中、ドアに背凭(せもた)れたルナリアが陽里に声を掛ける。


 その様子は不機嫌そのもので、この場合陽里は彼女を勝ちは出来ても負かす事は出来ないとごく僅かな期間ながら経験則で学んでいた。


 陽里は目だけでルナリアに答える。


「どうして勝手に決めたの?」


 彼女が咎めているものは拠点の移動についてであろう。


 現在の部屋を捨てて新しい場所に移る必要性がある事を陽里はルナリアに一切の相談も説明もなく店主に持ち掛けたのだ。


 家主であるルナリアの怒りは当然と言えよう。


「まずはボクの現状について説明する」


 陽里は話し出す。


 現在陽里はヘッジホッグ部隊全滅に伴い死亡扱いされており阿羅機士(アルハーダー)としてのアカウントは削除ないし停止されている事からMCASS(バックアップシステム)を使えないため阿羅機(アルハード)の起動は出来ない。


 従って陽里は事実上戦力にならないお尋ね者となる。


 しかしそれは現在の話であって数日後の未来なら状況は変わると陽里は予想している。


「それでパソコンを買った訳だ」


 阿羅機が亜空機(イクスペーサー)によって組み立てられているのだから何かしらの演算処理が行われていると考えるのは妥当である。


 ならばそれを行えばいいだけの話だ、と陽里は考える。


「待って、その亜空機による組み立ては第参中央演算処理装置(アマテラス)が処理してるんじゃないの?」


「そうだね。だから普通は一瞬で出来るものをこのパソコンでやるなら数日は掛かる見込みだ」


 それはスーパーコンピューターで行うような膨大にして煩雑な計算式を一般用のコンピューターで処理するようなものである。


 その負荷は絶大なものであるが理論上不可能ではない。それに対する時間コストが大き過ぎるため、今まで誰も実行していないに過ぎない。


 そして何より――


「それって亜空機へのクラッキングじゃないの?」


 研究者の頂点に立つような人物達でやっと理解出来るブラックボックスを陽里はこじ開けると言っているのだ。


「構造解析よりだいぶ楽だと思うけど」


 陽里をよく知る者ならばこの発言がいつものものだと理解出来るが、残念ながらこの場にはルナリアしかおらずその彼女は呆れて口が半開きになっていた。


「あなた一体何者なの……」


 バリアのシステムを元にしたとは言え雷環のシステムを単独で作り出しており、比較的単純な構造である柄の部分とは言え雷槍を自力で直すような者にとって亜空機のクラッキングは不可能ではないのだろう。


「ボクの立場ってなんだろうか」


 しかし陽里はルナリアの呆れを真面目に捉えてしまい考え込む。


 軍人でもなければ阿羅機士でもない。実質追われている身でもなく、現在は死んだ扱いになっている。


(差し詰め幽霊と言ったところか)


 自分でもおかしな答えだと自嘲しかけたところで


「裏切り者のヨーリでしょ」


 とルナリアがぼそっと言う。


 確かに、と陽里自身が思ってしまったので否定しようもなくなってしまった。


 連合国軍を裏切りその生存が確認された場合、連合国を敵に回す事になる。


 相手がどのくらい本気で自分を潰しに来るかは未知数ではあるが全力であるならば陽里は第参都市(ここ)にはいられない。


 海を越えてもう1つの国――ヴェスティール神和国へ亡命しようもそこは敵国、受けいられる筈がない。


 陽里が捻じ曲げた運命は破滅にして修羅、そして地獄への道でもある。


 そこへ今目の前で髪を弄りながら不機嫌そうな顔でいる少女を連れて行こうと陽里は考えられなかった。


(もしそうなるなら――)


 陽里はそれに答えを出そうとしたが頭を振って取り払う。

 この少女もまた世界の全てを敵に回し、自分より先を歩いている存在なのだと。


「何?」


 陽里の視線に気付いたルナリアが不機嫌さを増した顔になる。


「なんでもない」


 地下鉄のアナウンスが到着駅を知らせる。


 まだ決まっていない事を前提に考えるのは無駄な事だと、そう片付けて陽里はズボンのポケットに無造作に手を入れる。


 当然、そこには何もなかった。

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