87.Dunce
前章のあらすじ
陽里が第参都市軍を離反
新章最初から主人公不在で次回も出ませんけど第3章もよろしくお願いします(え
「次、布土史彦三等陸士」
「は、はい!」
史彦と呼ばれた少年は駆け出す。
「阿羅機エクスカリバー……起動!」
彼のーー多くの阿羅機士が腰に取り付けている亜空機と呼ばれる阿羅機を格納する小型機械から大量の光り輝く粒子が飛び交い彼を包み込む。
間もなく粒子の輝きが収まり1つの形を現す。
銀一色の滑らかな形の阿羅機。それが陸戦型阿羅機エクスカリバーだ。
「お、お願いします!」
目の前の同じく阿羅機を起動した阿羅機士に声を掛けて飛び掛かる。
「うおおおお!」
自身の出せる最大加速でもって飛び掛かるがーー
「甘いぞっ!」
史彦は両手を掴まれて足を払われてバランスを崩して地面に倒れ込む。
だが勢いだけは殺されずに地面を転がっていき10周以上転がったところで勢いは止まった。
「愚直に突撃とはなっておらん!」
相手はそれだけ言い放つと次の阿羅機士に声を掛ける。
「目が回るぅ……」
史彦が回復するのは次の阿羅機士がボコボコにされてからの事だった。
「よおグズ。今日も一撃で伸されたんだってな」
「ホント、なんで阿羅機士なんてやってるの? ウケるー」
「B師団の恥だな」
訓練が終わり、1人で夕食をとっているところに顔見知りが現れた。
(そのグズで恥の僕に関わらないでよ)
そのような事を口に出して言えば余計にややこしい事になるのはわかりきっているため口には出さない。
「ねぇ、清掃員に移してもらえばいいんじゃない?」
「それ清掃員に失礼だから。あっひゃひゃひゃ」
笑い声で跳んだ唾が史彦の副菜にかかる。
「……」
しかし史彦は黙り続ける。
「行こうぜ。こんな意気地もないような奴に構ってられねぇし」
「そうだね」
「じゃあねぇ、グズでチビの意気地なし」
周りの者達は終始傍観していたが、彼らがケラケラ笑いながらこの場から去ると興味を失くしたように雑談を始める。
それが史彦にとっていつもの日常であった。
「布土」
しかし今日は珍しく彼に話し掛ける者がいた。
「きょ、教官」
先の訓練で史彦を投げ飛ばした本人、霧橋孝蔵だった。
「調子はどうかね?」
「ま、まぁ……」
史彦は苦笑いとも取れる愛想笑いで返す。
「君は考えて行動出来るのだから頑張れば伸びるじゃろう」
「ありがとうございます」
いつものやり取りである。
(褒めれば伸びると思ってるんだろうな)
訓練時は厳しい孝蔵ではあるがそれ以外では人当たりの良い今年還暦を迎えた好々爺だ。
髪の毛が1本もないのが最大の特徴だろう。
「それはそうと今日は良いニュースを持ってきたぞい」
孝蔵は空間画面を操作して史彦に見せる。
「これは……」
史彦は固唾を呑む。
「なんでも特A師団に欠員が出たそうでな。臨時で第一兵団内から1人だけ受け入れようとするそうじゃ」
「そうなんですか!?」
史彦にとってまたとない絶好のチャンスであった。
「前々から特Aに行きたいと言っておったから伝えに来たんじゃがどうだ?」
「是非!!」
史彦には夢がある。
学生時代無類の強さと賢さを兼ね備えた超人的先輩に追い付く事だ。
その先輩が特A師団に入ったと本人から聞いた時、当然とばかりに感じた。
来年は自分もと意気込んで模擬試験を受けたのだった。
しかしいざその競争社会に入ったら世界の厳しさを痛感した。
いくら努力しても特A師団を目指す者達の足元にも及ばない。
このままでは特A師団はおろか第一兵団にすら入れず一生特A師団に入る可能性すらなくなってしまう。
しかし奇跡的な事に特A師団には入れなかったものの同じ第一兵団のB師団に入る事が叶った。
これならば例外中の例外を狙ってB師団から特A師団へ転属する事だって可能だ。
だがB師団に入ってからも苦悩の日々だった。
教導隊の中でも成績は不振で周りからバカにされる始末。
今日まで耐えてこられたのもいつかあの先輩のいる特A師団に入ってその背中に追い付くのだと夢見てきたからだった。
「じゃが厳しいぞ。同じ志を持つ者はごまんとおる。それでも目指すと言うか?」
「……僕の目標なので」
「そうか」
もし史彦が特A師団の欠員が生じた理由を事細かく知っていたならば未来は変わっていた、と言うのは未来を知っている者の傲慢と言えよう。
神などと言う存在はこの世界には居ない。
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