85.
ヘッジホッグ部隊が全滅しただろうとの連絡が喜助に届いたのは当日の夜遅くになってからだ。
夕方になっても帰投せず連絡もつかない事におかしいと感じた喜助が捜索させたところしばらくして木下香織の致死量の血痕と思しきものが見つかり、続いて丸腹満太と佐畑信次の血痕が見つかったところで全滅の可能性が浮上した。
残す赤嶋秋雄と結城陽里の血痕が見つかったところで全滅した可能性が極めて高いと喜助に報じられた。
尤も、死体が見つかっていないため行方不明として扱っているが生存の望みが薄いのは明らかだった。
師団長室で頭を押さえながら喜助は先程から全く動かない。
「敵が想定以上に強かっただけだ」
全滅地点に未だ潜んでいる可能性があるため調査員はA師団内でも指折りの阿羅機士のみとしており、その中にはエリザベスも含まれていた。
エリザベスが今日の最終報告をしたところで喜助は動かなくなり、その様子をソファーに座りながら眺めていた。
「阿羅機の最終利用履歴を見てみたんだ」
ぼそっと喜助が呟く。
「ほぼ同時に阿羅機が解除された。強制解除だ」
「最初はちまちま攻撃して最後に全員集まったところで一撃ないし二撃で跡形もなく殺されたんだろう」
エリザベスは淡々と自身の推論を言う。
「もし生きていたら捕らえられているだろう。相手がそれを盾に脅してきてもワタシ達が応じる事はない。拷問に掛けたところであいつらが大した情報を持っている訳でもない。生きていてももう死んだようなもんだ」
大きな溜息をついてエリザベスはぼんやりとして天井を見る。
「……明日には死亡したと報告する」
喜助の言葉で事実上の全滅が確定した瞬間だった。
「やれやれ、5人分も部屋の整理なんて誰がやるんだい?」
戦死した兵士の遺品を整理して遺族に送り届ける事となっている。
香織はルームメイトがいるため彼女達に任せるとしても残す4人は2人部屋でも1人しかいなかったりする。
「関係が深かったものに任せよう。結城君のは君がやってくれるかな?」
「まぁいいだろう。果たして奴が黒封筒を用意しているかどうか怪しいがな」
万が一、戦死した時のために遺書となる黒封筒が各兵士が任意で用意している。
年齢が上な程、遺品の譲渡と言った内容になるが若い兵士では親しい人へのメッセージが多い。
「よろしく頼んだよ」
喜助は力なく笑った。
翌日。
香織からはそれぞれ宛名の違う3つの黒封筒が、信次からは2つ、秋雄と満太は1つの黒封筒が見つかった。
日課の訓練指導のために陽里の部屋に立ち入るのが夜になってしまい、他のヘッジホッグ部隊の黒封筒の話を聞いて陽里も用意しているかもしれないな、と不謹慎ながらもエリザベスは期待してしまった。
「失礼するぞ」
部屋には誰も居ない筈だが儀礼として声を掛けて鍵を開けて中に入る。
「なっ……」
エリザベスは絶句した。
部屋に予め備え付けられていた家具はある。
だがそれだけだった。
食事は食堂で済ませれば良いので食料・食器関係が何もないのは当然だが、それ以外に目立つような家具は何もなかった。
本が数冊、服が上下2着に下着、タオルに陽里が使っていたであろうパソコン、そして彼の元同居人である五十嵐新のおそらく陽里に宛てたであろう黒封筒だけが2030号室に残された陽里の持ち物だった。
「一体この部屋でどう過ごしていたんだ……!?」
およそ人らしい生活が送れない生活様式にエリザベスは頭を抱える。
整理が楽だ、と冗談すら言う気が失せる有様だがエリザベスは気を取り直して目的のものを探す。
「お、あいつも書いていたのだな」
机の引き出しの裏に貼ると言う妙な手口ではあったが見つけたエリザベスは黒封筒の宛名を確認する。
「書いてないな」
こう言った場合もよく見受けられ、そのような場合は見つけた人に宛てられたものと解釈されるのが一般である。
まして見つけにくいところにあるのだから尚更そう捉えやすい。
早速エリザベスは封を切って中身を確認する。
「これは……!」
この部屋に訪れて2度目の絶句。
「くくく……あっははは」
外から見たら狂人と思われかねない笑い声をエリザベスは上げる。
「ワタシは、ワタシ達は結城陽里と言う男を勘違いしていたのかもしれないな!」
その手から滑り落ちた封筒の中に入った1枚の紙。
そこには何も書かれていなかった。
次回、第2章最終話ですので今日の18時更新とさせていただきます。
よろしくお願いします。




