83.Kill? Destroy?
前々回・前回のあらすじ
・陽里VS香織
・満太が出演決定
「そんな事言わないでよ……。わたし達仲間でしょ? 皆に言えない事ならわたしにだけでも相談に乗るよ?」
香織は目の前に立つ槍頭が光り輝く雷槍を片手で構えた陽里を心配そうに見る。
機械甲冑越しであるためその様子がわからないがその声色から表情を予想することは難くない。
「……」
だが陽里は何も言わない。
「ねぇ、何も言ってくれないとわかんないよ。このままじゃわたし……陽里くんを反逆指定しなくちゃいけないの!」
どの軍でもそうだが連合国軍での裏切りは重罪である。
軍法会議に掛けられるが反逆罪の判決は9割は死刑である。
では残りの1割はと言えば何か重要な情報を握っている者を拷問し続けられる。
軍を裏切るには相応の理由がある。
そう言う場合、特にこの時代では神和国の情報を持っている可能性が高い。
神連戦争が始まってから極めて情報がない今、神和国に関わる情報な何よりも重要視されている。
そんな情報を持っていると疑われたら人道を無視してでも拷問に掛けるだろう。
また、香織の言う反逆指定はその疑いが晴れるまで反逆指定された者は阿羅機の使用が出来なくなる。
もし戦闘中に不用意に行えば指定された阿羅機士は間違いなく魔獣に襲われて死亡するため、故意・過失問わず誤った反逆指定は反逆罪並に厳しい。
現在、陽里は連合国軍を裏切っている事は明らかで香織が反逆指定した場合、陽里は直ちに阿羅機が解除されて香織に捕まり、取り調べを受けて死刑か拷問を受ける未来が確定する。
陽里からすれば反逆指定を受ける訳にはいかない。
香織も現状の認識がおかしくて勘違いで反逆指定してしまいその過失による罰を受けるにはいかないし、反逆指定を使った事もないのでどうなるか全くわからない。
そして何より陽里が裏切る筈がないと信じているから反逆指定出来なかった。
睨み合いが続いたがまたしても動き出したのは陽里だった。
ブースターで助走し全力で右手に握られた雷槍を投げる。
この時点で既に音速に近い速度であり、彼我の距離は15mと言う事もあって投げ放たれた時には瞬きする間もなく香織に迫る。
香織は直ちに宙に浮いた2機の砲子で雷槍に狙いをつけて同時射撃する事で雷槍の軌道が逸らす。
右腕に当たったものの防御面にも秀でているシェキナーの装甲を破るまでにはいかず目立った傷程度で済んだ。
続いて香織に迫り来るのは助走した陽里だ。
さらに加速しており彼もまた亜音速まで加速していた。
残った3機の砲子で陽里に狙いを定めて一斉射撃。
『オートスクエアガード』
ケラウノスの全面に先程と同じく正方形のバリアが張られて防がれる。
(どうして……!?)
2度も通じないと香織は既に対策を講じている。
「ユメザクラ!」
香織の声と同時に右手に日本刀のような刀が現れる。
(どうして陽里くんと戦わなくちゃいけないの!?)
すぐさまそれを陽里に上段から斬りかかる。
それを見切って陽里は左に体を回転させて香織と擦れ違う。
「雷刃」
『ブレード展開します』
ユメザクラより長い全長120cm程の直刀のエッジが光り輝く。
「古式武装なんて珍しいね。あの時持ってた刀袋はそう言う事だったのか」
陽里は以前の休暇で香織が刀袋を持っていたのを思い出して香織が剣術に心得があるのだと理解する。
雷刃や雷環、香織の使う砲子と言った所謂通常の武装とは質量エネルギーを使った武器の総称である。
攻撃・防御のいずれかあるいは両方に特化しておりそのために質量エネルギーの他にMCASSの演算能力を使用する。
一方で古式武装はいずれも使わない武装だ。
阿羅機開発当初に作られており、今では生産される事はまずほとんどなく、生産コストも度外視して作られたものが大半でしかも現在主流の武装に劣ると見られがちな代物だ。
古式武装の利点と言えば阿羅機を使う上でデメリットにならない点だろう。
メリットが薄くても余計なエネルギーも演算処理能力も使わなくていいのだから使う分にデメリットはない。
(あの5機の小型遠隔操作型機動砲台で一杯一杯な訳か。近接戦闘を補う分には十分なんだろうけど)
砲子と同時使用出来るのが古式武装しかなかったのだと陽里は推測した。
「陽里くんが何も言わないならわたしが陽里くんを倒してでも言わせるから……!」
5機の砲子が一斉に陽里に向かってレーザーが放たれる。
およそ0.5秒毎に発射されるレーザーは陽里の動きを予想した位置に向かってのものと敢えて誤差を作って半ランダムなものとが順序なく斉射される。
それを陽里は次々と避けていき雷刃の射程範囲に入った瞬間雷刃を薙ぎ伏せる。
(やっぱり無理か)
雷刃のエッジは確かに香織の持つ刀――ユメザクラに当っているが斬れる事も融ける様子もなく、直後に砲子から放たれた集中レーザーを避けるべく陽里はバックステップで下がった。
だが下がったところで香織の攻撃は止まず再び陽里は香織に近付くべく避けながら迫る。
2度目の接近を許してしまった香織は先程同様ユメザクラで雷刃を防ぐ。
(甘いっ)
しかし陽里は雷刃を手放してユメザクラの太刀筋を流す。
(え……?)
陽里の予想外の動きに香織は一瞬取り乱すがすぐさま次の攻撃に備えるべく返す刀で防ぎに入る。
素手となった陽里がシェキナーの堅い装甲を打ち破れるとは思っておらず、陽里は香織の動きを視野に入れずに5機ある砲子の内1機を蹴りで破壊した。
そのまま雷刃を収納する。
「スクエアガード」
陽里は手をかざす。
『スクエアガード起動』
現れた雷環をかざした先――砲子は自身のレーザーが詰まって爆発した。
砲子の射出口を雷環で塞いだ事で射出されたレーザーが行き場を失った結果だ。
「雷刃」
『ブレード展開します』
再び右手に出現した雷刃で返す刀が空振った香織の次の斬撃を防ぐ。
通常の半分の火力となった砲子による集中レーザーは陽里の左腕で防がれる程度になってしまいほとんど意味をなしていなかった。
香織は僅か一瞬にして2機の砲子を破壊された事に驚愕する。
ここに来て初めて香織は陽里の実力を目の当たりする事になったのだ。
「さようなら、香織」
主要な攻撃手段を失った香織は戦う事は出来ない。
当然ケラウノスの速さから逃れる事は不可能。
刀を持つ手を斬られ、次いで胴を斜めに斬る。
しかし装甲が堅かったために致命傷を与えられたものの即死させる事は出来なかった。
「どう……して……」
どうして。
(今更名前で呼ぶの……?)
香織の目には出会って、抱えていたものを取り払ってくれた救世主が写る。
(ああ、それでもわたしは陽里くんの事が……)
声に出来ず香織の意識はそこで途絶えた。
「シェキナー……討滅完了」
真っ赤に染まったケラウノスは感慨に浸る事すらなくすぐさま次なる標的に向かって飛び出す。




