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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
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80.Warping destiny

「この3ヶ月弱、退屈だった」


 陽里は今までの心内を明かす。


 来る日も魔獣(ホレット)が現れない退屈な日々。


 何のために自分は阿羅機(この力)を持ったのか、その問いが浮かんでは答えが出せずに消えていく。


 まるでページを捲ればそこに字が当然あるかのように。

 何故そこに字があるのか、予想された物語がそこにあるのか。


――いっその事何も書かれてなければいいのに。


 いつからだろうか、彼が阿羅機士(アルハーダー)になるよりも前の事だろう。


 それが狂気なのだと彼も理解していた。


 だからこそ具体的な事は言わず言うにしても曖昧に言ってきただけだ。


 彼を取り巻く世界は彼にとってあまりにも退屈だった。


 それだけの理由で彼は今、その身に課せられた運命を歪めようとしている。


「ルナに興味を持ったのはそんな時だ」


 人知れず戦い続ける彼女に陽里は好奇心を抱いたのだ。


 知れば知る程わからない事が増えていった。


「変態ね」


 ルナリアはバッサリと陽里の話を切り捨てた。

 戦闘狂として、嫌われ者の自身に興味を抱く事にルナリアは陽里を貶した。


「ただ、今わかる事はルナといれば戦える」


「そうね」


 魔獣のみならず阿羅機士をも敵に回した彼女にもう居場所は表の世界には存在しない。


「でもいいの? そのためだけにヨーリは世界を裏切るのよ?」


 今ここで陽里がルナリアの手を取れば陽里もまた世界を敵に回す事になる。


「いいと思うよ。ページを捲った瞬間、ページは真っ白、あるいは発狂したかのように意味不明な文字の羅列だった。ボクはその方が面白い」


「やっぱり変態ね」


 陽里の真面目な様子に思わずルナリアは笑う。


 笑いが収まり、ルナリアは改めて陽里に手を差し出す。


「あたしに協力して」


「ルナの復讐を手伝おう」


「ヨーリの世界を変えてあげる」


 2人は微笑んで互いの手を握る。


「だけどまずは」


 陽里は振り返って遠く何も見えない闇を見る。


「逃げなきゃね」


 常人のルナリアからしたら何も感じる事は出来ないがここに向かってきている阿羅機士が3人いる事は知っている。


「逃げる? 討滅(・・)するしかない」


「ちょっと、ついさっきまで仲間だったでしょ!?」


 陽里の非常識な考えにルナリアが驚く。


「ボクはもう佐畑……さっきルナが殺した人の死を上官達や同僚に対して嘘を付いている。もう裏切っているも同然だ」


 信次が撃たれるまで陽里もルナリアの存在に気付かなかった。


 もしあの場で陽里が先に撃たれていたならば死んでいたのは陽里の方である。


 だがルナリアからすれば陽里と思しき人物と知らない男がこちらに歩いて来ているのをスコープを覗いて見ており、知り合いより全く知らない赤の他人を撃ったのであり陽里が撃たれなかったのは偶然ではない。


 とは言え陽里は既に任務に背いているので裏切りと仲間から断定されるのは必至である。


「だからって……殺すの?」


「現状からボクの要望を叶えるのはルナしかいないと思う。ならボクはルナを守る最善の方法を取るだけだ」


 陽里はそう言いながら以前恩師に言われた事を思い出す。




「いつまでも下の立場にいられると思うな。言われた事をやるだけではダメだ。いつかは自分の一言で部下や仲間の生死を左右する事になる。最善を追うのが至上命題であるワタシ達は時に命令しなければならない事がある」


 恩師――エリザベスは以下のような状況を陽里に例えた。


 6人で構成された部隊があるとする。

 彼らが派兵された先に民間人が500人いる集落があったとしよう。

 そこに魔獣6体が襲ってきた。

 部隊全員が1対1で対処すれば隊員は誰も死なずに討滅は出来るだろう。

 だがもし魔獣が戦闘から何らかの手段で逃走・離脱して集落を襲ったならば集落はほぼ全滅するだろう。

 ならば隊長はどうするべきか。

 1人ないし2人を集落の護衛を任せ残りで魔獣を討滅する作戦を立てる。

 もし集落を襲うにも護衛が時間稼ぎをすれば追いつける。

 だが討滅のリスクは上がるだろう。

 それで隊員の誰かが死んでしまっても集落を守れる可能性は大きいのだ。

 6人の命より505人の命を取るべきなのだ。そこに1人の犠牲は無に等しい。


「貴様には仲間を殺す覚悟があるか?」




(ボクの答えは……イエスだ)


 陽里は再び阿羅機(アルハード)を起動して光の粒子が彼を包み込む。


(ただし、504人の命を犠牲にしてでもボクは1人の命を守る)


 白銀の金属光沢が暗い通路の数少ない光を反射させる。


(そして506人目はボクだ)


「雷刃……展開」


『ブレード展開します』


 陽里のつぶやきと共に全長120cm程の直刀が出現し、MCASS(バックアップシステム)がの声が彼の脳内に言葉が響くと同時にそのエッジが光り出す。


 1度に使える時間は限られているがケラウノスに備えられた無類の鋭さを持つ武装(デバイス)の1つだ。


「ルナは後ろの1人を足止めしてくれ。ボクがその間に2人片付ける」


 陽里の見る画面からは青い点が3つ。


 いずれもバラバラに分かれており1度にまとめて相手にする事は出来ない。


「あたしの狙撃の腕を舐めないで欲しいわね」


 空になった薬莢を抜いて新たに装填したルナリアは遠くを見定めて構えに入る。


「あたしが2人……討滅(・・)してあげる」


 ルナリアは敢えて本来阿羅機士が魔獣を殺す時に使う言葉を阿羅機士に向かって言った。


「……期待してるさ」


 尤もそんな事させないけど、と陽里は付け足して目の前に迫り来る阿羅機士()に向かって加速する。


 陽里からすれば獲物を盗られるようなものである。彼にとっては不本意な話なのだ。


「さて、久々の戦闘だ」


 隠せない程にその笑みは妖しいものだった。

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