77.Re:Interaction
ブクマありがとうございます!
「な、なななななんでいるの!?」
あまりの動揺に椅子から落ちそうになったがギリギリのところで踏ん張って耐えた。
「さっきルナの声が聞こえたから来てみただけだよ」
「え、そんな覚えないけど……あ」
先程ぼそっと呟いた事をルナリアは思い出した。
たった一言呟いた声を聞いただけで誰だと特定するだけの精密過ぎる陽里の記憶力にルナリアは疑念を抱いた。
「嘘……でしょ」
ルナリアは敢えてカマをかけるような言い方をして陽里の出方を窺う。
「まぁね」
陽里は隠す事なく答える。
「……じゃあどうして?」
まさか易々と引っ掛かるとは思わなかったルナリアの思考は一瞬フリーズするもすぐさま回復する。
「当たりをつけてみたら偶然君が居たから」
「ちょっと意味がわからないんだけど」
あまりにもいい加減な説明にルナリアはジト目で陽里を睨む。
「じゃあこう言えばいいかな」
陽里は結露したコップに入ったコーヒーを飲む。
「最近奇妙な殺人事件があってそれについて調査しているんだ」
意味深長な顔の陽里の様子からルナリアは理解して警戒レベルを臨戦状態にまで引き上げた。
「……そう、それはご苦労様ね」
だが顔に出す事はせず流すように相槌を打つ。
「ボクは知りたいんだ」
「何を?」
「ルナの目的を」
ルナリアからすればこの質問は陽里がルナリアが犯人だと断定しているように聞こえるが、当の陽里本人からすれば別の話題に移っているのおり、彼らがその事に気付けないのは立場上無理のある話だった。
「あたしがやったと思ってるの?」
「ボクの質問に答えて欲しい。あの時聞けなかったその目的を」
ルナリアのアメジスト色の瞳が陽里を睨む。
あの時――それは2人にとって2回目の邂逅――冥界犬を討滅した直後の事だ。
敵同士の筈の2人が互いにいつでも殺せる状況だったにも関わらず何もせずに終わっただけだった。
2人はまだ互いの事を知らない。
強いて言えばルナリアは陽里が凄腕の阿羅機士である事、陽里はルナリアが神がかった狙撃手である事ぐらいである。
だからこそ陽里はルナリアに興味を抱いている。
歴史の流れに朽ち果てた武器をその白くて細い両腕で大切に抱えている彼女が見ているものが何なのかを。
「……復讐よ」
あなたの嫌いなね、とは言わずに陽里から目を逸らして答えた。
「そうか」
それ以上の事を訊かずに陽里は再びコーヒーを飲む。
「ルナのさっきの質問だけど。ボクはルナが犯人だと断定している」
そう言って陽里はポケットから何かを取り出した。
「……何それ」
僅かに動揺してしまった事をルナリアは酷く後悔したが今更と言う気持ちもあって後悔はすぐに鳴りを潜めた。
「2ヶ月くらい前の魔性犬の脳から取り出したものだ」
それは陽里がA師団に来て初めて魔獣を討滅しに出撃した時に見つけた物だった。
「これは目から入ったものだ。つまり撃たれたと言う事になる」
続いて陽里は空間画面を出現させてある画像を見せる。
「これは1人目の殺害された女性兵士から見つかった銃弾の画像だ。ほら」
手に持っていた銃弾が画像の物と同じである事を陽里は示した。
「それで? あたしと関係ないでしょ?」
「君は強情だ」
既に言い逃れが出来ないとルナリアも思ってはいるが引っ込みがつかないために彼女は否定し続ける。
「ボクの予想では今回の事件の話がA師団内で広がれば証言者が現れる。金髪の女が銃を使っていた、と」
ルナリアは陽里以外の兵士に自身が銃を使っていたところを見られた事があるかを思い出そうとする。
「冥界犬の時だよ」
その様子を感じ取って陽里はヒントを言う。
(あ……)
思い当たった顔が陽里からもわかる程浮き出てしまう。
「彼の名前は和堂……」
思えば下の名前を知らなかった事に気付き陽里は苗字だけ告げた。
エリザベスが率いた6人分隊で生き残ったのは3人――エリザベス、陽里と和堂である。
また、ルナリアを見た者は陽里の他に既に死んだ日下部、そして和堂である。
従って現在生きている陽里と和堂がルナリアの存在を知っている。
「殺し損ねたのが悔しいわね」
ルナリアは自嘲する。
尤も目の前の青年に隠す事は出来なかったので半ば諦めていたのだが想定以上にマズい状態であった事に嘆かずにはいられなかった。
「でもいいの? あたしに教えて」
知ったからには身元を調べて始末しなければならないと理解して立ち上がろうとする前に陽里に尋ねる。
「今回ボクに与えられた任務は殺人事件の調査だ。殺人鬼を仕留めろとは言われていない」
「答えになってない」
意味を図りかねてルナリアは首を傾ける。
「これでルナが今日何もしないだろうとわかった」
「……それはヨーリが仕向けた事でしょ」
この後ルナリアはすぐさまその和堂と言う人物を調べなければならない。
致し方ないとは言え陽里の手の平で踊らされる事にルナリアは苛立つ。
「ねぇ」
陽里が座ってから食べていなかった忘れかけのサンドイッチを食べる。
「何?」
「どうしてそんな事するの?」
敢えて指示語で何を指してるか曖昧にしてルナリアは尋ねる。
「退屈なんだ」
「え……?」
「いくらページを捲っても代わり映えのない事に」
「何言ってるかわからないんだけど」
だが陽里はそれを無視して続ける。
「それに……」
陽里はコップに入った氷が半分以上解けて薄くなったコーヒーを飲み干す。
「終始そんな寂しげな目をしてたら何か気になるでしょ」
陽里は立ち上がって店を出ていき、ルナリアはぽかんとしてそんな陽里を目で追う事しか出来なかった。




