74.
正しく“茶番”回
陽里と満太が師団長室に入る前の話である。つまり香織が直談判中の時だ。
「オイもなんで師団長室に行くのです?」
突然陽里に師団長室に共に来てくれと言われて納得出来はしない。
至極当然の疑問を投げかける。
「木下の暴走を止めるためです」
「暴走?」
そう言った様子は確かに満太の目にも映っていたが目的がわからなかった。
「理由はあっても目的なんてありませんよ」
僅かに呆れた様子を見せて陽里は立ち止まる。
「おそらく彼女は今頃赤嶋副隊長の除隊を進言しているでしょう。尤もそれが目的とは思っていないでしょうけど」
ちなみに陽里のこの予測は外れており、現在香織は喜助に秋雄の非難を言い続けている。
「副隊長を追い出したい訳ではないのです?」
「木下も副隊長には多少の恩義を感じている筈ですからね。そこまでするつもりはないでしょう」
うっかり言い過ぎた結果だと陽里は付け足す。
「それとオイが何の関係があるのです?」
「木下の暴走は丸腹陸曹と副隊長の関係が悪い事に起因しています。なのでまずはその暴走を止めましょう」
止めていた足を再び動かして2人は師団長室へ向かう。
「副隊長とオイの関係です?」
この時になって陽里は満太が秋雄に対して悪感情を抱いていない事に気付いた。
その事を訊くと満太は
「それはオイが全面的に悪いのです。罰はちょっときついですけどそれは副隊長が厳しいだけです」
満太にとって秋雄は自分にも他人にも厳しい人間だと思っている。
陽里もこのおよそ4週間を通して秋雄がそうした人物であると思っていたが満太もそう感じていたとは思わなかったのだ。
体罰を越えた一方的な暴力を振るわれても憎まないと言うのはなかなかにないものだからだ。
「なら一芝居打ちましょう」
「え?」
唐突に陽里は説明しだして満太が気付いた時には師団長室の前にいた。
「と、言う感じでお願いします。では」
陽里は一通り説明しきったところでドアをノックする。
「ん、誰かな?」
取り様は様々だが陽里は入室の許可と受け取って扉を開ける。
そこにはソファーに座った喜助と立ち上がったであろう香織の姿があった。
「陽里くん……満太さん……」
香織は見るからに驚いた顔であったが陽里にとって今は関係のない事だった。
(思ってたより話が進んでたな)
「木下一等陸士の報告は誤りであります」
陽里からしたら一体どんな報告をしたのか知らないが全て予想して話を進める。
「ほう」
喜助が不敵な笑みを浮かべたのを陽里は見て香織が秋雄についての報告をしたのだと確信した。
わかっていたとは言え見当違いの事を言う訳にもいかず慎重に確信出来たものとそうでないものを分ける。
「ヘッジホッグ部隊において赤嶋少尉は火鼠を討滅しA区の防衛に貢献しました」
「それが誤報告なのとどう関係があるんだい?」
陽里のこの言葉の狙いは事実確認だ。
香織が誤報告どころか嘘をついていないかどうかの確認でもある。
もしここで香織が本当に虚偽の報告であった場合、陽里は香織を批難するだけで決着はつくのだが、香織の性格からしてそれはないだろうと陽里は考える。
「丸腹一等陸曹もいたのですが戦闘の硬直を打破したのは赤嶋副隊長です」
「それはあいつが勝手にやった事でしょ! あんなに通路がボロボロになるくらい激しい戦闘にしたんじゃない!」
そして香織は秋雄と満太の関係が悪いものだと思っている事がこの時点で判明した。
ついでに香織が声を荒げるくらいに暴走している事も陽里は判断した。
「と、言っているけど?」
陽里が動くのはここまでである。
後は満太が芝居をしてくれればいいだけだ、と陽里は思ってバトンを満太へ渡す。
「後は当事者である丸腹一等陸曹にお任せします」
陽里はそう言って一歩下がり、相対的に満太が前に出る事になった。
香織が陽里にジト目を向けている事に思わず苦笑しかける満太であるが、緊張で汗が出てハンカチで拭く事で誤魔化した。
「では丸腹一等陸曹、木下一等陸士は虚偽の報告であったかどうか示してくれないかい?」
「は、はいです!」
ビクッとするも満太は大幅一歩踏み出す。
「私、丸腹満太一等陸曹は赤嶋秋雄少尉を憎んではいませんです」
そこにはえっと声を漏らす香織とほうと僅かに笑みを浮かべる喜助、目を閉じて無言で成り行きを見守る陽里がいた。
「だがそうなると木下一等陸士の言っている事はおかしい。過剰な体罰を受けたと聞いたがどうなんだい?」
「いえ、そのような事はありませんです」
喜助の質問に満太は平然と答える。
「それと彼女の言っている事にもう1つ訂正がありますです」
満太が話しだした事は昨日の戦闘の話である。
阿羅機アイギスでは火力不足で討滅に時間がかかり被害が増大したかもしれない事。秋雄が早急に討滅する事で被害は最小限に抑えられる事。
そしてその戦闘時に秋雄は満太の援護に対して礼を言った事を話した。
「そんな事があったなんて……」
陽里、香織、信次が駆けつけた時には秋雄は既にどこかへ行ってしまいその場にいなかったので詳しい事を香織は知らなかったのだ。
それは陽里も同じであるが師団長室に来る前に知った事なのでこれに対して陽里の反応はない。
「と言ってるけど?」
話を聴き終わった喜助は香織に顔を向けて尋ねる。
「知りませんでした……」
香織は俯く。
(まぁどちらも誤報告ではないんだろうけどねぇ)
喜助は今回の件は認識の違いから発生したのだろうと考察する。
(その事は後ででいいだろうねぇ)
思考は結論を出す事に回して顎髭を触る。
「解散の話はなかった事にする。また、今回は誤報告だったとし不問とする。いいね?」
満太がぎょっとするが陽里と香織は頭を下げると、満太も慌てて頭を下げて部屋を出た。
扉の向こうで満太が解散になりかけてたなんて聞いてないと言っているのが喜助には丸聞こえであったが喜助はふっと笑うだけで書類の処理業務を再開するのだった。




