71.
その反応はすぐ近くだと満太は確認した後の動きは誰から見ても大したものであった。
阿羅機が使える条件は大きく分けて3つ。
1つ目は訓練など許可がある場合だ。
ただしこの場合は制約が多かったりと阿羅機本来の性能が大幅に削られている。
2つ目は魔獣が近くにいるとMCASSが判断した場合だ。
これは緊急措置として備えられているものである。
そして最後が――
『A-23区が戦闘区域に指定されました』
ここが戦闘区域内である場合である。
「アイギス起動です」
全身に機会甲冑が現れた時には陸戦型特有の脚力でもって加速と制動を交互にかけていき上下左右にと方向を選ばない急な曲がり角を最短となるよう駆け巡る。
目指す先はMCASSが示している。
「天照壁」
最後の曲がり角の直前で右腕に大きな白い盾を現す。
直角に曲がった満太は秋雄を確認する。
今まさに魔獣が秋雄にとどめを刺そうとする瞬間だった。
「うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
普段の満太からでは考えられない地下街に轟く声が響く。
「だいじょうぶですか……です?」
間一髪間に合った、と満太は確信するも弾き飛ばした目の前の魔獣――火鼠の次の動きに注意して目を離さない。
「まさかその声……クソデブか……?」
「はいです」
阿羅機アイギスは白を基調とした大きな金色の十字架がデザインされた聖騎士のような阿羅機だった。
そして何よりも――
「……痩せてねえか?」
スリムとまで言わないでも太っては見えないのだ。
「これはですね、ちょっときついのもありますですけど縦に長いんです」
立ち上がりながらそう聞いて秋雄は理解した。
満太はヘッジホッグ部隊の中で信次に次ぐ2番目に背が高いのだが今は2mを超えてるのではないかと秋雄自身の背と比べて思われた。
従って相対的に痩せて見えるのだ。
「アイギスは防御特化の阿羅機なんです」
対魔獣兵器である阿羅機は一般に戦闘が過剰過ぎる火力故に防御面がほとんど意味を成さない。
一撃二撃は耐えられるようなものでもその時点で決着が付く事が多く、従って回避に特化したり或いは火力をさらに上げた一撃必殺の阿羅機が多い。
しかし魔獣と言う特性が未知である以上どのような攻撃手段が使われるかわからない。
回避可能な攻撃だけならば構わないのだが回避不能な攻撃を使われた場合、最悪全滅する可能性もある。
そこで味方を庇う事が可能な阿羅機のコンセプトが誕生する。
そうして生まれた阿羅機の例外である防御面に秀でた一例がアイギスだ。
庇うために機体を大きくし装甲を堅くした結果、防御が高いが機体が重かく速度が遅い阿羅機となった。
だが魔獣の火力の高さは異常であり何度も攻撃を受ける事は出来ない。
庇う事が多いために防御特化の阿羅機を使う者達はある意味で最も死ぬ可能性の高い阿羅機士なのだ。
当然そのような阿羅機士は稀である。
「そんな事より目の前の敵です」
満太に促されて秋雄は火鼠を睨む。
「火鼠の皮衣の話は知りませんかです?」
「聞いた事はある」
秋雄は頭の隅に追いやられた日本で最古の物語を思い出す。
かぐや姫の5つの難題。
火鼠の皮衣はその内の1つ、阿倍御主人に出した難題である。
燃えない衣――
「炎には耐性があると思われるです」
秋雄は苦虫を噛み潰した顔になる。
功績に走って大事な事を見失った自分の痴態に対してだ。
魔獣の特性を見抜く事こそ討滅するための必要事項なのだ。
「クソ、やれなくはないがここら一帯融け落ちるぞ」
だからと言って自身の炎が目の前のネズミに通じないと秋雄は思っていなかった。
「夜を昼に変える炎は知ってますですがやめてくださいです」
問題はここが地下でそれも然程に広い通路でもないと言う事だ。
陸戦型阿羅機デュランダルはアイギスと逆に火力特化型である。
やや値の張る機体ではあるが全体的に性能が高く、その中でも火力が際立った機体だ。
しかし炎と言う単純で扱いやすいが拡散性の高いエネルギーを使うために狭い空間での戦闘においては全力を出す事は自滅に繋がりかねない。
さらに言えばここで秋雄が戦闘を続行すればその余波による熱さで満太が倒れかねない。
「まぁいい。下がってろクソデブ」
秋雄は炎剣を格納して満太の前に出る。
拳を構えてファイティングポーズを取る。
「わかりましたです」
思うところがあった満太であるが大人しく引き下がった。
満太だけで火鼠を討滅出来るか怪しいのが大きな理由だ。
そもそも火鼠がランクCであるのが怪しかった。
一般に魔獣は基となる動物が実在のものであった場合はその動物種の身体能力に比例する。
例えば魔性犬と魔性鼠を比較すればイヌがネズミに勝るよう魔性犬の方が強い。
しかしそれはあくまでそのベースが実在の動物だった場合だ。
今回のように基となるものが神話や物語、果ては誰かの空想の産物であった場合は異なる。
前者と後者の強さを比較すれば概して後者の幻獣を基としたものである。
故に同じランクである魔性犬とこの火鼠が危険度が等しいと満太は思えなかった。
そのような事は阿羅機士にとって常識でもあり、もちろんそれは秋雄も同じ考えではあるがA師団の阿羅機士に逃げる事は許されない。
逃亡とはそれすなわち第参都市の陥落に一歩近づく事だからだ。
「覚悟しろ、ドブネズミ!」
腹部の火傷に耐えつつも秋雄が動き出した。




