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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
71/249

68.

注意:お食事の時間を避けてお読みください。

 その日、ヘッジホッグ部隊に与えられた部屋にてまたもや怒声が響いた。


「また遅刻してんじゃねえかこのクソデブが!!」


 首を掴んで力尽くでその巨体を引っぱり倒す。


「言ったよなぁ!! 次はねえって言ったよなぁ!!!」


 うつ伏せに倒れた満太の横腹を足裏で蹴り仰向けにさせる。


「ご……ごめんなさい、です」


 やっとの思いで声を出した満太は呻きながら謝る。


「ごめんで済みゃ俺様の怒りも安いもんだな、あん!?」


 仰向けになった満太の膨れた腹に秋雄は足を落とす。


「……っ!!」


 胃に入っているものが溢れないよう堪える満太。


「時間を、忘れて、飯食ってる、クズが!」


 秋雄はなおも同じ所を蹴り続ける。


 その度に堪えている満太だが限界が来たようで6度目の蹴りで満太は嘔吐した。


「おべえええ」


 仰向けだったために口から出た吐瀉物は口に溜まり窒息しかける。


 吐瀉物が見えたところで秋雄は気持ち悪がって蹴りを止めた。


 そのおかげで満太は体を回して四つん這いになり床に胃にあったものを吐き出す。

 固形物が見えるのは消化がまだ完了していない証拠である。

 量は多く、臭いが秋雄にまで伝わったところで満太は吐き終わった。


「早く拭けよ」


「……」


「早く拭けよ!」


 四つん這いになっていた満太の尻を秋雄は前方に蹴る。

 蹴られた満太は倒れてズボンに床に吐いた自身の吐瀉物が付く。


「もう、もう止めてください!」


 あまりの剣幕に何も出来ずにいた香織が秋雄を止めようとする。


 事の始まりは満太が朝食に時間が掛かり、集合に遅れた事だ。

 以前にも同じ事があったために秋雄は激怒し今に至る。


 陽里と信次は我関せずとして各々勝手にしている。


 秋雄の制裁は過剰と言えるが遅刻した満太にも非があると彼らは考えていた。


 だが、香織だけは違った。


 満太は吐瀉物に塗れた手でポケットからハンカチを取り出して床を拭くが、すぐにハンカチの許容量を超えて使い物にならなくなる。


「……拭く物がありません……」


 満太が恐る恐る秋雄に告げる。


「んなもんてめえの服で拭けよ」


 汚いものを見るような目で秋雄が満太を見下す。


 満太は徐ろにワイシャツを脱ぎ出す。


「タオル、わたしのを使ってください」


 耐え切れなくなった香織はバッグから薄いピンクを基調としたのタオルを取り出して満太に手渡す。


「ありがとう、です」


 そう弱々しく礼を言う満太に秋雄は舌打ちをする。

 それに対して香織は秋雄を睨む。


「いいから早く拭けよ、ノロマ」


 満太は戸惑う。


 その手に握られたタオルは染み1つない新品みたいな物だった。

 このタオルはこの前の休暇で香織がルームメイトと共にショッピング時に買った物だった。

 新品ではないが使って間もないため傷みもせずに綺麗だったのだ。


 だが満太が今の状況でそれを知る由もなく酷く申し訳ない気持ちになり、拭くのを躊躇ってしまう。


「さっさとしろこのクソデブ!」


 秋雄の怒鳴り声にぴくっと反応した満太がようやくタオルで拭き始める。

 薄ピンク色のタオルが白とも黄色とも茶色とも言えない自身の吐瀉物によって汚れていく。


(うぅ……)


 それが堪らない気持ちになって彼の罪悪感を駆り立てる。

 香織は満太が彼女に対してそう言った気持ちでいるとは全く思っておらず、屈辱を受けた辛さとして彼がそう言った顔なのだと思っていた。


 なんとかしようとこの状況を打開しようと考えるが自分だけでは出来ないと言う結論に至ってしまい、香織は陽里の方を見る。

 その陽里は相変わらず紙の本を読んでおり、満太への関心が全く見られなかった。


「陽里くん……」


 しかし香織は諦めなかった。

 香織は陽里の肩を叩いて目でこの場の状態を解決してくれと頼む。


 陽里はしばし無言無表情で満太の床拭きを見ていたが溜息を付いて秋雄の方を見る。


(ボクに頼まれても困るのだけど)


 それが陽里の率直な気持ちだった。


 陽里の考えでは放っておけば満太が床を拭き終えて一言二言秋雄が文句を言って終わるだろうと思っていた。


 仮に陽里や他の誰かが早く探索を再開しようと提案したところで秋雄は目下からの命令を嫌う性格の持ち主のために話が余計に拗れるだけだ。


 そもそも秋雄がここまで怒るのは満太の遅刻だけが理由ではない。


 ヘッジホッグ部隊結成から既に3週間が経ち、未だに成果を1つも挙げていない事に秋雄は焦っているのだ。


 居るか居ないかもわからない存在を見つけるのは難しいしそんなに躍起にならなくてもいい、とはこの部隊の隊長である喜助が秋雄に送った言葉だ。

 それでも己のプライドが許さないのか、秋雄は日に日にイライラした様子が酷くなりついに今日それが満太の遅刻によって爆発したのだ。


(早く終わらないかな……)


 昨日の出来事で陽里は早く出動したいと別の事を考えていた。

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