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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
70/249

67.

ブクマ感謝感激です!

いつも読んでいただきありがとうございます。

「発泡音ですか……」


「そうよ。もっと静かにならないの?」


 悩ましげな様子の男――店主に対してルナリアは文句を言い続ける。


 来店早々にルナリアが文句を言い始めたためにいつものアイスココアはない。


 陽里達がA-19区(旧鎌倉)の探索初日――つまりルナリアが銃を受け取ったその日――彼女は休暇中の女性兵士1人を射殺した直後にここへ赴いた。


 早いお帰りでしたね、とジョークを言った店主だったがルナリアの様子を見てすぐに藪蛇だったと気付いたが時遅し。

 それに半ギレしたルナリアが文句をまくし立て、そして今に至る。


「善処致しましょう」


 ここで食い下がっても無駄な事だろうと店主は思いルナリアの狙撃銃の欠点改善を引き受ける。


「流石にあの音は目立つわ」


 人が死んだ事件である。必ず何かしらの捜査が行われているのは火を見るより明らかな話であり、ルナリアはその尻尾が掴まれる可能性を危惧した。

 尤も、捜査する側は2.5km遠くからの狙撃だと言う事実に翌日になっても辿り着けていないのだが。


「おそらくサプレッサーを取り付けたところで改善はしないでしょう。根本的な見直しが必要なようです」


「あまり形まで変えないでよ? 慣れてないと当たらないんだから」


 何より慣れ親しんだ愛銃の握った様子が変わる事をルナリアは嫌だった。


「わかってますよ」


 その点の拘りをわかってか店主は微笑む。


「もう3日あればなんとか出来ます」


「じゃあ明々後日また来るわ」


「その時はアイスココアをご用意致しましょう」


 2度も提供するのは如何なものかと店主は思ったしルナリアも頼むつもりもなく要件だけ伝えて出て行った。


「困りましたね」


 誰もいない喫茶店で店主は呟く。






 そして3日後。


「いらっしゃいませ」


 店主の予想通り来客者はルナリアであった。


「お待ちしておりましたよ」


 にこやかに言う。


「それはこちらのセリフよ。マスターが待たせたのよ」


「おっと、そうでしたね」


 そう言って頭を掻いて店奥にからケースを取り出す。


「ご確認ください」


 ケースを受け取ったルナリアはすぐに中を確認する。


「発砲音の原因はやはり高圧ガスが銃口から飛び出たものでした」


「つまりサプレッサーを付けたって事? 意味がないって言わなかった?」


 ルナリアは変化したところを見つけるべく分解された銃を見て弄るがサプレッサーもなければ形状の変化が見当たらない。


「弾薬を元に戻そうかと思いましたが――


「却下」


 ルナリアはすぐに店主の案を拒否する。

 射程距離は対阿羅機(アルハード)に対して非情に重要な要素であり、長くなった射程が短くなる事がルナリアは許せなかった。


「と、仰ると思いましたので少し特別なものを銃弾にコーティングさせてもらいました」


 そう店主に言われてルナリアはケースの隅でまとめられている銃弾を見る。


「なんかすべすべしてるって言うよりぬるぬるしてるんだけど……」


 その肌触りはローションのような液体のような感覚ではなく、しかし磨かれたガラスのような固体としての感覚でもない。


「表面層に摩擦を減らす特殊素材ですよ」


 その正体は企業秘密ですが、と付け加えた店主にルナリアはジト目で睨む。


「なんか使いたくないんだけど」


 得体の知れないものに猜疑心を抱かざるを得ないルナリア。


「ご安心ください。決して怪しいものではありませんよ。ちなみに熱でコーティングが融けるので、発泡すれば融けますし暖炉に投げ込まないでくださいね」


 尤も、弾薬入りの銃弾を放り込めば爆発するためそのような真似が出来る筈がない。


「それで、それが発砲音にどう繋がるの?」


 ルナリアの当然の疑問に店主が長ったらしく説明しだす。

 しかし自分で訊いておきながらその半分以上を聞き流したルナリアは話し終えた店主にこう言った。


「で、まとめると?」


 店主も店主でルナリアが興味がないだろうとわかっていて語り出したのだから質が悪い。


「流体力学に則って爆発音を抑えました」


「あっそ」


 ルナリアは手に取っていた銃弾を仕舞うのと同時にあるものを発見する。


「これは何?」


 銃弾ではあるが通常のものとは違い色が白銀色のものだった。

 その数5つ。


「銀の弾丸とか悪魔でも狩る気?」


 確かにルナリアは悪魔とも言える魔獣(ホレット)を討滅はするがそれは悪魔のようなものであって本物の悪魔でもなければ彼女はドラキュラハンターでもない。


「持ってみればおわかりになると思いますよ」


 その白銀色の銃弾は他のものと違って丁寧に収納されていて弾数も少ない。

 ルナリアはその内の1つを手に取って理解する。


「おっも!」


 それは持ち慣れた銃弾の2倍以上は重かった。


「オスミウムとイリジウムの合金弾でございます。威力は通常の5倍はあるでしょう。ですがそれ1つでこの都市で働く平均的な一般人の1ヶ月分ちょっとの給料になりますのでご利用は計画的に、です」


「ちょ、そんなもの買えないし頼んだ憶えないわよ!」


 衝撃の事実に手にしていた銃弾を落としかける。


「これはお詫びですよ」


「珍しい事もあるのね」


 ルナリアが皮肉を言う。


「申し訳ない事をしましたからね。数は少ないですがせめてものお詫びです」


「そう。じゃあ貰っておくわ」


 そう言ってルナリアはケースを閉じて席を立つ。


「もう行かれるのですか? アイスココアはいかがですか?」


 店主がその背に向かって声を掛ける。


「今日はいいわ」


「そうですか」


 店主はそれ以上言わず、ルナリアは店を出る。


(隊員数は6人ですが1人は動かないでしょうし全員に各1発で仕留められると信じましょう)


 店主はルナリアに何に対する詫びかを言っていない。


 あまりにも大き過ぎる詫びにどう言った意味が込められていたのかルナリアが知るのはまだ先の話である。

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