66.
爽司と信次の言い合いがあったが、結局爽司のおかげで魔性蜘蛛から凌げた事が信次が爽司に対してだけ態度が違う理由だった。
「ま、オレよりこいつの方が優秀だからな。気付いたら階級抜かしやがったんだよ」
弁当が空となりゴミを袋に入れた爽司は足で信次を指した。
「先輩が阿羅機士を辞めてなければもう少し違ったかもしれませんよ?」
微妙に気遣った言い方で信次は爽司に不満を言う。
「そう……じさんは今じゃヘリパイロットですね」
危うく宗田と呼びそうになった陽里は寸でのところで名前に切り替えた。
「事情があってな……」
爽司の表情があまり優れていない事に気付いた陽里は信次の様子を窺う。
その信次は少しだけ目を細めて訊くなと言った雰囲気が出ている。
「そう言えば結城には先輩や後輩はいないのか?」
爽司の話から逸らそうと信次は柄にでもないなと思いながら陽里の事を訊く。
「学生時代に1人後輩がいました」
信次の意図を理解した陽里は素直に答えた。
「お、どんな奴だ?」
爽司も話に乗っかる。
「大人しい後輩でしたね」
陽里はその後輩を思い出しながら答える。
臆病でどこか不安定なところがあるが頭のキレる人物だと陽里は評している。
「今はどこかで阿羅機士をやっているのではないでしょうかね」
後輩と言っても陽里との関わりはあまりなく、陽里が卒業してからの音信はないがその後輩が阿羅機士を目指していたのを陽里はよく憶えていた。
「陽里の後輩ねぇ」
爽司は頬を若干引き攣らせて苦笑する。
「どうかしたんですか?」
信次が尋ねる。
「1人で魔性犬の群れに突っ込むような奴の後輩が一体どんな問題児なんだろうなって思ってな」
「怒りますよ?」
失礼な言い方だと思いながら陽里は爽司を睨む。
「そう睨むなって。冗談だよ。冗談」
爽司は心にもない事を言いながら誤魔化す。
「それじゃオレ達は遊んでくるわ」
爽司は立ち上がってダーツを投げる真似をする。
「私はやりませんし聞いてませんよ」
信次が呆れた表情をして爽司を見る。
「まぁいいじゃねえか。たまの休日だ。パァーっと遊んで夜は飲もうぜ」
ダーツの他にもビリヤード、バッティングの真似をする爽司。
「はぁ……わかりましたよ」
いつもの流れだと言った具合で溜息をついた信次も立ち上がる。
「ご飯ありがとうございました」
「いいって事よ」
「おにぎり1つだけじゃ可哀想だったからな」
陽里の礼に2人は答える。
「いや、流石に弁当はやれんだろうが」
「おにぎり1つで足りる訳ないじゃないですか」
「そこはその……昼飯逃した陽里が悪いんだろうが」
「まぁそうですね」
そう言って2人は陽里を見る。
(頼んではいないんだけどなぁ)
とは思うものの恵んでくれた事は感謝すべき事で何故か2人に批難するような目で見られる事に不満は覚える陽里だが口には出さない。
「それじゃあな~」
爽司はそう言って手を振って、信次は無言で目だけで挨拶をしてこの場から去って行った。
陽里もこれからする事もなく、だからと言って再び自主訓練する気にもならずこれからどうしようかと考えていたが――
「あ、陽里くん!」
陽里は声がした方向を見ると女子3人組の真ん中にいる刀袋を背負っている茶髪の少女が手を挙げて振っている。
「誰?」
3人組の1人が尋ねる。
「同じ隊の人だよ」
手を挙げた少女――香織は他の2人に先に行っててと言うと彼女らから茶化され、首を激しく横に振るもするも顔を赤いとさらに茶化される始末だった。
2人は香織を励まして走り去っていった。
「だから違うってば!」
両手を握りしめて怒るも2人は聞く耳を持たなかった。
「どうしたの?」
香織達3人の様子を見ていた陽里であったが距離が遠くどのようなやり取りがあったかわからなかった。
「な、なんでもない!」
その様子からしてなんでもなくはないだろう、と思うもそこまで興味のある事でもなく訊くのも藪蛇だと思いそれ以上の詮索を陽里はしなかった。
「ところでさっき佐畑さんに会ったけど陽里くんも会った?」
陽里が詮索を止めた事で静寂が訪れ、何か話さねばと感じた香織が出した話題がこれだった。
「会った。と言うより一緒に食べてたんだ」
そう言っておにぎりとサンドイッチが入っていたゴミを見せる。
「あー、食堂は今混んでるもんね……」
その様子を知る者の1人である香織は残念だったねと同情する。
「「……」」
再び静寂が訪れる。
(話題……話題……)
香織は陽里とのこの微妙に気まずい雰囲気を打開しようと最近の出来事から共通する話題を探すがなかなか見つからない。
(思えば陽里くんと会って全然だもんね。……って陽里くんの事知らないなら知ろうとすればいいんじゃない!)
「それじゃ、ボク行くよ」
さぁ訊こう。と思ったところで陽里は立ち上がる。
「え……どこに?」
出端を挫かれた香織はシュンっとして尋ねる。
「部屋だけど」
陽里も陽里でこれからどうしようかと考えていて、香織のひらめきと同時にふと思い立ったのだ。
あわよくば付いていこうと思った香織だったが叶わぬ夢だと思い知り落ち込む。
「じゃあ」
「あ、えっと、また明日」
そうして陽里は宿舎へと向かう。
彼の頭にはとある銃弾を思い浮かべながら。
一方の香織もその後1人で女子宿舎へと戻るが、先程のルームメイト2人から根掘り葉掘り訊かれるがあまりにも収穫がなくて同情されたのだった。




