65.Senior and Junior
翌日。
突然に休暇を与えられた陽里であるがいつもと変わらず変わらない朝を過ごしていた。
「うーん……」
自室に戻って武装を調整していたが前回の調整から1回も使っていないため作業はすぐに終わってしまった。
「退屈だ」
陽里が最後に阿羅機を起動したのはエリザベスとの卒業試験である。
実戦ではないもののそれに近い形でやっただけあって陽里も満足のいくものであった。
生活に必要な物は結局買いに行く機会がいつになるかわからなかったために発注して既に届いてしまっているため、買い物に行く必要はない。
(外に出るか)
どうしようもなく暇になった陽里は外に出て気晴らそうと思い立った。
「……」
結局外に出て敷地内を適当に2時間程走ったはいいが陽里の気が晴れるものではなかった。
『戦闘区域または許可がないため現在阿羅機の起動が出来ません』
わかってはいたが阿羅機を起動させようと試みた結果がこれだった。
無断で破壊兵器を私的理由で使う事は当然ながら出来ない。
尤も、相手がいないために陽里が阿羅機を起動する意味がない。
走ったばかりの体にさらに夏の太陽と言う悪魔の組み合わせを避けるべく芝生に1本の木があったので、陽里は木陰で仰向けに倒れた。
「よう、問題児!」
息が整った頃に聞き覚えのある声がした。
陽里が起き上がると爽司が袋と水筒を持ってやって来た。
「今日は休みなんだってな」
「はい」
爽司は腰を降ろして木に寄り掛かる。
「オレも午後から休みだ。やっほい!」
歓喜のあまり爽司は万歳して叫ぶ。
「爽司先輩、ここでしたか」
続いて信次が現れる。
「おう、ここだー」
爽司は片手を挙げて信次を招く。
信次も爽司と同様の袋を持っていた。
「なんか女子っぽい場所ですね」
信次は袋から弁当を取り出す。
どうやら2人はここで昼食をとるのだと陽里は理解した。
「芝生で木陰で弁当とくりゃそうかもしれんが大の男がやったっていいだろ」
爽司も弁当を出して割り箸を取り出す。
当然ながら2人の弁当は売り物である。
「おまえ、飯は?」
何も持っていない陽里が気になったのか爽司は尋ねた。
「いえ、これからです」
「今から行っても食堂は混んでるぞ」
爽司は時計を見せて12時を過ぎている事を教える。
陽里は現在時刻を知ってあっと声を漏らす。
「なんだ、時間も忘れてここで昼寝でもしてたのか?」
爽司は陽里がそんな事はしないだろうとは思いながらもわざと訊く。
「そんな訳ありません」
律儀にその問いに返した陽里であったが昼食の問題は解決されていない。
おそらく最も混む時間帯であるため、今から食堂に向かっても待つ労力が大き過ぎる。
「仕方ねえな。ほい」
爽司は袋の中にあった物を陽里に投げる。
「先輩からの慈悲だ。感謝したまえよ」
ニカッと爽司は笑う。
「ありがとうございます」
陽里はおにぎりを受け取って礼を言う。
「なら私もこれをやろう」
信次も袋からサンドイッチを陽里に渡す。
「おお! 信次が人に情けだと!? それもサンドイッチ! オレのより倍額もするじゃねえか!」
少々オーバーリアクション気味に反応する爽司。
「私だって親切にしますよ。失礼ですね」
それに金銭に拘る程貧乏でもないでしょうに、と信次は付け加える。
そこで陽里はふと気になった事を尋ねる。
「佐畑陸曹は宗田陸曹に対しては言葉が違いますよね。どうしてですか?」
「爽司でいいって言ってるだろう」
爽司がハンバーグを食べながら言う。
そして飲み物を飲んで話し始める。
「こいつは優秀なくせに昔からプライドが高くてな。自分が認めた奴にしか言葉を改めるつもりはありませんって言ってるんだよ」
「爽司先輩!」
突然の暴露に信次は爽司を取り押さえる。
「まだオレ達が兵役期間中の話だ」
爽司が軍に入って2年目の時である。
訓練中に警報が鳴ったのだ。
当時も時々こうして魔獣が見つかり討滅しに行くのだ。
「その時にペアになったのが信次でな」
2人1組の討滅作戦はこの時からあるようで爽司と信次はこの時初めて会った。
「なんてペア名にされたんだっけかな……」
「爺組です」
「そうそれだ。爽司と信次で”じ”が同じだからって付けられたんだったな」
酷いネーミングだと思うも顔に出さない陽里である。
名前はともかく迎撃すべく戦闘区域に行くとそこには魔性蜘蛛が約10体いた。
子供くらいの大きさではあるが攻撃力が低い魔獣だ。
「1体1体はオレでもそこそこ楽に討滅出来るが何体もいたとなれば話は別だ」
初めの内は順調に各個撃破していったのだが。
「私1人で討滅出来る、とか言い出してな」
信次は何も言わずに不機嫌な顔をして弁当を食べる。
爽司は止めろと言ったが制止の声を聞く耳持たずに信次は1体だけそこにいた魔性蜘蛛に突撃をした。
「だが1体じゃなかったんだなぁこれが」
物陰に隠れていた魔性蜘蛛が2体の計3体が信次が突撃したそこにはいたのだ。
自信を持てるくらいに実力のあった信次は驚きはしたもののそれでも1体を素早く討滅した。
「寧ろ討滅したからだろうなありゃ」
「今だったらしませんよ」
討滅と言う悪手かそれとも突撃の事を指しているのか。
もちろん後者だろうが陽里は爽司の話の続きを聞く。
「知っての通り魔獣や阿羅機士ってのは連携を取るのが難しい」
連携の技術の度合いだけで言うならば魔獣の方が上だとも言える。
それは偏に阿羅機の性能が高過ぎてコンビネーションを取ろうにも攻撃が味方を巻き込みかねないからだ。
「3体の魔性蜘蛛なら連携は出来なかっただろうが2体なら出来たんだよ」
3体の内1体を討滅した信次に残った2体はすぐさま信次を追い詰める。
「まぁ後は爽司先輩が助太刀して助かったと言う話だ」
話の途中で信次が割って入って結果を言ってしまった。
「折角のクライマックスで何ネタばらししてんだよ! それにオレが救ったんだろ」
「違いますね。手伝ったんです」
そうした先輩後輩の口喧嘩を見て何故だかイライラした気分が落ち着いた気がしたのだった。




