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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
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63.

 前菜、スープに魚料理、そして肉料理と言ったメインディッシュの後にデザートが来た頃。


「シンデレラお願いします」


 香織はウェイターに注文する。


「それ好きだねぇ」


 香織はそれ以外に飲もうとはせず4杯目を頼んだのだった。


「おいしいですよ?」


 さも当然のように言っているが陽里が頼まなければ香織が出会う事のなかったドリンクである。


「それでそろそろ本題に入りませんか?」


 口を拭いて陽里は喜助に尋ねる。


 ここまで運ばれた料理の喜助によるうんちく話や当たり障りのない世間話しかなかった。


 陽里やここに来た当初――現在は怪しいが――の香織も喜助が何か2人に伝える事があってその口実としてここへ連れて来たのではないかと考えていた。


「本題ねぇ」


 喜助は顎をさすって首を傾げる。


「そうです。何かわたし達に用があったのではないんですか?」


 シンデレラを一気に飲んだ香織も尋ねる。

 その前に香織が「あっ」と言ったのを陽里は聞き逃さなかった。


「隊長が部下と一緒に食べに誘うのがそんなに変かねぇ」


 そう言って喜助はデザートであるプリンを食べる。


 釣られて香織も一口。


 大量生産が追求され続けて2世紀以上が経つと言うのに未だに拘りを重ねた希少な素材を使って作られたプリン。

 口に含めばムースより柔らかく、だがそこに確かにある事を示す表面の絶妙な歯応えが。

 舌に乗せれば控えめではあるが決して甘くなくはない砂糖と一切の臭さがなくなった卵と牛乳の風味。

 そして食べる前からその主張が止む事のないバニラの香り。

 最後にほろ苦いがしつこくないカラメルがそれぞれの素材が持つものを一纏めにしている。

 それは生クリームもフルーツもないただのプリンだと言うのにデザートの至高に至らしめたものだった。


「おいしい!」


 思わず声を上げてしまう香織。


「そうだよねぇ。ここのプリンは最高だよねぇ。連れて来て正解だったかな?」


「はい!」


 スイーツ好きな年頃である香織は今しがた自分が訊こうとしていた事を忘れて頷くのだった。


「良かった良かった。って結城君、そんなに怒らないでくれよ」


 陽里が喜助の顔を見続けている事に気付いた喜助は苦笑いして陽里に謝る。


「別にはぐらかしてるつもりじゃないさ。隊員と一緒に食事をしようと思ったのは本当だよ」


 喜助はアイスワインの入ったワイングラスを回して香りを楽しむ。


「それならば全員誘うべきでは?」


 陽里が当然の疑問を言う。


「いやね、懐のダメージが……ってのは冗談として――」


 陽里が嘘を言うなと言った目をしているように感じた喜助はすぐさまに言い直す。


「部隊結成2日目で何か問題はないかルーキーの君達に訊いておきたかったのだよ」


 喜助の言っている事が果たして本当の事かどうか陽里にはわからなかったのでひとまず事実と仮定して受け止める。


「問題はないと思いますよ」


 陽里がそう言うと香織は陽里を見る。


(今朝の事はやっぱり言わないのかな)


 遅刻した満太に過剰なまでに罰として暴行を加えた秋雄について陽里は言わないつもりである。


「シンデレラ様はどうかな?」


「シンデレラ言わないでください!」


 おちょくるような喜助に香織が怒る。


「で、どうかね?」


 途端、喜助の目が香織の内を覗くかのように鋭くなる。


「え、どう、と言われても……」


 急な変化に戸惑いついていけずしどろもどろになる香織。


「結城君は問題なしと言ったけど君はどうかな?」


「わ、わたしも問題はないかと……」


 喜助と目を合わせないようにして香織は答える。


「そうか」


 喜助はプリンの最後の一口を食べて口を拭く。


「何か問題が発生したら遠慮なく言ってくれていいよ」


 こうして3人の食事会は終わりを告げた。






 喜助は執務室に戻って陽里と香織についてのプロファイルを開く。


「結城陽里君、思ったより少し違う感じだったねぇ」


 喜助が思い描いていた陽里と言えば極力人と関わらないで与えられた任務をこなす、言わば機械のような人物だと思っていた。

 だが今回の件でその印象は否定された。


「彼がここに来て1ヶ月で変わったのか、それとも単に見抜く力がなかったのか……」


 喜助は陽里のプロファイルに一文書き足して閉じる。


「で、シンデレラ様。結城君はなかなかに面白い洒落を言ってくれたものだねぇ」


 この場に香織がいたら同じやり取りの繰り返しとなるだろうが現在香織は宿舎にいるだろう。


 喜助が香織に抱く印象に変化はあまりなかった。


「やはり全員を繋ぐ役割になってくれそうだ」


 そう、全員だ。


「他の隊員の事も隊長に教えてくれて助かるよ」


 喜助は香織が嘘が下手な事を知っていた。


 わざと緊張させて隠そうとした動揺を引きずり出したのだ。


 結果は予想以上に成功。

 あまりにも露骨過ぎて陽里が気付く程だった。


「ま、ヘッジホッグ部隊に問題が出なかったらそれはそれでいい事だけどねぇ」


 今日のどこかで何かトラブルがあったのは間違いないと断定する喜助。


「それよりもこっちの件か……」


 香織のプロファイルも閉じて空間画面を操作して1つの報告書を見る。


「軍を狙ったものじゃなければいいけどこればかりは注意喚起しか出来ないしなぁ」


 喜助は頭をかいてボヤく。


 そこにはA師団所属の茶髪の少女と銃弾の画像が載っていた。

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