62.
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「てっきり食堂だと思ってたんですけど……」
香織が場の雰囲気に恐縮する。
「奢りだから気にしなくていいよ」
「流石師団長……」
喜助の気にした様子もないヘラヘラした様子に香織は恐れおののく。
喜助達3人が来たのはA区でも準トップクラスのレストランであった。
陽里達にしてみれば昼に訪れたファミリーレストランとは月とスッポンの差だった。
「あの……こう言う場所って正装して来る場所ですよね……」
香織が見渡せばスーツやドレスを来て穏やかにそして優雅に談笑する姿が映る。
「何を言ってるんだい。君の着ているのだって正装だよ」
3人が着ている軍服も正装である。
「でもこれって普段着ているものだしそれに夏だからブレザー着てませんし」
「この暑い夏で着てくるのもどうかと思うよ?」
すっとやって来たウェイターが赤ワインをグラスに注ぎ、それを喜助は飲む。
「君達もどうだい?」
「アルハラですか?」
喜助の冗談にすぐさま香織がジト目で睨む。
「手厳しいねぇ。何か飲みたいものはあるかい?」
グラスの杯に何も入っていないのも形にならない。
注文があるだろうと察したウェイターが席に近付く。
「あの、こう言うのって何を頼んだらいいかわからなくて」
この場でオレンジジュースなどと言うのが恥ずかしい香織は戸惑ってあたふたする。
「サマー・デライトを。彼女にはシンデレラをお願いします」
香織が慌てている内に陽里は2人分の注文をした。
「かしこまりました」
一礼してウェイターが去る。
「ちょっと陽里くん何頼んだの!?」
香織が怒る。
「ははは。結城君、君面白いねぇ」
腹を抱えて大笑いする喜助。
「え? え!?」
訳もわからず陽里と喜助を交互に見る香織。
「……」
無表情でただ座るだけの陽里。
「カクテルに造詣があるのかい?」
喜助が尋ねる。
「いえ、代表的なものは知っていますが細かい事は知りません」
「それにしてもシンデレラ……ぷふっ」
思い出してまた笑う喜助であった。
「だから一体なんなんですか!?」
香織は陽里と喜助にしかわかっていない事に不満を爆発させる。
「いやね、シンデレラは魔法使いに出会って華美な世界に触れるよね」
「お伽話ですか?」
「そうそう」
陽里の注文を聞いて香織がまず思い浮かべる『シンデレラ』は童話の方だが喜助達の話を聞くに飲み物だと考えた。
だが童話にも関係があるのだろうか。
香織は考えるがその意図がわからないでいる。
「まるで誰かさんみたいだねぇ」
「!!!」
他でもなくそれは香織だ。
香織のような平凡な家庭では行く事のない高級レストランに魔法使いに連れて行ってもらったのだ。
香織は陽里を睨む。
だが陽里は澄ました顔で今しがた置かれたサマー・デライトを口に含む。
「まぁまぁこれはお遊びみたいなものだよ」
カクテルの名前で洒落を言うのは稀に見かけられるもので陽里はそれに則っただけの事である。
ちなみにサマー・デライトとは夏のお遊びと言う意味だ。
『夏のお遊び』と言ってしまえば別の意味になりそうだが、ここでは『夏』と『遊び』に分ければ陽里の意図がわかると言うものである。
「陽里くんなんて知らない!」
陽里に誂われた事、自分が無知な事に腹を立てるのだった。
「お待たせしました。シンデレラでございます」
そこに置かれたのはオレンジの液体が入ってレモンが飾られたワイングラスだった。
「まぁ飲んでみなって」
喜助がニヤニヤして香織に勧める。
むっとした香織だったが飲んでみるとおいしかった。
まずオレンジジュースの味だ。
色からも予想が出来た。
だが直後に来るのはレモンの酸っぱさだ。
口の中が引き締まるような状態で最後に訪れたのがパインの甘さだった。
ミックスジュースとは違った物語のように流れそして絡まる味わいに香織は驚いた。
「おいしい……」
「これは結城君にお礼を言わないとね」
そもそも陽里が頼まなければ香織は頼む事が出来なかったかオレンジジュースと言って羞恥心を掻き立てられる事となったのだ。
「……ありがとう」
申し訳なさそうに呟く香織の様子を見て喜助は微笑ましく思うのだった。
「お待たせしました」
ここまではあくまで食前酒やその代わり。
フルコースが一品目――オードブルが彼らの前に置かれた。
「お訊きしますがシンデレラ、テーブルマナーはご存知でありますかな?」
「知ってます! それとシンデレラ言わないでください!」
喜助のバカにしたような言い方に思わず超がつく程の上官である喜助に声を荒げる香織。
巫山戯たように笑う喜助は性懲りもなくセクハラ紛いな事をするのだった。




