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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
53/249

50.

 結城陽里は今日も同じ時間に起きる。

 特殊な事態でも起きない限りそれは変わらないだろう。


 カーテンを開けて天気を確認する。

 空は灰色の雲で覆われた天気だった。


 天気予報では昼前に晴れるが昼過ぎには雨が降るらしい。


 だが陽里には晴れだろうと曇りだろうと雨だろうと雷が落ちようとも、今日の様な蒸し暑い夏に雪が降っても、はたまた槍が降ろうとも気には掛ける程度でそれ以上の何かを感じる事はない。


 尤も、魔獣(ホレット)が降るならば話は別だろう。


 いつもの軍服に七等星勲章(ワンスターオーダー)を付けて部屋を出る。


 そして今日も変わらず1人で朝食をとる。


「あれ、今日も1人?」


 特に断りもせず陽里の前に座ったのは昨日出会った少女――香織だった。

 香織も陽里が昨朝、陽里が隣にいた事を気付いていたのだ。


「一人部屋なものでね」


「えっと……それはいいなぁって事でいいの?」


 香織は不安気に陽里に尋ねる。


 A師団の宿舎に一人部屋はいくつかあるがそのほとんどは将校が使っている。


 例外もあるが一兵卒に一人部屋は与えられないのが通常だ。


 今回、陽里のような一兵卒が言った一人部屋と言うのは複数人が使う部屋を人数の関係で偶々1人で使う事になった、と言う意味がある。


「良くはないね」


 尤も陽里が言った意味は(ルームメイト)が戦死したからである。


「ごめん……」


 香織はその皮肉とも言える陽里の言っている事を理解して謝る。


「仕方ないよ」


 陽里は人参スープを飲む。


「気にしてないの?」


 陽里の淡々とした無感情な態度に香織は不審に思う。


「気にしてなんかはないよ。ただ今更どうこうしても無駄なだけ」


「それは……そうだけど」


 香織は自分の2人のルームメイトがもしも死んでしまったらを想像してしまった。


 いつも部屋に戻ったら談笑したりお菓子を食べ合ったり休日は3人で出掛ける仲である。

 きっと泣き崩れて1ヶ月は立ち直れないのではないかと思う。


 だからこそ陽里の事情を知らなかったとは言え、死んだ友人の事を思い出させた香織は目の前で無表情でスープを飲むこの男に奇妙な感覚を感じる。


「ごちそうさま」


「え?」


 香織が気付いた時には陽里は食べ終わっていた。


「早くしないと遅れるよ」


 そう言って陽里はトレイを持って席を立つ。


「あ、ちょっと待って!」


 香織は急いでパンをスープで流し込むが陽里は止まりもしない。


(まだ全然食べてないのに!)


 香織が来た時には陽里は既に半分以上食べており、なおかつ香織が陽里の事情に気を落として食べるペースが落ちていたために香織が急いで食べ切った時には陽里の姿は見えなかった。






「おはようございます!」


 吐きそうなのを我慢して走って来た香織はまだあの男(・・・)は来ていない事を確認して安堵する。


 部屋にいるのは香織の他に陽里と信次の3人だ。


 そして香織は部屋の隅でイスに座って何やら本を読んでいる陽里にかつかつと近付く。


「もう、待ってくれたっていいんじゃない!?」


 両手を腰に当てた香織は座っている陽里に顔を少しだけ近付けて怒る。


「ボクまで遅れたくはないしね」


 その陽里と言えば香織とは目を合わさずに本から目を離さず答えていた。


「それは……そうだけど」


 香織が間に合う保証はどこにもない。

 彼女もそれがわかっているから反論出来ないでいた。


「おい、揃っただろうな」


 そこへやって来たのはヘッジホッグ部隊副隊長の秋雄だ。

 銀のピアスがちらっと見える黒い長髪が特徴的だった。


「ん、いねぇぞ」


 秋雄が手で大きな丸を意味するジェスチャーをする。


「遅れましたですー!!」


 香織と同様に急いでやって来たのだろう、滝の様な汗を流して息を乱しているのは満太だ。


「ご飯に…はぁ…時間が……掛かって…はぁ」


 手を膝に当てて完全に疲れきった状態の満太。

 床に汗が滴り落ちている。


「満太さん、取り敢えず汗拭きましょ」


 香織は自分の荷物からタオルを探す。


「ありが……とうです」


 満太が顔を上げて香織に礼を言う。


「何言ってんだてめぇ」


 その言葉と同時に満太は吹き飛ばされる。

 声を上げる間もなく壁に突き飛ばされた満太は腹を抑えながら倒れていた。


「言ったよな、俺様より遅れた奴は殺すって」


 蹴りの姿勢から戻した秋雄は誰から見てもわかる憤怒の気を撒き散らしながら満太を見下ろす。


「うぐっ……」


「おい答えるよクソデブ!」


 再度秋雄が満太の腹部を蹴る。


「なんか言えよああん!」


 三度蹴る。


「ちょ、ちょっとやり過ぎです!」


 香織が秋雄の腕を引っ張って止める。


「俺様は遅れたら殺すって言った。このクソデブは遅れた。それだけだ」


 秋雄は香織の手を払って再度蹴りに掛かる。


「ご……めんなさい……です」


 掠れた声を出して満太は謝る。


「あん? 聞こえねぇよ」


「満太さんは謝ってるんです!」


 秋雄が満太にまた暴行を加えると思った香織はすぐさま満太の言葉を秋雄に伝える。


「は? 謝って済む事だと思ってんのか?」


「え……?」


 秋雄の理不尽な言葉と高圧的な見下しに香織は恐怖を感じた。


「俺様に歯向かうな」


 そう言って香織は秋雄に突き飛ばされて尻餅をつく。


「副隊長」


 今まで様子すら見ずにいた陽里は読んでいた本を閉じて秋雄を見る。

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