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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
52/249

49.

「……!!」


 ルナリアは飛び跳ねるようにして起き上がった。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をする程に呼吸は乱れ、全身は汗まみれだった。


「またあの夢か」


 何年経っても未だに忘れた頃に思い出させるかのようにして見る悪夢。


 ルナリアが外の景色を見れば夏にしては珍しい曇りだった。

 昨日まではその涼しさとは真逆の暑さを齎す青空だったと言うのに。


「シャワー浴びよ」


 このまま1日を過ごすのは不快過ぎて死にたくなりそうな気分に陥ったルナリアはネグリジェを洗濯機に入れてシャワーを浴びる。


 体に付いた汗と一緒に悪夢の記憶を流そうと洗うのに力が入る。


 十数分のシャワーを浴びて体を拭き、浴室を出て下着を穿いて今日の着替えを考える。


(今日は暑くなるのかしら)


 天気予報を見ていれば今日の昼過ぎに雨が降る事がわかった筈だがルナリアは見ていなかった。


 最初に見つけた赤のミニスカートに白の半袖ワイシャツを来てドライヤーで髪を乾かす。


 そしてどこで買ったかも忘れたクロワッサンにブルーベリージャムを付けて齧りつく。


(そう言えば今日ね)


 今日は3日前に預けた銃を引き取る日である事を思い出したルナリアは食感もないようなパサパサしたクロワッサンを水で流し込んで歯磨きをし、ショートブーツを履いて外へ出た。


 厚い雲で覆われた、それでも蒸し暑く憂鬱な空ではあるがそれもごく僅かしか見ない。


 地下鉄に乗るべく地下へと降りたら空はもう見えない。


 第参都市(トーキョー)は高層ビルのジャングルであり、移動手段は下流階級でも地下鉄である。徒歩で移動はまず考えられない。

 もし第参都市を何も知らない人間がここを訪れたならば迷う事は必至な程、地下鉄は複雑に絡み合っていた。

 第参都市で暮らす者として近所の地下鉄を理解しなければならないのだ。


 地下鉄に揺られる事、乗り換え3回の計12分。


「いらっしゃいませ」


 今日も1人、店主が出迎える。


「取りに来たわ」


「その前にどうぞ一息でも」


 店主がルナリアに座るよう促す。


「アイスココア氷抜きで」


 注文を考える事もなくルナリアは言う。


「……それではアイスに出来ませんよ?」


「じゃあ氷少なめで」


 ルナリアが先日の一件をまだ引きずっている事に思わず店主は笑ってしまいそうになるところを間一髪で耐える。


「畏まりました」


 先日と同じ要領でココアを作るが所々で変化があった。


(今日は蒸し暑いですから牛乳を多くして軽くしましょう)


 それココアパウダーや砂糖・生クリームの量は同じだがミルクを多く入れる。


(今回はこれですかね)


 氷の入ったグラスに移した後、シナモンの代わりにあるシロップを垂らしてステアする。


「お待たせしました」


「ありがと」


 短く礼をして早速彼女の赤い口唇がストローに触れてその口に甘さを満たす。


 砂糖とココアの絶妙なバランスをつなげるミルクと生クリームの滑らかさ。

 普段より多いミルクが滑らかさを重いものにしない。


「あら?」


 そしてルナリアは“それ”を見つける。


「今日はメープルシロップなのね」


 ルナリアが店主に確認する。


「流石と言うべきでしょうか」


 店主は的確に言い当てたルナリアに素直に称賛を送る。


 ココアとは違う香ばしさが僅かにココアに溶けている。

 シナモンとは違った引き立て方があるのだと教えてくれる逸品だった。


「これもいいわね」


「ありがとうございます」


 ルナリアの称賛に礼を返す店主。


「ってこの前もこんなやり取りだったわね」


「そうでしょうか」


 店主も気付いてはいるが敢えて触れなかったのはルナリアの自尊心を傷つけないためだ。


「それより早く。今は誰もいないでしょ」


 いつもだけど、と言うルナリアの余計な言葉を無視して店主は店奥からケースを持ち出す。


「どうぞ」


 ルナリアは早速中身を確認する。


「銃身が僅かに歪んでいたので修正させていただきました。銃弾の火薬は全弾オクタニトロキュバンにさせてもらいました」


「オクタニトロっ……!」


「オクタニトロキュバンでございます」


 舌を噛んだルナリアは若干涙目になるも耐える。


「で、そのオクタンはなんなの?」


 それが別の化学物質だとルナリアも知っているが今はどうでも良かった。


「実弾時代の最高峰の爆薬でございます」


 実弾時代――人がレーザー兵器などを開発する前まで戦争や紛争では金属の弾丸を使っていた時代である。


「爆薬? 火薬じゃなくて?」


 ルナリアが単語のおかしさに気付く。


「開発当初はその製造コストの高さに運用出来ないと考えられていましたが実弾時代末期にはお手軽とは言い難いですが大量製造に成功しました。しかしその威力が少々強烈過ぎと言いますか、当時の銃器では耐えられなかったのでしょうね」


「そんな危なっかしい物使って大丈夫なの?」


「ルナリア様が使っていらっしゃるこの銃は当時の設計図を使っておりますが材料は違います。言ってしまえば阿羅機(アルハード)の装甲と同じ物です。これならば耐えられるでしょう」


「それで威力はどれ程?」


 何より大事なのは使えるかである。


「今までは2km程が阿羅機や魔獣(ホレット)にダメージを与えるギリギリの距離でしたがこのオクタニトロキュバンなら2.5kmはまず届く事でしょう」


「でしょうって……」


 つまりこれは店主の推測に過ぎないと言う事だ。


「未だ誰も使った事がないですからね」


 実弾を使った銃は今や幻とまで言われる程に珍しいのだ。

 対して阿羅機は登場して70年弱だ。


 理論上最強の爆薬とまで言われるオクタニトロキュバンが耐えられる素材と銃の歴史はあまりにもかけ離れていた。


 最新の土木技術で古墳を作るような、あるいは新素材で洗濯板を開発するようなものだ。

 そうするくらいなら高層ビルを建てたり別の物を開発する方が利があると言うものだ。


 現代において最強の爆薬よりレーザー兵器、レーザー兵器より阿羅機が有用なのだ。


 ある種ルナリアの銃は技術の無駄の極みであった。


 もちろん店主はそのような事を言えないし言うつもりもない。

 彼もまたそれが必要な事だと思っているのだ。

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