46.
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翌朝。
今日も昨日と同じ時間に起きては着替える。
昨日は訓練の後、陽里の卒業を記念してメンバー全員で食べようと言う事になりいつもの食堂ではなく誰が手配したのか基地の外にあるレストランで宴会が執り行われた。
入れ替わり立ち代わり陽里の前の人物が変わっては卒業おめでとうと言い、どうしてそんなに強いのかと訊かれた陽里は困った顔で普段の訓練の成果だと言うしかなかった。
陽里は自身が何か特別な力があるとは思っていないし得たものは全て人や書物からのものである。
偏に目の前のものをこなしてきただけなのだ。
と、陽里は思っている。
だがそれは新をはじめとする常人からすれば無茶難題だと錯覚しそうなものすらこなしてきた結果であるからなのだが。
着替え終わった陽里が食堂に行っても見知った顔はなく、ここにきて彼は今日は朝食の前に訓練があるのだと思い出す。
朝食はA師団の人数と食堂のキャパシティから朝食前に訓練と朝食後に訓練で分けている。
計算上2日に1日は朝食前訓練があるのだがどうもエリザベスのところは朝食後が多いように陽里は感じていた。
だからうっかり忘れていたのだろうと陽里はそう片付けて朝食をとる。
(うっかり訓練に行くのとどっちがマシなんだろう)
陽里はどうでもいい事を考えて無言でパンを齧る。
「それで君には異動してもらいたいんだ」
「それはわたしが何か至らなかったところがあったからですか?」
陽里の隣の席で何やら不安気な声を聞いて目だけ動かして様子を見る。
「いや、君は良くやっている。良くやり過ぎていると言うべきか」
男の方は教官か何かの立場なのだろう。
白髪が目立っており歳はそこそこだと考えられる。
「なら……!」
となるとこちらの何か言いたげな少女は彼の下で訓練している兵士なのだろう。
肩まで伸ばしたセミロングの茶髪をハーフアップで結っているのが特徴と言えるか。
「君にとっても悪い話ではない。細かい事はこちらも知らされていないんだ。すまないね」
一方的に話を切り上げた男性は席を立って去って行った。
「はぁ……」
残された少女は溜息をついてパンをちぎっては口に運ぶ。
(奇しくも同じ日に異動のようだ)
口の中のパンを水で流し込んだ陽里は席を立った。
午前中には呼び出しがあるだろうと思って待機していた陽里だったが結局呼び出しはなく昼を迎えていた。
特にする事もなく、かと言って基地の外に出る訳にもいかない陽里は部屋で過ごすのをやめて基地内をふらついていた。
気付いたらどこかの屋上に着いてしまったようで陽里は太陽が眩しく思わず目を細める。
「お、なんだ。暇してんのか?」
不意に声を掛けられた陽里は振り向く。
「あ、えっと……」
陽里はどこかで見た事のあるこの男を思い出そうと頭を働かせる。
「おいおい。忘れたのかよ!」
彼は額に手を当ててショックのジェスチャーをする。
「宗田爽司陸曹」
「なんだ、憶えてたか。良かった」
余談であるが部下が上官の階級を呼ぶ時、二等や三等の場合付けないのが決まりとなっている。
爽司の場合、三等陸曹であるが陽里が「宗田爽司三等陸曹」と呼ぶのは詰まるところ陸曹の中で低い階級だと言う事につながる。
そう言った軋轢を生まないためにも礼儀はあるのだ。
「おまえの事はよーく憶えてるぞ。結城陽里一等陸士」
ヘリから飛び降りた危険人物として、ではあるが。
「この前もお世話になりました」
A師団に来てから爽司には2度世話になった陽里である。
「聞いたぞ。なかなかの活躍だったんだってな」
肩を叩いて祝福する爽司であるが具体的な事は伏せられているようで内容は知らない。
「宗田陸曹は昼休憩ですか?」
ヘリパイロットとしての訓練もあるが主に輸送が仕事の爽司は割と忙しい。
「まぁな。それとオレの事は爽司でいいぜ」
「じゃあ、爽司さんで」
「……おまえ思ったより普通な奴だな」
急に真顔になっては陽里に言う。
「ボクの事なんだと思ってるんですか?」
「問題児」
即答である。
「怒っていい場面ですよね」
「何、冗談だ」
陽里の見え隠れする怒気に狼狽えた爽司は前言を撤回した。
「爽司先輩、あなたも昼ですか?」
「お、信次」
信次と呼ばれた黒縁メガネを掛けた長身の男を爽司が招く。
「紹介する。こいつはオレの後輩で――
「佐畑信次だ」
眼鏡を人差し指の第二関節で持ち上げなから言った。
「階級は聞いて驚け。一等陸曹だ」
爽司は26歳である事から信次が25歳以下と考えられるが下士官は25歳からなので25歳だと確定する。
すると信次は1年以内で2階級も上げた事になる。
「見ての通りこいつはエリートだしオレより上だがもし今度会ったらよろしくしてやってくれ」
「結城陽里一等陸士です。よろしくお願いします」
「挨拶は済んだし飯でも食おうぜ」
爽司の提案に陽里は頷くが信次は首を横に振る。
「すまないが呼び出しだ」
信次が人差し指を口に当てて静かにしろとジェスチャーをすると聞こえた。
『本日呼び出しのある者は至急第2会議室へ来てください。繰り返します。本日呼び出しのある者は至急第2会議室へ来てください』
「変な放送だな」
普通の呼び出し放送では名前を呼ぶのが基本だ。
おかしなものだと爽司は考えて信次は諦めて陽里と共に食堂に行こうと提案しようとしたが――
「すいません。ボクもです」
この時、爽司はがっくりし、信次は目を見張った。
「おいおいそりゃないぜ」
「そうか、そう言う事か」
気付けば小説全体で10万字を超えました。
今後ともよろしくお願いします。




