44.Graduation exam
先に動き出したのはエリザベスだった。
互いの位置が近かったために距離はすぐに詰められる。
(上か後ろか)
ここで陽里が取れる手段は2つ。
1つは空戦型阿羅機であるケラウノスの長所を活かして上空からの中距離戦闘に持ち込む策。
もう1つは後方に一旦下がる事で仕切り直して陸戦で正面から戦うか、である。
(ダーインスレイヴの血薔は嫌な気がする)
エリザベスの阿羅機ダーインスレイヴの武装である血薔は機体の迷彩柄に似合わぬ深紅の触手のような蔓だ。
自由自在に動くそれは1本だけでなく陽里が見た限り1本だが実際にはもっと出せるだろうと陽里は考える。
事実エリザベスは通常この血薔を6本同時に扱う。
機体から生えるように伸びる血薔の動きはエリザベスの意思次第で決まるため動きを読むのは至難の業だ。
そうした数瞬の思考の結果、陽里は後方に下がる事を選んだ。
ケラウノスに備わる2つのイオンエンジンブースターが陽里のバックステップを爆発的に加速させる。
「ほう」
簡単には手が出せない程十分な距離を取った陽里に対してエリザベスは感心する。
「空戦型だと言うのに陸戦を選んだか。陸戦型阿羅機に喧嘩を売るとはいい度胸じゃないか」
そうエリザベスは言うが実は陽里が取れた手段は後方に下がるしかなかった。
「ま、上に飛べばワタシの血薔の餌食になるだけだったがな」
ここは市街地の模型、左右はコンクリートで塞がれているため前後上下にしか動けない。
空戦型は3次元空間で初めてその真価を発揮する。
2次元的にしか動けない環境で血薔が陽里の動ける範囲をさらに狭めれば陽里の敗北は必至だろう。
「生憎だがワタシは貴様を勝たせるつもりはないぞ」
そう言ってダーインスレイヴの両腕に2本ずつ、背中に2本の計6本の血薔が生えた。
エリザベスは本気だった。
実戦形式とは言え模擬戦に変わりはなく阿羅機に幾分かの制限があるが日々の訓練のそれよりは大分緩和されている。
だが今回、血薔に制限はない。
6本の内両腕の4本が陽里に飛び掛かる。
「雷刃」
『ブレード展開します』
MCASSの応答により現れた直刀の刃に雷が走る。
陽里は迫り来る血薔を斬るようにして弾いていく。
血薔は堅固な武装であるため雷刃ですら斬れず弾くだけだった。
「どうしたどうしたぁ!」
4本の血薔の猛攻は止まず陽里を圧倒する。
後退していった陽里は広い交差点にまで下がっていた。
(ちっ)
陽里に不利な場所から追い出してしまった事に心の中で舌打ちをしたエリザベスは4本の血薔で同時に攻撃を仕掛ける。
それに対して陽里は雷刃を大きく横薙ぎをするが血薔には当たらなかった。
(そんな攻撃は読めるぞ)
いくら防御に秀でている血薔と言えども斬る事に特化している雷刃の斬撃を何度も防ぐ事は厳しく攻撃と見せかけたフェイントで陽里の横薙ぎを躱す。
「とどめだ!」
空振った陽里の隙はとどめを刺すに十分なものだった。
隙は、である。
そもそも陽里が空振った事があったかどうかエリザベスは考えるべきだったのだ。
だがもう遅かった。
強烈な崩壊音が起きて砂煙が巻き起こる。
「っ!?」
ここでエリザベスは気付く。
(血薔が動かない!)
陽里が斬ろうとしたものは血薔ではない。
広い交差点にあるもの――歩道橋の柱を斬ったのだ。
歩道橋は崩れて血薔が押し潰されたのだ。
歩く時に全力で地面を蹴らないのと同じ様に必要最小限の力で血薔を引き戻そうとしたために血薔が動かせなかった。
その隙を突かない者などいない。
砂煙から飛び出した白銀の機体が青白い刃を構えてエリザベスに迫る。
(甘いな)
亜音速で迫るそれを受け止めたのは紛れもなく深紅の蔓――血薔だ。
「ダメでしたか」
残念な気を感じさせない淡々とした声で陽里は呟く。
「甘々だ」
前方斜め上から斬りかかった陽里を残りの2本の血薔で絡め取り動きを封じたのだ。
「残念だが不合格だ」
崩れた歩道橋の下敷きになった4本の血薔が陽里の背後を貫かんと高速で迫る。
『オートスクエアガード』
しかしそれが陽里に届く事はなかった。
「何っ!?」
透明なバリアに弾かれただけでなく血薔がパキンっと割れたのだ。
予想外の事態であるがまだ血薔は2本あると考え締め付けている血薔の先端を陽里に向けようとしたその時――
「雷槍……フレーム展開」
『フレーム展開』
陽里の手に現れた1本の槍の先端が青白く光ってエリザベスの顔面に突き付けられていた。
「チェックメイトです」
「……ワタシの負けだ」
両者の阿羅機が解除されて光の粒子が飛び交う。
「「おおー!!!!」」
その瞬間、様子を見ていた周りの隊員が叫ぶ。
「すげー! 勝っちまったよ!!」
「教官が負けるなんて信じらんない!」
全員が全員何かしらを叫んで何を言っているか陽里にはわからない。
模型空間も消えて普段の訓練場の景色となる。
激闘の果てに陽里は卒業試験に合格したのだった。




