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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
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43.

 結局あの後、長話し過ぎたと言ったエリザベスが席を立ったところで話が終わった。


「仲間を殺す、か」


 それが何のためなのかがわからない。

 果たしてそれは軍のためか、国のためか、それとも自分のためか。


 陽里ならば1人で6体の魔獣(ホレット)を相手にする事は出来るし無傷で討滅すらも容易だろう。


 もし陽里が隊長ならば部下5人に集落を守らせる。

 それは常人から離れた考えだろう。


 故に陽里にはわからないでいた。


 仮に冥界犬(ケルベロス)と言ったランクAやそれ以上の脅威を持つ魔獣が6体だとしてもやる事は変わらない。


 阿羅機(アルハード)や魔獣はその破壊力のせいで連携が取れる程仲間同士で互いに接近出来ない。

 近付いて巻き添えを喰らう事は少なくないのだ。


 従って陽里は各個撃破を狙える。


 6体を誘導して遠くで1体ずつ討滅。1体でも集落に向かえば仕切り直せば良い。


 無理に使わなければ阿羅機は事実上稼働時間に制限はない。


 時間は掛かるが陽里は不可能だと思わない。


 もし自分が死んでもそれはそれまでであるしその時には3~5体は討滅出来るだろうとも陽里は思う。


 そもそもランクAが6体も襲うような集落とは一体何だと前提がおかしな話ではあるのだが。


 陽里は考えるのをやめて二段ベッドの下のベッドに横になる。


 静寂が部屋を支配する。


 寝静まるにはやや早い時間だがあまりにも静か過ぎた。


(窓か)


 何かおかしいと思った陽里は部屋の窓を開けていない事に気付いた。


 陽里は窓を開けて夜だと言うのに生暖かい風を浴びる。


(こんな時新ならエアコン付けようぜ、とか言うだろうな)


 どこか遠くで発する物音が部屋を静寂さから開放する。


「やっぱりそれでも静かだな」


 やる事もない陽里は部屋の明かりを消して寝る事にしたのだった。






 翌朝。


 いつもと変わらず起床の鐘が鳴る5分前に起きて着替える。


 5分で全ての支度を済ませてアラームが鳴ると同時に部屋を出る。


 食堂に並ぶ事もなくスムーズに席に座って朝食を食べ始める。


 食べ終わって一息付けば訓練が始まる。


 エリザベスの下での最後の訓練である。


 だが陽里もエリザベスもその雰囲気を出す事もなくいつものメニューで扱かれる。


 誰もが少なくなったメンバーの数を気にしているが誰もその事に触れる事はなかった。


 口に出してしまえば悲しみが溢れてしまいそうだから。


 軍に入って1年や2年、5年程度では誰かを失う事には慣れないのだ。


 だが慣れてしまったらそれはもう人として終わっている。


 だからエリザベスは“覚悟”と言う言葉を使ったのだ。


 慣れず、背負えるだけの覚悟のある者は誰も(・・)いなかった。


「結城陽里、最後の手合わせをしよう」


 走り終わった陽里にエリザベスが声を掛ける。


「イエスマム」


 そうして最後の模擬戦闘訓練が始まった。


「貴様ら! こいつは今日をもって教育隊(ここ)を去る事になった」


 エリザベスの爆弾発言に周りがどよめく。


「1ヶ月と言う短い期間ではあったがワタシはこいつの実力が十分だと判断した。貴様らも結城陽里(これ)くらいは強くなれ!」


((そんな無茶な))


 誰もが抱く思いだった。


「だがあくまでも去る(・・)だ。卒業ではない」


 昨日は陽里に卒業と言った事を忘れているエリザベスであった。


「こいつがワタシに勝てたら卒業だ。貴様らも同じだと肝に銘じとけ!!」


「「……イエスマム!」」


 何それ無理ゲーだと誰しもが理解する。


 だが文句を言えば殺されるのは確実。

 彼らに反論は許されないのだ。


 それは陽里も同じである。


「さて、始めようか。卒業試験だ」


 エリザベスが操作して腰に取り付けられた箱の形状をした小型機器――亜空機(イクスベーサー)から光の粒子が飛び出す。


 それらはエリザベスを纏ってやがて形作る。

 全身を覆う迷彩柄の等身大機械甲冑。

 阿羅機(アルハード)ダーインスレイヴだ。


「阿羅機ケラウノス……起動」


 思えば今日初めて「イエスマム」以外に陽里が発した言葉だった。


 エリザベスと同様に陽里を光粒子が包み込み硬質な金属が現れる。

 白銀色に輝くフルメタルボディに青と黄色のラインが特徴の機械甲冑――阿羅機ケラウノス。


 2機はそれぞれに備わったE=mc^2の式に基づく質量転換装置――M/Eコンバーターによって僅かな質量から莫大なエネルギーを引き出す。


 すでにその量は半径数kmを灰燼に帰すだけのものとなっている。


 1つ間違えれば大惨事になり得るだけのエネルギーを制御するのは操縦士たる阿羅機士(アルハーダー)の他にもう1つ、MCASS(バックアップシステム)と言う阿羅機の脳だ。

 ここにはない特A地区にある第参中央演算装置(アマテラス)による遠隔からの制御である。


「さて、今回は特別にこれを使おう」


 エリザベスが操作すると訓練場の景色が変わる。

 それはまるで――


「実戦形式用の模型空間だ。陸戦らしく市街地の模型だな」


 天を貫かんとする灰色の摩天楼が先程まで見えていた広い空を狭める。


「あまり地面を抉らないでくれよ? ビルの模型はコンクリートの箱に変わりはないが地面は本物なんだ」


 おそらく滅多に使わないものなのだろう。訓練に対するコストが見合わない。


「おかしなものだと思っただろう?」


 陽里の考えを見抜いたエリザベスはニヤリと笑う。


「本来は機動性を鍛えるためのものだが貴様のためにここを模擬戦で使う許可を取ってやった」


 そう誇らしげに言うエリザベスであったが陽里としてはいい迷惑でしかない。


 何故ならここは陽里の動きを封じる空間だ。


 戦うのが好きな陽里ではあるがどうせなら勝ちたい。

 ならば少しでも自分に有利な空間で戦いたいと願うのも当然であった。


「始めようじゃねえか!」


 こうして卒業試験と言う名の実戦が始まった。

2017/03/28 用語変更及び微修正

2017/12/23 表記修正

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