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神の居ない世界にて  作者: アウラ
2.Can he kill?
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42.

「でだ、結城陽里。貴様の異動先がA師団特殊部隊なのだが文句はあるか?」


 ニヤリと笑いながらエリザベスは陽里に尋ねる。


 夕方の食堂。

 混み合う時間帯での喧騒の中では2人の会話に興味を持つ者は誰もいない。


「上官からの命令ですよね」


「もちろんだ」


 命令に文句を言える一兵卒がどこにいるだろうか。

 一兵卒でしかない陽里が文句を言える筋合いはないのだ。


「異存はありません」


 事実、陽里からすればこれは寧ろ喜ばしい事である。

 時々戦場に駆り出されるだけでほとんどが訓練である教育隊より実戦が主な戦術部隊の方が陽里の望みに沿っている。


「本当に異存のなさそうな顔をしているな」


 そう言った陽里の心境を見透かしたエリザベスは笑う。


「詳しい事は後日呼び出しがあるだろう。そこで隊員との顔合わせにもなるだろうしな」


「イエスマム」


「まぁ本題はこれで終わりだが……五十嵐新の荷物はどうした?」


 2日前の冥界犬(ケルベロス)討滅作戦において戦死した新の遺品を陽里は訓練が中止となり空いてしまった昼に片付けていた。


「いつでも運び出せる状態にしました」


「そうか……。ならいい」


 一瞬、エリザベスの表情に曇りがあったが陽里は訊くのは藪蛇だろうと思い何も言わないでいる。


「明日には奴の遺族に届けられるようワタシが手配しておこう。玄関にわかりやすく置いとけば勝手に持って行くだろう」


「お願いします」


「それと、アレは見つけたか」


 エリザベスは軍服の裏ポケットから何か薄い紙のような物を取り出すジェスチャーをする。


「はい」


 それが遺書を示す黒封筒だとわかった陽里は頷く。


「そうか」


 内容を尋ねる事もなくエリザベスは目を伏せる。


「新らしい文章でした」


 それは陽里にしては珍しく誰かを慰めるような言葉だった。


「ふっ、あいつらしい、か」


 元の強気な顔に戻ったエリザベスは顔を上げてニヤリと笑う。


 ついでに空になったコップを陽里に渡して水を入れてくるよう無言で指示する。

 またか、と思いつつ立ち上がって備え付けの冷水機へ向かう。


(部下思いなんだな、エドベル教官は)


 エリザベスの様子は見れば誰でもわかるものであったが、普段のエリザベスからしたらそれはらしからぬもので驚くに値するものだった。


 とは言っても随所にエリザベスのそれは散りばめられており、特に訓練においては当時は気付きにくいものであったが思い返せばはっきりとわかるものだった。

 兵士と同じ立場で物事を見ようとし、時には自身がその先導を行い、またある時にはミスをカバーするような動きがある。


 ほとんどが熾烈な程に厳しい態度で見えないがもしかしたらそれは照れ隠しなのかもしれない。


 そう陽里が推測しながらエリザベスにコップを渡す。


「何笑っているんだ?」


 エリザベスは陽里を睨む。

 どうやら陽里の推測が顔に出ていたようだ。


「エドベル教官は教官らしいと思っただけであります」


 ポーカーフェイスに戻した陽里は席に座って答える。


「教官か……」


 またもやエリザベスは気落ちした表情になる。


「どうかしたのですか?」


「何、問題はないさ」


 とてもそうとは思えない様子で答えるエリザベス。


「まぁ貴様は明日にはワタシの隊から外れるからな。話しても構わないだろう」


 水を一口飲んで間が空く。


「9月で退役しようと思ってな」


 エリザベスは淡々と言ったが内容はとんでもないものだった。


 エリザベスの階級は中尉。年齢も若くまだまだ昇級の機会も多くこれからと言う立場と年齢である。


「それはどうして……」


 陽里もその内容に驚く。


「ワタシはつくづく軍人には向いてないんだよ」


 陽里はとてもそうとは思えないでいた。


 阿羅機士(アルハーダー)としての才能は十分。幾度も戦場へ出て経験は豊富。おまけに後進の育成にも長けている。


 もしエリザベスの欠点を挙げるならば――


「死者が出るのはほぼ確実だった今回の討滅戦でさえこのザマだ。ワタシは少しばかりでなくメンタルが弱いようだ」


 自虐的に嗤ってエリザベスは続ける。


「そのような輩は戦場に立つ1人の戦士として兵士として、そして士官としても欠陥でしかない」


「ですが――


「わかっている」


 陽里の言いたい事がわかっているようにエリザベスは陽里の反論を遮る。


「確かに実力は十分なのだろう。今の状態で襲撃の警報が鳴って駆り出されても多少難敵が現れようとも対処は出来るだろう。だがな結城陽里、それだけではダメなんだ」


「……」


 陽里は何も言わない。

 彼もエリザベスが言わんとしている事はわかってはいるのだ。


「いつまでも下の立場にいられると思うな。言われた事をやるだけではダメだ。いつかは自分の一言で部下や仲間の生死を左右する事になる。最善を追うのが至上命題であるワタシ達は時に命令しなければならない事がある」


 6人で構成された部隊があるとする。

 彼らが派兵された先に民間人が500人いる集落があったとしよう。

 そこに魔獣(ホレット)6体が襲ってきた。

 部隊全員が1対1で対処すれば隊員は誰も死なずに討滅は出来るだろう。

 だがもし魔獣が戦闘から何らかの手段で逃走・離脱して集落を襲ったならば集落はほぼ全滅するだろう。

 ならば隊長はどうするべきか。

 1人ないし2人を集落の護衛を任せ残りで魔獣を討滅する作戦を立てる。

 もし集落を襲うにも護衛が時間稼ぎをすれば追いつける。

 だが討滅のリスクは上がるだろう。

 それで隊員の誰かが死んでしまっても集落を守れる可能性は大きいのだ。

 6人の命より505人の命を取るべきなのだ。そこに1人の犠牲は無に等しい。


「貴様には仲間を殺す覚悟があるか?」


 エリザベスの求めては手に入らなかったものがそれである。

2017/12/23 表記修正

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