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神の居ない世界にて  作者: アウラ
1.He interacts with her
40/249

39.He said…

 冥界犬(ケルベロス)討滅から2日が経った。


 アブラゼミが鳴く夏の朝、陽里達A師団全1万人は一昨日の出撃で殉職した者への追悼で集まっていた。


 陽里達がいたエドベル中隊の第1小隊の3人以外にも戦死者はいたようで次々と名前が呼ばれていく。


「――五十嵐新二等陸士、日下部邦弥(くにや)一等陸士、篠原作真一等陸士――」


 その中で陽里の知る3人の名前が出る。


(大昔には2階級特進とかあったらしいな)


 そうなると新は上等陸士と言ったところだろう。


 だが第参都市軍において上等陸士と言う階級を持つ者は陽里の知る限りいない。


 ほとんどが一等と二等、そして三等陸(海・空)士であり義務兵役を終えても軍に残った場合、一~三等陸(海・空)曹となる。


 詰まるところ陽里達は徴集兵であり身分は限りなく低いのだ。


「敬礼!」


 1万人が一斉に敬礼をして殉職者を送る。


 中に遺体がある者もいればない者もいる。


 例えば魔獣(ホレット)によって凄惨な殺され方をした者の中で遺体があったものは既に火葬して骨が入っているだろうが、遺体すら残らない場合は何も入っていないで送られる。


 低くラッパの音が鳴り響く中である者は声を殺して泣き、ある者は拳を作って震えていた。


 和堂も涙をボロボロと流すも声を上げずに敬礼し続けていた。






 解散後、上官達の会議による訓練が中止となった陽里は部屋に戻って荷物を整理していた。


 新の遺品を箱に詰める作業だ。


 陽里個人の物が少なく大半は新の私物であり箱の数は増えていく一方であった。


「これは……」


 新が使っていた枕に違和感を感じた陽里は枕カバーを取ってその正体を見た。


「家族写真」


 写真には学生服を着た新とその隣に妹と思われる娘が、彼らを挟んで立っているのは父母であろう。


 スーツ姿の父母は笑っているが新と彼の妹は笑っていなかった。


 背景は学校。

 顔はわからないがあちらこちらに大人が写っている。


(卒業式か)


 学校は第参都市(トーキョー)にしかないため、郊外からの学生は寮暮らしとなるがそれ以外は自宅から通う。


 だが卒業して徴集兵となる時、その配属先は自分で決められるのは稀である。


 故に大抵の卒業生は家族と離れ離れになる。


 新も例に漏れずその1人となったのだろう。


 もしかしたら最後の家族写真になるかもしれない。

 その想いが新の両親にはあったのだろうとこの写真からは感じられる。


 だが今生の別れになるかもしれないと思って笑っていられるのは十分な精神の持ち主だけだ。

 大人ですら耐えられない別れだろうと言うのにまだ子供の新や彼の妹には無理な話だ。


 陽里は封筒に写真を入れて箱の中にそっと置いた。


 他にもくだらない物が多く見つかったがいずれも全て箱に詰めて玄関に積み上げていく。


 最後に新が使っていたかわからないような彼の机の引き出しから彼への手紙であろうものを整理していく。


 そのほとんどがやはり家族からのもので、一部は学生時代の友人であろうものもあった。


(新とはそんな話しなかったな)


 手紙を全て中から出して、再度引き出しの中を確認すると黒い封筒があった。


「これって……」


 黒い封筒とは遺書を入れる封筒である。と、軍の中でいつからか慣習となっている。


 陽里も初出撃時に書かされた事がある。

 今では書いたところで意味がないと思って書いていないのだが。


 そんな黒封筒から3つ折りになった紙を取り出す。




 これを読む人へ

 念のために言っとくけどこれは遺書だ。知らないで読んじった人には悪いけどそっと閉じて欲しいんよ。

 でもま、きっとこれを読んでいるのはオレっちが死んじまってから陽里が見つけたんだと思って書く。生前にオレっちの机の奥を探る変態なんていやしないだろうしな。

 もう何度これを書いたか憶えてねえけど今日は7月1日、毎月1日に書いてるから陽里宛てに書くのは初めてになんな。

 陽里と会ってからまだ1ヶ月も経ってないんのな。てっきり1年と言わなくても半年はいる気がついついしちった。

 あーでもオレっち死んじまったかぁ。オレっちがこれを読み返してたらそれはそれで死にたくなっちまうけどな。

 陽里に何書こうか迷うわー。

 だって陽里はあまり昔の事話さないだろ? 今日だってオレっちが食い散らかした菓子の文句しか言わないし。

 取り敢えずオレっちの遺品は全部家族に渡してくれ。エリザベス教官に訊けば教えてくれると思うんよ。

 まぁ陽里の事だしここに書かなくても終わらせてそうだな。もうやってくれてたらあんがとさん。

 びっくりするくらい落ち着いてる陽里ならオレっちが死んだくらいじゃ泣く事もないだろうけど嬉しいとか絶対に思わないんだろなって思うんよ。

 えっとつまり何が言いたいかって陽里も心のどこかで辛いんじゃないかなって。……なんか驕ってる感あるなこれじゃ。

 まぁそのさ、オレっちは陽里の事友達だって思ってるけど陽里はとっとと死んじまったオレっちなんか忘れろって事よ。

 ま、天国で待っとるからよぼよぼの爺さんになってから来いよ。土産は美味いもんとエロ本な。

 8月にもこんな事書けるだろうって思って読み返したら死にたくなってきた。そんじゃ!




 陽里は汚い字で書かれた手紙を封筒に入れて自分の机に入れた。


「忘れはしないよ。悪友」


 陽里は最後の箱の蓋を閉めて玄関へと運ぶ。

2017/06/03 小隊→中隊 分隊→小隊へ変更

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