35.
前回のあらすじ
・陽里から冥界犬がにげた!
・日下部と和堂の前に冥界犬があらわれた!
・ヒロインがあらわれた!
「仕留め損なった」
朝陽がビルの窓を乱反射させ、波の音が薄らと聞こえる。
摩天楼の上で少女はすぐさま銃弾を装填して狙いを付ける。
(あれ?)
眼下にはのたうち回る冥界犬と2機の阿羅機。
彼女が目についたのは阿羅機の内の片方。
(さっきまで目を瞑ってたのに)
目が合ってしまった。
尤も200m先からでは確信は持てず、そのような感覚であって確かとは限らない。
狙いを付ける。
弱点を熟知した彼女にはどこを撃てば良いかなど考えるまでもない。
たったの200m。
彼女にとってはその名の通り朝飯前に過ぎない。
(隙あり)
躊躇いなく人差し指に掛けた引き金を引く。
射角がマイナスで放たれた弾丸は阿羅機の装甲を打ち破って中にいる人間の命を破壊する。
即死だ。
きっと理解する事なく死んだだろう。
彼女がその感慨に浸る暇も必要もなかった。
薬莢を抜いて再び装填して構える。
今度こそ仕留めるべく改めて冥界犬に狙いを定めようとしたところでもう1機も目を開けたようで仲間の死に動揺と怒りを露わにしている。
(先に仕留めるべきかな)
冥界犬から狙いを外して2機目の阿羅機に狙いを定めて引き金を引く。
発射から認識出来ずに対象に衝突するであろうその弾丸が和堂に迫る。
キンッ
崩れゆくビルの屋上で陽里は和堂の頭を掴んで放り投げる。
「何をするんだ!」
和堂が叫ぶが陽里は無言で親指で銃痕を指す。
そこはつい先程まで立っていた場所だと理解する和堂。
「す、すまない」
和堂が上を見る。
「ここから離れるのが先だ」
このままではビルと共に潰れてしまう。
陽里と和堂はビルから飛び降りて体勢を立て直す。
「日下部が……日下部ぇ!」
和堂が泣き叫ぶ。
崩れたビルには冥界犬の他に日下部がいる。
死体を見つける事も困難だろう。
「わかってる」
「おまえなぁ! 何ヶ月も一緒に訓練した仲間の死に何も思わないのかよ! 五十嵐も篠原も目の前で……目の前で!!」
陽里の冷淡な反応に和堂が怒る。
「そんな事よりも目の前の事だ」
「そんな事って……」
怒りを通り越して呆れてしまう。
陽里の見る先は粉塵が吹き上がったビルの跡。
そこから1つの影が現れる。
「日下部か!」
「違う。あいつは死んだ」
そよ風が吹いて煙が晴れる。
「ガルルルル……」
首が1つなく、もう1つの頭の片目は潰れており激しい憤怒を撒き散らしていた。
そして最後の1つには――
「日下部……」
和堂が膝をつく。
日下部だったものが喰われていた。
だが陽里の姿を確認するや否や噛み捨てて顔色が青くなったように見えた。
(恐怖を感じるのか)
陽里は雷刃を脇構えで持つ。
所謂攻撃を誘ったカウンターの構えである。
冥界犬の攻撃を待つ陽里であったが一向に仕掛ける気配はなく、それどころか鼻をひくつかせてやがて上を見る。
(まさか……!)
陽里がその狙いに気付くや否や飛び上がった。
だがそれは冥界犬の方がやや先に動き出していた。
壁蹴りのようにビルの壁を破壊しながら名も知らない少女に迫る。
「この場合は空戦型が有利だ」
一方で陽里は亜音速で垂直に昇る。
冥界犬を追い越してビルの屋上に到着すると少女は逃げる準備でもしていたのか銃とそのケースを持っていた。
「逃げよう!」
「へ? ってキャアアアー!!!!」
陽里は返事を待たずに片腕で少女の背中からお腹へ回して抱えて飛び立つ。
高度約600mの突然の高速飛行。
「離してよ!!」
少女が暴れる。
「今離したら落ちちゃうよ」
「いいわ、死んでやる!」
少女が陽里の腕を噛むが無駄だった。
「かったぁ……」
阿羅機の装甲を噛もうとするのはいくらなんでも無謀だった。
陽里が後ろを気にすれば冥界犬が着地と同時にビルの屋上が崩壊していた。
「離してよ! 変態! ゴミ! 泥団子!」
「わかったよ。そこでいい?」
謎の罵倒に困惑した陽里は近くの屋上へと降ろした。
「あれ……あなたってもしかして――
「それよりあれ」
少女の言葉に被るように陽里が遠くを指す。
「冥界犬の目を撃ち抜いたの?」
「そうよ。あたしの腕にかかればこんなもの――
「かなりブチギレてるみたいだけど?」
「え?」
150m近く離れていると言うのに殺気が届く程に冥界犬は怒りを露わにしていた。
「ちょっとマズいかも……」
「この前の双頭犬の時もだけど魔獣に嫌われやすいの?」
「知らないわよそんなの」
陽里の質問は甚だおかしなものだ。
連合国の全国民の敵である魔獣に嫌われる嫌われないの問題ではないだろう。
それを普通に返す少女も少女だが。
「ほら来た」
「え?」
冥界犬はビルに飛び移りながら陽里達に迫ってきていた。
「ちょっとどうするのよ」
少女が陽里の肩を叩く。
「このまま逃げても埒が明かないだろうな。仕留めるか」
陽里はさも当然のように言う。




