29.
エリザベスが双頭犬を相手にしている内に他の魔獣の討滅を任された陽里はビルを飛び越えて、ここより北で交戦している様子の場所を目指していた。
『阿羅機士2名が魔獣1体と交戦中、2体が現在交戦地へ接近中』
現在の第1小隊のメンバーでは1対1での戦闘が勝てるかもしれない程度の勝算しかない。
2人で3対を相手にとなると連携出来ない条件があるとしても勝敗は怪しくなるだろう。
『魔獣2体と新たに交戦した模様』
(間に合え……!)
エリザベスの指示では各個撃破出来そうにない場合は逃げるよう言われているが実戦で出来るかどうかは話が別である。
陽里はさらに速度を上げる。
「おい、そっちの後ろから2体来るってよ」
新は魔性犬の猛撃を躱しながらペアの篠原に声を掛ける。
「仕方ない、逃げるぞ」
「逃げるってどこにだよ!」
それは間を置かずにすぐに現れた。
挟み撃ちの予定が挟み撃ちされてしまったようだ。
背中合わせで2人は言葉を交わす。
「オレっちの方が1体、そっちに2体いんな。ならオレっちの方から抜けるしかないんよな」
「了解」
新は決死の覚悟で突撃をする。
手には熱線を放出するレーザーソード。
陽里の雷刃とは違って斬る以外にも刺す事も可能だ。
「当たれ!」
素早い一閃。
魔性犬はその熱さに飛び退ける。
だが魔性犬の皮膚を焦がす程度で与えたダメージは薄かった。
「くそっ」
「ダメだよ。レーザーソードはゆっくり斬らないと」
レーザーソードの長所は刃が全面にある事だが欠点は手元からの熱線が出ているため切れ味と言うものがない。
ゆっくり斬る事で熱線が貫通するが素早く斬ると表面だけを焼く事となってしまう。
「わかってるんだって」
焦りが新の腕を鈍らしていた。
ここにいたらいずれ食い殺される。
そう言う仲間を少ない数であるが何人も知っている。
明日は我が身である事をここにいる誰しもが知っている。
だが死にたくない。
その気持ちが新の恐怖に対する震えを止める一方で生への焦りを滲ませていた。
「こっちからも……来た」
篠原の方にいた2体の魔性犬の内1体が2人に襲い掛かる。
だが篠原は動かなかった。
否、動けなかった。
「おい篠原」
後ろにいるであろう篠原に声を掛ける新だがその返事はない。
新が振り返ると篠原は膝をついていた。
「もうダメだぁ……」
篠原の心は既に折れてしまったのだ。
「クソ野郎!!!」
自分より高い位置まで飛び上がった魔性犬を新はレーザーソードで突き刺す。
確かな手応えがそこにはあった。
「やった……!」
ずるりと黒い肉塊が地面に落ちた。
新はその肉塊を見る。
だがその肉塊の上には影が残っていた。
(嘘だろ……。まさか2体連携で同時に襲ってきたのかよ)
そう思って前を見ると2体いた筈の魔性犬が1体もいなかった。
1体は自分が仕留めた。
ならばもう1体が今自分の上に。
顔が上を向けない。
今頭上で口を大きく開けている様を見たくない。
だがせめて一矢報いようとレーザーソードを上へと振り上げた。
(弾かれた!)
レーザーソードを柄から弾き飛ばされてしまい新は遂に為す術を失くしてしまった。
「危ないなぁ」
(……え?)
目を瞑り、喰われる痛みがない事を祈った新であったがいつまで経っても自分が死ぬ瞬間が訪れない。
それに人の声――それも良く知った声を聞いて上げられなかった顔が上がる。
「一応、味方に対しての攻撃はMCASSによって無効化されるけどさ。やっぱりびっくりするよ」
白銀色の阿羅機が飛んでいた。
「陽里!!」
「8体目討滅……と言いたかったけど新に取られちゃったな」
陽里は悔しそうに新に不満を言う。
「こっちは必死だったんだかんな!!」
新は絶叫しそうな声を出す。
「えっと、篠原陸士は無事?」
「え? え?」
理解が追いついていない篠原はひたすらに戸惑う。
「てかオレっちも理解が追いつかんよ」
新は着地した陽里に状況の説明を求める。
「うーん。新のところで交戦してたから応援した。1体討滅したけど新に1体盗られた」
軽く根に持ってるようで陽里の口調には刺があった。
「あー、1体いなかったのは陽里が倒してくれたからか。……って後1体いるんだよ!!」
未だ戦闘中であった事を思い出し跳び掛かっている魔性犬を新は走って、陽里は篠原を抱えて飛んで避ける。
『前方より魔獣1体が、後方より阿羅機士2名と魔獣3体接近中』
無情にもMCASSが戦況の悪化の予告を告げる。
『南方1kmでの交戦地にて異常な地殻変動を感知しました』
続け様にMCASSは不穏な情報を告げた。
「南ってエドベル教官の場所……」
陽里がポツリと呟く。
「大丈夫なんかよ」
新が冷汗を流す。
「いや、今はこっちが優先だ」
そして新たな刺客が現れる。
次回:エリザベスVS双頭犬(後編)
2017/06/03 分隊→小隊へ変更




