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神の居ない世界にて  作者: アウラ
1.He interacts with her
31/249

30.

 おかしな現象が起きている。


 まるで火山の噴火のように岩が飛び出しているのだ。


 その数、計測不能。


 大小様々な岩が吐瀉のように上空へと噴き出す。


 火山噴火と違って溶岩ではないのが不幸中の幸いか。


「そう言えば魔獣(ホレット)ってのはこんなんだった。久しくまともに戦っていなかったから忘れてたな」


 ランクBともなればこのA区を壊滅させる事は可能だろう。


 それが出来ないのは堅牢な海の守りとエリザベス達阿羅機士(アルハーダー)の存在である。


 だが一度その力を発揮すれば並の阿羅機士では歯が立たないだろう。


「ま、貴様の最大の失敗はワタシに出会ってしまった事だな」


『エリザベス・エドベル中尉への演算容量の追加申請が受諾されました。これにより演算容量が2ヘジッドとなりました』


 MCASS(バックアップシステム)が告げた途端、ダーインスレイヴから生える血薔(けっしょう)の数が3倍になる。

 その数、合計18本。


 エリザベスはビルから地割れの溝穴へと飛び出す。


武装(デバイス)ってのはこう言う風にも使えるんだよぉぉ!」


 血薔が伸びて1つの岩に絡み付く。


 そしてこれを溝穴に投げつける。


 その反動でエリザベスは上へと吹き飛ぶ。


「吹き飛んだ岩で街が破壊されるのも防げるしワタシもその穴に落ちなくて済む。まさに一石二鳥だな」


 ある岩には血薔が刺さって宙に浮いたエリザベスの動きをコントロールし、ある岩には巻き付いて穴に落とし、ある岩は双頭犬(オルトロス)へと投げつける。


(たかが岩を投げる速度じゃ当たらねえよな)


 当然のように双頭犬は地割れの先端で大した動きをせずに岩を避ける。


「だが狙いはその下だクソ犬!」


 エリザベスが小ぶりな岩を豪速球で双頭犬の真下に投げるとその地面は崩れた。


 余裕振っていた双頭犬もこれには焦ったようで崩れ落ちる岩から飛び上がろうとする。


「させねえよ」


 それを読んだエリザベスは一際特大の岩を双頭犬の軌道上に投げつけていた。

 飛び上がれば岩の直撃が必至である事を咄嗟に理解した双頭犬は再度吠える。

 そして再び溝穴から大量の岩が噴き出す。


「しゃらくせええええええええええ!!!!!!!」


 たった18本の血薔が無数に噴き出す全ての岩を捕捉しその全てを溝穴へと投げ返す。


 だが反動を含め勢いを全て受けたエリザベスは上空へ吹き飛ばされる。


 いよいよ雲が覆う高度まで飛ばされたところで体を逆さにして真上へ向かって蹴る。


「ふんっ!!」


 その蹴りは音速を超えた。


 陸戦型阿羅機(アルハード)の機動性の高さの秘訣である強烈な蹴りが雲へと放たれた。


 音速の世界では雲は分厚い天井となり天井の崩壊と同時にエリザベスの上昇は急停止する。


 パンッともドンッとも取れない曖昧な爆発音が空全体へと響き渡る。


 厚く覆われた雲はその一撃で吹き飛び、代わりに瑠璃色一色が空を支配する。


 エリザベスの網膜には東の彼方には薄っすらと眩しい光が差し込んだ。


 だがそれも束の間、すぐさま落下が始まる。


 高度4000mからの自由落下(スカイダイビング)


『地面衝突まで32秒』


 しかし阿羅機と魔獣との戦いで32秒間の余白はあまりにも長かった。


「Bloody scabbard, set up(血鞘(けっしょう)モードへ)」


 エリザベスの呟きによってダーインスレイヴから生える18本の血薔の内12本が根本からプツリと切れる。


 その12本は編まれるように太い1本の血薔を作る。


 やがて細長い真っ直ぐな棒状へと変わる。


 そして棒は捻じれていき、スクリューの形へと変わる。


『Ready』


「さぁワタシの剣よ、鞘に収まれぇ!!」


 エリザベスは全身をバネにして深紅の剣を真下へ投げつける。


 時速200km超で落下に加えて全力で投げ放たれた剣がとある一点を目指して急降下する。


 スクリューが回転する事で空気抵抗はほぼゼロの中、さらに加速する。


 剣が音速に達した時、エリザベスの反撃を何とか凌いだ双頭犬は頭上に差し迫る赤き点を見た。


 真っ直ぐ、寸分違わず己の心臓を貫く事を予測した双頭犬は躱した時に剣が発するであろう衝撃波も含めて大きく後方に飛び下がり距離を取った。


 そしてその後落ちてくるであろうエリザベスをどう対処するかを考える。


 己の岩魔法は通じない。寧ろ逆手に取る始末。


 だが決して勝てぬ相手ではない。何故なら――


 ――ぶすりっ。


 音速を超えた剣が一体どんな軌道を通ったか、双頭犬は考える暇もなく意識を手放した。


 そのおよそ20秒後、大きな赤い繭のようなもの落下した。


「ぷはー! 高度4kmからのフリーフォールはゴメンだね。ワタシゃ高所恐怖症なんだよ」


 赤い繭のようなものが解けて中からエリザベスが現れる。


「ま、初見であれを躱せやしねえだろうな」


 血鞘――ダーインスレイヴが持つ奥の手の1つ。


 設定した生物の心臓へのホーミング機能を持つ剣――と言うより槍である。


 欠点は準備に時間がやや掛かる事とそのままだと速度が遅い点である。


 今回のように上空から十分な速度に投げる速度を加えて落下でさらに速度を引き上げた結果、双頭犬の第六感をも上回るものとなった。


「結城陽里にはああ言った手前、2ヘジッドも使って討滅したんじゃ下手な事言えねえな」


 双頭犬から血鞘を引き抜くと粒子化してダーインスレイヴの中へ吸収されていった。


「ま、今回はワタシのズルした負けだな」


 ダーインスレイヴも解除してエリザベスは伸びをする。


「……気を紛らわそうとしても無駄か」


 しばし無言となる。


 その顔には悔しさが滲み出ていた。


 落下時に届いたMCASSから3つ報告。


 1つ目は双頭犬の生命反応の消失。2つ目は阿羅機の無茶な使い方によるオーバーヒート。そして最後が――


 エリザベスは骨が砕けそうなくらいに拳を握って手近なビルに殴りつける。


 ビルに傷1つ付けられず拳からは血が出た。

申し訳ありません。作中に出たヘジッドと言う単位ですが、これについて本編で言及されるのはかなり先となります。

取り敢えずヘジッドが大きい程に阿羅機が強くなると考えてもらえればよろしいです。

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