28.
それは陽里が3週間半前に討滅した双頭犬に酷似していた。
「と言うか全く同じですね」
陽里の記憶と寸分違わず一致した。
「だが相手は魔獣、必ずしも中身まで同じとは言い切れない」
同じ双頭犬でも同じ攻撃をするかと言ったらそうとは限らないのが魔獣である。
(前回は火炎放射を吐き出す双頭犬だったけど今回は……)
同じ事をエリザベスも考えていた。
(事前情報通りならば苦戦する事も少ない。だが……。まずは相手の能力を推し量るしかないな)
対峙するエリザベスと双頭犬。
どちらも隙を探るべくお互い様子を見続ける。
(この手の頭のキレる奴相手には長引きそうだ)
エリザベスはプランを当初のものへと戻す。
「結城陽里。ここはワタシ1人で相手をする。逃げ道を封じたところで時間がかかる戦いになりそうだ。貴様は他の連中が苦戦してたら引き受けろ。何、死にはしない。こう見えてもワタシは歴戦の戦士だからな」
エリザベスは目線は双頭犬に合わせたままニヤリと笑う。
「それとも双頭犬を討滅出来なくて不満か? 折角の自由行動だぞ」
ついさっきまで陽里の勝手な行動を咎めていた事にエリザベスは苦笑する。
「ご武運――
「返事が違うだろうが!!」
陽里が去ろうとした瞬間にエリザベスはいつものように怒鳴りつける。
「イエスマム!」
陽里は敬礼をして仲間の元へと飛んでいった。
「……悪いかどうか知らんが死なねえよ」
陽里の言葉がまるで死に行く者への手向けの言葉のように聞こえて困り顔で笑う。
だがその顔は阿羅機と言う機械甲冑に包まれて誰も見る者はいない。
「さて……。そこのクソ犬! その口についた血はおまえのものなんだろうなぁ!!」
陽里は気付いていたが敢えて言わなかったその口には赤い血が滴っている。
エリザベスの武装である血薔が双頭犬に目掛けて飛び掛かる。
「ちっ」
深紅の蔓を双頭犬はサイドステップで躱して距離を詰めに走る。
一瞬で音速間近の速度まで引き上げた双頭犬は再び血薔で狙われないようジグザグに走る。
(知能は報告と同じようだな)
エリザベスはそれを過去の情報と照らし合わせて分析していく。
「ふん!」
1本の血薔が双頭犬を狙うが再び躱される。
それを隙と見た双頭犬はジグザグを止めてエリザベスへ突撃する。
「残念だが血薔は1本だけじゃない」
双頭犬がその牙でエリザベスを串刺しにしようと跳び掛かった時、エリザベスが血薔に包まれる。
エリザベスに衝撃が襲う。
真後ろに吹き飛ばされそうなのを何としてでもこらえる。
「グググ」
双頭犬が悔しげに唸る。
牙を立てて赤い蔓を噛み裂こうとするも鋼鉄以上の固さでもってびくともしない。
硬直が訪れた瞬間、5本目の血薔が双頭犬に襲い掛かる。
死角からかつ無音の反撃。臭いは当然ない。
第六感が備わっていなければ決着がついていただろう。
双頭犬は噛み付いていた血薔を放して背後からの5本目の血薔を間一髪で避ける。
「敵の勘と言うのはなかなかに厄介なものだな。自分の勘は便利ではあるんだが」
自身を包んでいた4本の血薔を解いて元の迷彩柄の阿羅機ダーインスレイヴが顕になる。
両腕に2本ずつ、背中に2本の計6本の血薔がダーインスレイヴから生えている。
再び距離を取って1人と1体の距離が元に戻る。
(報告にあった火炎放射はあるのか、それとも別のものなのか。出させるしかないな)
エリザベスはさらに距離を撮って左腕の2本の血薔で牽制を仕掛ける。
すると双頭犬は空へと片方の頭を上へを向けた。
(なんだ?)
その疑問は遠吠えと同時に判明した。
「アオーーーンッ!」
遠吠えに答えるように地割れが起きる。
「ちっ、空を飛べない者への当て付けかよ!」
陸戦型は跳ぶ事は出来ても飛べないために地割れを避けるしかなかった。
だが左右には天に伸びる高層ビルが建ち並ぶために正面から迫る巨大な地割れを避けるには狭過ぎた。
エリザベスは地面を割る勢いで蹴りつけてガラス張りのビルの中層に入り込む。
「うげっ」
エリザベスが割った窓から下を見ると道路のほとんどがが深く細長い穴に飲み込まれていた。
その発信源である双頭犬は真っ直ぐとエリザベスを睨む。
だが心なしか嗤っているようにも見える。
(勝ち誇った顔しあがって。だがマズったな……。下手に挑発しなければ良かった。誰がこれの始末するんだよ)
信じられない地殻変動を目の当たりにしてエリザベスは今日何度目かの頭を抱える。
だがそれだけにはとどまらなかった。
「アォーーーンッ!」
双頭犬の吠えていない方の頭が再び吠えたのだ。
「嘘だろ!?」
エリザベスは目が飛び出る程に驚いた。
地面に出来た大きな口から大小様々な形をした何かが見え始める。
地割れに飲まれた岩が噴き出してきたのだ。
次回は新サイドの話です。
この続きは次々回に。




