24.
訓練後の夕方。
「ご注文はこちらでよろしかったでしょうか?」
カウンターにて立つ女性が陽里にアタッシュケースを渡す。
「ありがとうございます」
陽里はそれを受け取って中身を確認する。
中には白銀色の破片4つと小指大の電子チップが入っていた。
「ケースの割に小さいんですねぇ」
女性も中身を見て呟く。
「ええ。ほとんどが衝撃吸収材ですね」
それだけ高価な物である証拠だ。
早速電子チップを取り出して陽里のパソコンにインストールする。
「確認しました。これで大丈夫です」
「そうですか。ありがとうございました」
陽里はやり取りを終えて自室に戻る。
「と、言う感じで手に入れたやつ」
部屋に戻るとケースについて言及してきたので陽里は説明した。
「違うんよ。そこじゃない。それは何に使うんよって話だ」
どうやら訊かれていた要点が違ったようだ。
「ケラウノスの新武装」
「マジか! どんなどんな?」
「それは使ってからのお楽しみ」
あれから3週間と少し。
7月になり梅雨が明けた。
「ただ3週間訓練だけとかつまらないからね。あれこれ弄って足りないものを注文した訳」
「ほえ~」
新は驚いているような呆れているような顔で頷く。
陽里との生活を始めて新は陽里が規格外の存在である事に一定の理解が出来始めていた。
例えばエリザベスにほぼ毎日のように走らされる全力疾走ランニングでは陽里が信じ難い程に集団を引き離して真っ先に終わらせる。
くたくたになってる筈だと言うのに顔にも出さずその後の模擬戦闘訓練では相手に手も足も出さずに完勝。
時々手を抜くがエリザベスにすぐさま叱られるために完勝してしまうと言うのもあるが。
そのエリザベスの怒りを買っても殴り・鞭打ちを回避してしまうため彼女も半ば諦めている。
例えば夜にあるクイズ番組を一緒に見る時はほぼ完答している。
問題を読み上げている途中で陽里が答えを言ってしまうおかげで新はクイズ番組を見なくなった。
そんな頭脳も体力もずば抜けている陽里と生活をすると自分自身も鍛えられている感覚に新は陥ってもいる。
だから一兵卒である筈の陽里が兵器を作ったとしても大して驚かなくなってしまっていた。
「これでよし」
セッティングが終わった陽里はケースに入った4つの破片が光粒子となって彼の亜空機に取り込まれるのを確認すると立ち上がった。
「新、そろそろ夕飯だ」
「そうだったな」
通常、武装のセットアップには3時間以上かかるのだが新はこの事に気付く事もなく部屋を出るのだった。
「むわっ、暑いな」
部屋の外に出た瞬間、雨が降っているにも関わらず日本の夏特有の蒸し暑さが新を襲う。
「新が部屋の温度低くし過ぎるからだよ」
設定温度24℃はやや寒く感じていた陽里だった。
「別に電気なんて無限資源なんだしガンガンに冷やした方がいいやん」
「まぁ質量エネルギーが手に入ってから核融合発電もなくなったし資源の問題はとっくの昔に解決したけどさ」
この蒸し暑さの反動は陽里も堪えるのだった。
「地球温暖化も寒冷化も知らんね」
新がエレベーターのボタンを押す。
「300年前は寒冷化で騒いだと思ったら200年前には温暖化で騒いでそれからは核の冬でまた寒冷化騒ぎ……。神連戦争が始まってからはそんな事考える余裕もないけどね。人類が地球の顔色を窺ってたのも昔の話」
「相変わらず博識だ事。どうでも良さそうな歴史だろそれ」
2人はエレベーターに乗り込む。中には誰もいなかった。
「温故知新って言葉がある」
「なんだ、その汚さそうな言葉は」
「新……」
陽里は呆れて新を見る。
「すまんすまん」
「全く……。で、昔の事を知ってるとそこから新しい知識や見解を得る事が出来るって意味」
「ほうほう」
新が半ばどうでも良さそうに頷く。
「例えば昔の戦い方――700年近く前の戦国時代、狭いところにおびき出して縦に伸びた兵隊の中枢を叩いたんだ。結果は見事に成功、壊滅させた」
「それでそれとうん……温故知新になんの関係が?」
「この手法、阿羅機でも使えると思わない?」
陽里が怪しい笑みを浮かべたところで人が乗ってきたために会話が中断してしまった。
陽里が伊達に3週間強もじっとしていた訳がない。武装から何まで何かしていたのだと知っているのは陽里自身を除いて誰もいなかったのは幸か不幸か。
それすらも誰も知る由もない。
次回、出撃
明日もよろしくお願いします。




