23.
今日も今日とて起床時間の5分前に陽里は目を覚まして顔を洗って着替える。
着替え終わる頃には起床時間のアラームが宿舎全体に響き鳴る。
「後5分」
「起きてるじゃないか」
遂に陽里が起こすまでもなく新は起きれたようだ。
「寝てま――
「嘘をつくな」
「がふっ!」
やはり鳩尾に肘を落とさないとまだちゃんと起きれない新だった。
「起きれたら優しく起こすって言ったやん!」
「そこに“すぐに”って言葉が頭に付くけどね」
「ぐぬぬぬ」
元よりそんな起こし方をするつもりは毛頭ない陽里であるのだが。
「今日は前訓練でしょ。早く行かないとエドベル教官の雷が落ちるよ」
朝食はA師団の人数と食堂のキャパシティから朝食前に訓練と朝食後に訓練で分けている。
朝食前訓練も朝食後に訓練の続きがあるためどちらも楽ではない。
「よし行こう!」
前回のタコ殴りに懲りたのかあるいはトラウマを植え付けられたのか新はすぐさま着替えて部屋を出ようとする。
「取り敢えず顔洗ったら?」
単純な新を見て微笑ましい気持ちになる陽里だった。
「よーし、来たな貴様ら!」
梅雨のジメジメした空の下でエリザベスは仁王立ちで待っていた。
「今日は一雨来そうだな……。まぁいい」
エリザベスは整列した陽里達の周りを歩きながら話し出す。
「昨日このA地区にランクBの魔獣が現れた」
このニュースによって一同はざわめき出す。
「っ!」
エリザベスの青筋を立てる様子を見て一同は一瞬で静かになる。
「今回は運良く討滅出来た。だがもう2度と現れない保証はどこにもない。寧ろまたランクB相当は襲撃するだろうとワタシは思う」
一同はざわめこうとするが目の前の恐怖のために静けさを保とうとする。
だが彼らの顔は青かった。
ランクCの魔性犬程度ですら2人がかりなら倒せるかもしれないと思う程に危険極まりない凶悪さを持つ。
ランクCとその1ランク上に立つランクBとの差は2倍とも5倍とも10倍とも言われる。
自分たちが4人や20人いても1つ1つの攻撃が強すぎる阿羅機では連携が取れず数での対抗は無意味である。
良くて2人で、それも挟み撃ちのようにお互い被害を受けない距離を保って討滅するのだ。
従って個体が桁違いに強いランクBを討滅出来る可能性は絶望的に低い。
そのような悪夢がエリザベスの予想ではまた来ると言う。
逃げる事が許されないこの世界で絶望せずにはいられないだろう。
ただ1人を除いては。
「そこでしばらくの間、小隊を作る事になった。阿羅機では連携が取れないがそれは攻撃における連携だ。防御や追い込み、ヒットアンドアウェイリレーで戦う方法もある。別にA師団で倒せない相手ではないのは事実だ。だが貴様らがこの危機を退けるしかない事を肝に銘じとけ!」
「「イエスマム!」」
「でだ。その小隊だが実力が近い者同士で作る予定だ。そうでないと足手まといが起きるしな。死にたくないなら実力上げて強い奴と組めるようにしろ。さぁ走れ!!」
「「イエスマム!!」」
こうして、皆の目が必死になって走り出した。
(ま、誰だって死にたくないわな)
その様を見てエリザベスは愉快な気持ちになる。
(それにしてもランクBまで来るとはどう言う事だ?)
エリザベスはずっと気になっていた事を改めて整理する。
太平洋や日本海の沖には魔獣などを感知するセンサーが点在している。
海上はもちろん海中も上空も感知出来るセンサーである。
その広さのために全体をカバー出来る程設置していないが掻い潜るにはかなり複雑なルートを通る事になるだろう。
ましてやユーラシアからA区まで日本を半周するようなコースなら尚更である。
(転移でも出来ると言うのか?)
エリザベスに限らず多くの人間がまずこの考えに辿り着いた。
(だが何故A区なのだ。特A区を叩いた方が意義がある。)
A区には住居とA師団基地をはじめとするいくつかの重要施設がある。
A区を攻める理由はあるが特A区についてはこの比ではない。
特A区――それはここ第参都市の中枢であり、この区の陥落は第参都市の陥落を意味し、引いてはヴェスティール神和国が太平洋に手を掛ける事を意味する。
要するに特A区は神連戦争を左右する程に重要な地なのだ。
その重要な施設の1つ――阿羅機の守護神であるMCASSの体たる第参中央演算装置は何としてでも死守せねばならない。
そのために何重にも守りがあり何人たりとも侵入を許さない作りになっている。
そんな特A区を攻め難いのは理解出来る話だが、態々A区にまで攻められるのに後一歩が出来ないと言うのはおかしな考えである。
(A区にワタシ達の知らない何かがあると言うのか?)
エリザベスはしばらくその可能性について吟味したが棄却した。
(まず何故A区にそのような重要なものを隠したかがわからん)
エリザベスには特A区が壊滅してもA区が残っていれば復旧可能だと全く考えられなかった。
第参中央演算装置が実はA区にある、と言う事はあり得ない。
エリザベスは第壱都市からやって来たため、第壱都市にある第壱演算装置から自身の阿羅機アカウントを第参中央演算装置に移した時にその在処を知った。
第参中央演算装置より重要なものはまず考えられずまた、そのバックアップなんてものがない事も予想が付く。
データだけあったところで意味がないからだ。
もし仮にA区が壊滅しなければ第参都市の復旧が可能だとしても魔獣がA区だけを狙うとも考えられない。
従ってA区を攻める理由はない。
(……いや、まさかな)
エリザベスがある可能性について思い当たったところで陽里が走り終わる。
「上々だな」
「ありがとうございます」
必死になった集団ですら大きく引き離したにも関わらず息を大して切らしていない陽里。
「走り終わった者から朝食だ!」
未だ走り続ける集団にも声を掛けて陽里の肩を叩く。
「貴様はワタシの隊に決定だな」
(だと思った)
陽里は理解してながらも悪寒を感じ、愛想笑いを浮かべる。
「返事は?」
「イエスマム!」
2017/06/03 分隊→小隊へ変更




