21.
例によって説明が最初あります。
今回は魔獣についてその2です。
魔獣を時々“未知”と称する事がある。
その理由はエステリア連合国が魔獣の生体構造を解明出来ていないのもあるが、何より魔獣の持つ謎の能力である。
自然界の動物が音速を超える事が出来るだろうか。実弾射撃を跳ね返すような皮膚を持つだろうか。
そして双頭犬が口から放った火炎放射と言ったファンタジー小説にあるようなファイヤーブレスがあるだろうか。
もちろん双頭犬の存在自体も謎である。
これら連合国の科学では説明出来ない未知なるものが敵国であるヴェスティール神和国にはある。
連合国はこの未知に対して“魔法”と名付けた。
とてもではないが自然科学では説明出来ない代物だ。
故に魔の獣――魔獣なのだ。
陽里が戦った双頭犬は炎を吐き出す魔獣だった。
だからと言って次にまた双頭犬と対峙した時に炎を吐き出すかと言えばその保証はない。
もしかしたら空気も凍らす冷気を吐き出すかもしれない。陽里の阿羅機であるケラウノスと同じく雷を使うかもしれない。あるいはその両方を使う事さえもある。
今回は偶々炎を使う双頭犬だったのだ。
常に予想外の上に成り立つ戦いが阿羅機と魔獣との戦いなのだ。
「よう、陽里」
陽里が自室に戻ると同居人の新がテレビを見ていたようで床に座って陽里に手を挙げて声を掛ける。
その声色はいつものようでいつもとは違う、憤怒の色が見え隠れしていた。
「ただいま」
陽里はこれを敢えて気にせず新の前を通って荷物を置く。
「シャワー入るね」
戻ってから汗を流していない事に気付いてタオルを手に取る。
(結局タオル買い忘れた……)
なんのための休日だったのかと軽く頭を抱えながらシャワーを浴びるべく再び新の前を通ろうとした。
「おい待てや」
新に足首を掴まれて危うく転びそうになる陽里だが持ち前の反射神経で掴まれてないもう片方の足で体勢を保つ。
「何かな」
気付かないフリ気付かないフリ。
「今日は楽しかったな。買い物」
足首を掴む力が強くなる。
「オレっちが何を持ってたか知ってるか?」
「それは服袋が5つとブーツが3つ、それに……」
あの時、左腕に2つ、右腕には3つと両手には箱が4つあった筈だ。
「それになんだって言うんさ」
一向に陽里を掴む力が緩む気配がない。
「それに……帽子だったっけ?」
「違う、酒が大量に入った箱だ」
(よりにもよって1番重そうな箱を間違えたか)
苦虫を噛み潰したような顔を僅かに浮かべる陽里にさらなる追い打ちがかかる。
「それにオレっちが持った服の袋は6つだ」
「あっ……」
陽里が逃げる時に1つ追加されていたのだった。
持っているところを見ていなかったために完全に忘れていた陽里だった。
「あれ、重いんよ。知ってたか?」
「あはは……」
これには乾いた笑いしか出ない。
尚も新は死んだ魚のような目で陽里を見つめる。
「……」
新はそれ以上何も言わずに陽里の足首を掴んで見つめ続ける。
「……」
「……」
しばしの静かなる戦い。
「何が望み?」
やはり分が悪いと思って折れたのは陽里だった。
「オレっちと同じ苦しみを味わあがっ!」
ついにもう片方の足首を掴もうとしてきたので陽里は思わずその手を蹴り飛ばす。
「あ、ごめん」
「ぐそー」
陽里は若干涙目な新に気持ち悪さを感じつつも顔には出さず代わりに申し訳ない顔になる。
「おかず1つ寄越せや」
「は?」
新の呟きに思わず聞き返す陽里。
「毎食のおかず1品寄越せ」
「やだ」
新の地獄からの声に対してそれをあっさり断る陽里。
「おい、オレっちに負い目があるんじゃなかったんかよ!」
「やっぱり」
「へ?」
陽里の呆れた声に新が反応する。
「ボクに負い目を感じさせる魂胆だったんだね」
「そ、それは……」
事実、新の目は既に死んだ魚のような目ではなくなっており声色も元に戻っている。
「と言う事を見逃す事でチャラね」
陽里はそう言って新が掴んでいる手を足で払って浴室へと向かった。
「……あああ!!!」
陽里が浴室の鍵を閉めた時にはもう遅い。
「ちょ、ちょい待てや!!」
ドアを必死に叩く新。
「別にエドベル教官に言ってもいいよ」
「言える訳ないだろ!」
こんなくだらない事を告げたところで相手にしてもらえないどころかボコられる可能性の方が大きい。
新もそこら辺を理解しているために陽里に強く出れないでいた。
「ま、部屋の掃除1回はするよ」
「ホントか!?」
新は歓喜の叫びを上げ、陽里はこれくらいが妥協点だろうと思ってシャワーを浴びるのだった。
序盤の説明まとめ
・魔獣において身体能力などは非現実なまでに高い
・一部の魔獣は魔法を使う
・同じ魔獣の種であっても同じ特性を持っているとは限らない




