20.
「どうやら察したようだな」
エリザベスはイライラしたような、それでいて笑って陽里に訊く。
「ええ、まぁ」
これに対して陽里は無表情で答える。
「ワタシもこんな茶番に付き合わされたくないものだが……。ワタシは言ったよな、次はただじゃ済まさないと」
そう言えばそんな事も言ってた気がする、と陽里は思い出す。
「命令違反はしていません」
次に命令違反したら、と言う言葉が抜けている事に気付く。
「そんなもんは知らん。これは上官命令だ、結城陽里一等陸士。3週間の出撃を禁ずる。クソ、どいつもこいつも勝手にしあがって! おい、返事は!!」
「イエスマム!」
エリザベスが理不尽にまくし立てたために陽里は半ばついていけないでいた。
「とにかく3週間は出るな。今回はこれで済んだが場合によっては除隊されて都市外追放だ。死ぬまで半殺しで生かされ続けたくないならその事を忘れるな」
「イエスマム」
そう言ってエリザベスは部屋を後にした。
陽里は1人取り残された取り調べ室の席で背を反る。
詰まるところエリザベスが陽里に怒鳴った理由は八つ当たりに近い。尤も、その原因は陽里自身にあるのだが。
エリザベスが動かざるを得なかったのは司令部の意思によるものである。
司令側としては陽里に対して双頭犬の討滅における借りがあるので準命令違反した事についてはチャラにしようと考えたのだ。
しかしそのような事を表立ってするような事は外聞に良くないため出来ず、陽里の教官であるエリザベスに責任だと言った理由を付けて裏で片付けようとしたのだ。
だがエリザベスはそうした足し引きゼロをよしとしなかった。
エリザベスが取ったのは陽里の勝手な行動を更正させるのと、勝手な行動の結果が生んだ功績については適度に認める事であった。
要は理不尽だと彼女自身も理解しながらも理不尽な罰と褒章を与えると言う事である。
「しばらくは無理そうだな」
そこまで陽里は考えて席を立って部屋を去った。
「双頭犬か」
A師団師団長である鹿島喜助は報告書を見て思案する。
「エリザベス・エドベルであります」
「入ってくれ」
ドアの向こうにいるエリザベスに声を掛けて招き入れる。
「結城陽里一等陸士の件について報告致します」
「そんなに固くならなくていいよ」
エリザベスの普段らしからない態度に苦笑して喜助は背もたれに寄りかかる。
「そうか。まぁいい。奴について報告だ。3週間出撃禁止と言う褒美を与えた」
「ぶっ」
喜助は思わず吹き出してしまう。
「彼がここに来た目的に反するねぇ」
喜助は陽里とは1度しか話した事がないが、人となりを見抜ける喜助は陽里が戦いを望む事を知っている。
「便所掃除にでもするべきだったか?」
「まぁそれはそれで仕事を奪っちゃうからねぇ」
清掃員だってここでは立派な兵士なのだ。
「害がない罰がこれしかなかったからな」
「罰と言ってしまってるじゃないか」
ついさっきは褒美と言ったエリザベスだった。
「知らん。それよりワタシにこの類を今後押し付けないでもらいたい」
「……それについては申し訳ないと思うよ」
急に声のトーンを落とす喜助。
「日本人ってのはこんなめんどくせえ事すんのか?」
「それは日本人に限った事ではないとは思うけどね」
「ちっ」
エリザベスはソファに座って舌打ちをする。
「君だったらどうするんだい?」
喜助は元のトーンに戻して尋ねる。
「ワタシだったらか? そうだな……そんな危なっかしい奴は早々にして死ぬからな。手元に置いて監視だな」
「あっははは」
喜助は大笑いして目に手を当てる。
「なんだ」
これにはエリザベスは訝しい顔になる。
「普通は放置か切り捨てると考えると思うけどねぇ。やっぱり君は教育者だな。上に立つ者には向かない」
「そんな事はわかっている」
エリザベスは悔しげに言う。
「今回の君の“褒美”の意図がわかったからここまでにしよう」
「中将様は忙しいんだったな」
「そうだ。中将様は忙しいから中尉様の愚痴は聞けないんだ」
皮肉に皮肉を浴びさせる合戦が始まりかけたところでドアをノックする音が聞こえる。
「では失礼します」
「あぁ、よろしく頼んだよ」
お互い姿勢を正して茶番の元、退室した。
(誰がよろしく頼まれてやるか!)
よろしくする相手――陽里に対してイライラしながら廊下を歩くエリザベスのその顔は般若そのものだったとか。
陽里の勝手な行動とお上の考えに板挟みとなった中間管理職のエリザベスさんの苦悩でした(笑




